世界で注目高まる「巡礼ツーリズム」とは?その特徴とインバウンドへの影響を解説【「巡礼ツーリズム」連載 vol.1】

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近年、旅行業界で注目されている「巡礼ツーリズム」をご存知でしょうか。

世界各地の宗教的な史跡や巡礼地を訪れる旅行のことで、信仰の有無を問わず、ひとつの旅行形態として確立しつつあります。日本では四国八十八ヶ所巡り、熊野古道など、海外ではスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路などがその代表例です。

巡礼ツーリズムは、各地の自然や文化、歴史を体験する旅として、特に欧米を中心に人気があります。近年はデジタルツールの発展により、巡礼者の利便性が向上。アウトドアツーリズムの人気も後押しとなり、日本の巡礼路への興味関心も高まっています。

そこで訪日ラボでは、巡礼ツーリズムについて、各地の事例や誘客の取り組みを不定期の連載形式でお送りいたします。今回は第一弾として、地方への誘客促進策としても期待が高まる巡礼ツーリズムについて、その概要とインバウンドへの影響を解説します。

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巡礼ツーリズムとは?

巡礼ツーリズムとは、世界各地の宗教的な史跡や巡礼地を訪れる旅行のこと。巡礼を目的とした旅は古代〜中世の時代から世界各地で行われており、当時は信仰心から旅に出る人がほとんどでした。しかし現代の巡礼ツーリズムでは、宗教的もしくは精神的な目的で各地を巡る人もいる一方、観光目的で気軽に参加する旅行者も多くいます。ほとんどの巡礼路では宗教的な制限や参加目的を問われることはありません。

基本的に誰でも参加でき、歴史と文化を同時に学べる点も魅力。地域の風習をじっくり体感できる良質な旅行コンテンツとしても支持されています。

巡礼ツーリズムがインバウンドに人気の理由

巡礼ツーリズムが注目される3つの理由を見ていきましょう。

1. 文化と歴史の体験

地域の歴史、文化、地理的特徴などをじっくり体験できる点が、巡礼ツーリズムが人気を集める大きな理由の一つです。巡礼中は、寺院や教会を訪れたり、地域の人と交流したりする機会が多くあります。各地の習慣を直に学び、徒歩や自転車など“自力で行う移動”によって、地域の自然や地形をゆっくり肌で感じられる点も人気のようです。

2. アウトドアツーリズムの盛り上がり

アウトドアツーリズムの流行も巡礼人気を後押ししています。アウトドアツーリズムとは、スキーやサイクリングなど、アウトドアスポーツを目的とした旅行や自然を楽しむレジャーのことです。巡礼路は豊かな自然の中を長期間歩くルートが多く、トレッキング感覚で参加する旅行者が増加。コロナ禍を経て健康志向が高まったこともあり、健康増進や精神的なリフレッシュを求めて、巡礼路を歩く観光客も増えています。

3. FIT(個人旅行)との相性もいい

近年、増加傾向にあるFIT(個人旅行)と巡礼ツーリズムは相性がいいと言われています。巡礼路には専用の宿泊施設があり、道路も整備されていているので、外国人でも個人旅行がしやすい環境です。自然を感じたり、自分を見つめ直したりすることを目的にしている旅行者も多く、巡礼ツーリズムはマイペースに旅行を楽しみたい層に人気の旅行形態であると言えます。

関連記事:FITとは?インバウンドでは個人旅行が増加 | 多様化する訪日客のニーズと3つの効果的な施策をご紹介

巡礼ツーリズム先進地の事例3選

巡礼路は世界各地にありますが、特に観光地として旅行者が多く集まる事例を3つご紹介します。

1. サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路(スペイン)

スペイン北西部のサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂を目指す巡礼路です。キリスト教の三大巡礼地のひとつとされ、毎年、世界中から多くの巡礼者が訪れます。ヨーロッパ中から伸びるさまざまなルートがあり、最もポピュラーなのは「フランス人の道(Camino Francés)と呼ばれる約800kmの道。フランス南部からピレネー山脈を超えてスペイン北部を約一か月かけて歩きます。

スペイン巡礼が世界遺産登録されたのは1993年。以降、スペイン巡礼を行う人の数は年平均1万人以上のペースで増加し、2018年には32万人を超えました。外国人来訪者の数は世界遺産登録前は9,000人程度でしたが、2017年には16万人を突破。巡礼者全体の5割を超え、国籍も欧州全域から北米、 アジアに広がっています。地方の村や町にも外国人が訪れ、巡礼者用の宿(アルベルゲ)を中心に飲食店が増加するなど、地域活性化にも繋がっています。

中世から続く歴史と文化に触れられること、スペイン北部の美しい自然を楽しめることも人気の理由。地元の人や世界中から集まる巡礼者との交流や、受入体制の手厚さも、多くの人を惹きつけています。

2. 熊野古道(日本・紀伊半島)

和歌山県を中心に伊勢や大阪などに広がる巡礼路で、紀伊半島の南にある3つの神社へ至る道です。3つの神社は田辺市の「熊野本宮大社」、新宮市の「熊野速玉大社」、那智勝浦町の「熊野那智大社」で、総称して熊野三山と呼ばれています。熊野古道は6つのルートがあり、最も人気があるのが熊野本宮大社へ続く「中辺路(なかへち)」です。各ルートは66km〜170kmで、約5〜7日かけて歩きます。

2004年に世界遺産登録された後、熊野古道のプロモーション活動が本格化。2011年度には約1,200人だった外国人観光客が、2016年度には3万人を超え、約25倍に増加しました。2021年には世界的ガイドブック「ロンリープラネット」が選ぶ「世界の訪れるべき観光地トップ500」で国内2位(全体83位)にランクイン。外国人客の多くが欧米や豪州からの旅行者である点も特徴です。

また、事例1つ目として紹介したスペイン巡礼の地であるサンティアゴ・デ・コンポステーラ市との共同プロモーションを実施。デジタルマーケティングや多言語発信などにも早期に着手しています。この地域のDMO「田辺市熊野ツーリズムビューロー」は、先進的な取り組みを行うDMOとして、観光庁から国内に3法人しかない「先駆的DMO」にも選定されています。

3. 四国八十八ヶ所遍路(日本・四国)

四国4県をまたぐ四国遍路は、弘法大師(空海)にゆかりのある88か所の霊場を訪れる巡礼です。約30日〜60日間をかけ、全長約1200kmを歩きます。徒歩での遍路が最も伝統的な方法ですが、バイクや自転車の遍路も多く、タクシーやバスなど公共交通機関を使う人も。貸切バスを使った「団体お遍路ツアー」を観光している旅行会社もあります。

熊野古道と比べてお遍路さん(巡礼者)の数は多くはないですが、歩き遍路に占める外国人比率は上昇傾向にあり、2017年で16.6%を記録。10年前の10 倍にまで増えています。訪日旅行需要が拡大し、エコツーリズムやアウトドアツーリズム人気も背景に、手付かずの自然や日本の原風景を体験できる四国遍路の注目が高まっています。

こちらもロンリープラネットが選ぶ「Best in Travel2022」の地域部門で四国が6位に選ばれるなど認知度は徐々に上昇。一方で外国人誘客には課題も多く、早急な受入態勢の整備が求められています。

<参照>

国土交通省 四国運輸局:令和元年度“歩き遍路”を目的とした欧米豪からの訪日外国人旅行者の受入環境整備対策事業

四国経済連合会(四国アライアンス地域経済研究分科会):新時代における遍路受入態勢のあり方

遍路ツーリズムの観光業におけるメリット

世界的に注目が高まる巡礼ツーリズムは、観光振興や地域活性化の観点から多くのメリットがあります。

1. 地方への誘客・周遊観光の促進

巡礼路は地域を跨いで続く場合が多く、巡礼路の誘客を促進すればエリア全体での観光促進に繋がります。宿などの受入体制を整備することで、今まで観光客が少なかった場所でも国内外の旅行者誘客を見込める点も大きなメリットです。

2. 長期滞在の増加による観光消費額の底上げ

例えば熊野古道であれば最低5日、四国遍路であれば30日以上かかる巡礼の旅。巡礼前後の滞在や途中休憩などを含めると、巡礼予定日数以上の長期滞在が見込めます。宿周辺の飲食店や商店では売上増加も狙うことができ、観光消費額の底上げを目指すことができるでしょう。

3. 欧米豪を中心とした高付加価値旅行者の誘客促進

スペイン巡礼の影響もあり、特にヨーロッパでは巡礼路の認知度は高い傾向にあります。夏のバケーションなど長期休みを取りやすいこともあり、巡礼ツーリズムは欧州からの誘客に効果的です。また北米やオーストラリアなどでも歩き巡礼の人気は高く、アジア圏の観光客が多い日本の地方において、新規市場開拓のきっかけとなる可能性があります。

欧米豪市場の旅行者は高付加価値旅行者(訪日旅行1回あたりの総消費額が1人100万円以上の旅行者のこと)の割合も多く、地域経済活性化にもつながります。

遍路ツーリズム推進の課題

地方への誘客策のひとつとして期待が高まる遍路ツーリズムですが、推進にあたっては解決すべき課題もあります。

1. 受入環境整備にコストと時間がかかる

広域にわたる巡礼路において、宿の整備や多言語対応、外国語スタッフの配置などには大きなコストと時間がかかります。人口減少や高齢化といった課題に直面している地域も多く、担い手不足も大きな課題です。

2. 地域住民の理解が必要不可欠

巡礼路において地域住民の理解と協力は必要不可欠です。道路や標識の整備、道案内、四国遍路の「お接待文化(お遍路さんをもてなすこと)」などは、地域住民の協力があって成り立つものです。住民への理解促進と、観光客へのマナー周知などが必要だといえます。

3. 広域連携が必須

特に四国遍路などは自治体をまたいでの巡礼ルートであるため、受入環境の整備やプロモーション活動はエリア全体で足並みを揃える必要があります。国をあげて運営体制を構築しているスペイン巡礼などの事例を踏まえて、エリア全体での誘致活動を進めていくことが大切です。


今後も外国人を中心に人気が高まっていくと予想される遍路ツーリズム。観光振興はもちろん、地域活性化策のひとつとして、期待が高まっています。

拡大する訪日需要に合わせて、国と自治体、地域が連携して取り組みを進めることが大切です。

以上、「巡礼ツーリズム」連載の第一弾をお届けしました。第二弾となる次回は、近年、外国人観光客の注目度が上昇している「四国遍路」について。直近のお遍路×インバウンドの状況や、各自治体の誘客の取り組みなどをご紹介していきます。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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