中国「白紙デモ」の衝撃。「ゼロコロナ政策」緩和へ一転、ネット社会が果たした役割とは

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先日、中国で「白紙デモ」(中国語圏では「白紙革命」「白紙運動」とも)と呼ばれる人々の抗議運動が起きたことがニュースとなりました。この「白紙運動」は近年の中国において起きたものとしては非常に大きな社会運動であり、また海外にも飛び火したものとして大きく話題になりました。

この記事では普段より中国に在住し、中国に関する考察を続けている筆者の視点から、この「白紙デモ」はどのように発生したものなのか、またそれがどのような影響を中国の社会に及ぼしているのかについて説明します。

また、各地の抗議活動を受け、これまで続いてきた中国における厳しいコロナ対策がどのように変化し、またその変化が中国の人々の国際的な往来にどう影響するのかの予想についても述べています。

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コロナ対策への不満の高まりと「白紙デモ」の概要

ここでは、中国各地での抗議活動の発生の背景と、実際に抗議活動が起きるまでの発生、そして「白紙デモ」と呼ばれる運動の概要と特徴について説明します。

各地でのゼロコロナ政策への不満の高まり

まず、中国では厳しいコロナ対策に対する人々の不満が各地で高まっていました。

これまで中国ではアプリによる個人のリスク管理や、陽性者・濃厚接触者への隔離措置などによる厳格なコロナ対策を行なってきましたが、感染スピードが早いオミクロン株の登場以降はそのスピードに対応するためもあって、防疫のための措置がエスカレートしていました。

地域によっては解除基準が明確にされないまま長期間のロックダウンが続いたり、マンション一棟の住人が集団で隔離施設に送られるなど、明らかにバランスを欠いた施策も行われており、多くの人が苦しめられることとなりました。

そのような中で厳しすぎるコロナ対策に違和感を持つ人が徐々に増え始め、局所的な抗議運動が見られるようになりました。たとえば北京では10月に、とある高架橋に新型コロナに関わる措置と習近平政権を批判する内容の横断幕が掲げられる事件が起きています。

そして11月24日、新疆ウイグル自治区のウルムチ市で発生した火災で10名もの人が死亡した事件が起きたことをきっかけに、そのような抗議活動がは大きく広がりました。

この火災が起きたマンションはコロナ対策を名目に長期間封鎖されており、その措置が救助の遅れを招いたとされました。これが人々の怒りと、いつ同じことが起きるかもしれないという恐怖に火をつけ、当のウルムチ市では封鎖措置の解除を求める抗議活動が相次いで起こりました。

その後、同様の抗議が他の地域でも見られるようになり、各地での厳しいコロナ対策措置への抗議活動が活発化しました。

抗議の一部としての白紙デモ

そのような抗議の一環が、各地の学生を中心とした「白紙デモ」です。

きっかけは11月26日、南京伝媒学院という大学のとある女子生徒が、何も書かれていない白いA4の紙を掲げてキャンパス内に立ったことでした。この白い紙は、抗議の声が統制され消されてしまうことへの皮肉と、「声なき声」の象徴として掲げられたものだとされています。

その様子を収めた動画が出回り、拡散しました。そしてこれに呼応するように、各地で学生を中心とした集会などが数多く開かれるようになりました。

きっかけとなった南京伝媒学院のほか、中国でもトップクラスの大学である精華大学を始めとした各地の大学で、白紙を掲げた学生が抗議活動が発生しました。

▲北京市・亮馬河に集結した大学生を中心とした集団の様子
▲北京市・亮馬河に集結した大学生を中心とした集団の様子

そのほか上海市では26日の深夜、前述の火災があったウルムチ市の名前を冠する烏魯木斎西路で、同じく白紙を持った多数の市民が集まりました。

集まった人々は火災での死者を追悼するとともに、「動態清零」(ダイナミック・ゼロコロナ)と言われるコロナ対策措置の終了や、中国共産党および習近平国家主席の下野を求める声が挙げました。このような抗議運動において、政権に対する批判の声までもが挙げられるのは中国においては極めて異例とされています。

その後、運動は中国外にも飛び火しています。ニューヨーク・パリ・シドニーなど世界各地で、国外在住の華人や留学生を中心に、ウルムチでの火災の死者の追悼集会や習近平政権批判のデモ、大使館への抗議活動などが行われました。日本では新宿を中心に多くの中国人留学生などが集まり、同じく追悼集会やデモなどが開かれています。

このように、新型コロナウイルスに対する過剰な防疫措置をきっかけとして広がった、白紙を象徴とする各地での抗議が「白紙デモ」と呼ばれている運動です。

海外のインターネットが果たした役割

運動の広がりには、中国国外のインターネットサービスが果たした役割が大きいとされています。

中国ではインターネット上に検閲があり、当局の指示や各プラットフォームの自主検閲により特定の内容が削除されるということが頻繁に起こります。コロナ対策への抗議もその対象とされており、抗議の様子をとらえたSNSへの投稿や、政策に対する疑問や批判を呈する記事などは多くの場合、投稿されてから数時間〜数日内に削除されてしまっていました。

しかし今回のコロナ対策への抗議活動に関しては、運動の規模が大きくなったことで投稿される数が膨大となり,

検閲の手が回りきらなくなったことに加え、検閲それ自体を回避するために抗議にまつわる情報や映像がTwitterやFacebook、Telegramなどの中国国外のSNSやメッセンジャーアプリでやりとりされるようになったことが、情報が大きく拡散した理由の一つです。

本来、これらのSNSなどは中国国内ではアクセス規制がかかっており、通常では利用ができないのですが、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)などを利用した「翻墙」(壁超え)と言われるアクセス規制の回避や、在外華人の有志による活動により、抗議活動に関する情報がスムーズにやりとりできた側面があります。

中国においては治安維持の名目で抗議者が危険な目に遭わされるなど、当局に反対する声を上げにくい環境があります。しかしこうした情報のやり取りによって他にも抗議の意志を持った人がいるのが可視化されたことは、人々に仲間がいるという安心感や連帯感を与えました。このことは今回の抗議が広がるにあたっての、大きな一助となったといえるでしょう。

▲騒動後に出現した、在外中国人とされる「李老师不是你老师」のTwitterアカウントよりスクリーンショット。このアカウントには中国各地から多くの情報が寄せられ、抗議活動の情報の大きな発信源の一つとなった。
▲騒動後に出現した、在外中国人とされる「李老师不是你老师」のTwitterアカウントよりスクリーンショット。このアカウントには中国各地から多くの情報が寄せられ、抗議活動の情報の大きな発信源の一つとなった。

抗議活動後の中国の現状

次に、これらの抗議活動を受けて起きた中国の変化について述べていきます。

各地でのコロナ対策緩和

各地での抗議活動の直後から、移動制限など封鎖措置を解除する動きが全国的に見られるようになりました。そのほか、公共施設や交通機関を利用する際に求められていたPCR検査の陰性証明の提示や、「場所コード」と呼ばれる移動記録用のQRコードのスキャンなどが次々に撤廃されるようになりました。

12月6日には「新十条」と呼ばれる防疫のガイドラインが国務院より新たに発表されました。そこでは今後は居住区の急な封鎖を禁じることや、行政区単位での住民の一斉PCR検査を行わないこと、条件によって感染者の自宅隔離を認めることなどが示されました。これまでに比べて大幅な緩和といえます。

(国務院発表によるガイドライン。中国政府網よりスクリーンショット)


ただ、これらはあくまでもガイドラインであり、実際の措置はどのようになるのかまだ不透明な部分があります。特に自宅隔離に関しては条件が曖昧で強制隔離の可能性が消えていないため、人々の行動はいまも慎重です。

加えて、一部の地域や年齢層ではまだウイルスへの忌避感がまだ大きく残っていることや、高齢者に対するワクチンのブースター摂取が他国ほど進んでいないこと、そもそもの医療体制の脆弱さなどから、今後感染者が増えた場合に混乱が広がる可能性は残っています。今後の当局の対応が問われます。

本当に抗議が理由なのか?

また、こうした緩和の動きがすべて先述の抗議活動によるものかというと、そうとは言い切れない部分もあります。

ここに関しては筆者の憶測も含まれますが、もともと強力な防疫措置はそれを実行する側、つまり各地の地方自治体などにも多大なリソース的負担を強いるものであり、長引く対策に経済的な疲弊の色が各地で見られていました。

事実、抗議活動が頻繁に見られる前からPCR検査の結果の提示などを緩和したり、PCR検査の規模を縮小し、必要な人だけが有償で受けるようにする措置を取る自治体が少しずつ見られるようになっていました。もともとは自治体の側も、厳しすぎるコロナ対策をやめたがっていた側面があります。

それでも上層部への忖度によってなかなかやめられなかったコロナ対策が、抗議によって人々の不満が可視化され、中央政治の風向きが変わったことで各地が緩和に向かうことができた、という見方もあります。

つまり抗議活動はきっかけに過ぎず、早晩どこかのタイミングで緩和はされていた可能性があります。「人々の抗議によって政治の側が厳しい対策をとりやめた」という単純な図式だけでは、今回起きたことを説明しきれない部分もあるということになります。

旅行および国際的往来への影響

最後に、今回の緩和が中国における国際的な往来にどのような影響を及ぼすのか、その可能性について触れておきます。

今回の緩和がなされる以前、中国では水際対策として入国に関する強い制限措置を取っていました。居留資格を持っていない外国人の入国を認めないだけでなく、入国者すべてに対して長期間のホテル隔離および自宅隔離を義務付けており、その隔離期間は最長で21日(ホテル隔離14日+自宅隔離7日)に及んだこともありました(現在はホテル隔離5日+自宅隔離3日までに短縮されています)。

また、不用意な人々の往来を避けるためか、各地でパスポートの更新や新規発給に厳しい条件が求められるようになりました。そのため、パスポートが期限切れとなったまま更新できていない人も多くいます。

今回の緩和措置では、国際的な往来に関する部分に関する制度的な変化は起きておらず、またパスポートの発行が緩和されたという情報も現時点では出ていません。つまり、現状では観光を含む人々の往来が正常化するまでにはまだ時間がかかりそう、という認識を持っておいたほうがよさそうです。

ただ全体として緩和傾向に向かっていることは事実なので、今後は状況を見て緩和に向けた動きが起こっていくことになるでしょう。今後、中国国内での感染の拡大を受けてどのような状況になるかによって、その判断がなされることになります。

また、旅行などによる往来に関しては再開時期が不透明な反面、国内情勢に疑問を持った富裕層や、今回のことをきっかけに移住・移民を考えるようになった中国人が相当数おり、それらの人々にとって日本は人気の高い移住先となっています。

中国人は横の結びつきが強く、またネットでの情報収集に熱心でもあるため、こうした定住を目指す中国人やすでに日本に在住している中国人に向けて発信をしていくことは、今後段階的に進んでいくであろう人々の往来の活発化に向けて、有効な訴求手段となり得ます。

インバウンド事業者や自治体など、中国人観光客の取り込みを狙う必要がある場合は、そうした移住者への売り込みや情報発信を意識したほうがよいでしょう。

日本にも関係の深い中国への動向に注目を

以上が中国で起きた抗議活動と「白紙デモ」、およびそれによって起きた影響と今後の展望の一部です。

まだ先行きが不透明な部分もありますが、中国が日本にとって政治的にも経済的にも重要な意味を持つ土地であることは事実です。情報収集につとめ、その動向を掴んでおく必要はあるでしょう。

この記事が中国で起こっていることへの解像度を上げる一助となっていれば幸いです。(華村)

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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