コロナ禍によって世界の観光産業が大きな打撃を受けました。その後、コロナ禍の収束とともに世界の観光需要が本格的に回復し始め、日本でも多くの外国人観光客の姿を見かけるようになりました。
今回は、UN Tourism(世界観光機関)が発表したデータをもとに、2023年に世界で最も観光収入が多い国はどこなのかを紹介するとともに、その国の「稼ぐ観光」の地域事例を紹介します。
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外国人旅行者数が多い国は「フランス」
本題に入る前に、2023年の「外国人旅行者受入数ランキング」を見ていきましょう。
UN Tourism(世界観光機関)が発表したデータによると、1位はフランスで、2位以降はスペイン、アメリカ、イタリア、トルコが続いています。フランスは観光資源が非常に豊富で、多くの旅行者を魅了しています。首都であるパリでは、エッフェル塔や凱旋門などの歴史的モニュメントに加え、ルーヴル美術館やオルセー美術館では名作の数々を間近に鑑賞できます。また、ルイ・ヴィトンやエルメスなどのハイブランドの本店が立ち並ぶなど、パリだけでも多くの観光スポットがあります。
コロナ禍前の2019年もフランスが1位で、スペイン、アメリカ、中国、イタリアと続いています。日本は2023年こそランク外でしたが、2019年は3,188万人で12位にランクイン。アジアでは中国、タイに続いて3位にランクインしました。
世界で最も観光で稼いでいる国は「アメリカ」
一方、2023年の「国際観光収入ランキング」では、フランスではなくアメリカが1位に輝きました。
2位はスペインで、イギリス、フランス、イタリアが続いています。驚くべきはその収入額で、1位のアメリカは1760億USドルと、2位以下を大きく引き離しているのが特徴です。「外国人旅行者受入数ランキング」で1位に輝いたフランスが686億USドルのため、アメリカのほうが3倍近く稼いでいる計算になります。
アメリカが観光収入でトップに立つ理由は、国土の広さと多様な観光資源にあり、アメリカ大使館の公式マガジンによると、ニューヨーク州やフロリダ州、カリフォルニア州などが渡航先として人気のようです。
アメリカはいかにして「観光収入」を稼いでいるのか、地域の事例2選を紹介
外国人旅行者受入数ランキング1位のフランスと、国際観光収入ランキング1位のアメリカ。国土の広さでは圧倒的にアメリカに軍配が上がりますが、観光資源の多さで言えばフランスもアメリカも同様です。ではなぜアメリカは、「観光収入ランキング」で1位になれたのでしょうか。
ワイナリーで有名なナパ・バレー(カリフォルニア州)と、日本人からも馴染み深いハワイの2つの地域事例を読み解いていきましょう。
ナパ・バレー:超富裕層をターゲットに
カリフォルニア州ナパ・バレーは特産品のワインが世界的な成功を収めており、観光業としてもワイナリー巡りを目玉コンテンツとしています。
ナパ・バレーのDMOでは、地元の農家やワイナリーのブランド単位のマーケティングではなく、「ナパ・バレー」という地域そのものをブランディングしていくことに注力したといいます。マーケティング担当を複数設け、展示会やソーシャルメディアなどの露出先をそれぞれ専任で担当。富裕層向けサービスとしては欠かせないウェルカムセンター(観光案内所)にもゲストサービスのプロを配置したそうです。
ワインのブランディングに成功した後は、農産物を目玉にした観光の確立に着手。「超富裕層に混雑した旅は向かない」ということで平日の昼のツアーを売り込みました。狙いは当たり、時間とお金のある富裕層が訪れるようになったということです。
関連記事:「超富裕層をターゲットにせよ」先進的DMO・カルフォルニア州 ナパ・バレーが仕掛ける世界戦略
ハワイ:90年代ハリケーン被害・バブル崩壊による観光客減少からの鮮やかな回復
日本人にとってはバカンスやブライダル、ハネムーン先として馴染み深いハワイですが、世界的に知られる一大リゾートとして愛される理由は、観光地として複合的な魅力を備えているから。海や山といった魅力的な自然から、ショッピング、食の楽しみまで、あらゆるコンテンツが旅行者を魅了しています。
しかし実は1990年代、ハリケーン被害や日本のバブル崩壊で観光客は一時減少していました。その際に観光客を呼び戻すべく創設されたのがハワイ州観光局(HTA)です。「経済再活性化専門調査班」による観光マーケティング方針の提言を経て、観光特定財源の確保や観光戦略プランの策定などを行い、数年間で観光客数を回復させたという実績があります。
具体的には、計測可能な目標の設定、市民とのコミュニケーションプランの策定、重点地域ごとに効率的なマーケティング戦略の策定と現状分析を行い、予算配分に活かすなどの取り組みを行っています。
(ちなみに日本のハワイ人気、そしてバブル崩壊による観光客減少の影響は絶大だったようで、この時にも日本が最重点地域の一つに設定されています。他2地域は米国、ハワイ・コンベンション・センターとどちらも米国内であることから、日本の特異性が見てとれます)
その後は持続可能な観光業の実現へ
90年代の危機は脱したハワイですが、近年では観光客の殺到による「オーバーツーリズム」が問題となっています。コロナ禍前から対策を実施していましたが、コロナ禍を経て再び問題が顕在化していることから、いち早く予約制の導入や鉄道「スカイライン」の一部営業開始などを進め、増加する観光客への対応をはかっています。
さらにハワイ州観光局が主導し、観光客だけでなく住民の満足度も重視する持続可能な観光業の実現を目指してきました。州議会では観光局の再編なども議論されているようですが、先進的取り組みを行い、観光業を発展させてきたのは確かです。
観光で「稼げる」国を目指して
日本では観光を「力強い経済を取り戻すための極めて重要な成長分野」と位置づけ、2023年には観光立国推進基本計画を閣議決定しました。
2023年(令和5年)版の観光白書では、日本の観光産業における生産性の低さや人材不足といった積年の構造的課題がいっそう顕在化していることに触れ、これらの構造的課題を解決するために、観光産業において「稼ぐ力」(収益)を強化することが早急の課題だと指摘されていました。
続く2024年(令和6年)版の観光白書では、外国人延べ宿泊者数の約7割が三大都市圏に集中している状況で、消費額をみても三大都市圏の数字が顕著となっており、地方誘客の促進が課題と指摘されています。
観光庁は、地方誘客の促進に向けて、地域ならではの観光資源を生かした魅力の向上や発信が必要だとしていて、また、消費額拡大については次のような要素が必要だとしています。
- 豊かな自然・文化・食など、地域独自の資源を生かした地域ならではの質の高い体験コンテンツの造成・磨き上げ
- 地域内外のさまざまな主体との連携などによる広域周遊の促進や戦略的な発信
- 滞在体験の魅力向上などによる長期滞在の促進
観光人材や交通手段の確保など、各地域における供給面の課題を踏まえ、受け入れ環境の整備・拡充に取り組むことが求められています。他にも観光地・観光産業の高付加価値化によって収益性を向上させ、地域経済に還元する好循環の構築が重要だとしています。
ナパ・バレーのように富裕層や高付加価値旅行者をターゲットとした戦略を推し進めること、そしてハワイのように観光客の受け入れと住民生活の質の確保を両立させつつ、持続可能な観光地域づくりを促進することが求められています。
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<参照>
UN Tourism(世界観光機関):Global and regional tourism performance
琉球銀行調査部:特集レポート:観光先進地事例研究 ~ハワイの観光改革に学ぶ~
読売新聞:観光客急回復のハワイで「オーバーツーリズム」対策、人気のハナウマ湾など予約制に
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