今年の日本の冬は記録的な暖冬となっています。全国的に気温は平年よりも高く、日本海側を中心に降雪量も平年よりも下回る数値です。
暖冬による雪不足の影響はインバウンド市場にダメージを与えています。特にウィンタースポーツの需要は高いですが、雪不足によりオープンが遅れたり、人工雪コースのみオープンとなったり、今年は厳しい状況です。今シーズン一度も営業できずに自己破産に追い込まれたスキー場もありました。
本記事では暖冬による雪不足が招くインバウンドへの影響と日本のウィンターリゾート需要を解説します。どの程度の訪日観光客が日本の「雪」を求めているのでしょうか。
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「冬の名物」降雪具合、日本各地で悲観的状況
暖冬による雪不足は深刻化しており、全国各地の観光に被害を与えています。今後も寒気の影響は受けにくく、降雪量が増えることは少ない予報が出ています。雪を楽しむイベントや冬ならではの風物詩も中止や小規模な開催に追い込まれるなど苦しい状況です。
例えば世界文化遺産「白川郷」の冬の名物「白川郷ライトアップ」では、今年は積雪がほとんどなく雪のないライトアップとなり、開催34回目で初めての出来事となりました。冬の白川郷には積雪の幻想的な姿を求める観光客が多く、期待を満たせていません。
また島根県のスキー場「アサヒテングストンスノーパーク」は今シーズンは1日も営業できずに事業継続を断念しました。スキー場は閉鎖となり自己破産の準備を進めている状況です。
ウィンタースポーツは降雪具合によっては営業停止、最悪のケースは閉鎖になります。暖冬は地域を支える冬の観光やレジャーに悪い影響が出ることが予測されます。
日本を訪れる外国人の目当てにも「雪」
世界的に観光のオフシーズンとなる冬ですが、日本の地域では冬ならではの観光資源も多く、大切なトップシーズンとなります。特に雪の降らない常夏の気候の国が多い東南アジアを含めたアジアでは、雪や冬の寒さが珍しく、冬の日本を目当てに訪れます。JNTOが発表した訪日外客数の統計データでは、冬の1月に焦点を当ててアジア諸国計の伸び率を見ると、2014年から毎年増え続けており、2019年の総数はおよそ236万人で、冬の需要の高さがわかります。
インバウンド市場が成長を続ける中、冬季のレジャーを楽しみにしている人は日本人だけではないということです。
北海道や高山などの豪雪地帯では、雪を楽しむ経験もできます。またパウダースノーを求めて全国各地のスキー場にウィンタースポーツを目当てにした訪日外国人が集まっています。
こうした中、「雪」を目当てに集まる訪日外国人のために、通常の観光資源以外にも目を向けることが重要です。特にアジアからの訪日外国人をターゲットにした観光案内の充実や冬のレジャーを楽しめるエリアのアピールが求められます。
訪日外国人が惹かれる「JAPOW」で日本のウィンターリゾートを差別化
訪日外国人を誘致する方法としてウィンターリゾートの構想があります。ウィンタースポーツに適したエリアで、一般的なリゾート地のように冬の目的地として訪れてもらうのです。海外で注目されている場所は北海道のニセコです。スキーヤーの間で認知度が高まり、欧米へと広がりました。現在は東南アジアの富裕層の間でも憧れの地となっています。
さらに日本のゲレンデのパウダースノーは、世界的にも質が高いことでも有名です。「Japan」と「Powder snow」を合わせた「JAPOW」と呼ばれ、訪日外国人を虜にしています。
中国人が注目するのは?
北海道が人気の一方で「友人や知人が行ったことがなく、さらに良い場所へ行きたい」と考える中国人の声もあります。
中国の富裕層には「特別扱い」が好まれます。まだそこまで知れ渡っていない特別な経験や場所を選ばないと、同国の人々ばかりで興ざめしてしまうという一面があります。
こうした層からは、新たなウィンターリゾートとして、長野や安比などが注目を集めています。ウィンタースポーツのあとに温泉に入る体験が好評を博しているようです。
まだまだある日本の「雪」にまつわる風習:かまくらやさっぽろ雪まつり
日本に雪にまつわる代表的な風習として「かまくら」があります。子供の雪遊びのようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実は豪雪地帯を中心に行われる小正月の伝統行事です。かまくらの中に入る体験やライトアップなど、体験型のイベントとして外国人問わず観光客を集客しています。また岩手県の小岩井で毎年行われる「いわて雪まつり」では、かまくらの中で地元名物のジンギスカンが食べられる雪と食文化の体験が醍醐味となっています。
かまくらや雪まつりなどの体験型イベントは観光客へのアピールにつながるでしょう。
また各地で行われる雪まつりでは北海道の札幌で行われる「さっぽろ雪まつり」が有名です。さっぽろ雪まつりでは訪日外国人の増加により、スマホを通じて通訳と会話できる「クラウド通訳」を導入してインバウンド施策を行なっています。
言語の対策と実際に体験してもらう非言語の両面からアプローチすることが大切です。
世界的に今後もウィンターリゾートが盛り上がる
中国では2022年の冬季オリンピック開催に向けて、中国国内で「ウィンタースポーツ3億人計画」を掲げ、スキー場の開発やリゾート地建設など、需要喚起に余念がありません。河北省張家口市の「万龍スキー場」では、幅広いレベルのコースの設置や近辺までの新幹線の開通など、急激に市場を拡大しようとしています。日本によっては手強い競合となりそうです。
またアジアを中心とした富裕層からのウィンタースポーツ需要も高まると考えられます。日本国内でもスノーリゾートに関する英語の発信や外国人スキーインストラクターによる研修など力を入れようとしています。
ただし、訪日外国人の富裕層が好むのはサービスレベルの高さやスキー場の近くにある高級リゾートという情報もあります。その一方で、現状はリゾートの誘致はなかなか進まず、雪の質には満足できても、それ以外の体験に満足できていない訪日外国人もいる状態です。ターゲットを絞った対策が求められています。
まとめ
日本をウィンターリゾート先として選ぶ訪日外国人の増加により、暖冬によるインバウンドへの被害は深刻です。雪不足は自然現象であるため、抑えることはできません。しかし対策を行わなければ、高まる需要に対して供給が追いつかず、ウィンターリゾート先に他の国が選ばれてしまうというのもまた事実です。
他の観光資源への誘導や人気の世界遺産を強調、冬のイベント強化など、雪不足に左右されない対策の実施が早急に必要でしょう。
<参照>
岐阜新聞Web:雪のない白川郷、切ないライトアップ
毎日新聞:雪不足で島根県のスキー場が破産へ 今季一度も営業できず 社長無念「今さら降られても」
日本政府観光局:訪日外客数(総数)
日経BizGate:中国人観光客、次に求める3つの「S」 袁静氏が読み解く「中国セレブ消費」(3)
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