ネットラジオアプリの興隆

「読みたい記事」が自在にカスタマイズできる「今日頭条(ジンジートウティアオ)」がニュースアプリの定番となる一方、「聞きたい番組」を自由自在に取捨選択できるネットラジオアプリも人気を集めています。訪日中国人観光客の情報収集ツールとして、必須のものとなっていると言っても過言ではないでしょう。

高まるネットラジオ需要

ネットラジオアプリのユーザー数の伸び  (出処:易観智庫)
ネットラジオアプリのーザー動向

ポッドキャストなどをネット配信するウェブサービスやアプリは、音楽やトーク番組を楽しむだけでなく語学学習でも重宝します。とくに、PCデバイスだけではなく、スマホのアプリで利用が可能になった近年では、ネットラジオはより価値ある・ツールにステップアップしたといえそうです。自分の関心のあるジャンルのコンテンツだけを、好きな時に、好きな場所で、いつでもどこでも聴取できるのはリスナーにとって大きなメリットです。

中国でメジャーなネットラジオアプリ:ユーザー獲得のカギはラジオパーソナリティーの質

さて、日本や西欧でしたら、「TuneIn Radio(チューンインラジオ)」がネットラジオの代表格となっていますが、中国でメジャーなものといえば、

  • 考拉(カオラ)FM
  • 喜馬拉雅(シマラヤ)FM
  • 蜻蜓(チンティン)FM
  • 荔枝(リージー)FM
  • 多听(ドゥオーティン)FM
  • 企鵝(チーアー)FM

などが挙げられます。ほとんどが、ここ数年の間にサービス提供を始めたもので、ユーザーー獲得競争にしのぎを削っているのです。ネットラジオは、多くのアプリのなかでも、とくに活況を見ているホットな市場だと見ることができるでしょう。ユーザー獲得のうえで大きなカギとなるのが、人気コンテンツの確保です。そのうえで重要な役割を示すのが他でもないパーソナリティーだといえるでしょう。従来のラジオ局で知名度を高めたパーソナリティーの獲得競争も展開されており、著名人のネットラジオへの移籍がニュースとして報じられるケースも少なくありません。そして著名パーソナリティーを獲得したネットラジオ側は、パーソナリティーとリスナー、あるいはリスナー同士がオンライン上のみならず、オフラインでもさまざまな交流できる機会を設けていきます。いわばO2Oのアプローチによって、パーソナリティーと自らのブランド化を進めていくわけです。一方、ネットラジオは、誰もがパーソナリティーになれるプラットフォームにもなっています。アマチュアでありながら、自ら番組を作り情報をを発信していく――そんな「個人メディア」の勃興を、ネットラジオ市場の興隆からも見ることができるのです。

ネットラジオ市場の「データ不正」疑惑

ところで、フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス不正問題が収束したかと思えば、今度は三菱自動車の燃費試験不正が話題をさらうことになりました(2016年5月)。三菱自動車が日産の傘下に入る事態に発展したことを見ると、「データ不正操作」発覚で企業が受ける経営ダメージは相当大きなものといえそうです。そのほか、巻き添えを食らったスズキへの影響がどれほどのものになるかも予断が許されないものがあります。

2015年 各ネットラジオアプリの検索頻度指数(出処:易観智庫)
2015年 中国値とtラジオ デバイス検索インデックス(出処:易観智庫)

つは、歴史の浅い中国のネットラジオ業界においても、市場競争が激しいこともあり、こうしたデータ“粉飾”行為とは無縁ではありません。“事件”の当事者となった企業が受けたダメージがどの程度のものかは計り知ることができませんが、少なくとも業界地図にある程度の変動を来たしていたのは確かなようです。

蜻蜓(チンティン)FMのアクセスデータ不正事件

事件とは「蜻蜓(チンティン)FM」に関わるものです。同アプリのアクセスデータについて偽装疑惑が報じられたのは昨年(2015年)の晩秋のことです。「蜻蜓(チンティン)FM」は2014年の時点でネットラジオアプリの中でユーザー数を最も多く抱えていましたが、その手法に対して疑念の目が向けたのが、ライバルの「喜馬拉雅(シマラヤ)FM」でした。同社は、「蜻蜓(チンティン)FM」が、アクティブユーザー数や広告のタップ数などを水増し表示し、モニタリング会社や投資者、広告主を騙している可能性を指摘し、告発したのです。2015年11月10日付「第一財経日報」によると、「喜馬拉雅(シマラヤ)FM」が告発の根拠としたのは、同社プログラマーが「蜻蜓(チンティン)FM」のスマホ用アプリを逆コンパイルして得たソースコードでした。そのテスト結果では、ユーザーが「蜻蜓(チンティン)FM」のアプリをインストールすると、バックグラウンドの状態で隠れたプラウザが開き、模擬ユーザーが広告リンクにアクセスし、広告の表示数やタップ数が増加する仕組みとなっていたというのです。また、報道では、デバイスのバッテリー消費が早まるなどの不便をユーザーにもたらしていたことも指摘されています。そして、この「データ不正」疑惑によってユーザーの信頼が損なわれた結果といえるかどうかは分かりませんが、「蜻蜓(チンティン)FM」の立ち位置は、2015年になると「喜馬拉雅(シマラヤ)FM」に逆転されてしまうのです。

多听(ドゥオーティン)FM
多听(ドゥオーティン)FM

熾烈を極めるユーザー獲得競争:今後の行方とは

このように、競争者の間で矛盾を来たしながらも、ネットラジオ業界は、切磋琢磨を続け、発展軌道にあります。前述のように、「喜馬拉雅(シマラヤ)FM」と「蜻蜓(チンティン)FM」の確執が報じられたほか、彗星のごとく現れ、存在感を誇示している「多听(ドゥオーティン)FM」の快進撃にも注目が集まっています。市場参入を果たした企業がターゲットとしているのは、ドライバーや地下鉄の乗客などです。モータリゼーションが進行する一方で、軌道交通の拡充と地下鉄のWifi環境が整えられるなかで、ネットラジオの潜在ユーザーは莫大な数になると見込まれているのです。業界内の制度やルールが整備されていく一方、これまで従来のラジオ放送には見向きをしなかったユーザーを、どのように自社アプリに取り込んでいくか、これからが各社の腕の見せ所といえそうです。

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