『鬼滅の刃』イスラム教徒が音声利用に猛抗議/なぜ不適切?理解の浅さがリスクに

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日本の映像や漫画コンテンツは、いまや国内だけでなく世界中で人気を集めています。

作品の認知が高まる一方で、日本と世界各国との文化や価値観の違いから、日本では問題視されない表現に対し、海外で予想外の反応を引き起こしてしまうこともあります。

『鬼滅の刃』は日本でブームになっただけでなく、海外の日本ファンからも注目されています。ところが、アニメ、ブルーレイおよびDVDの付録としたサウンドトラック内で、イスラム教に関する音声の不適切な使用があったとして、2019年11月、同商品の出荷が停止されました。

今回は『鬼滅の刃』の事例をふまえ、異文化の尊重と配慮の示し方や注意点について解説します。


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『鬼滅の刃』サウンドトラックに「アザーン」出荷停止

『鬼滅の刃』の作品のうち問題とされたのは、サウンドトラックに使用された、イスラム教礼拝所・モスクで礼拝を呼びかける「アザーン」の音声です。

アザーンはイスラム教の礼拝を呼びかける声です。礼拝の呼びかけとは無関係に、音楽の一部として取り扱ったこと、また本来ならば一つながりである信仰にまつわる言葉を無作為に切り取ったことなどが大きく問題視されました。

販売元のアニプレックスは、この特典CDを含むブルーレイとDVDの出荷停止と回収を発表しています。

「異文化の価値」を否定しているととらえられるリスク

これまでにも、日本に限らず世界でイスラム教への理解の浅さが発端となり物議を醸した事案が発生しています。

1991年には、小説『悪魔の詩』の日本語訳がイスラム教の預言者ムハンマドを冒涜する内容と見なされ批判されたほか、2005年には、フランスのシャルリ・エブド社が預言者ムハンマドを揶揄する風刺画を掲載した際に行き過ぎた風刺と捉えられ、批判が殺到しました。

イスラム教徒にとって神への冒瀆は重罪にあたるため、これらの事態は彼らの信仰心に対する配慮の欠如が引き起こした結果との見方もあります。

異文化・宗教・歴史に配慮する

日本のインバウンドの現場において、イスラム教徒の食事や礼拝堂といった「形式を尊重する文化」を尊重する取り組みは進んでいます。近頃はイスラム教徒の食事の習慣に配慮したメニューを提供する飲食店や、空港をはじめ礼拝室を整備する施設も増えてきました。

一方、日本では歴史的にもまた現代においても、宗教にまつわる言葉や音楽、異国の人々の日常に根付いた習慣について知る機会が少ないのも事実です。『鬼滅の刃』のサウンドトラック内でアザーンの音声を不適切に使用した件も、イスラム教に関する知識の浅さが招いたとも考えられます。

異文化や宗教・歴史に関して情報発信をする際は、常にそれらに敬意を表した対応が求められます。どのように扱うべきか判断がつかないものは、業界団体に問い合わせるなど、時間がかかっても慎重な判断をするべきでしょう。

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1. 文化の盗用という考え方

異文化や歴史的背景に配慮した作品作りなどで気をつけたいのが、文化の盗用という考え方です。文化の盗用とは、文化の背景にある解釈や歴史を無視し、表層的に文化を取り入れて商業利用することを意味します。社会的マイノリティが虐げられてきた歴史や現在まで続く差別問題が存在するなかで、文化の一部を配慮なく一時的に借用することは、一般的に文化の盗用とみなされます。

例えば、マークジェイコブスが2017年春夏コレクションにて、ドレッド風のヘアアレンジをした白人モデルを出演させた際には、黒人カルチャーへの冒瀆であると批判が殺到しました。

黒人に対する激しい人種差別が長年続くなか、彼らの痛みを無視し黒人カルチャーの象徴の一部を一時的に借りることは文化の盗用とみなされ、マークジェイコブスが謝罪する事態となりました。

SNSが発達した現代では誰もが発信者となれるため、世界的に有名な大企業やブランドでなくても、文化の盗用として批判される可能性は十分にあります。とある文化を作品に取り入れる場合は、その文化や歴史的背景をしっかり理解し、リスペクトを示すことが重要です。

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2. 歴史認識が影を落とすケースも

制作側の意図しない部分で過去の歴史と結びつけられ、批判を招く例も発生しています。

「週刊少年ジャンプ」で連載中の『僕のヒーローアカデミア』では、「志賀丸太(しが まるた)」という登場人物の名前が「旧日本軍731部隊を連想させる」とし、中国や韓国などを中心に海外からの批判が殺到し炎上しました。

出版元である集英社は、キャラクター名の決定に過去の歴史を重ね合わせる意図はなかったと説明した上で、事前に表現について編集部で検討すべきだったと謝罪をしました。

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3. 海外市場には日本とは異なる表現の「線引き」

日本でコンテンツを作成していると、海外の日本とは異なる表現の線引き基準に気づきにくいなか、うまく「現地基準」に調整している作品もあります。

世界的に人気の漫画『ONE PIECE』は、規制の厳しいアメリカでは、多少強引ともいえる変更が加えられた状態で展開されています。たとえば、葉巻を咥えたスモーカーというキャラクターは、不自然にも葉巻の部分のみが消され、名前もスモーカーからチェイサーに改名されました。

このように、子どもの目に触れる作品に対する規制が厳しいアメリカの基準に合わせて臨機応変に表現を変更したことで、受け入れられるようになったケースもあります。

文化や宗教・歴史への認識を深め、丁寧に表現を選ぶ

SNSが普及した現代では、漫画やアニメ作品が国内のみならず世界中に拡散される可能性が高まっています。表現者にとっては、新しいファンとの出会いやビジネス拡大の可能性を広げるチャンスである一方、作品の表現が意図せずして特定の文化圏のセンシティブな部分に触れ、炎上してしまうリスクも高まります。

発生しうるリスクを事前に想定し、炎上などのトラブルは未然に回避したいところですが、全てに配慮することは難しいのも事実です。モニタリングや保険への加入など、炎上が起きてしまった際の対策を事前に準備しておくことが、作者や出版社の経済的利益を守ることにつながります。

『鬼滅の刃』のトラブルの背景には、イスラム教に対する理解不足があります。現代では、国境を越えてコンテンツが楽しまれるようになっています。作品が人気であればあるだけ、文化や宗教・歴史への理解と認識を深め丁寧に表現を選び取る姿勢が、より必要でしょう。


<参照>

JCASTニュース:イスラム教音声を「不適切使用」 アニメ「鬼滅の刃」関連商品、出荷停止・在庫回収へ

Newsweek:『鬼滅の刃』のイスラム教「音声使用」が完全アウトの理由

トレンドニュース:ナミとロビンが"貧乳"に!? 規制が厳しすぎるアメリカ版『ONE PIECE』事情とは/<視線の先>インタビュー

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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