観光客増え過ぎ問題「オーバーツーリズム・観光公害」が世界中で警鐘/を国連世界観光機関(UNWTO)が提唱する新常識「持続可能な観光(サステイナブルツーリズム)」とは

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近年では「オーバーツーリズム」「観光公害」という言葉がよく聞かれるようになっています。

今年9月に行われた「ツーリズムEXPOジャパン2018」でも、国連世界観光機関UNWTO)事務局長、世界旅行ツーリズム協議会WTTC)理事長の講演や、世界12か国の観光大臣による会合など、世界の観光リーダーがこの問題に言及しています。

今回は「開発のための持続可能な観光の国際年」の成果を中心に、オーバーツーリズムに陥らない理想の状態について紹介しながら、オーバーツーリズムに取り組むメリットを考察します。

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オーバーツーリズムと観光公害

観光公害は観光によって起こるさまざまな弊害のことで、オーバーツーリズムは特に観光客の増加によってさまざまな弊害が起こる状態を指します。観光公害の多くは観光客の増加によるものなので、二つの言葉は同じような意味で使われることもあります。

オーバーツーリズムは現代において、世界中で問題になっています。

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他にもフィリピンボラカイ島では、観光客の急増により大量のごみや汚水の問題が深刻化しました。フィリピン政府では今年4月に観光客の受け入れを禁止。国ではインフラなどの整備や、他の島への需要分散の推進などを行ってきました。今年10月から段階的に、新しい環境基準を満たした観光事業者の事業再開が認められています。


▲ボラカイ島では美しいビーチを取り戻す取り組みが行われている
タイマヤ湾は、人気俳優レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ザ・ビーチ」の舞台として有名になりました。人気を集める一方、サンゴ礁が破壊されたり、海の生態系が見られなくなったりと自然環境の破壊が進みました。

今年4月、タイ国立公園・野生動物局は今年6月から4か月間にわたって観光客の入域を禁止する決定をしました。今後も毎年、定期的に入域禁止期間を設けていく方針です。

オーバーツーリズムに陥らない理想の状態とは? 「開発のための持続可能な観光の国際年」の取り組み

オーバーツーリズム観光公害と対になる概念として、「持続可能な観光サステイナブルツーリズム)」について考えてみたいと思います。

国連では、国連をはじめ全世界の団体・個人に、特定の事項に対して重点的に問題解決を呼びかける「国際年」を制定していますが、2017年は「開発のための持続可能な観光の国際年」と定められました。

この背景には、2015年の国連「持続可能な開発サミット」で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs、Sustainable Development Goals)の存在もあります。
▲「持続可能な開発目標」(SDGs、Sustainable Development Goals)/国際連合広報センターより
▲「持続可能な開発目標」(SDGs、Sustainable Development Goals)/国際連合広報センターより
SDGsは持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されています。UNWTOではその中でも「ゴール8 働きがいも経済成長も」、「ゴール12 つくる責任つかう責任」、「ゴール14 海の豊かさを守ろう」を重点目標としています。

さらに「開発のための持続可能な観光の国際年」においては、観光が貢献できる領域として次の5つをあげています。

  1. 包括的・持続的な経済発展
  2. 社会的な関わり、雇用拡大や貧困の撲滅
  3. 資源の有効活用、環境保護や気候変動
  4. 文化的価値、多様性、遺産
  5. 相互理解、平和、安全

「開発のための持続可能な観光の国際年」では年間を通じて、持続可能な観光の推進に向けたさまざまな取り組みが行われました。国連関係では、例えば次のような取り組みです。

  • 「責任ある旅行者になるためのヒント」の発信
  • ボランティア・ツーリズム、エコツーリズムなどに関するトークセッション(国連大学サステイナビリティ高等研究所)
  • 「持続可能な観光国際年」をテーマにした講演会(国連世界観光機関駐日事務所東京事務所開設記念)
  • 持続可能な観光と企業の健全な発展などをテーマにした特別講演会(国連世界観光機関駐日事務所、東洋大学との共催)
  • ハローキティを持続可能な観光国際年の特別大使に任命、動画でPR

この国際年にあわせ、観光庁でも取り組みを行いました。2017年10月には岡山県岡山市三重県鳥羽市で「持続可能な観光国際年」記念国際観光シンポジウムを開催。

岡山市のシンポジウムのテーマは「遺産、自然、そして人が関わりあう観光モデルに向けて」。そして鳥羽市では「観光業の持続可能な発展における女性の役割」。鳥羽市周辺では古くから海女など女性が活躍しています。ここでは観光業界で女性が中心的な役割を果たしている事例などが発表されました。

「持続可能な観光」の議論が深まる

年間を通してさまざまなシンポジウム、講演会が行われることで「持続可能な観光」とは何かという議論が深まりました。また多くの人に、これが現代の観光において最先端で重要な課題であることが発信されました。

この国際年が終わってから、オーバーツーリズムの問題はよりクローズアップされるようになってきました。先見の明のある国際年制定だったと言えるでしょう。

観光庁では今年6月、「持続可能な観光推進本部」を設置しました。顕在化する問題事例を把握するとともに、対応策を検討するものです。海外や国内の事例調査も始まっているようです。

今後本格的に、継続的にこの問題に取り組もうとしていることがわかります。

まとめ:オーバーツーリズムに陥らない、持続可能な観光に取り組むメリット

オーバーツーリズムは、「観光客が増えすぎて住民が困っている」という視点のみから見られがちです。しかし今回見てきたように、オーバーツーリズムに陥らない「持続可能な観光」を目指すことを考えると、さまざまな角度から掘り下げて考えることができます。

例えば、次のような考え方ができます。

  • 観光客の増加により住民に悪影響が及ぶ可能性があるという側面もあるが、観光により経済活動が促進され、地域に雇用が生まれるという側面もある。特に現代の日本で、観光は貴重な成長産業である。
  • 自然を売りにする観光地で、観光客の増加により自然環境が保全できなくなると、住民の生活環境に影響が及び、また故郷の誇りが崩壊するだけではなく、観光地としての魅力も失われ、経済活動も縮小する。またその地域の自然の生態系が破壊され、生物の多様性が失われ、それが地球全体へ影響を及ぼす可能性もある。
  • 観光客の増加によってごみが増えることは、地域住民の生活環境が悪化するだけでなく、自然環境の汚染、川や海の汚染にもつながり、地球全体へ影響を及ぼす可能性もある。
  • 観光が持続可能なものであるためには、従事する人が働き続けられる環境であることも重要。女性が働き続けられる場となる可能性もある。
  • オーバーツーリズムはその地域だけではなく、地球全体の問題にもなりえる。

インバウンド客の中でも、こうした意識を持つ客がこれから増える可能性があります。彼らはその地域の住民のためだけではなく、地球全体のため、そしてその一部である自分のために、持続可能な観光のできる目的地を選ぶでしょう。

こうした中で、その地域での持続可能性を考慮して観光の企画を立てることは、地域の住民に貢献するだけでなく、インバウンド客の支持を得て、長期的にインバウンド客を呼び込むことにもつながるのではないでしょうか。

今後、新しい観光の企画で人気を集めるためには、持続可能かどうかという視点を持つことが不可欠になるのではないかと考えられます。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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