日本政府観光局(JNTO)は9月、「第28回 JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」を開催しました。
本フォーラムは、海外全26拠点の海外事務所長などが一堂に会し、各市場における訪日旅行市場の最新動向を解説するものです。
訪日ラボでは、2日間にわたるフォーラムの様子を取材。今回は、1日目の内容をお届けします。
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「高付加価値旅行の推進に組織を挙げて取り組む」JNTO理事長挨拶
まずは日本政府観光局(JNTO)理事長 蒲生 篤実氏から主催者挨拶がありました。
2025年のインバウンド市場は非常に活況で、上半期の累計訪日客数は過去最速で2,000万人を突破しました。
蒲生氏は昨年に続き、JNTOは「持続可能な観光消費額拡大と地方誘客促進の実現に向けて、戦略的かつきめ細やかなインバウンドプロモーションに取り組んでいる」と説明しました。
また市場横断的な取り組みとして、「高付加価値旅行の推進に組織を挙げて取り組んでいる」と述べたほか、知見やノウハウ、海外事務所や国内関係者とのネットワークを最大限活用して、観光魅力の向上や地方・地域よるプロモーションの高度化、持続可能な観光の推進に資する地域への支援、地域との連携などを強化していると語りました。
インバウンドの現状について(観光庁)
続いて、観光庁 国際観光部 国際観光課長の齋藤 喬氏より、インバウンドの現状について解説がありました。
2025年は、訪日外国人旅行者数・消費額とともに前年を上回って過去最高のペースで推移しています。一方で、宿泊先の約7割が三大都市圏に集中している点を課題だとして、「地方へ誘客していく取り組みをより集中的にやっていく必要がある」と述べました。
またアウトバウンドの状況については、2025年は前年を上回る水準で推移しているものの、2019年の水準まで回復していません。航空路線の維持などの観点から、インバウンドとアウトバウンドは双方向で進めていく必要があるという認識を示し、アウトバウンドを増加させることが今後の課題だと語りました。
観光庁および国土交通省のインバウンド施策については、観光立国推進基本計画をもとに観光施策を進めているとして、高付加価値旅行者の地方への誘客や広域連携DMOへの支援などに取り組んでいるほか、オーバーツーリズムへの対策も講じていると説明しました。
またインバウンド6,000万人時代を見据えた上で、地方誘客を進めるためにも観光客の移動手段の確保が必要不可欠だとして、公共ライドシェアや日本版ライドシェアなどの導入を進めていくことが重要だと話しました。
2025年度が最終年度となっている観光立国推進基本計画の改定については、「2030年訪日外国人旅行者数6,000万人・訪日外国人旅行消費額15兆円」という目標に向けて必要な計画の策定について議論を進めていると述べました。
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インバウンド促進に向けたJNTOの取り組み
続いて、JNTO 企画総室長 竹中 理登氏が登壇。インバウンド促進に向けたJNTOの取り組みについて紹介しました。

地方誘客の取り組みについては、最近のインバウンドのキーワードとして「体験重視・少人数・地方志向」の3つが挙げられるとして、トレンドを踏まえた地方体験コンテンツが重要だとしました。
ほかにもインバウンドを取り巻く最新のトレンドとして、ソーシャルメディアやAIの活用のポイントについて紹介がありました。
近年では、旅行のインスピレーションを得る場としてSNSの影響力が高まっており、訪日観光においてもSNSで情報収集する旅行者が多くなっています。そこでSNSの活用のポイントとして「目的の明確化・効果検証」「画像・動画の質の追求」「ショート動画の活用」の3点が特に重要だと説明しました。
またAI市場の急成長を踏まえて、「インバウンド市場においてもAI活用は避けては通れない」として、その重要性を示唆しました。AI活用については、生成AI検索に適した「AIO対策」や、ソーシャルメディアにおける「AIレコメンド」に対して情報を戦略的に流通させる仕掛けが必要だと示しました。
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市場別のインバウンド最新動向
ここからは、市場別の最新動向と、インバウンド誘客に向けたJNTOの取り組みについてそれぞれご紹介します。
1日目は、欧米豪市場の講演が行われました。
英国市場
まずは英国市場について、ロンドン事務所長の本蔵 愛里氏から解説がありました。
旅行会社の訪日旅行販売状況は好調で、2024年は過去最高売上を記録した会社が多数あり、2025年秋のツアーが7月時点で販売停止したケースもあるようです。また混雑を避ける傾向が強いことから、ゴールデンルートに地方をプラスした旅行商品の造成が進んでいるといいます。
そのほかにも、家族旅行の問い合わせが増加しており、多様なニーズに応える商品造成が求められていると説明しました。

英国には伝統的な団体ツアーの販売サイクルがあるため、繁忙期である1月〜4月頃までは旅行会社の招請やイベントへの参加依頼を避けるのが業界マナーであると説明し、適切なタイミングを踏まえたプロモーションが現地パートナーとの関係構築につながると語りました。
またプロモーション方針については、BtoBおよびBtoC強化のほかに、スノーリゾートや地方誘客に力を入れ、閑散期である冬季の需要の底上げを図ると説明しました。
関連記事:英国市場のインバウンドデータを徹底解説【2025年上半期】
北欧市場
続いて北欧市場について、ストックホルム事務所長の丹羽 健人氏より解説がありました。海外旅行の近況として、ロングホールでは冬季に東南アジア、オーストラリアへ旅行する人が多く、特に冬のタイが圧倒的に人気となっています。
訪日旅行の状況については、欧州のほかの国々よりもFIT(個人旅行)の割合が多く、旅行先としてはゴールデンルートが中心ですが、地方へ訪問するツアーの造成も進んでいるとのことです。また、北欧のなかでもデンマークからの訪日客については、地方分散が進んでいるといいます。

北欧市場は、ほかの欧州ほど日本に対する認知が浸透しておらず、旅行先として開拓のフェーズにあるとして、現地の旅行業界は日本側とのネットワークや地域の情報を求めているとしました。
また、JNTOとしては北欧市場として一括りにしている一方で、言語圏や経済圏も異なる独立した国々であることから、それぞれに地道なアプローチが必要であると述べました。
関連記事:北欧市場のインバウンドデータを徹底解説【2025年上半期】
イタリア市場
続いてイタリア市場について、ローマ事務所長の豊田 健氏より解説がありました。イタリアでは国内旅行や近隣の欧州諸国への海外旅行が盛んな一方で、ロングホールの旅行先として日本の存在感が高まっているようです。イタリアと日本を結ぶ直行便は週10便とほかの欧州と比較すると少ないものの、旅行者の約70%が利用する経由便によって堅調な訪日需要が支えられていると説明しました。
また、イタリアでは旅行会社の利用比率が高いことから、BtoBへの取り組みが引き続き重要であると述べました。
訪日旅行の状況としては、東京や大阪、京都といったゴールデンルートに加えて、金沢、高山、広島も人気となっています。金沢や高山、広島については、戦略的かつ地道な活動が成果につながっているとして、今後もターゲット市場をピンポイントに絞った上でのアプローチが重要になると指摘しました。

また、イタリア人は歴史や芸術、建築などさまざまな分野に馴染み深いことに触れ、日本のコンテンツをアピールすることで旅行客を惹きつけられるのではないかと語りました。
関連記事:イタリア市場のインバウンドデータを徹底解説【2025年上半期】
スペイン市場
続いてスペイン市場について、マドリード事務所長の原田 靖之氏より解説がありました。大手旅行比較サイトKAYAKによると、2025年夏におけるスペイン発航空券手配の検索数では、東京が1位、バンコクが2位となっており、アジア人気が続いているようです。背景にはスペイン人旅行者の成熟化があります。これまで欧州を旅行していた層がアジアに目を向けており、近年では子連れの家族やシニア世代、友人グループの旅行も増加しているといいます。
訪日旅行の状況については、2024年は10月まで直行便の運航がなかったにもかかわらず、訪日数が前年比57.3%増という高い伸び率を記録しました。都道府県別訪問率を見てみると、ゴールデンルートおよび中部地方が人気で、特に岐阜県は約2割の高い訪問率を維持しています。また奈良県も着実に増加しており、観光地以外の場所を目的に訪問する人も増えているようです。

現地の旅行会社へのヒアリングによると、猛暑が影響して夏の訪日旅行は伸びが鈍化しているものの、代わりに秋が人気となりつつあるとのことです。また訪日旅行ブームによって、直前の予約や問い合わせが増加していると述べました。
プロモーションについては、ゴールデンルート以外では北海道に高い関心が寄せられていることを踏まえ、北海道をプロモーション強化地域に設定して招請事業や情報発信を行なっていると説明しました。
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ドイツ市場
続いてドイツ市場について、フランクフルト事務所長の臼井 さやか氏より解説がありました。ドイツは経済の見通しは芳しくないものの、海外旅行需要は活発で、ロングホールの旅行先としては特に冬季のタイが人気だと述べました。
訪日旅行の状況については、日本ブームによって旅行会社でも旅行商品の取り扱いが増えているといいます。一方で、ガイド不足やFIT対応といった供給面での課題もあると語りました。

プロモーションについては、軸となる自然やアウトドア・アクティビティをテーマに、継続性のある取り組みを実施しているといいます。
ハイキングやサイクリングにおいては、欧州との差別化が重要になるとして、日本ならではの異文化体験との組み合わせが求められていると語りました。ほかにも、近年の人気の高まりを踏まえて、日本のポップカルチャーを好む層への訪日情報の発信も今後効果的であるとしました。
臼井氏は、訪日需要の高まりを一過性のブームとして終わらせるのではなく、旅行先としてのポジションを確立して持続していくことが最も大事という考えを示しました。
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フランス市場
続いてフランス市場について、パリ事務所長の永井 初芽氏より解説がありました。フランスでは旅行需要は高いものの、旅行先のほとんどが国内と欧州内で、日本は「いつか行きたい旅行先」と認識されています。近年は若年層の訪日が増加しており、2024年のデータを2019年と比べると、全体の伸びが14.5%増であるのに対し、20〜35歳は32.5%増と高い伸びを示しました。

訪日旅行の状況としては、東京や京都が人気であるものの、少しずつ地方部にも訪れるようになっているといいます。また「本物の日本を知りたい」という需要が高いこともフランス人旅行者の特徴だとしました。
訪日の約1年前に航空券を購入して具体的なプランを練る人が多いことから、永井氏は航空券購入後の半年から1年がプロモーションのチャンスだと語りました。
永井氏は、フランス市場へのプロモーションでは、コンテンツ単位や自治体単位ではなく、東京や京都からの動線を意識したルートでの訴求が効果的だと述べ、プロモーションを継続することが最も重要であると強調しました。
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豪州市場
続いて豪州市場について、シドニー事務所長の北澤 直樹氏より解説がありました。豪州における主要国への旅行者数ランキングを見ると、コロナ禍を除き日本は右肩上がりとなっており、2024年は米国を抜いて3位となりました。
訪日旅行においては、日本食やスキーのほかに、自然景観や伝統文化体験などにも高い関心を持っているのが特徴です。訪問地域としてはゴールデンルートに加えて北海道や長野などのスノーリゾートへの訪問が多くなっています。
豪州における日本のスキー需要は非常に高く、日本のスキー観光地への旅行客が多い国では米国を抑えてトップになりました。また有名なニセコや白馬に限らず、他のスキー場への来訪も増加しているとのことです。

最後に、豪州市場は滞在期間が長く消費額も高いことが特徴だとして、さらなる消費額増・地方誘客を図るべく、高付加価値・地方誘客コンテンツを引き続き積極的に発信していくと述べました。
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米州市場(米国市場・カナダ市場・メキシコ市場)
続いて米州市場について、ニューヨーク事務所長 松本 将氏、ロサンゼルス事務所長 田中 陽子氏、トロント事務所長 鈴木 結佳氏、メキシコ事務所長 山田 麻須美氏の4名より解説がありました。・米国市場
米国では、東海岸、西海岸、ハワイのそれぞれで旅行の傾向が異なるといいます。
東海岸市場では、地理的な関係でカリブ海や欧州が人気であるものの、日本にも強い関心が寄せられている状況だとしました。その背景として、アニメやゲーム、日本食などの普及で、心理的な距離が一層近くなっていることが挙げられました。
西海岸市場では、日本は海外旅行先として英国に次いで2位の人気を集めています。中華系や韓国系、日系の旅行会社も多く、リピーター向けのツアーも見られるとのことです。
ハワイ市場は訪日リピーター層が多く、地方への関心も高いことが特徴です。マーケット自体は大きくないものの、富裕層も多い有望市場であると示されました。
また米国の富裕層市場では訪日需要は好調で、ゴールデンルート+αの旅行が人気となっています。一方で、日本側の受け入れ体制不足を指摘するアドバイザーもいるということです。
関連記事:アメリカ市場のインバウンドデータを徹底解説【2025年上半期】

・カナダ市場
カナダ市場では、複数の要素を組み合わせた日本ならではの体験が鍵になるとして、観光客向けの簡易的なアクティビティではなく、地域性や作り手の思いなどを感じられるような深みのある体験を重視する傾向があるようです。
またカナダは多文化主義であることから、英語圏、フランス語圏、中華系などで訪日旅行のニーズも異なります。多様なニーズへの対応を求められるなかで、日本側の受け入れ体制には課題もあり、旅行会社からは、問い合わせへのレスポンスの遅さや、個別対応の柔軟性に欠ける点などが予約機会の損失につながっていると指摘されています。
関連記事:カナダ市場のインバウンドデータを徹底解説【2025年上半期】

・メキシコ市場
メキシコ市場では引き続きゴールデンルートが人気となっており、家族旅行で訪日する人も多い傾向にあります。
日本ならではの文化体験を求める声が多く、日本での買い物を楽しむ人も多くなっています。また日本だけでなく、韓国やタイと組み合わせたパッケージツアーも人気を集めているようです。
関連記事:メキシコ市場のインバウンドデータを徹底解説【2025年上半期】

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