東山というと京都が有名ですが、岐阜県高山市にも、京都の東山に倣ってつくられた「東山寺院群」という観光スポットがあります。そこに立ち並ぶ寺院は、多くが県や市の文化財に指定されています。東山寺院群を含む15の寺社を巡る東山遊歩道は、日本らしい景観や四季折々の風景を楽しめることから欧米豪の訪日外国人観光客に人気です。欧米豪の観光客が飛騨地域で訪れた場所ランキングでは、5位にランクインしています。
「何故訪日客は高山市に向かうのか」人口の5倍のインバウンドが殺到する岐阜県高山市 その背景にはいったい何が?
近年の日本国内の観光産業ではDMOを設立することによって 「稼げる観光地づくり」 が推進されています。日本国内ではすでに100を超えるDMOが存在しており、近年のインバウンド市場の好調ぶりから訪日外国人観光客誘致に乗り出すDMOも増加しています。こういったDMOでは、インバウンド誘致にどのような取り組みをしているのでしょうか。今回は、高山市ブランド・海外戦略部海外戦略課 の取り組みをご紹介します。訪日客の地方誘致に重要なのは、まず「知ってもらうこと」。効果的なインバウンドプロモーションの資...
しかし、その訪問率を見てみると、他の人気上位の古い町並や高山陣屋などにはかなり劣ることがわかりました。そこで本記事では、東山寺院群において現在行われている施策を紹介するとともに、訪問率が伸びない原因とその対策を考察していこうと思います。
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東山遊歩道とは?自然を楽しみながら寺院をめぐる
今から400年前、当時の藩主が京都の東山に倣い、高山の東の町に寺院を移築建立したのが東山寺院群のはじまりといわれています。その東山寺院群を含む15の寺社を結ぶコースが東山遊歩道です。市街地中心部からは少し離れており、自然の中で静かに寺社めぐりを楽しむことができるのが魅力です。
しかし、飛騨地域で人気の観光地である古い町並や白川郷などに比べると、客数は芳しくありません。魅力があるにもかかわらずどうして東山遊歩道を訪れる人は少ないのでしょうか?
東山遊歩道の訪問率は欧米豪で5位・アジアで圏外
このランキングを見ると、欧米豪の観光客が飛騨地域で訪れた場所で、東山遊歩道はかろうじて5位にランクインしていますが、アジア圏のランキングでは圏外です。
詳しく見てみると、訪問率は「欧米豪夫婦」で2割を超えましたが、「欧米豪バックパッカー」では16.4%、「欧米豪パッケージ」では11.5%であり、欧米豪の観光客でも1~2割にとどまっています。
このように訪問率が低いのはなぜなのでしょうか。まずは現在行われている施策から紹介したいと思います。
現在すでにさまざまな施策を実行
訪問率だけを見ると、あまりインバウンド向けの対策をしていないのではと思われるかもしれませんが、実際にはすでに以下のようなさまざまな施策が行われています。
- 主要寺院における説明看板の設置(日本語・英語・韓国語・中国語)
- 主要寺院の説明版に、スマートフォン等で読み込むとその文化財を360°から見られるQRコードを表示
- 寺院内での写経体験・座禅体験
- 順路を示す看板を随所に設置
- 寺院(天照寺)をユースホステルとして活用
- 市内中心部循環バス「まちなみバス」の運行
遊歩道内にはいたるところに順路を示す看板があり、観光客が道に迷わないよう工夫がされています。道も舗装されており、階段や坂道はありますがかなり歩きやすくなっています。
主要寺院の敷地内には文化財の説明書きがあり、日本語・英語・韓国語・中国語(繁体字・簡体字)で書かれています。その説明書きの下にはQRコードがついていて、それを読み込むとその文化財を360°から見られるようになっています。
また、東山寺院群の寺院には、特に欧米豪の観光客に人気の体験ができるところもあります。大雄寺では写経体験、善応寺では座禅体験を行っているほか、寺院群の中ほどにある天照寺というお寺は、ユースホステルになっているため宿坊体験ができます。
東山寺院群は高山駅から徒歩20分と少し離れていますが、高山市中心部では「まちなみバス」という循環バスが運行しており、一律100円で乗り降りすることができます。駅からはこのバスを利用することもできます。
このように見ていくと、東山遊歩道では訪れた人が快適に観光を楽しめるよう、基本的なところからユニークなものまで、すでにさまざまな施策や工夫がされていることがわかります。では訪問率が伸びないのはなぜなのでしょうか?
認知度の低さとアクセスの悪さが原因
まず訪問率が低い理由ですが、主に認知度の低さとアクセスの悪さの二つが考えられます。
表で見たとおり、ランキング1位の古い町並の訪問率は、どの層においても9割を超えています。高山に行ったらここには必ず行くべき、というような観光スポットになっていると思われます。
白川郷は世界遺産であり、2位または3位にランクインしている高山陣屋は、最新の「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン(改訂第4版)」において二つ星を獲得しています。
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4位の朝市に関しては、高山市の朝市の一つ「宮川朝市」が、日本三大朝市に数えられています。
このように、トップ5にランクインしている他の観光スポットは、すべてある程度の認知度をもっています。東山遊歩道の認知度は、これら上位の観光スポットに比べると少し弱いでしょう。
東山遊歩道はアクセスという点でも他の観光スポットには少し劣ります。古い町並や高山陣屋、朝市はそれぞれ駅から徒歩10分で、この3つの観光スポットには互いに5分かからず行き来することができます。一方、東山寺院群は、駅から徒歩20分、古い町並や高山陣屋から徒歩10分と、少し離れています。
また、白川郷は高山駅からだと車で1時間ほどかかりますが、平成28年度飛騨地域外国人観光客動態調査事業業務委託によると、飛騨地域を訪れた欧米豪の観光客の半数以上は、金沢にも足をのばしているということがわかりました。東京・京都・大阪など他の観光地から金沢までの道中に寄る、ということは大いに考えられます。
では次に、考えられる対策について見ていきましょう。
情報発信と二次交通の整備が必要、+αで満足度を高める工夫を!
まず、認知度の低さへの対策として、情報発信をする必要があります。
現在高山市が発行している外国語のパンフレットのほとんどに、東山遊歩道の写真は載っていません。古い町並の写真が最も大きく、他には高山陣屋や、乗鞍岳などの自然風景の写真が掲載されています。まずはこのパンフレットに東山遊歩道や、寺院の写真を載せるとよいでしょう。
また、高山市は「visit.takayama」というインスタグラムのアカウントにおいて、英語で情報を発信しています。現在東山遊歩道や寺院群の写真はかなり少ない状況ですが、東山遊歩道を知ってもらうきっかけとして、そのようなSNSでの情報発信も有効だと考えられます。
次に、二次交通についてです。東山寺院群は高山駅から徒歩20分と少し離れており、観光客に来てもらうには二次交通の整備が課題です。
高山市ではレンタサイクルが訪日観光客に人気ですが、遊歩道という性質上階段やせまい道があるため、東山寺院群へのアクセスという点では、やはりバスかタクシーが有効だと考えられます。
前述した高山市中心部循環バス「まちなみバス」は、現在右回り・左回りともに1時間に1本という状況です。もう少し増やすだけでも東山寺院群へのアクセスは改善するでしょう。また、訪日観光客は日本のバスの乗り方に慣れていないので、外国語対応のできる乗務員を配置する、乗り場をわかりやすくするなどの対応が必要だと考えられます。
さらに、これは実際に訪れた観光客の満足度を高めるためということになりますが、説明書きの訳を今一度見直すことも必要だと思われます。
前述のとおり、東山寺院群の主要な寺院には説明書きの看板が設置されています。日本語の説明が最も長く詳しいですが、英語・韓国語・中国語(繁体字・簡体字)でも説明があります。
多言語対応ができていることは非常にのぞましいことなのですが、よく読むと英語の訳に少し不十分な点が見られました。説明書きにおいて、”Edo period”, “Jodo-shu”など、日本語をそのままローマ字表記にした単語について、注釈がありませんでした。訪日外国人が皆日本の歴史を勉強してから日本に来るわけではないので、江戸時代なら年号を西暦で示す、浄土宗であれば仏教の宗派の一つであることを示す必要があると考えられます。
しかし一方で、“dojo(training hall)”, “the statue of the Nio(guardians)”などきちんと説明がつけられている単語もありました。どの語に注釈をつけるのかというのは難しいところではありますが、外国人目線で訳を見直すことも重要でしょう。
まとめ:情報発信・アクセス改善・満足度向上で誘客
ここまで、東山遊歩道の訪問率の低さとその対策について見てきました。知名度は古い町並や高山陣屋などに比べればまだまだ劣りますが、誘客の余地はあります。認知度の向上、アクセスの改善はもちろんですが、実際に訪れた人の満足度を高めることも、ゆくゆくは集客につながります。このように多方面で対策を講じることが重要だといえるでしょう。
訪日客の地方誘致に重要なのは、まず「知ってもらうこと」。効果的なインバウンドプロモーションを資料で詳しくみてみる
<参照>
- 高山市:平成28年度 飛騨地域外国人観光客動態調査事業業務委託
- 高山市観光情報:歴史・伝統文化
- 高山市観光情報:飛騨高山 観光ガイドブック 東山・城山エリア
- 高山市観光情報:飛騨高山周遊バスのご案内
- ミシュラン・グリーンガイド:三つ星・二つ星・一つ星の観光地リスト
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