近年、世界的に注目が高まる「デジタルノマド」。オンラインでの仕事をベースに世界中を旅しながら働くライフスタイルのことで、リモートワークが普及するなか、新しい生き方の選択肢としてニーズが高まっています。
長期滞在を前提としたデジタルノマドは地域経済にも大きな影響を与えるため、近年は誘致活動に積極的に取り組む国が増加。日本国内でも受け入れ態勢の強化や法整備が進められています。
そこで今回は、2023年12月14日に開催されたオンラインイベント:観光クロスオーバーMEET UP#3(共催 一般社団法人観光クロスオーバー協会)「世界で注目されているデジタルノマドとは~長期滞在から考える観光市場の可能性~」より、日本の観光振興や地域活性化におけるデジタルノマドの可能性についてご紹介します。
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デジタルノマドとは?
イベントではまず、デジタルノマドビザ導入に向けた政策提言を行う「RULEMAKERS DAO」の加々美一雄氏が登壇。デジタルノマドの基本説明と各国の事例を紹介しました。
「デジタルノマド」とは、ITを活用し、場所に縛られずに、遊牧民(=ノマド)のように旅をしながら働く人たちのことを指します。
数ヶ月から数年単位の長期滞在を前提としているので、課題となるのがビザの問題。近年はデジタルノマド専用のビザを導入する国も増えていて、2023年2月時点でその数は54カ国にものぼります。
デジタルノマドビザ、日本と各国の状況
デジタルノマドビザ取得の条件は国ごとに異なります。各国のビザ取得条件をご紹介します。
デジタルノマドビザ事例:エストニア
デジタル化政策を次々と推進する「電子国家」として知られるエストニアは、2020年に世界で初めてノマドビザを導入した国です。ビザを取得するためには、過去6カ月間で月額4500ユーロ以上、日本円で約70万円以上の収入証明が必要とされています。
デジタルノマドビザ事例:ポルトガル
次に2022年10月にデジタルノマドビザを導入したポルトガル。収入の条件としては、ポルトガル国内の最低賃金の4倍以上、月額3,040ユーロ以上、日本円にすると47万円程度が求められます。
ポルトガルはデジタルノマド誘致の成功事例としても有名な国です。ポルトガルのマデイラ島にある人口約8,000人のポンタドソルという村は、ビザ解禁後の1年間で6,000人以上のデジタルノマドの誘致に成功。その経済効果は3,000万ユーロ以上にものぼったそうです。
デジタルノマドビザ事例:スペイン
スペインのデジタルノマドビザの収入要件は月額2,334ユーロ、日本円で約36万円です。スペインのノマドビザの特徴として、フリーランスの場合、収入の20%まではスペイン国内の企業から収入を得ることもできます。
本来、デジタルノマドは自国の企業から収入を得た上で、海外でリモートワークすることが前提です。滞在先の国で仕事を受けられるのは珍しいケースと言えるでしょう。
デジタルノマドビザ事例:その他
上記以外にも、世界では多くの国や地域でデジタルノマドビザを発行する動きが活発です。最近では、韓国やフィリピン、ウルグアイ、イタリア、ペルーなどでもビザ導入が予定されています。
デジタルノマドビザ事例:日本
日本では現在、デジタルノマド関連のビザはありません。政府は今年度中にも、デジタルノマドビザ導入に向けた基本方針を発表する予定で、在留資格や取得の条件などは今後明らかになっていくようです。
地方自治体がデジタルノマドに期待すること
続いて、北海道ニセコ町の片山健也町長が、ニセコ地域のインバウンドの状況と、デジタルノマドに期待することについて考えを述べました。
ニセコ町では、バブル崩壊後に観光客が急激に減少した際、町民自らの手で状況を打破しようと日本で初めて観光協会を株式会社に移行。海外人観光客に向けた誘致活動を積極的に展開しました。その結果、今では世界的に人気の観光地になり、リッツカールトンなど世界の名だたる高級ホテルが立ち並んでいます。
インバウンドの先進地とされるニセコ町。片山町長は、デジタルノマドビザの導入により自治体が期待できることは「富裕層の増加による地域経済の活性化」だと言います。ニセコエリアのホテルでは、高い金額の客室から予約が埋まることも多いそう。デジタルノマドビザの発行で富裕層の長期滞在を促し、地域経済の活性化や観光振興に向けた外貨獲得に繋げたいと述べました。
さらに国籍を問わず様々なバックグラウンドを持つ人が集まれば、地域の多様性推進に繋がります。デジタルノマドの導入は、異文化理解・国際交流のレベルを上げ、リゾート地としての品質を高めることにつながると期待しているとのことです。
デジタルノマドの誘致と誘客プロモーション
次に、一般社団法人日本デジタルノマド協会の幹事であり、株式会社遊行代表の大瀬良亮氏が登壇。2023年10月に福岡県で開催された誘致プロモーションの紹介と、デジタルノマドの可能性について意見を述べました。
デジタルノマドは今後10年間で10億人規模の市場に成長すると予想されています。世界各地で誘致活動が行われるなかで、日本に来たいと思うデジタルノマドは多いと大瀬良氏は言います。デジタルノマド専門の情報プラットフォーム「ノマドリスト」が集計した「次に行きたい場所ランキング」では、東京が男性部門の1位を獲得。日本の人気の高さを物語っています。
日本への長期滞在需要が高まる一方、国内の受け入れ体制はまだまだ準備段階と言えます。そこで、日本初のデジタルノマドのプロモーション事業として開催されたのが「COLIVE FUKUOKA」です。
2023年10月の一カ月間にわたり、24カ国から50人を超えるデジタルノマドが参加した同事業。30代以上が60%を占め、エンジニアやクリエイター、起業家や経営者など、様々な仕事を持つ人たちが集まりました。
「COLIVE FUKUOKA」では「CONECT」「COLIVE」「COLLABORATION」の三つのテーマに沿って60以上のコンテンツを用意。福岡や九州の暮らしの魅力を発信するだけでなく、地域との繋がりを作ることを目的に、様々な企画が実施されました。
特に福岡はスタートアップ企業が多いエリアです。そうした企業と合同でカンファレンスを実施するなど、デジタルノマドと地域人材が交流できる機会も多く設けられました。
さらに、デジタルノマドの中には、自らのスキルを地域に還元したいと思う人が多くいます。そのため、例えば空き家問題に詳しい人に話を聞くなど、地域課題を考える時間もたくさんあったそうです。
従来のインバウンド施策とは異なり、デジタルノマド誘致は「どこでも働ける」というライフスタイルをターゲットにしています。国や地域に囚われずに、プロフェッショナル人材を呼び込むことができるため、地域により新しいビジネスの可能性が生まれると大瀬良氏は述べました。
観光とデジタルノマドの結びつき
最後に、株式会社たびふぁん 代表取締役の西岡貴史氏が「観光とデジタルノマドの結びつき」をテーマに、デジタルノマドの可能性について紹介しました。
観光業は、宿泊業に代表されるように、労働集約型の産業です。労働生産性が伸びにくいことが大きな課題で、産業の特性上、IT化やDX化を進めるには限界があります。
そのため、持続可能な観光業の発展を目指すためには、従来のように「量」を追い求めるのではなく「質」を上げることが重要です。2023年3月に観光庁が発表した「観光立国推進基本計画」でも「量から質へ」という基本的な方向性が明記されています。
長期滞在が前提となるデジタルノマドは、高付加価値が求められるこれからの観光業にとって起爆剤になるはずです。持続可能な観光の発展においても、デジタルノマドへの期待は大きいと言えるでしょう。
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