観光庁は「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」の最終回となる第8回会議を2025年6月に開催しました。1年半にわたる検討を経て、観光地域づくり法人(DMO)に求める機能や役割はどのように整理されたのか。昨年7月開催の第4回までの内容をまとめた前回記事に続き、各回の議事録や資料をもとに討議されたDMOに求める機能や役割、課題などを読み解いていきます。
取材・文/萩本良秀(地方創生パートナーズネットワーク)
「都道府県DMO」を新設、登録区分により求める役割の違いもすみ分け
今年3月に一部改正され10月に施行となる新たな「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」(以下、改正ガイドライン)は、有識者会議での討議を経て策定されました。3月25日に公表されてすでにご存じの方も多いかと思いますが、あらためて要点を確認してみましょう(なお記事中で紹介している資料は各回会議時点の案で、最終的な決定内容と異なる場合があります)。
有識者会議の第4回~第8回会議では「DMOの登録要件の見直し」と「先駆的DMO」について中心的に討議が続けられました。登録要件の見直しに関しては6つのポイントが挙げられました。

改正ガイドラインの記載順に沿って見ていきましょう。DMOの使命としては、「観光地域づくり法人の使命は、持続可能な観光地域づくりを実現することである」と定義されました。DMOが必ず担う基礎的な役割は、以下のとおり列挙されています。
- 各種データ等の継続的な収集及び分析、明確なコンセプトに基づいた観光地経営戦略の策定、重要業績評価指標(Key Performance Indicator。以下「KPI」という)の設定、PDCAサイクルの確立
- 地域の魅力向上に資する観光資源の磨き上げや二次交通を含む交通アクセスの整備、多言語表記等の受入環境整備等、着地整備に関する取組の推進
- 関係者が実施する観光関連事業と観光地経営戦略との整合性を図る調整や仕組みづくり、プロモーション
- 観光地域づくり法人を中心とした多様な関係者との体制構築や合意形成
- 観光地域づくり法人が上記1から4の役割を達成するために必要な組織の確立と財源の確保
今回の改正で注目はDMO区分の見直しで、これまでの「広域連携DMO」「地域連携DMO」「地域DMO」という区分が見直され、「都道府県DMO」を新設(検討段階の呼称は都府県域DMO)、「地域連携DMO」を「地域DMO」に統合する形で最終的に3区分に再編されました。これに伴い、それぞれの組織の置かれた状況や特色に鑑みて、登録区分ごとに異なる役割を求めていく流れも進みます。
これまでは地域連携DMOとして同じ区分であった都道府県単位のDMOと複数市町村単位のDMOの間で、さらには広域連携DMOや地域DMOも含めて、登録区分によって財源構成や地域住民との関係構築を図るための取組等において違いが見られることからそれぞれの実情を分析、役割や区分自体の見直しが検討されました。

広域連携DMOを置く北海道と沖縄を除く45都府県には35の府県単位のDMOが存在し、その約7割が公益認定を受けた団体(公社・公財)で、公益法人は公益目的事業の比率を50%以上確保することが必要、公益法人が行う公益目的事業には中長期的に収支均衡が求められるため、公益目的以外の収益事業の実施には制約を伴うという現況が、第6回会議で共有されました。
改正ガイドラインでは、各区分の観光地域づくり法人の役割分担として、地域DMOは特に地域の多様な関係者と連携し観光資源の磨き上げや二次交通を含む交通アクセスの整備に係る調整、多言語表記といったソフト面での受入環境整備等の着地整備を担うことが求められています。一方、広域連携DMO及び都道府県DMOは、各地域における着地整備の成果を集約し、戦略策定やプロモーション等のマーケティングや、広域的な連結性を有するコンテンツ開発等の働きかけを、各地域へ実施していくことが求められました。
KPI見直しから組織体制の強化や財源確保まで、多岐にわたるDMOガイドライン改正
改正ガイドラインでは、登録要件のI「観光地経営戦略の策定」として、4~5年単位の中長期戦略の作成が要件とされました。そこにはKGIの設定やデータ分析、マーケティングや受入環境整備など、12の構成要素が明記されました。このうち広域連携DMOに対しては7・8・9、新設された都道府県DMOについては7・8についてはこの限りでないとしつつ、別途それぞれの区分に応じた役割が求められています。

DMOの登録要件におけるKGIとしては旅行消費額が、KPIには以下の6項目が定められています。
- 1人当たり旅行消費額
- 延べ宿泊者数
- 来訪者満足度
- 持続可能な観光に対する住民満足度
- 観光事業者の平均給与額
- 月別来訪者数の平準化率
なお更新登録要件としてはKGIに 2. 経済波及効果、KPIに 7. 実行計画を踏まえマネジメントの観点から観光地域づくり法人が自ら設定するKPI、8. 実行計画を踏まえマーケティングの観点から観光地域づくり法人が自ら設定するKPI が加わります。ここでもKPIのうち広域連携DMOは4・5・6、都道府県DMOは4については、その限りではないと区分によって求める要件が異なるとされています。
都道府県DMOと広域連携DMOそれぞれに求める要件も列挙されています。「データ収集と分析」「人材育成研修」といった両者に共通の役割に加え、都道府県DMOには「国内旅行者向け旅行商品の流通支援」「地域のポジショニング」「近隣都道府県との連携」が、広域連携DMOには「インバウンド向け旅行商品の流通支援」「JNTOや地方運輸局等と連携した訪日プロモーション」「大規模災害時の風評被害対策」といった独自の役割も明記されました。

「観光地経営戦略に基づく取組の具体化と実施、検証、改善」については、
- 戦略に基づく単年度の事業計画書作成
- 観光資源を磨き上げ地域の「売り」となる観光資源を活用した商品開発や販売、観光客に提供するサービスの品質管理から向上や評価の仕組みおよび体制の構築
- 観光客に対し地域一体で戦略に基づく一元的な情報発信やプロモーションを行うこと
- 広域連携DMO及び都道府県DMOには「登録要件/(1)ウ」(上図)の方針を踏まえた事業計画書を作成していること
が求められています。

「多様な関係者との体制構築」については地域での合意形成の対象に含まれる業種などを明記、「観光地域づくり法人の組織の確立」に関しては3名以上の常勤職員やマーケティングおよび財務の責任者(CMOとCFO)の配置が求められています。また、CMOが専従であることは求めないが地域に根ざした人材の活用が望ましい、と書かれています。「安定的な運営資金の確保」については、財源計画の策定や安定財源確保率の設定と評価など具体策が求められています。

DMO制度設立から10年にして初の登録区分の見直し、それぞれに区分に適した役割を定義し、DMOに求める要件も具体的項目が詳細に設定された改正ガイドラインは、2025年10月から施行されます。オーバーツーリズム対応や地方誘客推進に向け、観光地域づくりの司令塔としてのDMOが果たすべき役割を明確にすべく、観光庁と有識者の取り組みが反映された、今回のガイドラインです。
先駆的DMOの選定要件や審査基準、選定プロセスを開示
先駆的DMOについても、各回で議題となり討議が行われました。2022年度以降選定された4法人に対する支援活動の報告や評価、過去の選出プロセスの課題や対応方針についても振り返りと検討が重ねられました。


第8回会議においては、先駆的DMOに対する支援としては科学的アプローチ、受入環境の整備、地域住民の参画促進等、観光地に対するマネジメントにかかる取組を支援し、それにより得られた結果を元に他のDMOが活用できるノウハウやツール、支援の在り方を取りまとめていく構想も提示されました。
今年度の先駆的DMOの選定についても、1次審査・2次審査それぞれ選定要件や配点など、その選定プロセスの情報公開が進みました。今年9月には新たに6法人程度が選定される予定です。
DMOの機能強化に向けた会議の成果、今後の課題は有識者からの意見集約に
全8回の有識者会議では、DMO登録ガイドライン改正や先駆的DMOの選定などが議論され、新たな運用方針が定められました。また、今回まとめられた内容以外にもDMOとDMC、観光協会機能の分化など多岐にわたる討議を経て、今後に残された課題も確認されました。
第7回会議では、これまでの委員の発言を踏まえ整理された「有識者からの提案骨子」の案が観光庁より提示されました。それに対する有識者による審議を経て、第8回会議終了後に「観光地域づくり法人(DMO)に関する有識者からの意見集約」としてまとめられた文書が、観光庁ウェブサイトに掲示されました。「ガイドラインの性質上、盛り込むことができなかった意見等がDMO関係者の参考になるように、意見集約と題してまとめた」とのまえがきに続き、以下の目次に沿ってまとめられています。
- 持続可能な観光の実現に向けて
- 観光地経営に求める事項
- 住民の観光に対する理解促進
- 観光地マネジメントの強化
- 科学的アプローチとDX導入
- 誘客の促進
- 組織経営に求める事項
- 財源の確保
- 必要とされる人材の確保・育成
- 組織体制の強化
- 観光協会について
- おわりに
記事の文字数が過多になるためそれぞれの内容についてはここでの紹介は割愛しますが、DMO関係者のみならず地域の民間事業者や観光協会関係者など、観光地域づくりに関わる方々には、興味ある見出しの部分からでもご一読されると、それぞれの立場や地域に重なる問題提起があるかもしれません。
<以上参照>
著者プロフィール:萩本 良秀
地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター
民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など観光庁や文化庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。
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