観光庁は「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」を年初より隔月で開催しています。
観光地域づくり法人(DMO)支援として「先駆的DMO」の選定、「意欲あるDMOの自己評価・外部評価」事業、「観光地域づくり法人(DMO)による観光地経営ガイドブック」発刊など昨年度実施の各施策に続いて、今後に向けてどのようなDMO強化の方向性が議論されているか、各回の会議資料から読み解いていきましょう。
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DMOの課題および有識者会議の目的
各回の会議資料は会議終了後に観光庁ウェブサイトで公開されています。観光庁による方向性案に対する各有識者からの意見を反映したアップデートは次回会議で提示される流れで、DMO強化の方向性が議論されています。
7月実施の第4回までの会議資料から要点となるスライドを抜粋しながら、会議の流れを整理してみましょう。
1月開催の第1回会議では、DMOを司令塔とした観光地域づくりの推進に当たって今後DMOに必要となる機能について、「(1)インバウンド地方誘客を支えるDMOに求められる要件」「(2)DMOの登録要件の在り方」「(3)世界的なDMOの形成に向け求められる要件」などについて検討することが設置要綱として提示され、大学教授や⺠間事業者の代表など9名の有識者による会議が、観光庁観光地域振興課を事務局として立ち上げられました。
続いて「令和5年登録DMO現状調査」(回答数266)などアンケート結果が共有され、それによると「人材の確保・育成」(82%)、「予算・財源」(80%)、「マーケティング・DX」(58%)、「インバウンド関連」(57%)を、回答したDMO過半が現状課題に挙げています。
これらの課題や海外DMOの先進事例調査等を踏まえ、「(1)インバウンド地方誘客を支えるDMOの早期育成」「(2)全DMOに求める機能の明確化」「(3)世界的なDMOの形成促進」を3本柱として、DMOの機能強化の方向性案が提示されました。出席有識者からの発言は「議事概要」として各回掲示されています。
DMOの機能強化へ6つの論点
3月開催の第2回会議では「観光地域づくり法人の機能強化に関する論点」が提示されました。「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりのために、観光立国推進基本計画(第4次)のキーワードである「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」を柱に、DMOの役割・機能が検討されました。DMOの機能強化の論点としては、6つのポイントが提示されています。
これら6つの論点に関して、「DMOにおける組織運営等に関する実態調査」(回答数158)から、各DMOの取り組み状況が共有されました。
1. 実行性のある観光地経営戦略策定と取組
「1.実行性のある観光地経営戦略策定と取組」については、「データに基づいたPDCAサイクルの実施方法」を戦略に明文化しているのは24%、半数超のDMOが「データを分析して戦略策定に繋げるノウハウの不足」「戦略策定を行う上で分析に必要なデータが不足している」と回答しています。
2.インバウンド誘客の基盤となる受入環境整備
「2.インバウンド誘客の基盤となる受入環境整備」に関して、「キャッシュレス決済が自地域の主要観光スポットの4割以上で対応している」(72%)、「無料Wi-Fiが自地域の主要観光スポットの4割以上で整備されている」(56%)、「多言語化対応にネイティブチェックは行っていない」(19%)など、各項目の対応状況には隔たりが見られました。
3.消費拡大・地域裨益(ひえき)を促進
「3.消費拡大・地域裨益(ひえき)を促進」については、「観光による受益を地域住⺠へ波及させる取組」を実施していないDMO(69%)からは、「地域住⺠に対するDMOの影響力が低い」「観光に対する地域住⺠の理解・関心が低い」といった理由が挙げられています。回答DMOの45%が「地域の平均宿泊単価を把握」できておらず、マーケティングにおける「ROIを把握している」団体は5%に留まりました。
4.DMOの組織を持続可能に
「4.DMOの組織を持続可能に」という論点については、「CEO、CMO、CFOの成果を評価する仕組みは特にない」(85%)など、組織ガバナンスや経営人材に関し、現況が細かく指摘されています。
5.各区分のDMOの役割を明確化し連携を強化
「5.各区分のDMOの役割を明確化し連携を強化」のパートでは広域連携DMO、地域連携DMO、地域DMOといった登録カテゴリ別に財源・人材・戦略策定・マーケティングなど各項目について課題感の違いを分析。特に地域連携DMOについては県単位/複数市町村からなる組織で分けて考察しているのは興味深いです。
6.多様な関係者の巻き込みを促進
「6.多様な関係者の巻き込みを促進」については、92%が戦略策定を業界団体との合意形成・調整を行っている一方、住⺠との間で行っているDMOは26%に留まっており、後者を行っていると回答した広域連携DMOはありませんでした。
自身の団体と共通する課題に関するアンケート詳細を参照し、その課題に対する有識者の意見や以降の会議資料を追うと、今後の参考となるヒントがあるかもしれません。
DMOの使命と11の施策案を提示
5月開催の第3回会議では、前回会議での6つの論点に対する有識者の意見が集約され、その冒頭では「地域の観光経済拡大」と「持続可能な観光地域づくり」をDMOの二大使命として、地域資源を活用した体験消費の創出や、付加価値の向上による適切な価格設定などが言及されました。
この日は「対応方針に対する施策(案)」として、11の施策案が提示されました。それぞれの施策の必要性やDMOの役割、実際に取り組んでいるDMOの事例などとともに各施策が提言されています。このうち、DMOから多くあげられた課題に対応する項目と新規性の高い項目に注目してみましょう。
まず先述した通り、DMOの課題として多くあげられるのは、「人材の確保・育成」(82%)、「予算・財源」(80%)、「マーケティング・DX」(58%)、「インバウンド関連」(57%)です。
このうち、「人材の育成・確保」には、施策案7「ガイド人材の育成や確保」、施策案9「DMO組織内の人材育成」が対応しています。
「ガイド人材の育成や確保」では、「全登録DMOは、観光地経営戦略において、ガイド人材の育成や確保に係る戦略を記載し、それに沿って人材育成や人材確保を進めるべきではないか」と提言されています。ガイド人材は高付加価値な旅を提供する上で重要な役割を担いますが、報酬の低さや時期によって労働量が変動するなど構造的な問題から、人材確保に苦労している状況にあります。こうした課題に対し、就労しやすいガイド環境の整備やガイド付きコンテンツの消費単価向上が解決策として提示されました。
「DMO組織内の人材育成」では、「全登録DMOは、DMO職員として具備すべき最低限の知識や能力を保有すべきではないか」と提言されています。
DMO職員は最低限必要な知識や能力を保持する機会が限られている上、確立された育成プログラムが無いことが課題となっています。そのため、研修制度等を確立し、受講を必須とする施策案が提示されました。
「予算・財源」には、施策案10「DMOの自主財源の確保」が該当します。
「DMOの自主財源の確保」では、「全登録DMOは、自主財源の調達を加速化するために、自主財源調達率の目標値を設定し、評価すべきではないか」と提言されています。
DMOは自主財源の比率が低いために補助金に依存している状態で、出資者の意向に沿った事業を実施する執行機関になっているという懸念が提示されました。旅行商品の開発など、自主財源を確保するための取組を加速させることが施策の方向性として定められました。
「マーケティング・DX」に該当するものは、施策案4「DXの更なる普及」が該当します。
「DXの更なる普及」では、「全登録DMOは、シームレスサイトの構築による情報発信・予約・決済機能の提供をすべきではないか。また、それらデータに基づいた観光地経営戦略の策定や改定をすべきではないか」と提言されています。
人材不足や低賃金といった課題を解決する上で、DX導入は必須とされています。事例として、入込・宿泊・決済データ等をオープンデータ化し、デジタルマーケティングに活用している福井県観光連盟が取り上げられました。
「インバウンド関連」に該当するものは、施策案5「基礎的なインバウンド受入環境の整備促進」です。
「基礎的なインバウンド受入環境の整備促進」では、「全登録DMOは、インバウンド受入のために必須となる基礎的な受入環境の整備や関係者への働きかけを実施すべきではないか」と提言されました。自動翻訳機やキャッシュレス化、通信環境等の基礎的な受入環境の整備率の目標値を設定し、達成率を評価することで整備を促進する必要性が提示されました。
新規制の高い項目としては、施策案6「自家用有償旅客運送制度等の積極的活用」が該当します。
「自家用有償旅客運送制度等の積極的活用」では、「全登録DMOは自家用有償旅客運送制度等を活用し観光地の二次交通活用に積極的に取り組むべきではないか」と提言されています。
これは令和5年末に実施した自家用有償旅客運送制度の運用改善を受けて、DMO所有の自家用車を住⺠が運転し運送するなど、全国的な課題となっているドライバー不足に対応した、新たな解決策が提示されている点に注目です。
また、施策案11「広域連携DMOの役割の明確化」では、広域連携DMOは地域連携DMOや地域DMOとは主な役割が異なるのではないかという観点から、運輸局や日本政府観光局(JNTO)と連携しブロック単位での各施策を行う考え方が提示されています。
昨年度すべての広域連携DMOとJNTOは連携協定を締結し、共同でデジタル・マーケティング施策を実施してきましたが、広域連携DMOの役割を踏み込んで再定義しようしています。
DMOの登録要件見直しと先駆的DMOの選定
7月の第4回会議では、DMO登録要件の見直し(案)として、現行の登録要件を再編し、(1)として「観光地経営戦略策定、KGI・KPIの設定」が追記されました。
また、この日の会議で、昨年度に戦略的な伴奏支援が行われた「先駆的DMO」の、今年度事業(8月19日締切)についての資料も提示されました。世界的なDMOの候補となる先駆的DMOを、インバウンド地方誘客を支えるDMOと位置づけ、オーバーツーリズムの未然防止等に取り組むことを求め、現在の3法人から令和7年度時点で10法人となるよう選定および見直し、戦略的な支援を行うという観光立国推進基本計画に記載された方針が確認されました。今年度選定スケジュールや評価の考え方・視点についても、指針が取りまとめられています。
以上、第4回会議までの資料から討議の方向性を見てきました。この有識者会議は非公開で次月以降も継続して行われる予定で、結論的な総括や報道発表には至っていない途中経過の段階ですが、毎回具体的な案に対して有識者からの意見をアップデートされています。
最新の議事要旨からは、要件「DMOの使命の明確化」の記載順や表現について、各委員から熱量の高い発言が寄せられているとことが伺い知れます。そのような根本的な整理を経て、観光地経営戦略、関係者の巻き込み、地域内への波及効果、人材や財源など、従来から重要課題とされている事項について、より具体的な指針がまとめられていくことが期待できそうです。
「持続可能な観光地域づくり」と「地域の観光経済拡大」を二大使命として、多様な関係者間の調整や合意形成を期待されるDMO強化の方向性は、先駆的DMOや登録DMOを目指す団体のみならず、より多くのDMO関係者にとっても参照する価値があるでしょう。
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<参照>
【インバウンド情報まとめ 2024年11月後編】中国、タイの2025年祝日発表 ほか
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