「2040年の日本終了」シナリオを避けるために。それでも東京五輪を開催すべき理由

近頃複数のメディアにて、世界的に有名な投資家であるジム・ロジャーズ氏が日本経済に警鐘を鳴らしており、このままでは20年後に日本経済が破綻する危険性があるといった旨を報じていました。

記事の趣旨としては、こうした日本経済の危機を防ぐためにはまず「少子化対策」と「移民政策」を優先すべきであり、五輪が開催されるかどうかだけに目を向けるべきではない、といったものでした。

現在、新型コロナウイルスの感染拡大によって2020年の東京オリンピックは延期となり、来年も開催できるかどうかが不安視されている状況にあります。

しかし、こうした状況だからこそインバウンド業界に身を置く私たちは、五輪開催によるメリットを再確認するべきだと感じています。

今回の記事では、五輪が開催されることを一旦前提に置き、五輪の開催をインバウンド側面で最大活用するためにはどうすべきかについて考えたいと思います。

ひいては、インバウンド側面で五輪を最大活用することが、ロジャーズ氏の懸念する日本の財政面での課題解決にもつながるかどうかを考察します。

ロジャーズ氏が提示する日本経済のリスク

ロジャーズ氏は日本経済の今後を考えた時、一番に優先して取り組むべきは「少子化対策」「歳出のカット」「移民政策」としています。

まず、「少子化対策」については日本の人口ピラミッドを考えてみても、少子化対策に取り組まなければ納税人口が減少し、同時に年金受給者が増加するのですから、公共サービスが破綻するのは目に見えているのは確かでしょう。ここに異論の余地はありません。

また、財政の健全化を図るために「歳出のカット」を実行すべきだという主張も同じ意見です。

そして、ロジャーズ氏は3つ目に「移民政策」が不可欠だと指摘しています。

外国から優秀な人材を招き入れるために、日本が「魅力的」なうちに外国人人材の誘致を進めるべきだという主張です。

この「移民政策」については、ロジャース氏の主張する「移民」ではなく、インバウンド側面から日本のあるべき「移民政策」について考えていきたいと思います。

観光は「短期的な移民」政策である

ロジャーズ氏の主張する「移民政策」の意味するところは、外国のスキルを持った優秀な人材を誘致することであり、これによってイノベーションが起きやすい環境をつくり、経済の発展を促進すべきだとしています。

確かに、外国人人材を受け入れなかった国家が衰退していくことは、ロジャーズ氏も主張するように過去の歴史が証明しています。

しかし、文化が地続きであるヨーロッパ圏や、移民を多く受け入れて発展してきた米国とは事情が異なり、急速な移民の受け入れは日本にとっては経験のないことで、抵抗感を感じる日本人は少なくないでしょう。

外国人の視点からすれば、習得が難しいと言われる日本語のみが公用語で、独自の文化を築き上げている日本は決して手放しで「住みやすい国」とはいえないのではないでしょうか。

ロジャーズ氏は日本の「治安の良さ」「清潔さ」「食事」を例にあげて外国人にとって日本は魅力的だと主張しています。それはもっともなのですが、ヨーロッパ圏や米国の移民政策が日本にそのまま当てはまるとは思えません。

ところで、インバウンドの文脈では訪日外国人観光客を「短期移民」と定義することがあります。

短期移民とは、「消費人口としての移民」「直接納税の義務のない移民」「社会支出の発生しない移民」「在日期間が限定をされている移民」のことを指し、いわゆる訪日外国人観光客と言い換えることが可能です。

以上を踏まえて、現実的な日本における「移民政策」の在り方をインバウンド側面から考えてみましょう。

「交流人口」の増加が人口減少を補う

周知の通り、日本の人口構造は「少子高齢化」が進んでおり、特に地方部における人口減少や過疎化は顕著です。

この地方部の人口問題には「短期移民」が即効性も含めて有効だと考えております。

皆さまは「定住人口」「交流人口」という言葉をご存知でしょうか。

「定住人口」とはその地域に住んでいる人の数で、「交流人口」はその地域に訪れる人口のことを指します。

特に地方部ではこの「定住人口」が大幅に減少しています。インバウンドの文脈では「交流人口」を観光側面から増大させることで、「定住人口」の減少を補填しようとする動きが取られています。

なぜなら、「定住人口」を増加させるには、すでに地方の経済が縮小していることに起因する職不足、住環境としての魅力不足といった非常に根本的な問題と向き合うことになり、解決に時間と労力を要するためです。

総務省の家計調査(2015年)によると、定住人口が一人減ることは年間で125万円の消費額の減少を意味します。この減少金額を日本人の日帰り旅行客だけで補填するためには、年間で80人分の誘致が必要になります。

一方で、訪日外国人観光客の旅行消費額は一般的に日本人の旅行消費額よりも高くなる傾向にあります。そのため、訪日外国人観光客で補填する場合には、たった8人の宿泊を伴う誘客を行うことで可能になるのです。

観光交流人口増大による定住人口の補完のしくみ 訪日ラボ インバウンドデータレポート
▲[観光交流人口増大による定住人口の補完のしくみ]:訪日ラボ・インバウンドデータレポート

また、「短期移民」である訪日外国人観光客であるならば、文化的な風習や宗教で大きな争いになることはありません。だからこそ、日本経済の発展のためには訪日外国人観光客の増加が必要不可欠なのです。

この訪日外国人観光客を誘致するメリットとして、日本経済への貢献だけではなく、ロジャーズ氏が提唱するような「高度人材の移民」の誘致にも寄与すると考えられます。

つまり、「短期移民」(≒訪日旅行)は日本の文化や風習、自然、食の豊さや先進的なインフラを体感してもらう格好の場であり、そして日本に「慣れる」ための時間をつくることにも繋がるのではないかと考えます。

こうした体験により、単なる労働力の確保のための移民ではなく、文化的交流や日本の住環境の魅力に感化されたことによる外国人学生や、高度人材の誘致につながるのではないでしょうか。

以上をまとめると、訪日外国人観光客を増加させることは、移民政策をいきなり推し進めることよりもハードルが低く、かつ外国人と日本人の両者にとって軋轢が起きにくい関係を築き上げることができると考えられます。

五輪がインバウンドに及ぼす好影響

つづいて、ロジャーズ氏が「オリンピックが経済的に国民のためになったことはない。」と主張する五輪開催のメリットについて考えてみたいと思います。

確かに五輪開催は多額の予算を要しますが、国際的なスポーツイベントを開催した国には、開催決定後長期に渡ってインバウンド需要が盛り上がるという事実があります。

以下のグラフをご覧ください。

▲[オリンピック開催決定後の各国のインバウンド需要の推移]:観光庁スポーツ観光推進室「過去のオリンピック・パラリンピックにおける観光の状況」より作成
▲[オリンピック開催決定後の各国のインバウンド需要の推移]:観光庁スポーツ観光推進室「過去のオリンピック・パラリンピックにおける観光の状況」より作成

こちらは観光庁スポーツ観光推進局の資料から抜粋した、過去のオリンピック・パラリンピック開催国のインバウンド需要の推移を示しています。

グラフのように、先進国においては五輪の開催決定後から10年以上のスパンで見ると、開催決定前と比較してインバウンド需要の伸び率が上昇していることがわかります。

このように、五輪は開催後から長期に渡ってインバウンド需要の増大に貢献しているといえます。

五輪開催がインバウンド需要増大につながる理由はいくつかの要因が考えられますが、以下のような要素が考えられます。

  • 開催地となったことに伴う「旅マエ」「プレ旅マエ」に向けた情報発信の効果
  • 五輪開催期間中は世界中から多くのメディアが集まり、日本の情報が世界各地へと拡散される
  • 五輪に出場する選手は一人ひとりが「インフルエンサー」としての効果を発揮し、開催国の魅力や環境をプロモーションしてくれる
  • 都市部を中心に国家規模でインフラ強化が行われ、訪日外国人観光客の受け入れ体制が整う

五輪開催を最大のチャンスに変える

五輪の開催は世界に対してこれ以上ない形で日本の観光地としての魅力、移住先としての魅力をPRする最大のチャンスだと考えています。

幸か不幸か、東京オリンピックの開催まではあと1年の猶予が残されることとなりました。

もし今年オリンピックが開催されていたら、インバウンド事業者は万全な準備ができていたでしょうか。

もしそうでないのなら、我々は五輪開催の効果を遺憾無く享受できるような準備を進めるべきだと思います。

そうすることで今回の記事で紹介した五輪開催による「インバウンド需要の伸び」を最大限にし、ロジャーズ氏の主張の反証としようではありませんか。

<参考>

・プレジデントウーマン:東京オリンピック強行が「2040年の日本終了」をさらに早める理由

観光庁スポーツ推進室:過去のオリンピック・パラリンピックにおける観光の状況

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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