観光庁は8月6日、文化観光推進法に基づき、新たに2件の取り組みを大臣認定しました。
認定されたのは石見銀山世界遺産センター(島根県)と香川県立ミュージアム(香川県)で、認定された計画は2024年8月現在、計53件です。認定を受けた計画は費用面を含めさまざまなサポートを受けられます。
本記事では、新たに認定された2件の取り組みの概要や魅力について紹介するとともに、インバウンド誘客の可能性について考察します。
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「文化観光推進法」とは?
「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律(文化観光推進法)」は、地域の文化を観光資源として活用し、地域全体の活性化を図るための法律です。
これまで連携が進んでこなかった地域の文化施設や観光施設、観光事業者等をつなぎ、文化・観光・地域の間に有機的な好循環を作ることを目的としています。
過去には小樽芸術村(北海道)や水木しげる記念館(鳥取県)、富岡製糸場(群馬県)などが認定されていて、今回新たに石見銀山世界遺産センター(島根県)と香川県立ミュージアム(香川県)が認定されました。
計画の実施地域 |
主な申請者 |
文化観光拠点施設 |
島根県大田市 |
大田市 |
石見銀山世界遺産センター、いも代官ミュージアム、龍源寺間歩 |
香川県高松市 |
香川県立ミュージアム |
認定の基準について
文化観光推進法に基づく計画の認定には、どのような基準があるのでしょうか。
基準のひとつは、地域における文化観光推進の拠点となる、いわゆる「文化観光拠点施設」があること。文化観光とは文化資源の観覧などを通じ、文化についての理解を深めることを目的とする観光を指します。
「文化観光拠点施設」については、以下を満たしていることを条件としています。
- 文化資源の保存及び活用を行う施設(文化資源保存活用施設)のうち、
- 観光旅客が文化についての理解を深めることに資するよう解説・紹介をするとともに、
- 文化観光の推進に関する事業を行う者(文化観光推進事業者)と連携するもの
たとえば令和2年度に認定された「大原美術館を中核とした倉敷美観地区の文化・観光推進拠点計画(岡山県)」では、大原美術館を文化観光拠点施設に設定しています。大原美術館を含む一帯は倉敷美観地区の名称で親しまれ、地域の歴史・文化が学べる博物館施設も近隣に点在しています。江戸時代から残る街並みや地域のさまざまな魅力を大原美術館を拠点に国内外へ発信しています。
また、令和3年度に認定された「長崎県文化観光推進地域計画(長崎県)」では、世界遺産である「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を中心に観光振興計画を策定。世界遺産を構成する遺跡や施設が県内に点在しているため、交通アクセスの利便性を高め、エリア全体における誘客促進を目指しています。
このように、国内外の観光客にとって魅力的な文化観光資源とそれをわかりやすく伝える拠点を有していること。そしてエリア全体で文化と観光振興を目指す取り組みが進んでいることが、認定の基準となっていると言えそうです。
新たに認定された2件の概要
令和6年度に新たに認定された2件について概要と計画の目的を紹介します。
世界遺産「石見銀山遺跡とその文化的景観」文化観光推進地域計画
まずは島根県の「世界遺産『石見銀山遺跡とその文化的景観』文化観光推進地域計画」について見ていきます。島根県大田市の世界遺産「石見銀山」を中心に、銀山と地域が紡いできた歴史・文化を国内外に向けて情報発信し、交流人口の拡大や文化観光の推進に取り組む計画です。
石見銀山は1527年に発見されて以後本格的な開発が開始され、日本を「銀の島」と呼ばせるほどの世界的な銀生産国に導き、当時の世界経済に大きな影響を与えました。さらに江戸幕府による循環型の森林管理により、周辺の植生を維持。「環境に負荷を与える鉱山において、自然と共生していた」という点も大きく評価されて世界遺産に登録されています。
一方で、石見銀山は複数の遺跡の集合体であり、他の世界遺産に見られるような壮麗な建造物や景観美があるわけではありません。それぞれの遺跡の説明がなければ“よくある山”にしか見えず、街並みに風情はあるものの日本の地方では一般的な景観として捉えられがちです。
今回の認定をきっかけに、改めて個々の遺跡が持つ歴史的価値の発信を強化するとともに、周辺の文化施設をつなぎ、観光客が地域内を回遊する仕組みづくりを目指しています。
香川県立ミュージアムを中核とした文化観光推進拠点計画
香川県では独自の地理的条件の中で、古代から近世、現代に至るまで、多彩な文化・芸術が花開いてきました。とくに近年は瀬戸内国際芸術祭が国際的な知名度を高め、国内外から観光客が訪れています。
今回の計画では、香川県の文化芸術に触れる“ゲートウェイ”として「香川県立ミュージアム(高松市)」を拠点に設定。誰でも気軽に訪れられる美術館を作るとともに、ミュージアムを拠点に地域全体の深い文化理解とカルチャーツーリズムの促進を目指します。
現状の課題としては、外国人観光客に対する周知と受入体制が不十分であること。また、近接する文化施設や観光施設、観光事業者同士の連携が不足しており、香川県の立地の良さを誘客に活かしきれていないことが挙げられます。
今回の認定をきっかけに、国内外への情報発信と地域連携の強化を進め、エリア全体で文化観光の振興を進めたい考えです。
インバウンド誘客の可能性
新たに認定された2件のインバウンドにおける影響と可能性について、過去の事例とも比較しながら整理していきます。
石見銀山遺跡を拠点にした文化観光振興の可能性
最盛期には世界の銀生産量の約3分の1を占めた日本銀の多くが産出され、坑道(こうどう)跡や工房などの保存状態の良さが石見銀山の大きな魅力です。また、日本の原風景を彷彿とさせる歴史的風土が残っており、「全世界に対して強力な訴求力をもつ観光資源(計画より)」と言えます。
こうした強みは、外国人観光客に対しても大きなアピールポイントです。たとえば、石見銀山のある大田市と同様に、歴史・文化・自然を主たる観光資源としている島根県出雲市では、令和4年の外国人宿泊客数は1,581人を記録。大田市は178人のため、約9倍にものぼります。
石見銀山の課題である「魅力のわかりづらさ」や「交通アクセスの不便さ」を改善すれば、「世界に大きな影響を与えた歴史ある場所」として、出雲市同様に外国人誘客を促進することは十分可能でしょう。
また、石見銀山は産業と自然が共存できた文化的背景があるなど、世界でも稀な事例を有しています。世界的に人気の高まるエコツーリズムの観点からも、より多くの観光客にアピールできる力を持っているといえます。
関連記事:エコツーリズムとは|歴史や日本における事例・課題を解説
香川県立ミュージアムを中核とした文化観光振興の可能性
時代ごとに、多彩で重層的な文化芸術を生み出してきた香川県。「アート県」としての国際的な人気はすでに高まりつつあります。
また、うどんやオリーブ、醤油産業など、気候を活かした特色ある食文化や産業も魅力であるほか、大阪をはじめ各都市からのアクセスもよく、LCCが就航する高松空港などもあり、利便性は年々高まっています。
こうした強みを活かして、たとえば令和4年度に認定された「大阪市立美術館を拠点とした文化観光拠点計画2022-2026(大阪府)」のように、周辺施設や交通企業などと連携したエリアマーケティングに取り組むことも可能です。
また、「大分県立美術館(大分県)」のように、香川県立ミュージアムが地域の文化・芸術観光のハブとして機能することで、地域全体でカルチャーツーリズムのメッカとして国内外に訴求していくこともできるでしょう。
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<参照>
- 文化庁
- 島根県:石見銀山の歴史
- 出雲市:出雲市の観光動向
- 観光庁:文化観光推進法に基づく拠点計画及び地域計画の認定
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