差別や悪用のリスクも「ワクチンパスポート」実現が一筋縄ではいかない理由

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ワクチンパスポート」とは、新型コロナウイルスワクチンを接種済みであることを証明するものです。

各国で新型コロナウイルスワクチンの接種が開始された中、ワクチン接種済みの人を他国との往来を可能にするための議論が進んでいます。

本記事では、ワクチンパスポートに立ちはだかる課題について考察します。

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ワクチンの接種証明で国境を超えた往来再開の見通し

新型コロナウイルスワクチン接種済みの証明書を導入することで、他国との行き来を再開させたい意向を示す国が現れています。

例えば、スペインの観光省では新型コロナウイルスワクチン接種済みの証明書を導入し、英国からの往来を今夏までに再開させたい意思を示しています。

ロイターの報道によると、観光省の関係者は「新型コロナウイルスワクチン接種済みの証明書は他国との移動性を取り戻す唯一の手段ではなく、ソーシャルディスタンスの確保や渡航前検査、マスク着用などの新型コロナウイルス感染予防対策の1つである」と語ったということです。

さらに、イスラエルでも新型コロナウイルスワクチンを接種した人には入国を許可する動向を示しています。新型コロナウイルスワクチン接種済みであれば、海外渡航時の隔離を免除する合意をギリシャ、キプロスの2か国と結んでおり、欧州の他国とも協議中です。

イスラエルでは、世界の中でも新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでおり、接種済みの証明書を導入することで、打撃を受けた観光業の立て直しを見込んでいます。

ただし、このように世界各国でワクチン接種を証明するためには、規格として統一した「ワクチンパスポート」のような証明書を普及させなければなりません。

しかし、ワクチンパスポートの普及には懸念点がある

EU域内では、新型コロナウイルスワクチン接種済みの証明書を発行することにスペインやポルトガルは賛成しています。しかしベルギーの外務相は「差別を生む制度にしてはならない」として、現時点では渡航の基準としてでの利用はなく、医療目的の接種証明にするべきだと言及しています。

このように、新型コロナウイルスワクチンが十分に普及していない国もあるため、ワクチンパスポートの普及に関して慎重な声も出ています。

ワクチンパスポート普及なるか、考えられる課題

ワクチンパスポートが普及すれば世界各国の行き来が再開されるでしょう。しかし、ワクチンパスポートを普及させるためには課題も挙げられます。

以下に、その理由について説明していきます。

1. 規格の乱立、統一規格の不在

複数の企業や団体では、新型コロナウイルスの検査やワクチン接種に関する情報を記録可能なスマホ用アプリの開発が進んでいます。

しかし、ワクチンパスポートが各国で開発されると、接触確認アプリのように統一が困難になるはずです。

ここでは、開発が進んでいる2つの規格を紹介していきます。

1. コモン・パス

「コモン・パス」は、スイスの非営利団体と世界経済フォーラムが推進するプロジェクト「コモン・トラスト・ネットワーク」が開発し、実証が開始されているアプリです。

このアプリでは、新型コロナウイルス検査の結果や、医療機関が発行するワクチン接種証明書の情報をQRコードとして登録可能です。登録したユーザーの個人情報は守られたまま、健康証明書として提示できます。

さらに海外に渡航する際には、出発地や到着地で求められる健康パスを一覧で表示することも可能です。

また「コモン・トラスト・ネットワーク」は、航空会社のキャセイパシフィックやジェットブルー、ルフトハンザ、スイス航空、ユナイテッド航空、ヴァージン・アトランティック航空、全米の保健システム、アルーバ政府と提携しています。

そして、日本の以下の団体も「コモン・パス」に協力しています。(2020/12/15 現在)

・日本経済団体連合会
・全日本空輸株式会社
・経済同友会
・日本航空株式会社
・日本商工会議所
・定期航空協会
・新経済連盟
日本観光振興協会
・日本医療情報学会

2. IATAトラベルパス

IATAトラベルパス」は国際航空運送協会IATA)が開発を進めているデジタル健康認証システムです。2021年3月末までに提供できる見通しを示しており、別のデジタルパスとの互換性も備えているとのことです。

カタール航空では、中東でIATAトラベルパスを導入する最初の航空会社になることを目指しています。さらに、シンガポール航空でも実証実験を開始するように、ワクチンパスポートを取り入れようとする動きが活発にみられるほどです。

2. どのワクチンを認めるのか

現在新型コロナウイルスワクチンを提供している会社は複数あり、ワクチンパスポートとしてどのワクチンを認めるのかも課題として挙げられます。

コモン・パスの場合

コモン・パスの公式サイトを確認したところ「認定された機関での接種記録判断」として、具体的なワクチンの種類についての言及は見られません。

今後、認定するワクチンの種類を明確化する可能性はあるため注視が必要です。

IATAトラベルパスの場合

IATAトラベルパスでは、ワクチンの種類についてWHOの認定した基準に従うとしており、はっきりとした言及がない状態です。

ただし、航空に関する世界基準を策定する「国際民間航空機感(ICAO)」や、新型コロナウイルスワクチンの証明書など健康認定基準を定めるWHOなどの機関と協力することが最適なアプローチであると、IATAは判断しています。

なお、WHOではイギリス、アメリカ、中国、インド、韓国などのワクチンを認定しており、現時点ではロシアのワクチンは認められていません。

つまり、アプリを開発している国によって新型コロナウイルスワクチンの認定基準が異なるため、国際的な往来再開を行うためには基準の明確化が必要であることがわかります。

3. 日本では個人情報保護問題も

日本においては「2,000個問題」とも言われるほど、個人情報保護に関する法律が乱立していることが課題です。

新型コロナウイルスワクチン接種の状況や履歴の一元管理には、マイナンバーを利用することが検討されています。しかし、自治体の既存システムを共有しなければならないことや、個人情報の取り扱いなど、さまざまな問題もあります。

このような問題から、日本でワクチンパスポートを運用開始すると差別や悪用につながるかもしれないというリスクは否定できません。

統一見解が待たれるが、慎重な議論を

ワクチン接種を担当する河野大臣は、「新型コロナウイルスワクチン証明書を利用した海外渡航再開は考えていない」と述べています。しかし、ワクチンを接種した証明書を国際的に利用する計画が日本に来ていることも事実です。

現時点では、世界中を往来可能なワクチンパスポートはありません。そのため、世界中で統一されたルールや、そのルールに柔軟に対応できるシステムの開発が必要になるでしょう。

ただし、ワクチン接種に対する差別や、個人の主義信条に反する行為を強制できるのかという問題もあるため、ワクチンパスポートについては慎重な議論が求められます。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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