国土交通省国土交通政策研究所は「持続可能な観光政策のあり方に関する調査研究」の中間報告を発表しました。昨今世界中で問題となっているオーバーツーリズムの日本における実態と課題、取り組みについて、46市区町村へのアンケート結果および国内4地域の現地調査の例から見ていきましょう。
【訪日ラボは、インバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025」を8月5日に開催します】
オーバーツーリズムが地域に与える影響を調査
近年世界各国でオーバーツーリズムによる地域への影響が課題となっていることを受け、国土交通省国土交通政策研究所は、2年計画で国内外の観光先進国・地域における課題の実態や対策などを調査し、持続可能な観光政策のあり方を研究しています。
昨年度の国際機関や海外における持続可能な観光の視点や施策の調査をふまえ、今年度は国内の各観光地が直面する課題や効果的な施策等を調査中です。今回は中間報告として、46市区町村へのアンケートおよび国内4地域の現地調査の結果の一部に触れていきます。
オーバーツーリズムの課題を7カテゴリに分類、調査
アンケート調査では、持続可能な観光に関し課題として認識、対応を検討または実施している内容について、46の市区町村の状況を把握し以下の7つのカテゴリーに分類しました。
- マナー・ルール
- 混雑
- 自然環境保護および文化財等の保護
- 土地利用・宿泊施設等
- 地域経済への影響
- 観光危機管理
- 全般として観光に関する地域社会の理解度・許容度の低下
2013年以降、訪日外国人観光客が急増していることから、トイレの不適切な利用(47.7%)、ごみ投棄(45%)、立ち入り禁止区域への侵入(55.5%)といった問題に対し、マナーやルールの周知に課題を感じているケースが多いことが明らかになっています。
「混雑」に対する課題認識も顕著です。交通渋滞が全ての課題の中で最も高い59%となりました。観光客の満足度の低下(30.8%)、公共交通機関の混雑や遅延(53.9%)といった現状から、オーバーツーリズムの重要な課題として「混雑」を挙げるケースが目立ちます。
「土地利用・宿泊施設等」は、宿泊施設の不足や、観光開発等による自然・文化・景観・街並みへの影響に対し懸念が高まっていることを意味します。
京都のオーバーツーリズム事例・観光公害問題
2018年10月16日に発表されたJNTOの『訪日外客数(2018年9月推計値)』によると、2018年9月の訪日外国人数は2013年1月以来、5年8カ月ぶりに前年度月比を下回りました。しかしこれは台風21号と北海道胆振東部地震の影響による一時的な現象とみられ、今後も訪日外国人観光客の数は増え続けると思われます。訪日数が増え続ける中で顕在化しているのが観光公害『オーバーツーリズム』です。ある地域で観光客が増加することにより、そこに定住する住民が日常生活を送りづらくなるという現象です。今回は観...
現地調査で見えてきたオーバーツーリズムに対する自治体の取り組みとは
アンケート調査や昨年度の調査結果をふまえ、今年度の現地調査の重点テーマを以下の3つに指定しました。
- 持続可能な観光に向けた総合的なマネジメント
- 宿泊施設や開発への対応
- 観光危機管理(自然災害など危機発生時の対応)
現地調査の対象地域は、大分県由布市・京都府京都市・沖縄県南城市・沖縄県の4箇所とし、上記の3つの重点テーマに関する取り組みを調査しています。今回は、沖縄県南城市の取り組みについて見ていきましょう。
インバウンド需要が急増する沖縄県南城市の取り組み
世界遺産の斎場御嶽が位置する沖縄県南城市では、とりわけ訪日外国人観光客の増加傾向が顕著となっています。インバウンド需要の急増により、一部の施設に観光客が集中し、文化財の損傷や文化的雰囲気の喪失等への懸念が高まっています。今後起こりうる課題としては、混雑による満足度の低下が注視されている状況です。
観光公害で世界遺産「厳島神社 大鳥居」を失う恐れ、観光立国を目指す日本が直面する課題とは
以前の記事でもご紹介したように、JTBの資料によると、2018年の訪日外国人観光客数は 3,200万人 に達することが予測されています。2020年の東京オリンピック。パラリンピック開催時に 4,000万人 の訪日外国人観光客誘致を目指す日本では、ここ数年訪日外国人観光客数は順調に伸び続けています。こうした状況の中、大きな問題となっているのが 観光客のマナー違反などを指す「観光公害」。 世界遺産に登録される広島県廿日市市に位置する世界遺産・厳島神社でも近年「観光公害」が深刻化しているようです...
オーバーツーリズムによる地域への影響を早期から認識していた南城市は、対策の1つとして「南城市都市計画マスタープラン」の策定(2009年11月)および都市計画区域等の見直し(2010年8月)に踏み切りました。特定用途制限地域を指定し、大規模な旅館やホテル等の宿泊施設の建設を可能とする地区を限定することで、地域振興のための開発と良好な自然環境や住環境の保全の両立を図っています。
周辺との調和に対し配慮の欠けた開発を進めることを抑制し、良好な景観の保全を推進するために、「南城市景観まちづくり条例」(2014年4月)も施行されました。市を住居系地域・沿道・業務系地域・観光リゾート系地域・自然農業地域の4地域に区分しています。建築物の高さに制限を設けたほか、観光関連建築物は歴史や風土にあった素材を多用することを定めました。既存住民の生活の質を保つだけでなく、観光客の満足度向上に向けた取り組みとして、さらなる効果が期待されます。
まとめ:持続可能な観光の実現に向けオーバーツーリズム対策が急務
オーバーツーリズム問題が表面化してきている昨今、各自治体では「マナー・ルール」「混雑」などの課題を認識し、地域住民の生活の質や景観の保全、観光客の満足度向上に向けた対策を講じる動きが活発化していることが明らかになりました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、インバウンド需要のさらなる高まりが予想されますが、オーバーツーリズム問題に対する取り組みは、訪日外国人観光客を受け入れる上で今すぐ着手すべき事案と言えるでしょう。
<参考>
・国土交通省国土交通政策研究所:持続可能な観光政策のあり方に関する調査研究(中間報告)
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2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
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【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
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