IRとは、統合型リゾートのことで、カジノの他に国際会議場や展示会場などのMICE施設、ホテルやショッピングモールが集まる、複数の目的で利用される施設です。Integrated Resortの頭文字の略で、統合型リゾートとも呼ばれます。
日本では、2016年12月に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(IR推進法)」が成立し、これまで日本になかったカジノが導入されるとあり注目されています。
この法案は別名カジノ法案と呼ばれ、カジノ(賭博場)の建設を進めるための法律として人々に認知されていますが、実際にはIR、つまり統合型リゾートの建設を進めるための法案です。
世論では不安の声も大きく、今夏政府により公表されるはずだった基本方針は来年に先送りされる方針が発表されています。
一方で、その建設予定地として北海道から九州まで複数の組織が誘致を目指すなど、地方自治体や民間団体では積極的に受け入れたいというところも多くなっているようです。
本編では、こうしたIRと呼ばれる施設について、またこの法律の成立により日本に初めて建設されるカジノについて、詳しく説明します。
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IR(統合型リゾート)とは?世界の3大施設
IR(統合型リゾート)とは国際会議場・展示施設のMICE施設や、ホテル、劇場、展示場、ショッピングモール、レストラン、カジノなどが集まった複合的な施設のことです。
簡潔にまとめると、カジノを含んだ観光集客施設です。Integrated Resortという単語を訳して、日本語では統合型リゾートとも呼びます。
世界にある有名なIRについて紹介します。
1. ラスベガス(ウィン・ラスベガスなど)
ラスベガスはアメリカ・ネバダ州にある大規模で豪華絢爛なIRです。今から100年ほど前にエンターテインメントの地として生まれました。カジノの収益は全体の1/3程度であり、メインの収益はサーカスやコンサートなどのイベントです。ラスベガスは歴史的な風景を残すダウンタウン地区と近代的な巨大ホテルが建ち並ぶストリップ地区の2つに分けられます。
2. マカオ(ギャラクシー・マカオなど)
マカオには高級ホテル、ショッピングモール、シアター、プール、カジノなどがあります。
カジノの収益は2/3ほどと大きいです。IRの開発を進めた結果、2014年度には来訪客が3,150万人(前年比約7.5%増)に達し、マカオ全体のホテル客室稼働率も高水準をキープしました。
大型施設が次々とオープンしており、どの施設も規模が大きいのが特徴です。
例えばアジア最大級のMICE施設を持つヴェネチアンは3,000室のホテル、350のショップとレストランを有するショッピングモール、15,000人収容の多目的アリーナ、東京ドーム1個分の広さに及ぶ巨大カジノ、東京ドーム1.5個分の広さを持つMICEが1つの施設に収まっています。
3. シンガポール(マリーナベイサンズ、ワールドセントーサ)
マリーナベイサンズはMICE施設やショッピングに力を入れていおり、ビジネス向けのIRです。
延床面積15,000平方メートルのカジノがあり、世界最大規模ながら、マリーナベイ・サンズ総床面積の5%以下です。フロア中心は吹き抜けで、3,4階のVIP専用スペースには高級レストランが入居しカジノ全体を見下ろすことができます。
ワールドセントーサはセントーサ島北部に2010年2月にオープンし、ゲンティン・シンガポールの傘下にあるリゾート・ワールド・セントーサ(ResortsWorld Sentosa Private Limited)が運営しています。
島ににあることでリゾート性が強く出ており、家族で楽しめる大型リゾート施設がコンセプトとなっています。
特にマリーナベイサンズはシンガポール最大の観光スポットともいえます。2つを合わせた営業利益は2,200億円にのぼります。
日本国内でのIR建設議論はどうなっている?
続いて日本での近年話題になっているIR建設議論について解説します。2000年代から国内でのIR建設議論が始まりました。2013年、2015年には「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」いわゆる「IR推進法」の法案が提出され、2016年に成立しました。
さらに2018年には「IR実施法案」が成立しています。
早ければ2022年には、2~3のIR施設が営業を開始すると予想されています。これは観光、地域開発、雇用創出に大きな影響を及ぼし、「東京オリンピック後」の国家観光戦略の柱になると考えられています。
建設候補地は?大阪万博との関連は?
現時点での主なカジノ候補地は北海道(苫小牧、留寿都)、千葉(幕張)、東京(台場)、神奈川(横浜)、愛知(名古屋、常滑)大阪(夢洲)、和歌山(マリーナシティ)、長崎(ハウステンボス)となっており、その中でも大阪が最有力候補と言われています。大阪万博が決定したことで、IRと万博の相乗効果を狙う意図があります。
大阪市は、IRを核とした国際観光拠点の形成により、国内外から人・モノ・投資を呼び込み、大阪・関西の持続的な経済成長に繋げることを目指しています。
IRの基本コンセプトに加えて、ギャンブル等依存症をはじめとする懸念事項の最小化への取組の方向性等を明らかにする「大阪IR基本構想」を策定し、誘致実現に向けて取り組んでいます。
IR建設により生じるメリット・デメリットとは?
日本でIRを建設するにあたって、メリット・デメリットが議論されています。そこで、予想されるIR建設に伴うメリット・デメリットについて解説します。IR建設によるメリット:税収増加
IR建設によって考えられることは訪日外国人(特に富裕層)の増加です。訪日外国人が増えることによる税収の増加や消費増加も期待できます。
2014年に公表された大和総研の試算によると、横浜・大阪・沖縄の3カ所にIRを誘致した場合、日本にもたらされる経済効果は年間で2兆1千億円だということです。
実際にIRを建設したシンガポール(2010年開業)では、2009年から2013年の間で観光収入が2倍近く増加しました。
さらに、多くの従業員が必要となるため雇用促進が起こることや、周辺地域のインフラ整備による地域活性化も予想されます。
IR建設によるデメリット:ギャンブル依存症
IR建設によって特に懸念されているのがギャンブル依存症です。例えば韓国の「江原(カンウォン)ランドリゾート」はカジノによるギャンブル依存症増加の典型です。江原は韓国国内で韓国人が唯一入ることができるIRですが、周辺には車を担保に金を貸す質屋が多くみられます。さらに周辺地域では犯罪が増えた、自殺者が出ているなどの問題が指摘されています。
またカジノはマネーロンダリング(犯罪など非合法的な手段によって得た資金を、普通の使える資金に転換していくこと)に利用されやすいというデメリットもあります。
さらにカジノの設立には大規模な土地開発が必要になるため、現地に元々住んでいた人々に対しての立ち退きや、文化的歴史的財産などを取り壊す可能性もあります。
国はどんなギャンブル依存症対策を検討している?
IR建設によるデメリットが懸念されていますが、すでに国内でギャンブル依存症の対策も検討されています。すでに合意されているカジノの対策として、
- 広さは1万5,000平方メートル以内、かつIR内におけるカジノの占有率を3%に収める
- 施設の入場回数は7日間で3回、且つ28日間で10回まで
- マイナンバーカードを利用した個人認証での入場回数の確認
が挙げられます。
さらに、パチンコなども含めたギャンブル依存症対策について、2019年4月19日に政府は医療・回復支援関係者、依存症経験者、有識者などで構成された「第2回ギャンブル等依存症対策推進本部会」を開催し、顔認証システムの導入、施設内のATM撤去などが検討しました。
IR(統合型リゾート)にはメリット・デメリット/政府の規制方法に注目
IR(統合型リゾート)にはメリット・デメリットの両方があり、観光収入増加につなげるには政府の取り組みが重要になってくると考えられます。カジノを含むIRの開設により起こりうる消極的な影響を最小限におさえながら、経済や観光産業の発展といったポジティブな恩恵が日本社会にもたらされることが期待されています。
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2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
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