ツール・ド・フランスはなぜコロナ禍で開催できたのか?東京五輪に先立つ事例に学ぶ

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新型コロナウイルスによる感染拡大がつづく中、世界三大スポーツイベントの一つ、ツール・ド・フランス(以下ツールと省略)が9月に開催されました。今年で107回目の開催となります。

開催当初は3週間後のパリのゴールに到着するかと心配する人も多かったものの、結果としてはレースオーガナイザーのASO(アモリー・スポール・オルガニザシヨン)が設定した厳格な新型コロナウイルスの感染対策により、無事に3週間のレースを終えることができました。

その一方で、レース中にレース関係者に新型コロナの陽性が確認されたり、ツール終了後のフランスではパリ含む9都市で夜間外出禁止令が今月14日、出されています。

今回の記事は、日本よりも感染状況が厳しいフランスにおいて開催されたツールで採用された感染対策を振り返りながら、東京オリンピック開催のための感染防止対策について考察します。

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ツール・ド・フランスで採用された新型コロナウイルス感染防止対策

今回のツールで、レースオーガナイザーのASOが採用した新型コロナウイルス感染拡大防止策は、「バブル方式」と名付けられました。

バブル方式の採用

今回のツールで採用されたバブル方式の感染防止対策は、大会関係者と外部の人との接触を必要最低限にコントロールするための措置でした。

まず、このバブル方式は、ツールにかかわる人々を3種類に分けています。バブルの中心にいるのは、ツールに出走する選手や彼らのチームのスタッフ、そして彼らと直接接することになる大会関係者たちです。今大会のバブルは、彼等の健康を守るために形成されたものといってもよいでしょう。

このバブルの中心に位置する選手やチーム・大会関係者は、レース前とレース中に2回ずつ、合計4回のPCR検査が義務付けられていました。

ツール開催前には「各チームから2人以上のPCR検査陽性が出たら、そのチームはレース除外」というASOの取り決めがありましたが、幸いにもどのチームも2人以上の陽性反応者はいませんでした。

バブルの中心にいる選手たちと外部の人々とをつなぐのが、バブルの2番目にいるマスコミ関係者やレース・チームスポンサーの関係者です。

彼等はレース前にPCR検査とその検査の陰性証明書の提出が義務付けられています。

また、このバブルの2番目にいる人も行動が厳しく管理され、選手やチーム関係者との直接的な接触は禁止されていました。また、バブルの外にいる人との接触も基本的には推奨されていません。

そして、このバブルのもっとも外側にいるのが、ツールを見に来た観客です。

観客にはPCR検査は義務付けられていませんが、マスクの着用および選手との間のソーシャルディスタンスの確保がASO側から要請されました。

また、観客が選手にサインを頼んだり2ショットの写真を撮ることも禁止されています。加えて、今年のツールでは山岳の登りゴールのステージで、ゴール付近には観客を入れないという措置が取られました。

▲[今年のツール・ド・フランスの「バブル」のイメージ図]:筆者作成
▲[今年のツール・ド・フランスにて構築された「バブル」のイメージ図]:筆者作成

このように厳しい感染防止策がとられた甲斐もあり、ツールの期間中にこのバブルの中で新型コロナウイルスが蔓延することは避けられた模様です。

しかし、観客に対してソーシャルディスタンスの維持やマスク着用を求めたものの、レース時の映像をみるとマスクをせずに選手に近づく観客の姿が多数見られました。

東京オリンピックに向けた現状

東京オリンピックに向けて、IOC国際オリンピック委員会)のジョン・コーツ調整委員長が「新型コロナウイルスの有無にかかわらず開催する」と考えを明らかにするなど、新型コロナ感染拡大が進む中でも、関係機関はオリンピックを開催する方向へ向かっています。

日本の組織委員会も大会の200億円ほど予算を削減することで、大会の簡素化を計画しており、このコロナの中でもなんとかオリンピックを開催したいというのが関係機関の希望であることが読み取れます。

一方、東京オリンピックにおける新型コロナウイルス感染の防止策として期待されているのがワクチンの開発です。

現在中国やアメリカ、ロシア・ドイツ等でワクチンが開発されているという情報がありますが、開発されたワクチンが東京オリンピックまでどこまで一般消費者の手に渡るのかという点については、不透明なままとなっています。

しかし、IOC国際オリンピック委員会)のバッハ会長は来夏に延期された東京五輪に向け、新型コロナウイルスのワクチンを大会に参加する選手団ら関係者全員に平等に行き渡るようにしたいとの意向を示しています。

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東京オリンピックでの新型コロナ感染対策は、ツールよりも困難

今回のツールの成功が、ポストコロナにおける大規模なスポーツイベントの代表例となったことは間違いないことでしょう。しかし、ツールの感染対策がそのまま東京オリンピックに適用できるかという点については、いくつかの課題が残ります。

まず、参加人数の点から考えると、今回のツールでバブルの中心にいた選手やチーム・大会関係者の人数は合計で約650人であるのに対して、オリンピックでは選手の数だけでも1万1千人の参加が見込まれています。ツールに比べてオリンピックは参加人数が圧倒的に多いスポーツイベントです。

関係者一人ひとりにPCR検査を義務付けたり、あるいは大会期間中にPCR検査をすることには、相当なコストと人手が必要になることは想像に難くありません。

PCR検査は比較的高額な検査です。もし、オリンピック参加各国に事前のPCR検査を義務付けると、国によっては検査費用の問題を抱える可能性があることも否定できません。

また、ツールでは基本的にスタート地点とゴール地点の2カ所でバブルの外との接触をコントロールすることができましたが、オリンピックの場合は競技会場が多岐にわたります。

各競技会場が同じレベルで外部との接触をコントロールできるかどうかが、大きなカギになるでしょう。

東京オリンピック開催に向けた新型コロナウイルスの感染防止対策には、ツール以上に大規模で、綿密な計画を立てることが必要になるのではないでしょうか。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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