国土交通省は平成28年(2016年)12月27日、空き家になった古民家や住宅を地域資源と捉え、観光振興などを目的とした用途変更に柔軟に対応する方針を明らかにしました。類似の取り組みは各地で行なわれており、さらに活性化する可能性があります。
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開発が制限されていた市街化調整区域で、飲食店や宿泊施設がオープンしやすくなる
現在、日本では少子高齢化、過疎化などを背景に空き家が増加しており、問題視されています。平成25年度時点で住宅全体の約13.5%が空き家という状態になっており、その戸数は800万戸を越えています。
人の手の入らない空き家では倒壊、害獣・害虫の温床化といったトラブルが発生しやすいだけでなく、犯罪者の隠れ場所になったり、放火されたりといった治安への悪影響も懸念されています。このような理由から空き家問題は全国的に問題視されており、解体、再利用に向けた施策が実施されています。
国土交通省による今回の取り組みの対象となるのは、市街化調整区域。これは「市街化を抑制すべき区域」に該当するもので、都市計画法の規定に基づき開発が制限されています。既存の建築物の用途を変更する場合には、都道府県知事などの許可が必要になります。しかし、急務とされている地域再生に役立つほか、新たに行う開発に比べ周辺の市街化を促進するおそれが低いことなどから、用途変更の弾力的な変更を打ち出しました。
例として掲げられているのは以下の2種類。古民家などの建築物を宿泊施設や飲食店、グループホームなどに用途変更する場合が想定されています。
- 観光振興のために必要な宿泊、飲食等の提供の用に供する施設:現に存在する古民家等の建築物自体や、その周辺の自然環境・農林漁業の営みを、地域資源として観光振興に活用するため、当該既存建築物を宿泊施設や飲食店等に用途変更する場合
- 既存集落の維持のために必要な賃貸住宅等:既存集落においてコミュニティや住民の生活水準の維持を図るため、当該集落に存する既存建築物を、移住・定住促進を図るための賃貸住宅、高齢者等の福祉増進を図るためのグループホーム等に用途変更する場合
合わせて「都市計画区域マスタープランや市町村マスタープラン、地域振興、観光振興等に関する方針や計画等と整合していること」という条件も示されています。
古民家を利用したインバウンド向け施設には、以前から注目が
空き家を活用したインバウンド観光向けの施設はすでに登場しています。たとえば、訪日外国人観光客の誘致にあたってしばしば課題として取り上げられるのは、宿泊施設不足。観光庁のデータによると、大都市圏の客室稼働率は東京で77.4%、大阪で81.6%を記録しており、余裕のない状況が続いています。その一方で、訪日外国人観光客数は毎年右肩上がりで増加しており、宿泊施設不足は引き続き課題となることが見込まれます。
この対策などに有効なことから注目を集めているのが、古民家を再利用とした宿泊施設。訪日外国人観光客にとっては日本らしさを強く感じられるメリットもあり、インバウンド需要の獲得に成功する事例も現れています。
たとえば、観光庁が発表した「平成27年版観光白書」にて取り上げられている「徳島県祖谷地区」は、古民家を再生した宿泊施設8棟を用意。この地域には平家落人伝説、かやぶき集落などの伝統文化があり、それらを観光資源とした着地型観光の実現に成功しています。
「古民家の再活用」を通じたインバウンド誘致が進む:「モノからコト」へのニーズ移行が背景に
訪日外国人観光客の増加を受け、政府は東京オリンピックが開催される2020年までに、現在の約2倍である4,000万人、2030年までには6,000万人の訪日外国人観光客を誘致することを目標としています。都道府県別宿泊施設タイプ別客室稼働率:観光庁より引用そのような状況にある日本ですが、インバウンド誘致において未だに多くの課題を抱えています。その課題の中でよく取り上げられるのが、訪日外国人観光客向けの「宿泊施設不足」。観光庁のデータによると、大都市圏の客室稼働率(*)は東京で77.4%、大阪で...
古民家活用による経済効果は約380億円!?
日本政策投資銀行は平成27年(2015年)4月、「古民家の活用に伴う経済的価値創出がもたらす地域活性化」という資料を発表。ここでは「古民家が並ぶ景観そのもの」が観光資源になり得るうえ、すでに「カフェやレストランとして活用できる考え」が広まっているという考えが示されています。
「訪日外国人観光客の古民家への宿泊ニーズを満たすためには、推計7,390棟の古民家が必要であり、外国人旅行者の古民家への宿泊が地域へもたらす経済効果は約380億円と試算される(間接効果含まず)」ともされており、需要の大きさが見て取れます。従来は残存価値ゼロと見なされることが多かったものの、地域資源として見直す動きが進められているようです。
まとめ:古民家の再評価がますます進むか
国土交通省は、空き家になった古民家や住宅を地域資源と捉え、観光振興などを目と機とした用途変更に柔軟に対応する方針を明らかにしました。類似の取り組みはすでに各地で行なわれており、レストランやカフェとして再利用する動きが現れています。残存価値ゼロとみなされていた古民家の価値が近年、見直されているのです。
今回、国土交通省が対象としたのは、都市計画法で開発が制限されている市街化調整区域。開発を行う場合には都知事などの許可が必要とされていましたが、柔軟に運用が行えるようになるため、古民家を再利用した宿泊施設などをオープンしやすくなる見込みです。
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