ポッドキャスト(Podcast)とは、「iPod」と「broadcast」が組み合わせた造語で、インターネットで定期的に配信される音声や動画などのコンテンツを指しています。
iPodにプリインストールされていたアプリ「Podcast」で有名になったため、Appleのサービスのことのみを指すと勘違いされている人も多いのではないでしょうか。
ユーザーはスマートフォンやパソコンで専用のアプリを使い、インターネットラジオのようにさまざまなオーディオ番組を視聴することができます。
ポッドキャストは2005年にすでに誕生しており、決して新しいテクノロジーではありませんが、2020年に台湾では大ブレイクとなり、特に若者の間で人気が広がっています。
ポッドキャスターと呼ばれる番組制作者が増加し、政治家やインフルエンサーなどの著名人も続々とチャンネルを開設し、市場競争が白熱しています。
そのあまりの人気ぶりから、2020年を「ポッドキャスト元年」と呼ぶ声も聞かれます。
この記事は、今台湾で注目されている「ポッドキャスト」にまつわる現状や利用者のペルソナ、またビジネスとしての可能性について整理します。
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世界におけるポッドキャストの現状
冒頭で述べたとおり、ポッドキャストは十数年前から存在していましたが、この数年間で欧米を中心に利用者数が急増しています。
アメリカ市場調査会社eMarketerの調査によれば、アメリカにおいて2019年のポッドキャストリスナーは前年比22.5%増の9,200万に達しました。
2020年は前年比14.8%増の1.05億人までに上る勢いで、さらに成長すると予測されています。
そして、利用者の増加と同時に、ポッドキャストの広告市場規模も拡大しています。
ネット広告業界団体IABの「US Podcast Advertising Revenue Study」によると、2020年にアメリカのポッドキャスト広告費は10億ドル(約1,060億円)を超える見込みです。
GoogleやSpotifyなどの大手も参入し、さらなる盛り上がりを見せています。
2020年は「ポッドキャスト元年」:台湾で人気になった理由
一方、台湾におけるポッドキャストブームは欧米と比較すると少々遅れてやってきます。
台湾では2020年に入ると、ポッドキャストの人気が急上昇しはじめ、現地のメディアに「ポッドキャスト元年」と呼ばれるほど注目されています。
Googleトレンドのデータでは、台湾における検索キーワード「Podcast」の人気度が右肩上がりとなっていることがわかります。
ポッドキャストチャンネルの数も急増しています。
台湾発のポッドキャストアプリ「SoundOn」が実施した「SoundOn 2020 H1 Taiwan Podcast 産業調査報告」によると、台湾では2019年までにポッドキャストのチャンネル数は300個しかなかったのにもかかわらず、2020年に入ると上半期だけで870個のチャンネルが新たに開設されて、4月から毎月100個以上のペースで新しいポッドキャストチャンネルが作られています。
なぜポッドキャストが台湾で一気に人気を集めたのかについて、3つの理由が考えられます。
理由1:ワイヤレスイヤホンというデバイスの進化と普及
Airpodsをはじめとする小型のワイヤレスイヤホンがより使いやすく、入手しやすくなったことで、どこでもスムーズに聞き続けることが可能となり、ポッドキャストの利用に良い環境を提供できました。
理由2:台湾発ポッドキャストアプリの登場
過去、台湾では海外企業によるポッドキャストサービスしか展開されていなく、言語の壁などで台湾人の利用者が限られており、台湾人ポッドキャスターによる中国語番組も多くありませんでした。
しかし、2018年、2019年にFirstoryとSoundOnといった台湾発のポッドキャストサービスが設立されたあと状況が一変しました。
利用のハードルが下がることによって、台湾人ユーザーが増加し、さらにFirstoryとSoundOnが積極的に著名人とコラボすることで、ポッドキャストの認知度が台湾で一気に広がりました。
理由3:新型コロナウイルスがもたらした生活の変化
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛を受け、在宅時間が増加しています。
こうした中、ポッドキャストが家でも楽しめる娯楽項目として人気を集めました。
現在、台湾におけるポッドキャストの聴取率は38%に達しており、人口に換算すると約800万人であると、イギリスのオックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所が2019年に発表された「Reuters Institute Digital News Report」が示しています。
台湾のポッドキャストユーザー像
では、どのような台湾人がポッドキャストを利用しているか、また彼らはどのような利用習慣があるのか、前述した「SoundOn 2020 H1 Taiwan Podcast 産業調査報告」から台湾におけるポッドキャストのユーザー像を伺えます。
主力ユーザー層は高学歴・高所得の若者
SoundOnの調査によると、台湾のポッドキャスト利用者は高学歴・高所得・若年層という特徴が見られます。
ユーザーは23〜32才の年齢層に集中しており、全体の60.1%を占めています。もっとも少ないのは43才以上(3.7%)と18才以下(1.3%)の年齢層の人です。
また、ユーザーの教育程度に関しては、95%近くのユーザーは大学卒業あるいはそれ以上の学歴を持っており、25%以上は大学院卒業者です。
平均月収については、25,001〜50,000元(約90,624〜181,241円)がもっとも多く全体の約39%を占めています。
月収50,000元(約181,241円)を超える可処分所得が高いユーザーは23.8%います。
※2019年台湾政府の統計によれば、台湾の15〜29歳の平均月収は31,063元(約112,526円)です。
ポッドキャストの利用習慣
ポッドキャストを聞くデバイスとして、70%以上のユーザーがiOS搭載のスマホを使用しています。次に多いのは、Android搭載のスマホです。
もっとも使われているポッドキャストアプリは、Apple Podcasts(37.4%)、Spotify(36.9%)、SoundOn(12.8%)といった順になっています。
利用頻度については、50%以上のユーザーは週5日以上聴取しており、一度ポッドキャストを開いたら31分〜60分間を聴取するユーザーがもっとも多く、40%を超えています。
利用時間帯においては、1位「18時〜21時」が45%でもっとも多く、2位「9〜12時」が35%です。また、ポッドキャストを聞いて終わりではなく、70%超えの人が番組を友達に推薦します。
「チャンネルを購読する」は68.5%で、「番組で聞いた内容をお茶の間の話題にする」は66.1%です。
さらに、番組で言及された情報を検索したり、ポッドキャスターが運営しているSNSプラットフォームに参加したりするなどの行動に移す人も60%を超えています。
どんなチャンネルを聞いているの?
SoundOnの調査によると、台湾人のポッドキャストの利用目的は、1位が「娯楽とレジャー」、2位が「趣味」、3位が「学習や勉強」といった順になっています。
番組のテーマが多岐に渡っており、それぞれを擁護する支持者がいますが、調査から「社会と文化」「新聞時事と政治」「娯楽とエンターテイメント」といったテーマがもっとも聴取されていることがわかりました。
現在、もっとも人気のあるチャンネルは以下となります。
順位 | チャンネル名 | 内容 |
---|---|---|
1 | Gooaye 股癌 | 株など難しい経済新聞や知識をわかりやすく解説する |
2 | 百靈果NEWS | 硬い国際ニュースをラフな口調で紹介する |
3 | 《The Real Story》By 報導者 | 台湾独立ニュース媒体「報導者」が運営し、記事の内容をポッドキャストの形で伝える |
4 | 台灣通勤第一品牌 | 雑談の形式で、政治からアニメ、生活など幅広いテーマを語る |
5 | 英文單字,片語,文法 | 英語の単語や文法をわかりやすく教える |
旅行をテーマにしたポッドキャストチャンネルもあります。
順位 | チャンネル名 | 内容 |
---|---|---|
1 | 解鎖地球 Unlock the Earth | 世界各国の歴史や文化を紹介する |
2 | 一個女生的世界漂流 | ポッドキャスターの世界各国での旅行経験を語る |
3 | 老娘的東京放送 Linzoma Radio | 東京に在住する台湾人が日本の日常生活を紹介する |
4 | 您好,歡迎登機。 | 毎回客室乗務員をゲストに招いて、彼らに仕事での体験などを語ってもらう |
5 | 旅行熱炒店 | 穴場スポットの旅行を主軸に、それにまつわる豆知識を紹介する |
台湾におけるポッドキャストが持つビジネスの可能性
ポッドキャストは基本的に無料で聴取できることが主流ですが、収益源として、番組に特定の商品やサービスを登場させる「プロダクトプレイスメント」と有料プランで番組を購読する「有料サブスクリプション」の2つを挙げられます。
ただし、台湾におけるポッドキャスト産業は今のところ黎明期であり、まだ安定した収益には結びついていないのが現状です。
現状の台湾のポッドキャストでは、広告が一切ない番組がほとんどであり、一部の超人気番組に広告が差し挟まれていることがある程度です。
ただし、SoundOnの調査からは、ポッドキャストが持つビジネスの可能性が伺えます。
まず、ポッドキャストの「プロダクトプレイスメント」と「有料サブスクリプション」の収益モデルを賛成するかという設問に対し、85%のユーザーがプロダクトプレイスメントによる収益モデルを賛成し、65%のユーザーが有料サブスクリプションによる収益モデルを賛成しています。
番組内に挿入された広告にある商品を購買する意欲に対し、14.7%の人は実際に商品を購買したことがあり、30%の人が将来的に購買すると回答しました。
また、商品だけではなく、番組の広告として宣伝された有料のオフラインイベントに参加したことのある人は5.9%います。
こうしたデータから、台湾人のユーザーはポッドキャストの利用に当たって、広告の聴取や有料プランに対しポジティブな意見を持ち、広告聴取後商品購買に至る人が一定数存在するとわかりました。
しかも、ポッドキャストの平均完全聴取率は60%〜80%となっており、これはYoutubeの平均視聴率より20%高く、非常に高い数字となっています。(完全聴取率は、ここでは最初から最後までポッドキャスト番組を聴取する比率を指しています。)
高い完全聴取率は、ユーザーが最後まで広告を受け取ることの確率が高いことを意味し、広告主は精度の高いターゲティングが可能であり、将来的に有効的なプロモーション手段として期待されています。
なぜ今注目するべき?プロダクトプレイスメントとは
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訪日台湾人インバウンド対策の一つになるか
ポッドキャストは2020年に台湾で大きな話題を呼んで、現在は800万の人が利用しています。
ユーザーの多くは高学歴・高所得の若者であり、約半分が週5日以上聴取するという高い頻度でポッドキャストを利用しています。
また、広告の聴取や有料プランに対してポジティブな意向を示し、購買行動に至った人も15%近くいます。
現在、台湾ではポッドキャスト上のビジネスモデルはまだ完全に確立できていないのが事実であり、インバウンドにおいて有効なプロモーション手段になれるかまだ実証されていませんが、台湾の新たな潮流の一つとして捉えることができます。
こうしたポッドキャストの流行など常に最新のトレンド情報をキャッチすることは、誘致手段やプロモーション手法、商品のラインナップ戦略の磨き上げに思わぬ広がりを与えるかもしれません。
台湾、国内旅行市場が3倍に:「防疫大国」から「観光大国」に向かう4つのトレンドとは
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「台湾で最も予約困難」星のやグーグァン、日本の事業者初「台中市安心旅宿」認証取得:3つの成功の秘訣とは?
新型コロナウイルスの感染流行により、世界中の観光業界が大きな損害を受けるなか、台湾の台中郊外にある「星のやグーグァン(谷關)」は、2020年2〜6月の客室稼働率を7〜8割に維持しました。また、公式サイトによると、7〜8月の予約は満床で、9月の予約もほぼ埋まっているなど、星のやグーグァンは台湾で今最も予約困難な宿泊施設の一つとされています。▲[台湾の星のやグーグァンの予約状況]:星のやグーグァン公式サイト台湾は新型コロナウイルスの封じ込めに成功したとはいえ、外国人に対する入国制限措置は継続さ...
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<参考資料>
eMarketer:US Podcast Listeners Will Surpass 100 Million This Year
Business Insider:US podcast ad spend still set to surpass $1 billion next year
イギリスのオックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所:Reuters Institute Digital News Report 2019
天下雜誌:明星、政治人物也瘋狂,Podcast為何在台灣爆紅?
今周刊:林昶佐、丹妮婊姐都跨足 解密台灣Podcast 暴紅新戰場
SoundOn:SoundOn 2020 H1 Taiwan Podcast 産業調査報告
Chartable:Podcast Charts Apple Podcasts — Taiwan — All Podcasts
Chartable:Podcast Charts Apple Podcasts — Taiwan — Places & Travel
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