中国最大の不動産会社「恒大集団」が経営破綻の危機に追い込まれています。
国内280以上の都市で1,200万人以上の物件購入者を抱える同社は現在総額1兆9,700億元(約33兆4,000億円)の負債を抱えており、金融関係者は「中国版リーマンショック」が起きるのでは、と危機感を強めています。
日本時間29日にも、恒大集団は子会社である盛京銀行(遼寧省)の株式を約100億元(約1,700億円)で国有企業に売却するなど、資金繰りが厳しくなっています。
中国当局は恒大集団の経営危機によって、中国全体の金融システムに影響が出るのを防ぐために株式購入を指示したという見方もあり、事態は急を要しています。
今回は恒大集団の経営危機によって、世界経済、そして日系企業にどんな影響があるのか分析してみたいと思います。
【訪日ラボは、8月5日にインバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025」を開催します】
会場での開催に加え、一部講演ではオンライン配信(参加費無料)も実施!さらに、チケットを購入した方限定でアーカイブ配信も予定しています。
ご来場が難しい方や当日ご都合が合わない方も、この機会にぜひご参加ください。
恒大危機の「本質」は第二の文革にあり?
恒大集団は、2020年度の売上高は7,232億元(約12兆3,000億円)でフォーチュン・グローバル500(世界500強企業)にもランクインするなど中国を代表する企業グループです。
創業者で現在も日本企業でいうところの会長職を務める許家印主席は、鄧小平「改革開放路線」が始まった92年に貿易会社に就職し、96年に低価格の小型マンション開発を軸にした同社を創業しました。
許家印氏が高校生の時、中国は文化大革命の末期で、彼は相当貧しい思いをしたそうです。改革開放路線以降、つまり中国が経済躍進を始めた時期と軌を一にするよう、彼は一代で巨大ビジネスを築き上げました。
現在、恒大集団は「広州FC(旧・広州恒大)」というサッカークラブや電気自動車(EV)開発の「恒大新能源汽車集団」など8つの事業を運営し、借り入れを増やしながら数億人にサービスを提供する企業になりました。
なぜその巨大企業が経営危機に陥っているのか。それを読み解くカギは中国当局が進める「富裕層への引き締め」政策にあります。
習近平国家主席は、第二の文革とも形容される「共同富裕」をスローガンに貧富の格差縮小、富の分配を強化する措置を特に不動産業界に対して打ち出しています。
恒大集団に影響があったのは、20年夏に中国人民銀行(中央銀行)が設けた「3つのレッドライン」です。貧富の格差の象徴である不動産バブルを抑えるために大手不動産会社に対して負債比率を厳守するよう求めた政策で、「自己資本に対する負債比率を100%以内」「資産負債比率70%以下」「短期負債を上回る現金保有」を指示しました。
これに抵触する不動産企業は銀行からの融資を制限されました。
恒大集団はかねてからの拡大路線で、重い債務を抱え、実質自転車操業状態にありました。この1年間は物件の販売単価を大きく引き下げるなど経営改善に努めていましたが、同社と取引する下請けの工事会社や資材会社から代金の未払いなどの声が上がっています。
このように、恒大集団の経営危機は、習近平国家主席による「官製倒産」、「見せしめ」によるところが大きい、という見方が大半です。
では実際に同社が債務不履行、デフォルトに陥った場合、世界経済そして日本企業にどのような影響があるのでしょうか。
恒大危機は、第二のリーマンショックの引き金になるのか
恒大集団の負債総額の1兆9,665億元(約33兆4,000億円)は、中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当していて、同社が債務不履行に陥った場合、中国経済への影響は必至です。
同社は中国国内に約20万人の直接雇用と、約380万人の間接雇用を生み出していますし、中国の不動産セクターは国内GDPの約15%を占めると大きいので、恒大が無秩序な清算を強いられれば、中国経済への影響は計り知れません。
さらに中国の不動産の専門家は恒大集団以外の大手不動産企業も「3つのレッドライン」政策で資金繰りが厳しさを増し、不動産バブル崩壊の一歩手間だという見方もあります。
では海外への影響はどうでしょうか。08年のリーマンショック以降、各国の主要金融機関に対して厳格な資本規制や監督強化が採択されていて、海外の金融機関に対するリスクは限定的という分析が大半です。
恒大集団の有利子負債(6月末時点で約9.7兆円)の多くは米ドル建て債券を除けば、中国国内銀行によるものと考えられているからです。(海外投資家向けに発行された米ドル建て債券は計195億ドル(約2兆円))
リーマンショックは信用の低い人への住宅ローン(サブプライムローン)を複雑な形で証券化したデリバティブ商品が世界中に売られていて、それにいくつものレバレッジがかけられていたため、バブルが弾けるとその影響が世界中に波及しました。その一方で恒大の債務危機は現在のところ、中国国内にリスクが限られているといえます。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も、22日、「(恒大集団の状況は)中国特有のものだと見受けられる。同国は新興市場国としては債務水準がかなり高い。米国企業のデフォルトの可能性は少ないだろう」と発言しています。
日本国内への影響はどうでしょうか。現在のところ、日本国内の金融機関や企業の恒大との直接取引は少なく、影響は限定的という見方が多いです。麻生財務相も「(恒大集団の経営危機による日本国内への影響は)分かる人がいたら教えて欲しい」と発言していて、事態を注視しています。
恒大と直接取引がある日系の建設会社も少なく、日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)は「現実に問題があるという話は聞いていない」と話すなど、少なくとも建設業界においては、現時点において恒大経営危機による影響は限定的だと言えそうです。
それでも高まる「チャイナリスク」日系企業は大丈夫?
一方で、不安定になる中国市場に対する懸念、所謂「チャイナリスク」は強まったことは確かです。
日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立管理運用機構)の前年度末(21年3月)まで、恒大集団とその関連企業へ約97億円(全体の運用額は193兆円)投資していたことが分かりましたが、同社の債務危機で市場の混乱が高まる中、9月29日、GPIFは人民元建て国債への投資を見送りました。
恒大集団のデフォルトにより、日系企業が直接被害を受けるリスクは現時点では低いと言えますが、習近平国家主席の「共同富裕」政策により特定の業界がターゲットになれば、その業界と深い関係を持つ日系企業もリスクを抱えることになるかもしれません。
既に、「共同富裕」政策のターゲットになっているアリババグループの株式を多く保有するソフトバンクグループ株は、21日の東京株式市場で大幅安となり、チャイナリスクが大きい企業は、中国市場の動向に左右されやすいことは確かです。
恒大集団の債務危機による日系企業への直接的な危機は金融市場よりむしろ、実体経済、つまり中国国内の経済の減速から、日本企業のモノやサービスが売れなくなることにあるかもしれません。
特に、電気機器や化学関連の日系メーカーは中国に多く進出していて、工場を多く運営しています。
自動車やスマホの製造国として中国は強く、日系企業の海外進出を支えてきた側面もあります。ですが、20年以降、新型コロナウイルスの感染拡大から日系企業の中国市場での業績は芳しくなく、帝国データバンクが実施したアンケートによると、2020年の収益見込みは570社以上で収益が前年比マイナスになると報告しています。
製造業だけでなく、ファーストリテイリング社や、良品計画社も中国での売上高が全体の15%を超えており、「恒大ショック」により中国経済が悪化した場合、影響を受けることになるかもしれません。
恒大集団の債務危機により、世界経済、日系企業にどんな影響がでるのか。今後を注視しましょう。
関連記事
インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!
訪日ラボに相談してみる
<参考>
・帝国データバンク:日本企業の中国進出、約1万3600社沿岸部の都市圏に多く集積
【7/9開催】消費額1.7兆円超!最新中国インバウンド市場の攻略ポイント
2024年、訪日外国人による旅行消費額は過去最高の約8兆1,257億円を記録。 そのうち中国は1.7兆円超(全体の約21%)と圧倒的な1位を占めており、宿泊日数や訪問者数でもトップクラスの存在感を示しています。
これだけ市場が大きく、経済インパクトのある中国インバウンド。 いま多くの企業が「中国向けに本格的な戦略を立てるべきではないか?」と検討を始めています。
しかし中国では、Googleをはじめとする多くのサービスに規制があり、中国現地のSNSや地図サービスを活用するなど、独自のカスタマイズされた対策が必要です。
本セミナーでは、インバウンド戦略の基本を押さえた上で、「中国市場の最新動向」と「具体的な対策」について、わかりやすく解説します。
<本セミナーのポイント>
- インバウンド戦略の基本が学べる!
- 中国インバウンド市場の規模と最新トレンドがわかる!
- 中国特有のSNS・地図アプリを踏まえた対応策を学べる!
詳しくはこちらをご覧ください。
→消費額1.7兆円超!最新中国インバウンド市場の攻略ポイント【7/9開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!