中国国内では日本のアニメ・漫画・日本文化などを好む若者を「精日(精神的日本人)」と呼んで批判する風潮が広まっています。さらに「精日」の漫画を公開した若者が身柄を拘束されるなど、逮捕劇にまで発展しているほどです。
この記事では、中国の「精日」と日本アニメの関係性を理解し、日本のサブカルチャーがインバウンド観光へもたらす影響について考察します。
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精日(精神的日本人)が批判される理由
「精日」とは「精神的日本人」を意味し、「自身は中国人であるが、精神的には日本人だ」という人を指す言葉です。
中国当局が批判の対象とする「精日」の特徴は、若い世代を中心に旧日本軍による軍国主義を美化する傾向があることで、なかには旧日本軍の軍服コスプレをするマニアックな中国人もいるほどです。これら「精日」の考えや行為は中国に対する侮辱と捉えられ、中国当局も取り締まりの目を光らせています。
つまり、日本旅行が好きな人や、日本のアニメ・漫画のファンなど、純粋に日本に好意を持つ中国人と、「精日」と呼ばれる中国人は異なる考え方を持っていると理解する必要があります。
しかしながら日本のアニメ・漫画が好きだというだけで批判対象になってしまっている現状があります。
精日が逮捕された事例も
中国では「精日」色がある漫画をインターネットで公開した若者や、ドラマの宣伝のために軍服姿で街中を歩いた男性たちなど、様々な理由で身柄を拘束される中国人が続出しています。実際は違っていても「精日の傾向あり」と判断されてしまうケースもあるため、今後も逮捕者は増えることが予想されます。
2018年5月1日には旧日本軍の侵略行為・戦争を美化する行為に対する刑事責任などに言及する「英雄烈士保護法」が施行され、「精日」の取り締まりがますます強化されています。
中国でも人気の日本アニメ・漫画
「精日」の批判対象になる可能性があるなかにあっても、日本のアニメ・漫画は、中国の幅広い世代から引き続き人気を集めています。
1970年代の日中国交の回復後、日本やアメリカのアニメが一気に流入し始めました。現在の30~40代は『鉄腕アトム』『ドラゴンボール』などを見て育った世代にあたります。
その後インターネットが普及したことにより、さらに多様な作品に触れられるようになりました。なかでも、日本でも高い人気を誇る『ONE PIECE』『NARUTO -ナルト-』『BLEACH』は3大アニメと評され、大きな支持を集めています。
中国における日本のコンテンツの注目度
中国では日本のアニメ・漫画を見て育った若い世代が多く、日本のコンテンツへの注目度は非常に高いと言えます。
前項で紹介したアニメ作品はもちろん、スタジオジブリのアニメ映画も人気があります。日本公開から10年以上の歳月を経てようやく中国の映画館で公開された『千と千尋の神隠し』は、もともとDVDなどでジブリ作品に親しんでいた中国人が多くいました。
こうした背景も影響し、今年2019年6月21日に公開されてのち、4週間目には現地の興行収入は4億8,000万元(約75億円)に達しました。
2018年12月に中国で初めて上映された『となりのトトロ』も興行収入が1億7,371万元を記録したことで話題となったことも記憶に新しく、こうしたデータからも日本のコンテンツの注目度の高さと人気をうかがい知ることができます。
国産アニメ・漫画の振興を目指す中国
日本のアニメ・漫画が人気である一方、最近は中国のアニメ市場も活況で、2018年のアニメ産業は1712億元(約2兆6千億円)と、2013年の882億元から大幅に成長しています。
背景には、国をあげて国産のアニメ・漫画が後押しされていることが挙げられます。中国政府は国産アニメを育成するため、2004年に海外作品のテレビ放送を制限し、国産アニメの割合がアニメ放送全体の70%を下回らないように規定を設けました。2008年になると夕方以降のゴールデンタイムに海外アニメを放送することを禁止するなど、国産アニメを重視する政策が取られています。
中国最大のコスプレイベント
中国国産のアニメ人気が勢いをつけており、日本のコンテンツが押され気味のように思えるかもしれませんが、日本アニメ・漫画は一定の安定した市場を築いています。キャラクターに扮するコスプレ人気も目を見張るものがあり、日本でも有名になった中国人コスプレイヤーが何人もいるほどです。
また、コスプレで参加できるイベントも中国各地で開催されています。例えば、夏・冬の年2回開催されている「魔都同人祭Comicup24」は中国最大規模の同人誌即売会で、いわば中国版コミックマーケットです。衣装・ウィッグ・メイクアップなど細部に至るまで完成度の高いコスプレ衣装に身を包んだ多くのコスプレイヤーが参加し、大きな盛り上がりを見せています。
サブカルチャーの切り口でインバウンド集客
「精日」に関する動きがある一方で、純粋に日本が好きで、アニメ・漫画・コスプレに親しんでいる中国人も多数おり、日本のサブカルチャーを切り口とした集客は、インバウンド観光の重要なポイントのひとつです。
ここでは、中国人観光客の集客に活かせる魅力的な観光コンテンツ・イベントなどをご紹介します。
アニメの舞台を巡る「聖地巡礼」
映画・ドラマのロケ地巡りと同様、アニメの舞台を巡る「聖地巡礼」もインバウンド集客の重要なファクターです。
中国最大手の旅行SNSメディア「馬蜂窩(マーフォンウォ)」のデータ研究センターが発表した、中国人観光客に人気の「アニメ巡礼地トップ10」では、1位から10位まで全て日本の作品が独占しています。
1位・スラムダンク(神奈川)、2位・ワンピース(東京)、3位・ドラえもん(東京)、4位・千と千尋の神隠し(東京)、5位・君の名は。(東京/岐阜)と続いていきます。
アニメの聖地巡りのメリットのひとつとして、一般的な旅行よりも旅行消費が多くなることが挙げられます。旅行中の基本的な交通・飲食・宿泊といった消費以外に、体験・アトラクションなどの「コト消費」にもお金を使うため、より多くの収益が期待できます。
コスプレイベントへの参加
日本では、年間を通じて「Anime Japan」「世界コスプレサミット」「コミックマーケット」といった、アニメ・漫画に関連したイベントが各地で開催されています。こういったイベントでは人気声優のトークイベント、コスプレイヤーによるステージパフォーマンス、パレードなど様々な催しが実施されるので、一度の来場で様々なコンテンツに触れられるのが魅力です。
東京や名古屋などの大都市以外でも、「門司港コスプレピクニック」「富士山コスプレ世界大会」など規模・内容などそれぞれユニークなイベントが多くあります。コスプレを楽しむ中国人が多いことから、日本で開催されるコスプレイベントへの参加を促すことも、インバウンド集客のひとつとして有効です。
インバウンドキャンペーン
ショッピングモールなど不特定多数の人が集まるスポットで、誰でも気軽に立ち寄りやすい・触れやすい形式でサブカルチャー絡みのインバウンドキャンペーンを展開することも、集客に繋がる施策になりえます。
たとえば池袋PARCOでは、2018年に中国版Twitterの微博(Weibo)アカウントの開設記念キャンペーンとして、中国で大人気の日本人アーティスト・倉木麻衣とのタイアップ企画を実施しました。日本アニメ『名探偵コナン』のテーマ曲として21作を担当している倉木麻衣は、「コナン」の中国人気と合わせて絶大な知名度を誇っています。
さらに中国人の来日が増える「国慶節」の時期に合わせ、倉木麻衣のポスターや直筆メッセージの展示、限定グッズの販売などが展開され、中国人観光客の集客へと結びつきました。2019年も第2弾のコラボキャンペーンが実施されるなど、継続した取り組みが行われています。
このように実施時期や内容を中国人観光客に合わせ、魅力的なインバウンドキャンペーンを実施することも、インバウンド集客に効果的であることが分かります。
中国の文化背景を理解しつつ、日本のサブカルの魅力を発信
中国国内で起こっている精日批判・逮捕者の続出といった事実は、日本のアニメ・漫画産業の成長にとってマイナスになるのではと懸念する声も聞こえます。しかし日本のアニメ・漫画は依然として高い人気と売上を誇っており、厳しい規制がかけられない限り、日本のコンテンツはこれからもテレビやネットを通じて多くの中国人が目にするでしょう。
また現時点ではインバウンド集客に直接的な打撃があるとも考えにくいため、日本のサブカルチャーに対する中国人のニーズは引き続き重要視するべきだと言えます。
サブカルチャーを切り口にしたインバウンド集客を行うのであれば、Weiboなどの中国のSNSを有効に使ったプロモーション、魅力的なイベント・キャンペーンの宣伝など、積極的な情報発信を心がけ、日本のサブカルチャーの魅力を伝えることが重要になるでしょう。
<参照>
COMEMO:興収75億円「千と千尋の神隠し」中国大ヒットのなぜ
レコードチャイナ:中国人の日本旅行、「聖地巡礼」が新たなトレンドに=人気のアニメ巡礼地トップ10は日本の作品が総なめ―旅行情報サイト
西日本新聞:中国、国産アニメ急成長 国が支援 2.6兆円市場に 「多額投資、成功例は一部」
【2023年インバウンド最新動向を予測】国・地域別デジタルマーケティング戦略
2022年10月からついに入国者数の上限撤廃、短期滞在者のビザ免除等が実施され、訪日観光が本格的に再開されました。
未だ"完全回復"には至っていないものの、観光地によってはすでに多くの訪日外国人観光客が訪れているところもあり、「インバウンド対策」への関心が急速に高まっています。
では、今やるべきインバウンド対策とはなんでしょうか。そしてそれを国・地域別に見ると、どういった違いがあるのでしょうか。
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