皆さんは「杉原千畝」の名を聞いて、その人物や現代のインバウンド需要への影響をどれほど思い浮かべられるでしょうか。
杉原千畝(すぎはらちうね)氏は、第二次世界大戦中にリトアニアの日本領事館でビザを発行し、数千人のユダヤ人を救ったとされる日本の外交官です。
近年、彼のゆかりの地である岐阜県や、ユダヤ難民が日本に降り立った地である福井県にイスラエルから多数の観光客が訪れていることは、日本ではあまり知られていません。
2月24日、在イスラエル日本国大使館にご協力をいただき、杉原千畝ゆかりの地の魅力をイスラエルの方々に知ってもらう事を目的としたオンラインセミナーが開催されました。
本記事では、杉原千畝ルート推進協議会と中部運輸局が連携したセミナーの様子をご紹介します。
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杉原千畝とは
杉原千畝氏は、第二次世界大戦中にリトアニアの日本領事館で手書きのビザを発行し、数千人のユダヤ人を救った日本の外交官です。その偉大な功績は世界中から「東洋のシンドラー」とも称されます。
当時、リトアニアのカウナスにある日本領事館にはナチスドイツの迫害から逃れ、ポーランドからリトアニアに逃亡してきたユダヤ人避難民が閉鎖間際の日本領事館に通過ビザを求めて殺到していました。
1939年に日本領事館の副領事になった杉原氏は、本省に対し2度ビザを発給してよいか確認をしましたが「発給要件を満たさぬ者へのビザ発給はならぬ」と2度とも拒否されました。
そのような状況下で、杉原氏は「首になっても構わない、人道上拒否できない」と決断し、ユダヤ難民に対しビザを発給したのです。
ビザを取得した難民たちはシベリア鉄道に乗り、日本を経由して世界各地に避難していきました。杉原氏が発給したビザのおかげで数千人の命が救われたことから、杉原氏が発行したビザは「命のビザ」と呼ばれるようになりました。
この命のビザによって助かったユダヤ人の子孫の方は、現在推定40,000人いらっしゃるそうです。
この功績をたたえ、2020年にはリトアニアのカウナスで記念碑の除幕式が行われ、同国の大統領も参加しました。ビザの発給から80年たった今、杉原氏の功績は再び脚光を浴びています。
杉原千畝協議会について:「杉原千畝ルート」で海外からの認知度向上を目指す
杉原千畝ルート推進協議会は、2016年7月に杉原千畝氏のふるさとである岐阜県八百津町と、ヨーロッパを逃れたユダヤ難民が日本で初めて降り立った地である福井県敦賀市を結ぶ「杉原千畝ルート」を世界に発信するのを目的として設立されました。
この協議会は、杉原氏にゆかりのある地域、及びその周辺地域 (八百津町、敦賀市、名古屋市、金沢市、白川村、高山市)を「杉原千畝ルート」として結び、この地域への海外からの誘客を図ることを目的としています。
セミナーの概要について
2月24日、杉原千畝ルート推進協議会と中部運輸局が連携し、オンラインでセミナーが開催されました。
セミナーは、杉原千畝ルートの魅力をイスラエルの方々に知ってもらう事を目的に、イスラエルのネイティブスピーカーであるヨセフ氏の司会のもとで進行しました。
杉原氏のふるさとである岐阜県八百津町、ビザを受け取った方々の名前が展示されている人道の港敦賀ムゼウム、杉原氏の通った高校の所在地である名古屋をはじめ高山市、白川村、金沢市といったルートの各地域の紹介や、ルートと各市町村との繋がりについて語られました。
また、実際に杉原千畝からビザを受け取り、敦賀港に降り立ったというベルティフランケル氏からのお話もいただきました。
各市町村の魅力紹介
今回のセミナーでは、「杉原千畝ルート」に含まれる各市町村の魅力が紹介されました。
杉原千畝ルートには魅力的な観光資源が豊富なスポットが多く含まれています。
- 八百津町
杉原氏の人道的な精神と功績を称え建設された人道の丘公園と杉原千畝記念館や、記念館の近くに杉原千畝記念館のロケーションや、記念館の近くにある五宝滝、伝統的なお祭りについてご紹介。
- 敦賀市
2020年11月にリニューアルオープンした「人道の港敦賀ムゼウム」に、杉原氏の発給したビザレプリカ等の関連資料が展示されていることや、敦賀港に上陸したユダヤ難民に敦賀の人々がリンゴを手渡した市民証言等についてご紹介。
- 名古屋市
杉原氏の通った愛知県立瑞陵(ずいりょう)高等学校や、ベルティフランケル氏夫妻が訪問された杉原千畝氏の記念像についてご紹介。
- 白川村
ユネスコの世界遺産にも登録されている白川郷の合掌造りの建物について、冬に行くと素晴らしい景色を見れる。20年〜30年に一度ふきかえをしている事などをご紹介。
- 金沢市
兼六園の美しい庭園、野村家では武士の時代の生活を見られること、21世紀美術館についてご紹介。
- 高山市
たくさんの観光客が訪れるスポットでコーシャ認証されているお酒を扱っているお店があること、高山陣屋などの伝統的な街並みも見どころ。
命のビザを受けとったベルティフランケル氏のお話
また本セミナーでは、実際に杉原氏からビザを受け取ったというベルティフランケル氏から、当時の状況をお話しいただきました。
当時のユダヤ難民の心情を述懐
家族はポーランドに住むポーランド系ユダヤ人だったというベルティフランケル氏。ナチスによる侵攻があった当時の状況をこう語ります。
「私と杉原さんとの思い出ですが、それは1939年9月に勃発した、ナチスドイツによるポーランド侵攻から始まります。
平穏に暮らしていたのが、ナチスによって苦しい生活を強いられるようになりました。いつかは強制収容所に入れられ、その先どうなるか分からないと皆が思っていたころ、リトアニアのカウナスへ行けば、オランダ領のキュラソー島へ渡ることができるビザを発給している場所があるということを聞きました。それが在リトアニアの日本領事館でした。」
当時のユダヤ人にとって、リトアニアの日本領事館が唯一の希望だったのでしょう。しかし、一方では不安も抱えてたといいます。
「当時の日本はドイツと同盟を結んでいたため、私たちにビザを発給してくれるなんて到底無理なことと思いましたが、わずかな期待を持って、皆がカウナスへ向かいました。」
ユダヤ難民たちのわずかな期待に応えるように、杉原氏は独断でビザを発行しました。これによって、ベルティフランケル氏も含む多数のユダヤ人は命を救われることとなります。
命のビザで日本へ上陸、忘れられないという「リンゴの味」
同氏は、杉原氏について「その領事館では杉原さんは私たちにとてもやさしく接してくださいました。」と語ったうえで、こう続けました。
「そこでビザをもらった私たちは、旧ソ連を鉄道などで通過し、ウラジオストックへ向かいました。そのウラジオストックから船に乗って日本へ向かったのです。ウラジオストックの港では出向するまで、というより日本へ向かう船が来るまでしばらく時間がありました。数週間過ごしたのち、日本の船に乗って出向することができました。私たちにとってヨーロッパ大陸から出たことがなかったので、未知の世界への船出でした。全てが初めての体験となりました。」
ベルティフランケル氏は、ビザを手にし、初めて別の大陸に降り立つこととなりました。そんな彼が今でも覚えていると語ったのは、日本に到着した時に渡されたリンゴの味だといいます。
「敦賀港へ着いた時、雨が降っていました。そんな天候でしたが、港に着いたばかりの私たちにリンゴを1個ずつ渡してくれました。赤いリンゴでした。とても美味しかったのを覚えています。」
敦賀では2週間ほど過ごしたというフランケル氏は、「日本はとても綺麗な国でした。」と続けました。
セミナー参加者からの感想
セミナー終了後、参加された方々からも多くの感想が寄せられました。
以下のようにセミナーへの満足感を表す声や、日本を訪れて杉原千畝ルートを回りたいとの声が数多く見られました。
I wish to do the whole route again!!!
「また全部のルートを回ってみたいです!」
this was a very interesting webiner, all I can hope now is that we could travel again to Japan and re-do the Sugihara route, it is truely a wonderful experience!
「とても興味深いウエビナーでした。今すぐに日本へ再度行き、杉原ルートを訪れたいです。それは大変素晴らしい経験になるでしょう!」
Was a very educational webinar. All subjects were well covered. Have been before in Takayama; Shirakawa; Nagoya and Kanazawa. In my next trip will for sure include Yaotsu and Tsuruga.
「とても学びの多いウエビナーでした。知りたかったことを全て知ることができました。
高山、白川、名古屋、金沢には訪れたことがありますが、次は必ず八百津と敦賀にも行きます。」
日本の潜在的なインバウンド観光資源の可能性
本セミナーでは、杉原氏の偉業やそれに関する実際の体験者の方からのエピソードをお伝えすると共に、関係地域の観光資源や魅力についても紹介しました。
そして、セミナーにご参加いただいた方々からは、各地域の魅力と合わせて過去の歴史的事実を知り、訪日意欲が増したと語る声もありました。
今回のように、日本人では気づきにくい視点から海外から高い注目を浴びうる観光地もまだまだあるのではないでしょうか。
一方で、こうした新たな観光資源の発掘と造成は、日本と他国との歴史的な背景を丁寧に紐解き、そして訪日外国人との交流を大切にすることで実現できるといえるでしょう。
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