観光庁では、地域の観光資源を活用した観光コンテンツについて、造成から販路開拓、情報発信まで一貫して支援する「地域観光新発見事業」を実施しています。
1月29日には成果発表会が開催され、全国7つの事業者が、この事業を活用して行われた取り組みについて報告しました。
本記事では発表会の内容をレポートし、各地域で企画・販売された観光コンテンツについてご紹介します。
関連記事:武道ツーリズムとは?先進的な事例や課題、今後の可能性について解説
インバウンドの最新情報をお届け!訪日ラボのメールマガジンに登録する(無料)
各事業者による成果発表
1. 津和野町(島根県津和野町)
島根県津和野町では、新たなインバウンド向け観光プログラムが造成されました。ツアーのコンセプトは、「津和野が大切に守り続け、現代へと繋がっている風土を体感すること」。ターゲットは、日本に複数回訪問したことがある欧州、特にフランスからの旅行者を想定しています。

プログラムは大きく4つのパートに分かれ、順を追って津和野の魅力を深く理解できる構成となっています。
-
町並み散策:町の歴史や文化について、地元の人々との交流を通じて学ぶ
-
津和野城跡でのアフタヌーンティー:築城700年の津和野城跡から町を一望し、津和野の風土を表現したスイーツを楽しむ
-
地元旅館での夕食:老舗旅館が特別に考案した、地元の食材を活かしたメニューを堪能する
- 石見神楽の体験:伝統芸能・石見神楽を、演者と観客の距離が極めて近い環境で鑑賞
津和野町観光協会 津和野体験Yu-na 岡野氏は、「単なる観光地巡りではなく、まるで映画のように一つのストーリーとして体験がつながるように設計した」と話します。
成果と今後の展望
ツアーはまだ販売前の段階ですが、すでに2つの大きな成果が見えてきたといいます。
1つ目は、地域の合意形成とインバウンドへの機運の高まりです。事業の初期に町民向けの説明会とインバウンドセミナーを開催したことで、地域全体で「もっと外国人観光客を呼び込もう」という意識が醸成されました。
2つ目は、ストーリーテリングにこだわったガイドです。英語・フランス語・イタリア語に対応可能なガイドを揃え、地域の魅力をストーリーとして伝えることで、より体験に没入してもらえる体制を整えました。
岡野氏は、今後の目標として、このツアーを津和野の看板商品として確立し、訪日観光客に選んでもらえる場所として育てていきたいと話します。

2. 瀬戸内ウェルネス・フェスタ実行委員会(香川県丸亀市)
香川県丸亀市に属する塩飽(しわく)諸島は、瀬戸内海に浮かぶ大小28の島々からなり、歴史的な町並みや豊かな自然が残る地域です。
その一つである本島(ほんじま)は、少子高齢化がすすみ、島民は守り継いできた歴史や文化が失われつつある状況に危機感を感じていました。
そこで、スポーツイベントを企画する株式会社トレーニングレース・ジャパンと、丸亀市や自治体など11の団体が協力し、「塩飽本島マイペースミッケ大会」が開催されました。

この大会は、参加者が家族や仲間とチームを組み、制限時間で多くのチェックポイントを巡り得点を集めるスポーツ競技です。
チェックポイントでは、島の歴史や文化、地元のグルメなどを楽しめるようになっており、まるで宝探しをするような感覚で島内を巡ることができます。
地元住民との交流も随所に組み込まれ、イベントでの出会いが、忘れられない思い出になるよう工夫が散りばめられています。
成果と今後の展望
人口250名の本島に対し、大会には130名の参加者が集まりました。そのうち、地元チームを除いたほぼすべての参加者が島外からの訪問者でした。
さらに、50名の島民がイベント運営に協力。飲食店は料理を振る舞い、高齢者は語り部として参加するなど、それぞれができること・得意なことを活かす形で役割を分担し、島全体で観光客を迎え入れる体制を整えました。
イベントの運営で最も大切にしてきたのは、「島民ファースト」。地域住民の生活を守ることを最優先に、意見を尊重することが、イベントを成功に導くカギとなりました。
来年度の目標は、エントリー数を500名にすることです。さらに参加費を設定したり、地元の事業者を巻き込んで協賛を得ながら、まずは売り上げ300万円を目指します。
「島の関係人口・交流人口の創出に繋がる取り組みとして、今後も島の未来づくりに貢献したい」とトレーニングレース・ジャパン 浅野氏は展望を語りました。

3. 摂田屋・宮内エリア観光まちづくり協議会(新潟県長岡市)
花火大会「長岡まつり」のイメージが強い長岡市。長岡まつり以外を目的とした観光客や宿泊者が少ないことが長年の課題でした。
そこで、交通利便性が良く、歴史的資源が残る摂田屋・宮内エリアを起点に、観光まちづくりの取り組みが進められています。
摂田屋・宮内は、第二次世界大戦の被害から奇跡的に免れたエリアであり、500m圏内に登録有形文化財となっている6つの蔵が点在します。味噌や醤油、日本酒の醸造が続く「醸造のまち」として、独自の歴史と文化を受け継いでいます。
摂田屋・宮内エリア観光まちづくり協議会は、「地域観光新発見事業」を活用し、新たに4つの観光コースを造成しました。
- おさんぽブランチ:朝、マーケットに寄り道しながら街並みを歩き、美術館で特別なブランチを味わうツアー
- Hakko chef's table:地元レストランのシェフや蔵元が地元食材を活かして作る、特別ディナー
- 国登録有形文化財とっておき体験ツアー:登録有形文化財をガイドする体験ツアー
- おもてなしトリップ:地域資源や伝統文化の魅力を観光客に伝える体験プログラム
成果と今後の展望
新たなコンテンツである「おもてなしトリップ」では、地元住民との対話を重ね、伝統行事を観光客にも開放。これまで関係者しか参加できなかった「火渡り神事」や「不動滝の滝行」などのプログラム化に成功しました。
また「Hakko chef's table」ではPR動画をインフルエンサーに依頼し、Instagramの投稿は110万回以上再生され、15件の予約が成立しました。
今後は、造成したコンテンツを本格的に販売し、地元事業者との連携を強化していく予定です。
「地域の人々を巻き込み、住んでいる人が自慢したくなる、『三方よし』の持続可能な観光が根付くエリアに成長させたい」と、長岡市観光企画課 小島氏は話します。

4. 有限会社大望閣(佐賀県唐津市)
佐賀県唐津市にある「観光ホテル 大望閣」は、1月中旬~2月末の閑散期に予約が伸び悩むという課題がありました。
この状況を打開するため、日本三大朝市の一つである「呼子の朝市」を活用した観光コンテンツの開発や、SNSでの情報発信に取り組みました。

その結果、2つの成功事例が生まれています。
1つ目は、朝市での「イカのオブジェを飾ったクリスマスツリー」です。イカやアジの干物を飾ったユニークなツリーは、観光客の注目を大いに集めました。「地域の人には当たり前の光景が、外から来た人には魅力的に映る」という視点から発信方法を見直し、話題性を生み出すことに成功しました。
2つ目は、正しい情報発信の強化です。インフルエンサーと観光庁の公式アカウント、大望閣が共同でInstagram投稿を実施し、2か月間で180万回以上の再生数を記録しました。これにより投稿後900件の問い合わせがあり、予約件数は前年比2倍に増加しました。
客層も、これまでは高い年齢層が多かったのに対し、20〜30代の記念日利用が増えたといいます。また、閑散期にも連日満室となり、年間を通じた安定した集客につながりました。
成果と今後の展望
今回の事例を通して、地域への年間を通じた集客と経済効果向上が見込まれます。大望閣はこの機運を単発で終わらせず、地域の観光関係者と協力し、長期的に地域を活性化させる環境を構築するとしています。
また、滞在時間の延長や消費拡大の増加を促すため、観光資源を活かした着地型旅行商品を新たに開発します。
「呼子鎮西地区には、まだ多くの可能性が眠っている。ぜひ現地に足を運び、その魅力を体感していただきたい」という言葉で、発表は締めくくられました。

5. 株式会社出羽庄内地域デザイン(山形県鶴岡市)
山形県鶴岡市では、「北国ならではの奥深い文化」を伝える活動や、地域文化情報誌の発行、着地型観光の造成を行っています。
今年度からはインバウンド事業にも取り組み、今回の事業では2泊3日90万円程度の高付加価値なプライベートツアーを企画しました。

本ツアーは欧米豪の富裕層をターゲットにしており、2人1組でプライベートな旅を楽しむ設計となっています。ツアーでは、以下のような体験を通じて地域の文化を体感できます。
- 500年の歴史を持つ「黒川能」の舞い方を体験
- 山伏の案内で、羽黒山の石段を白装束で歩く体験
- 日本三大祈祷寺である「善寶寺(ぜんぽうじ)」での祈祷体験
成果と今後の展望
ターゲットに沿った商品開発に向け、海外の旅行会社を招いたファムトリップが実施されました。
10月にはニューヨークの旅行会社を招き、黒川能や修験道体験を実施。その内容の素晴らしさが評価されました。
また1月には、イギリス・スペイン・ドバイの旅行会社が視察し、体験を行う際の心配りや、文化背景の説明について指摘を受けた一方、ぜひ自社から送客をしたいと高評価を受けました。
今後はファムトリップに加え、海外の商談会参加などを行い、着実に集客を行う予定です。
出羽庄内地域デザイン 小林氏は、「最終的には地方創生を目指し、若者の雇用創出や移住にも貢献していきたい。この事業を通じて、欧米豪の富裕層誘致の第一歩を踏み出せたと感じる」と話しました。

6. 株式会社Wasshoi Lab(宮城県白石市)
宮城県白石市では、白石城を舞台に、日本で唯一の「Be a SAMURAI 映画撮影プラン」を提供しています。
「お客様をお殿様にする」というコンセプトのもと、単なる甲冑着付け体験にとどまらず、参加者自身が映画のワンシーンを演じる、没入感の高い体験を提供しています。

本プランでは、参加者が戦国の武将になりきり、日本語・英語の台本に沿って演技を行います。その様子をカメラマンが撮影し、編集された映像(3分程度)が後日参加者に納品されます。
衣装は職人が制作した本格的な甲冑を使用するなど、参加者に映画の世界に入り込んでもらう仕掛けが散りばめられています。
ターゲットは、欧米豪の20~30代のファミリー層。特に欧米は日本文化に関心が高いことから、そうした文化体験を目的としている訪日客にターゲットを絞り込みました。
今回の事業では、この撮影プランの磨き上げや海外旅行博への出展、インフルエンサーを活用した情報発信を行いました。
成果と今後の展望
今回の事業では、以下のような成果が得られました。
- 体験予約数の増加:情報発信を強化した結果、閑散期にあたる12~3月の予約実績が前年0件だったところ、着付け体験7件、団体受け入れ8件と、予約数が増加しました。
- 海外でのプロモーション成功:オーストラリアで行われた旅行博に出展し、100名以上に甲冑体験を提供。さらに、甲冑を着ながら街中でのパンフレット配布も行い、500部全てを配り切りました。
- インフルエンサー施策の成功:ターゲット国のフォロワーを持つインフルエンサーと連携し、SNSで高いエンゲージメント率を記録しました。
Wasshoi Lab 後藤氏は、今後について、継続的な情報発信や、東北の他地域との連携強化を行いたいと話します。このプランを東北を代表する文化体験に育てることで、国内外の観光客が東北を訪れるきっかけになることを目指します。

7. 株式会社OUGI(大分県宇佐市)
大分県宇佐市は、観光客のアクセスに課題があり、これまでインバウンドの来訪はごくわずかでした。
しかし今回、「神楽」の世界に深く没入する5日間の体験型プログラムを造成し、1組300万円の高付加価値商品として企画を行いました。

このプログラムでは、参加者が神楽の稽古を積み、最終日に神前で奉納を行います。
初日は開講式を実施。オリジナル楽曲の演奏や朗読、神楽師との対面を通じて、参加者が物語の主人公となる演出が施されています。
稽古は、毎晩2時間行われます。稽古以外の時間においても、修験道の文化が色濃く残る宇佐の地を巡り、神楽の根底にある自然との共生を体感します。食事も、神楽の舞に必要な心と体を整える「神楽飯」が提供されます。
最終日には、参加者が実際に神前で神楽を奉納します。稽古で使用した扇には神楽師からメッセージが書き込まれ、これが卒業証書となります。
参加者は、この体験について「文化を分かち合う濃密な時間だった」「地域の人々の温かさに触れた」と高く評価し、これまで全員が涙を流したといいます。
成果と今後の展望
この取り組みは、全国的に伝統芸能が消失の一途をたどるなか、神楽を継承する新たな担い手を創出するために始められました。
今回の事業を通して、神楽師や行政、DMOと連携し、持続可能な運営体制を整備することができたと、OUGI 鈴木氏は話します。稽古を夜に行うことで、神楽師が本業と両立しやすい環境も構築されました。
また、通訳や音響・映像制作などの新たな雇用も生まれました。これは、「専門性を磨けば地域でも活躍できる」という意識の醸成につながっているといいます。
今後の販路については、旅行博でのPRを予定。またブランディング強化として、世界的マーケター2名が現在モニターツアーに参加しているということです。

ユニークな観光資源が、地方発展の起爆剤に
今回の発表会では、全国各地の事業者が「地域観光新発見事業」を通して、さまざまな観光コンテンツの企画・販売に取り組んでいることがわかりました。それぞれが掲げるテーマは多様でありながら、どの取り組みも、他の地域では味わえないユニークな観光資源を起点としています。
また、どの事業者においても、地域住民や関係者との連携を尊重し、持続可能な関係を築くことを重視する姿勢が印象的でした。
インバウンド市場は近年急速に成長を続けていますが、その需要は都市部に集中しており、地方部にも旅行者を呼び込めるかどうかが喫緊の課題となっています。
地域での滞在や消費拡大を促す取り組みは、日本の観光産業全体の発展においても重要な鍵となります。今回の事業で得た知見を活かし、各地域が今後どのような展開を見せるのか、引き続き注目していきたいところです。
なお観光庁は、後継事業にあたる「地域観光魅力向上事業」について、3月3日から公募を開始しています。
関連記事:「温泉文化」の文化遺産登録を目指して 全国で広がる取り組みと今後の展望
インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!
ソーシャルメディアマーケティング大全 ~MEO、UGC、SNS、集客、顧客体験~
SNSをはじめとするデジタル領域の進化により、消費者の情報収集や購買行動が大きく変化しています。特に、検索エンジンだけでなく、GoogleマップやSNS上の口コミ・投稿を参考にする傾向が強まっています。
この流れを受けて、MEO(マップエンジン最適化)を活用した検索対策、UGC(ユーザー生成コンテンツ)による信頼性の向上、SNSを通じた直接的なファン獲得とエンゲージメント強化が、集客やブランディングの成功に欠かせない要素となっています。
本セミナーでは、これらの最新トレンドを活用し、マーケティング、広報PR、経営企画に携わる皆さまに向けて、最新のソーシャルメディアマーケティング戦略を解説します!
<本セミナーのポイント>
- 顧客体験(CX)を強化し、リピーターを増やせるヒントが得られる!
- SNSを使ったブランディングや売上向上を目指せる!
- MEOやUGCを活用した集客施策が学べる!
詳しくはこちらをご覧ください。
→ソーシャルメディアマーケティング大全 ~MEO、UGC、SNS、集客、顧客体験~
【インバウンド情報まとめ 2025年2月後編】1月の訪日中国人 12月から約30万人増加 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月発行しています。
この記事では、主に2月後編のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→1月の訪日中国人 12月から約30万人増加 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年2月後編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!