近年、観光客のニーズの多様化により、パッケージツツアーを利用せずに個人で旅行を手配をする人が増加しています。こうした個人手配の海外旅行のことをインバウンド用語でFIT(Foreign Independent Tour/Traveler)と呼びます。
海外旅行に慣れた人の場合や、時間を十分に取れる場合には、滞在中のスケジュールを自由に組めるため、団体旅行よりも満足度の高い旅行が期待できます。
日本を旅行する外国人観光客のうち、最も大きなマーケットを占める中国人観光客にもこのFITが増えています。中国人にとって最大の旅行シーズンの一つ「春節」のある毎年1~2月には、訪日中国人FITが多く見られる傾向にあります。こうした旅行客は団体旅行客とは異なる需要を抱いているため、適切に環境を整備し、対応する必要があります。
この記事では、FITのインバウンド市場における意味合いや、FITの訪日外国人観光客を対象としたインバウンド施策について解説します。
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FITは「個人旅行者」、インバウンド市場での割合も増加
旅行・観光業におけるFITは、海外旅行を団体旅行やパッケージツアーを使わずに個人で手配する「個人旅行」および「個人旅行者」を意味します。Foreign Independent Tour(Traveler)の頭文字をとった言葉で、Free Individual TravelerもしくはFree Individual Independent Travelerともいわれます。
日本では1964年に海外観光旅行が自由化されましたが、最近でも団体旅行やパッケージツアーを利用する海外旅行が一般的です。
ただし、何度も海外旅行に行く層では、パッケージツアーではなく自由に好きな所に行きたいというニーズが出てきました。同じ国・地域に何度も行く人(リピーター)が増えたことに加えて、海外旅行の目的が観光だけではなく現地に住む家族や友人を訪ねたり、ビジネスなどで海外に出たりする人が増えたことも一因と考えられます。
FITという言葉が聞かれ始めたのは、1990年代に格安航空券が出回り海外旅行に行く人が急増した頃からと言われています。
FITという区分ができたことで、インバウンド市場でもこうした旅行者を対象としたマーケティング策が練られるようになってきました。観光庁の発表によると、訪日外国人観光客のFITの割合は2012年には60.8%、そして2018年には78.7%となっています。
FITは欧米に多く、旅行時の消費支出が大きい
訪日外国人観光客の旅行の手配方法は、全体の68.9%が「個別手配」となっており、FITが半数以上を占めていることがわかります。
国・地域別旅行者のデータを確認してみると、欧米諸国からの訪日客のうち、FITは全体の90%を占めています。
対照的に、中国や台湾などのアジアからの訪日客は団体旅行で日本を訪れる割合が高く、欧米諸国と比べるとFITの比率はやや下がります。
ヨーロッパ諸国の訪日観光客数は、アジアからの訪日観光客数よりも少ないものの、訪日旅行での消費支出額が大きいので、インバウンド市場では魅力的なターゲットとなっています。その中でも特に、訪日ドイツ人観光客の訪日リピート率は他の欧米諸国よりも高くなっていることは特筆に値するでしょう。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連記事:欧州圏で高い訪日リピート率の訪日ドイツ人 特徴は「男性・ビジネス・長期宿泊・FIT」:訪日ドイツ人を集客・誘致する際に知っておくべきデータ・数値まとめ
外国人観光客のニーズの多様化でFITは増加
以前は、特に訪日中国人観光客の間で「ゴールデンルート」と呼ばれる主要観光地を巡る旅行が人気でした。しかし、リピーターが増えた現在は、インターネットで気軽に情報が手に入る環境で訪日外国人のニーズが多様化してきました。パッケージツアーや団体旅行にない観光地への興味や、体験旅行をしたいという人が増えています。
ゴールデンルートに関しては下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事:今更聞けない「ゴールデンルート」とは/東京〜大阪を巡るインバウンド王道観光ルート・日程例・ルート外地方に誘致する事例は?【インバウンド用語基礎知識】
訪日中国人観光客の中でもリピーターは、都市部の有名な観光地を周遊することが多い団体ツアー客と比べて、食や文化など様々な面でのニーズがあり、個人の志向に沿った旅行スタイルを選択するとともに、幅広い地域を訪れる傾向がみられます。
訪日中国人観光客が日本に求めることについては、下記の記事をご覧ください。
関連記事:訪日中国人観光客が求める日本文化体験:寺社仏閣や田舎風景に注目集まる
FITへの効果的なインバウンド施策、3つのポイント
では、そのFITをターゲットとして集客をするにはどのようにすればよいのでしょうか?個人旅行客を獲得するために必要なインバウンド対策3つを、ポイントを絞って紹介します。
1. SNSや動画を活用して旬の情報を発信
パッケージツアーを利用しないFITの観光客は、宿泊先やレストランを探す際にもウェブサイトやSNSから情報を探すことが多いので、インバウンド対策にはインターネットを活用することが重要です。
京都嵐山のある旅館では、平日の稼働率を改善するために、英語サイトの開設と、旅館周辺の観光スポットを写真をふんだんに使い紹介するという海外プロモーションを行いました。その結果、外国人宿泊者の比率が10%から45%に増えたといいます。
また、「ベジタリアン食に対応する」「ハラールには対応しない」など、旅館の方針を英語サイトに明記したため、外国人宿泊客が増加してもトラブルはほとんど発生していません。
関連記事:ベジタリアンとは | 今、飲食店にベジタリアン対応が必須な理由と3つの事例を紹介
関連記事:イスラム教の食習慣にも対応する「ムスリムフレンドリー」 │ ハラールフード・ハラール認証・事例2件を解説
2. 無料Wi-Fiを利用できる環境を整える
FITの訪日外国人観光客が日本に来て不便に感じることとして、無料Wi-Fiや交通手段に関しての情報が少ない事があげられます。
FITは団体旅行で来ている訪日観光客に比べて公共の交通機関を利用することが多く、観光地でもレストランを探したり周辺情報を得るためにインターネットを利用する機会が多いため、無料Wi-Fiが利用できる環境を整えたり、無料Wi-Fiがどこで使えるのかといった情報を発信する必要があります。
3. 観光地への交通手段の充実
日本は主要な都市の公共交通機関はとても便利に発達していますが、訪日外国人にとっては複雑すぎてわかりにくいと感じるようです。また、地方に行くとバスが一時間に一本というところも少なくなく、タクシーを利用する機会もあるでしょう。
交通手段の面で訪日外国人の不安を軽減できるよう、通信環境を整備したり、交通機関・観光地への通訳案内士を配置したりして、地域を訪れる外国人客の満足度向上を図ることが重要です。
実際に日本を訪れたFITによる良い口コミがインターネットを通じて広がり、さらに多くの訪日外国人観光客がその土地を訪問するきっかけになるという良いサイクルを生み出しましょう。
訪日外国人が戸惑う交通手段に関しては、下記の記事で詳しく解説しています。
関連記事:訪日外国人の移動手段は電車?バス?タクシー? | 外国人の交通の不満は「電車が複雑すぎる・タクシー高い」
施策を打って効果的にFIT獲得を
訪日外国人観光客のニーズは国籍を問わず多様化しています。海外旅行における個人旅行者(FIT)の数も年々増えています。彼らは自分たちで観光地や周辺情報などを収集し、公共の交通機関を利用する機会も団体旅行者に比べて多くあります。
そのため海外からのFITを獲得するためには、SNSや動画を活用したプロモーションや、無料Wi-Fiの整備、交通機関の多言語対応が必要不可欠であると言えます。
FITの満足度向上を図れば口コミでのさらなる集客という好循環も期待できます。効果的なインバウンド施策でFITの集客をしていきましょう。
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