【ポストコロナのインバウンド戦略】観光業の“量”から“質”への転換に伴う単価UPの重要性:株式会社Voyagin 宮崎有生

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緊急企画『ポストコロナインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。今回はアクティビティ予約サイトを運営する、株式会社Voyagin 宮崎有生 氏に寄稿いただきました。


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コロナ禍が与えた衝撃

年間を通じて一番の繁忙期である“桜シーズン”の訪日観光客はほぼゼロに近い形で着地しました。

桜シーズンの盛り上がりを皮切りに、東京2020オリンピック・パラリンピックまでを駆け抜けるイメージを持っていた観光業従事者からすると、180度見える景色が変わった激動の約3ヶ月でした。

訪日観光客ニーズの停止に伴い、多くの弊社の取引先(体験の提供事業者)は営業停止の決断を迫られました。

過去、企画からご一緒した体験を再販売することができないケースも増えてきています。日本屈指の人気体験を提供している取引先も、6月上旬時点で再開の目処が立っていない状況です。

一方で、緊急事態宣言の解除後に営業を再開した取引先については、検温・消毒などの対応の徹底に加えて、1時間単位での人数上限を設定する運営に舵を切っています。

現場対応負荷の向上と、人数制限に伴う売上減少から、量を求める事業経営が実質的に不可能な状況といえます。 

アフターコロナ」の観光業は

今後、2つの大きな環境変化に伴い、観光業の“量”から“質”への転換が加速することになると考えています。1つは、新型コロナウイルスがもたらしたマインドの変容・旅先で重要視することの変化です。

今後は、国レベル・エリアレベル・個店レベルでの衛生管理・健康管理が求められるようになります。

観光客が、主体的に衛生管理・健康管理の最新情報をオンライン上で検索・取得することに伴い、付随する旅行サービスのデジタル化・オンライン予約の波がさらに加速すると予想します。

航空券とホテル・旅館のオンライン化は進んでいますが、体験領域(ツアー、チケット、レストランなど)は未だにオフライン予約が中心の領域です。

オンライン化と並行して、貸切ができるか、少人数制またはプライベートツアーか、室内ではなく自然で楽しめるコンテンツか、などソーシャルディスタンスを意識できているオプションを用意することが、単価UPに向けた挑戦の鍵になると考えます。

長野県白馬村の事例になりますが、昼に実施していた約50ドル/人の体験をベースに、3つの付加価値を加えることで、約150ドル/人の体験に磨き上げを行いました。

(1)青木湖を貸し切るという限定感の醸成、(2)カヌーを白布で覆い地酒と食事を振舞うという演出、(3)ホテルまでの送迎をセットにすることでシームレスな動線を提供、という付加価値です。

日本の地方の豊かな自然の中でカヌー体験をする観光客
▲[白馬村・青木湖でのカヌー体験]:筆者提供

また、ソーシャルディスタンスの要件を満たすオンライン体験に挑戦する余地はありますが、五感を刺激する実体験でないと、満足度が伴う単価UPは難しいと感じます。

Voyaginで人気体験を提供している約30事業者にオンライン体験に対する興味を打診したところ、一事業者からのみ前向きな返答を頂きました。

高付加価値型の体験を企画している事業者ほど、現地での交流に拘りと誇りを持っていると確信した次第です。

オンライン体験の導入は、魅力を知ってもらうキッカケとしては良いと思いますが、サステイナブル・持続可能な取組にはなりにくい、というのが現状の見解です。

もう1つは、訪日観光客数を最重要指標としていたことに伴う課題の表面化(オーバーツーリズム、景観や環境破壊に伴う地域コミュニティの破壊、短期間滞在による爆買いの終了など)です。

このような、環境変化に対応するには、団体旅行客ではなく個人旅行客、個人旅行客の中でも、特に、(1)Educated Traveler(旅慣れている層。観光名所だけではなく、文化・歴史的背景を学ぶことや異文化交流に重きをおく。)や、(2)Special Interest Traveler(目的志向型の旅行者で、自分の興味関心への投資を惜しまない層。

例えば、自転車・スキー・サムライ・アニメ・アート・建築など。)をターゲットとして、客数減少を補って余りある一人あたりの消費額向上を目指す必要があります。

観光客の旅行の動機と消費者心理の図解
▲[ターゲット別の消費額と消費傾向]:筆者提供

1,000円を消費してくれる訪日観光客を10人呼び込むのではなく、10,000円以上を消費してくれる訪日観光客を1人呼び込むという基本視線で臨んでいただきたいと強く思っています。

例えば、(2)のコア層(熱狂的なファン)の事例で申し上げると、サムライファンが刀剣に魅せられ、岐阜県にあるダマスカス柄のナイフ作り体験を予約するようになってきています。

約3時間の体験に、430ドル(約4万6,000円)/人消費してくれている事例に育ってきました。

岐阜県関市でのダマスカス柄のナイフ作り体験の完成品
▲[岐阜県・関市でのダマスカス柄のナイフ作り体験]:筆者提供

同様に、Voyagin屈指の人気体験に成長した岐阜県の鍛冶体験は、鍛冶体験をMake your own black smithと訳さずに、Make your own “samurai knife”と定義しました。

加えて、岐阜県をNear Kyotoと表現することで、訪日観光客目線を徹底しました。結果、約6時間の体験に、370ドル/人を消費してくれる訪日観光客が、月間約50人まで伸びました。

岐阜県羽島市で鍛冶体験をする二人の外国人
▲[岐阜県・羽島市での鍛冶体験]:筆者提供

どう向き合っていくべきか

足元で即効性のある国内観光客ニーズを取り込みつつ、来るべき時に備え、中長期的な視点で訪日観光客に向けた対策を進めていくべきです。

短期的には、海外旅行を検討していた層が国内旅行に切り替えることも含めて、国内観光客から需要が戻ってくることは間違いないですが、中長期的には、訪日観光客をターゲットとする活動が必ず必要になってきます。

特に、国内観光客は平均で1.7泊かつ年1.3回しか旅行に出かけていない、という現実に加えて、週末やGW・お盆といった連休に寄っている繁忙期の平準化の観点から、1-2週間滞在かつ週末や日本特有の連休に関係なく滞在する訪日観光客に向き合う必要性は高いと考えます。 

自治体・DMOは、このような環境変化に向き合い、ガイドラインの作成、単価UPに耐えうる受入側の人材育成とサービスレベルの向上、地元観光資源の保全、ローカルコミュニティとの共存、を意識しながら、地域観光マネジメント・観光資源が持つ魅力の定義・情報発信をバランス良く進めていくべきと考えます。

そして、地域に根付いて活動しているモチベーションの高い事業者を、戦略的に“点”で引き上げることで成功事例に押し上げていきましょう。

著者:株式会社Voyagin 執行役員 宮崎有生


慶應義塾大学卒。リーマン・ブラザーズ証券株式会社を経て、株式会社リヴァンプで経営・業務改革事業、投資先事業会社の経営に関与。

2016年に株式会社Voyaginに入社。事業開発部長を経て、2019年から執行役員として営業・新規事業・パートナーシップ統括責任者として従事中。

中央省庁・都道府県・市区町村はじめ、全国の自治体とのインバウンド案件の実績多数。“体験”切り口の知見・ノウハウを生かすことで、日本が持つ観光課題に向き合っている。

緊急企画『ポストコロナインバウンド戦略』寄稿募集

訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか、また、ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画において寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。

ご応募の際には、まずは問い合わせフォーム( https://honichi.com/contact/ )より、

  1. お名前
  2. 所属・役職
  3. 寄稿したい記事内容の草案(タイトルやどんな内容になりそうかが見えれば問題ございません)

をご連絡ください。ご連絡の際には完成した原稿は必要ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。

なお、ご応募頂いたすべての方の掲載を保証するものではございませんのでご了承ください。ご応募受付の際には、お問い合わせの返信を持ってお知らせいたします。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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