6月4日(木)楽天グループのインバウンド向け体験予約サイト『Voyagin』は、 自治体向けに「体験商品」造成における考え方や、市場国別のトレンド、 成功事例などを紹介する基礎セミナーを開催しました。
新型コロナウイルス流行とその後の観光市場への影響をふまえて、渡航の正常化を待つ今、地方ができることは何なのか、またこれからの地方はインバウンド市場を前にどのようにターゲットを設定するべきなのかについて、理解が深まる時間となりました。
同セミナーに出席した訪日ラボ編集部が、内容の一部を紹介します。
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ウィズコロナ・アフターコロナでも「リアルの体験」で攻めるべき観光市場
Voyaginは、訪日観光客のニーズに沿った「付加価値型の体験コンテンツ」を、オンラインで販売しています。
インバウンド市場における「コト消費」という分類が提唱されて久しいですが、新型コロナ以降、海外との行き来が大きく制限されるなか、体験商品の開発、購買にどうつなげるかという点で課題感を持つ事業者も少なくないでしょう。
オンライン体験が広く人々に認知され始め、実際に成功例も出てきています。人込みに出かけずに体験の価値を確認できる点は、参加者の満足感を高めていると考えられます。
こうした中においても、Voyaginでは、「五感を刺激するリアルの体験」にこだわるべきであると考えるといいます。
体験商品の作り方:「安心」が必要な時代に注目すべき、自然・アウトドアの体験
世界各国でもオンライン体験の名のもとに、様々なジャンルのコンテンツの提供が進んでいます。それと同時に、ソーシャルディスタンスを意識したユニークな取り組みも見られています。
たとえば、アメリカのサンフランシスコの公園では、グループごとに滞在すべきエリアを、芝生の上に白線で示しています。また、ドライブインシアターは世界各国で事例があります。
多数の他人と同じ空間に滞在しないで済むことが、新型コロナウイルスの感染予防となります。こうした事例で用いられている、滞在時の「安心」の形を観光に応用することが、ウィズコロナ時代の「新しい観光コンテンツ」の一つの正解ということになるでしょう。
たとえば「自然・アウトドア」を主軸に据えた旅行は、観光客が安心して楽しめる一つの形式です。
カヌーの上にテーブルと椅子をセットして水上で食事を楽しんだり、各コテージに距離のあるキャンプ場で滞在する旅行は、ウィズコロナ時代にふさわしい旅行スタイルと考えられます。ウイルスの感染予防のリスクを最小限に抑えた滞在であり、なおかつその土地でしか味わえない自然環境を五感で受け止めることが可能となります。
実現にあたっては、ガイドラインの作成や受け入れ側の人材育成、地元観光資源の保全といった複数の領域での準備と、観光資源の魅力の定義づけやプロモーションをバランスよく進めていく必要があります。
渡航の正常化を待つ今、観光客の受け入れに即時結びつくことはなかなか期待できませんが、ガイドラインの作成等の準備、観光資源の魅力の定義づけやプロモーションには着手できると考えられるでしょう。
Voyaginの主要顧客層は英語圏
Voyaginの主な顧客層は、アメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ等英語圏のユーザーであり、近年では中国、香港、台湾、韓国など東アジアや東南アジアのユーザー数も伸びています。
ユーザーは日本での体験・ツアーといった体験商品を予約します。一件の予約あたりの参加人数は1~3名が最も多く、旅行の形式はFITです。
実績ベースの人気カテゴリは「観光名所ツアー」が20.6%、「フード・ドリンク」が16.4%、続く「自然・アウトドア」が13.5%です。その他、テーマパークやローカルツアー、工芸・アート、伝統文化、リラクゼーション等が続きます。
2019年9月に開催されたラグビーW杯ではイギリスやオーストラリアからの訪日外客数が激増しましたが、この増加を受けて、体験商品を販売するVoyaginでも予約件数の増加が見られました。
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量から質への転換
観光庁が毎月発表している統計では、訪日外客数は2019年末まで、年々増加していました。ところが、訪日外国人の費目別旅行消費額に着目してみると、「娯楽等」の消費額は平均で6,383円ととても高いとはいえません。
また、「訪日旅行市場」という指標では日本のインバウンド業界は確かに成長していますが、世界の「海外旅行市場」というマーケットで訪日旅行市場をとらえてみると、スペインやフランスなど、まだまだライバルとの間には実力の差があるといえます。
こうした背景に加え、新型コロナの流行収束と観光市場の回復には時間がかかると考えられることから、Voyaginではまずは、従前から指摘されていたように「旅行消費額」全体の向上を図るべきであると主張しています。
Voyaginの執行役員 宮崎有生氏によれば、「娯楽等」の消費額の押し上げを主眼におき、宿泊・飲食・交通費といった項目でも単価の上昇を起こすことで、旅行消費額全体の向上も目指せるといいます。
そして、高付加価値の体験コンテンツこそ、こうした消費傾向を引き起こすために重要な存在であると指摘しています。
観光庁「訪日外国人消費動向調査」2019年のトレンドはラグビーW杯で英仏「激増」&インバウンド消費7年連続で過去最高
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狙うべきターゲット層は「Educated Traveler」「SIT」
インバウンド市場のうち、人数ベースでは大きな比率を占める団体旅行客ですが、低予算、短期滞在であることから、あまり大きな消費額は期待できません。
それでは、一回の滞在での消費額が100万円以上と定義する「富裕層」を狙えばいいのかというと、彼らの場合ニーズが様々であり、手配の難しいコンテンツを希望されるだけでなく、予定の変更もちゅうちょなく行う方も少なくないため、手配にかかるコストは小さくないといいます。
そこでVoyaginでは、限られた予算でインバウンド戦略を実行していく自治体は、団体旅行と富裕層の間の予算で旅行をするFITを意識したコンテンツ開発や訴求を行っていくべきだと考えているそうです。
セミナーでは、FITの中でも旅慣れた旅行者である「Educated Traveler」や、特定の趣味(自転車、スキー、武道、アニメ、芸術、建築、アートなど)を深く追求する「SIT(Special Interest Traveler)」というカテゴリに分け、その消費者心理について共有しました。
Educated Travelerは観光名所だけでなく、文化・歴史的背景を学ぶことや、異文化交流に重きを置き、そのための時間や予算を惜しまない傾向にあります。SITの場合は、趣味嗜好にマッチすることへの投資に非常に積極的です。
着目すべき「予約のタイミング」RWC期間には、体験当日から3日以内のブッキングが約29%
Voyaginの主要顧客層である英語圏のユーザーの訪日旅行における体験予約のタイミングに着目してみると、2019年ラグビーW杯の際には、体験当日から2週間以内の予約が約55%、そのうち体験当日から3日以内が約29%で、全期間のうち最多を占める結果となりました。
今後、英語圏からの訪日外国人に向けたコト消費の訴求においては、体験当日や前日の予約に対応できる体験商品を準備できるかどうかも重要な指標となりそうです
また、観光客の渡航正常化について正式な発表がなされていない今、自治体やインバウンド関連の事業者は、訪日外国人をターゲットにした体験商品に向き合うタイミングなのかどうかという疑問を抱く場合もあるでしょう。
これについてVoyaginのコンテンツプロデューサーのアレクサンダー・スタンコフ氏は、今がそのタイミングととらえて問題ないと話します。
確かに、2020年度に関しては、海外旅行を検討していた日本人の国内旅行需要への振り替えニーズが見込まれます。ところが中長期的には、人口減少と繁忙期分散のハードルの高さから、訪日観光客の取り込みは間違いなく必要になります。
セミナーでは、訪日観光客の戻るタイミングについて具体的な予測も交えてお話しされています。また地方の観光資源の磨き上げの方策のヒントについても複数の視点から提言しており、参加者にとって次のアクションにつなげることのできる情報共有となったようです。
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