「中国人マナー違反は、文化の違い」450万フォロワーの在日中国人インフルエンサー「林萍在日本」がコンテンツに込める思いとは(前編)

「中国人マナー違反は、文化の違い」450万フォロワーの在日中国人インフルエンサー「林萍在日本」がコンテンツに込める思いとは(前編)

日本のインバウンド市場で、「KOL」と呼ばれる在日中国人インフルエンサーの存在が注目を集めています。KOLとはキーオピニオンリーダーの略で、多数のファンを持ち、その発言や行動、ライフスタイルがファンに影響を与えるような人物を指します。

活躍の場は、主に「微博(ウェイボー)」と呼ばれる中国のSNSです。微博(ウェイボー)といえば、最近では、お笑い芸人の渡辺直美さんや、ジャニーズの木村拓哉さんなど芸能人、株式会社ZOZO社長の前澤友作氏など実業家たちが相次いで公式アカウント開設しています。

KOLとは?

インバウンド業界でよく聞くKOLは一般的にはあまり知られていません。日本ではインフルエンサーと似ている使われ方をされるのがKOLなんですが、一体どんな意味なのか、インフルエンサーと比較してどんな違いがあるのかを解説していきます。さらに今回は、KOLを活用した効果的なマーケティング手法も合わせて解説していきます。KOLとは?インフルエンサーと何が違う?SNSが普及された現在、日本ではインフルエンサーというSNSなどで影響力のある人を活用したプロモーションが注目されています。近年、インバウンド...


「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」さんは、日本に拠点を置き、日本の情報を発信する在日中国人KOLのひとりです。2019年5月現在、彼女の微博(ウェイボー)アカウントのフォロワーは450万人を超えます。「林萍在日本」は、日本語で「日本在住の林萍(リンピン)」という意味。

▲[「林萍在日本」トップ画面。フォロワー数450万人]:「林萍在日」微博(ウェイボー)より引用
▲[「林萍在日本」トップ画面。フォロワー数450万人]:「林萍在日」微博(ウェイボー)より引用

驚くべきは、2018年中国人訪日外客数838万人の約半数に匹敵するフォロワー数を持つということです。そして、彼女は主に「日本」の情報を発信しているので、フォロワー層は450万人の「日本好きなコアファン」ということになります。

はたして、なぜ彼女はこれほど多くの中国人ファンに支持されているのでしょうか。そして、彼女の活動がインバウンド市場にどれほど影響をもたらすのでしょうか。今回は連載「橋梁(チャオリャン)」のvol.1として「林萍在日本」(以下、林萍氏)ご本人に、話を聞かせてもらいました。前編と後編に分けて、余すことなくお届けします。

▼連載「橋梁(チャオリャン)」

インバウンドにおいて、圧倒的なシェア率を誇る訪日中国外国人。連載「橋梁(チャオリャン)」では、中国マーケットのインバウンド・アウトバウンド分野で話題の「人物・企業」を筆者独自の視点で深堀。インバウンド企業やインバウンド担当者、潜在層向けに、“現場取材”のトレンド情報を届けます。

▲[林萍在日本(リンピンザイリーベン)さん]
▲[林萍在日本(リンピンザイリーベン)さん]

さまざまな苦境を乗り越え、「本当に日本好きなファン層がいる」と確信

微博(ウェイボー)アカウント「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」の誕生は2012年に遡ります。その背景には、同年に勃発した尖閣諸島問題が深く関係しています。当時、反日デモの影響によって中国国内のメディア規制は一層厳しくなり、マスコミも日本の情報を自粛する動きを見せていました。もともと日本アニメやドラマ・映画の大ファンだった林萍氏は、そういった状況に疑問を抱き、「私が日本の情報を中国に向けて発信し続ければ、きっと誰かのためになる」と、考えたといいます。
▲[2012年8月 反日デモが勃発 ※画像はイメージです]
▲[2012年8月 反日デモが勃発 ※画像はイメージです]
日中関係は冷え込み、「日本大嫌い」、「日本行きたくない」という声がネット上で飛び交うなかで、日本に興味を持っているフォロワー(中国SNSではファンと呼ぶ)のために、毎日微博(ウェイボー)での情報発信は欠かさなかったといいます。日本の情報を継続的に発信するアカウントは指で数えるほど少なく、林萍氏は、当時をこう振り返ります。

「『日本の情報をもっと配信してほしい』『こんな情報を待っていた』といったコメントが相次ぎました。実は、本当に日本を好きな一定の層がいる。その人たちのために、日本の情報を発信し続けることを決意しました」(林萍氏)

こうして、林萍氏は反日デモの影響で逆風を受けるどころか、着実に日本好きなコアファンを増やしていくことになるのです。

インバウンド時代到来、「先見の明」があった

2011年東日本大震災や、2012年の反日デモの影響によって、外部環境が苦境を迎えるなか、彼女は一貫して微博(ウェイボー)で日本の情報を絶やすことなく、発信し続けます。 2014年、円安の影響や中国人に対するビザ発給要件緩和が発表され、明るい兆しが見えたといいます。

「今後、きっと日本へ旅行する中国人が増えて、訪日ブームが起きる。日本と中国を深く理解している私だからこそ、発信できることがある」と感じた林萍氏。その時、微博(ウェイボー)フォロワー数は、70万人を超えていました。
▲[訪日ブームの予兆を感じた ※画像はイメージです]
▲[訪日ブームの予兆を感じた ※画像はイメージです]

「日本の情報を発信し続けた歴史」から、「今」がある

今でこそ、450万人超のフォロワー数を持つ彼女ですが、活動を始めた当初は、決して順風満帆ではなかったといいます。

「ネットで企業のプレスリリースを見て、面白そうなコンテンツを探していました。自ら取材依頼の連絡をするものの、企業やお店から相手にされないことが多々ありました」(林萍氏)

やがて、2015年頃から一気に訪日ブームが到来し、訪日中国人の購買力が証明された「爆買い」が話題に。それらの後押しもあり、徐々にKOLとしての活動の場を広げていったといいます。2015年から2017年で微博(ウェイボー)のフォロワー数は急増したという林萍氏。一方で、次のように断言しました。

「当時からの積み重ねが大事。昔からのファンのほうが、ロイヤルティが高いです」(林萍氏)

その言葉から、昔から一貫して日本の情報を発信し続ける「ブレない姿勢」と、それを支持してきたファンたちとの「強固たる絆」は、外部環境に左右されない強いものを感じさせました。

彼女がファンに支持される3つの理由

微博(ウェイボー)で450万人のフォロワーを持ち、在日中国人KOLのなかでも群を抜く人気ぶりの林萍氏。筆者が最も関心を持ったのは、「一体、彼女の何がそこまでファンを惹きつけるのか」という点です。取材を進めていくうちに、3つの理由が見えてきました。

1、応援したくなる「キャラクター像」

KOLは大きく2つのタイプに分類されます。人物像の存在を消して情報メインを配信する「情報系KOL」と、親近感あるキャラクター像の「人格系KOL」に分かれ、微博(ウェイボー)アカウント、「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」は後者に属します。

キャラクター像は、「日本に住んでいる30代の中国人女性、明るい性格で、食べ物が大好き」と、細かく設定しているといいます。

「『日本に住んでいる』という色を活かして、応援したくなる、憧れを抱く存在。かといって遠すぎず親近感あるキャラクター像をブランディングしています。基本的に私の性格を反映させながら、情報も加味して発信しています。単に情報を発信するだけだと、フォロワーは発信側(人物像)のイメージが沸かず、意図が伝わりづらいです。影響力がなければ、KOLとして成立しません」(林萍氏)

このように、細部にわたってブランディングされ、「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」が誕生しているのです。ファンが魅了される背景には、彼女の自己プロデュース力の高さがあるといえます。

2、コンテンツに魂を込める

微博(ウェイボー)アカウント「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」の平均投稿数は1日10件以上にのぼります。内容は、日本の芸能やバラエティ、観光地やおすすめの日常用品、時事ネタなど多岐にわたります。それらも全て、情報が偏らないようバランスよく計算しコンテンツを盛り込んでいるといいます。

「微博(ウェイボー)で、単に日本の情報を発信するだけでは、ファンに受けません。多彩なコンテンツの中に、面白さや知識、役立つ情報を盛り込みます。そして、それらの情報に必ず自分の意見を加味して配信しています。そうすると、そのコンテンツには魂が宿ります」(林萍氏)

彼女がファンから支持を得ている理由は、実際に体験して感じた率直な意見を、言葉にして発信している点です。そこに信ぴょう性が生まれ、自然と受け手側も受け入れやすい状態を築き上げているのです。
▲[“令和”発表の4分後に投稿。言葉の意味や万葉集にも言及]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
▲[“令和”発表の4分後に投稿。言葉の意味や万葉集にも言及]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用

▲[親近感ある投稿をする林萍氏]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
▲[親近感ある投稿をする林萍氏]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用

3、「日本の常識」は、「文化の違い」と捉える

日本には四季折々に楽しめるイベントが満載です。訪日外国人にも人気なお花見の季節になると、微博(ウェイボー)は、日本の美しい桜の写真で溢れかえります。しかし、それらとは一味違った彼女の投稿に、筆者は感銘を受けました。林萍氏の投稿は、単に美しい桜の写真やお花見動画にとどまりません。「桜の枝は持たないで」、「ここのスポットはお酒持ち込み禁止」など、日本のマナーも伝えながら鑑賞する醍醐味を発信しています。発信の意図に、彼女は凛とした表情で次のように語ります。

「日本人のたくさんのあたりまえは、観光客にとって知らない常識です。それをピックアップして、自身でかみ砕いて、ファンに伝えています。昔からそのスタイルは変わりません」(林萍氏)
▲[福岡でのお花見ライブ配信、視聴者数は265万回にのぼる]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
▲[福岡でのお花見ライブ配信、視聴者数は265万回にのぼる]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
林萍氏は、日本人の「常識」を自身で研究して伝えています。例えば、割烹・小料理屋などで寿司や刺身を堪能したい訪日中国人のために、「わさびは小皿に入った醤油に溶かさず、お刺身に少量のせる」などの食事マナーもそうです。これらは、すべて中国では馴染みのないマナーです。このように、物事を客観的に「異文化」として捉え、コンテンツへ変換できるのには、彼女ならではの発想や着眼点があってこそといえます。

「中国人は日本のマナーを知らないことに、少しだけ恥ずしさを抱きつつ、改良したいとも思っています。それらの多くの常識は、外国人にとって文化の違いでもあり、仕方のないことです。その知見を一人でも多くのファンに広めることができれば、少しでもマナー改善に繋がるのでは」(林萍氏)

そういった情報発信によって、彼女のファンたちは年々日本を深く理解しているといいます。日本と中国の文化を理解しているからこそ、日常生活から「異文化」を切り取ってコンテンツへと変換する。そういった働きかけが、ファンにとって「知見を得る」コンテンツとなり、支持を得ているのです。

「単純なパッケージ」では、ウケない時代に

冒頭で少し触れましたが、近年、微博(ウェイボー)にアカウントを開設する日本の有名人が後を絶ちません。日本の“YouTuber”も例外ではなく、Youtuber本人の画像や動画に、中国語字幕を表記して配信されるパターンが多く見受けられます。そういった状況について、「ローカライゼーションせず、単純に字幕表記だけでは難しい」と、林萍氏は語ります。彼女にはそのハードルがない強みもある一方で、中国に匹敵する「コンテンツの質」が問われるといいます。

「昔は、単純に画像や動画に字幕や自身の意見を少し取り入れて紹介するだけで、ある程度反響がありました。今は、工夫や加工など「包装」を施したコンテンツが要求される時代になっています。中国のコンテンツの背景には恐ろしいほど大勢の人が動いています。それに匹敵するンテンツ作りを目指すと、相応の時間と労力が必要になってきます。私ひとりでは難しいので、今後さらに仲間を増やして、「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」をブランド化して成熟させたいです。今まさに、その道のりの途中です」(林萍氏)

後編は、林萍氏が語る「日本のコンテンツ発掘」や、「インバウンドプロモーション」をご紹介します。

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この記事の筆者

沖 えり

沖 えり

山口県生まれ。中国ハルビンの黒龍江大学に留学、中国在住歴8年。インバウンド事業を手がける外資系小売企業の広報を経て、2019年ライターに転身。「爆買い」時代から現場の取材経験を重ね、「インバウンド」「中国人」にフォーカスした原稿を得意としている。