コロナ禍によって長らく停止状態にある訪日旅行ですが、パンデミック前には外国人観光客数が右肩上がりに増加しており、年間3,000万人以上が日本に訪れていました。
外国人観光客が増加することで、日本は地方活性化や高い経済効果といったメリットが期待できます。さまざまな効果をもたらすインバウンド市場の回復に向けて、政府はすでにアフターコロナのインバウンド対策を打ち出しています。
本記事では、外国人観光客の増加によるメリットとデメリットへの対策、ウィズコロナ時代のインバウンド対策などについて解説します。
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訪日外国人観光客が増加、そのメリットとは?
2011年以降、訪日外客数は右肩上がりに増加を続けてきました。2018年には訪日外客数が3,000万人を突破し、3,119万人を記録しており、2019年は前年比2.2%増、過去最高の3,188万人となっています。なお新型コロナウイルス感染症の流行によって厳しい水際対策が敷かれたことなどから、2020年、2021年は訪日外客数が激減しました。
現在は停滞状態にある訪日外客数ですが、その数が増加することで具体的にどのようなメリットがあるのかについて理解している人は少ないようです。
以下では、訪日外国人増加によるメリットについて解説します。
1. 経済効果
現代の日本では少子高齢化や先行きの不安な情勢による貯蓄重視の動きによって、日本国民の消費量は今後低下を続けると見られており、そんな状況下で日本経済の基盤となりうるのが訪日外国人客のインバウンド消費です。特に2010~2015年頃の爆買いブームでは訪日中国人をはじめとした各国からの訪日客が多額の消費をしており、2015年の1年間における訪日中国人による旅行消費額は1兆4,174億円にものぼりました。
近年では爆買いブームは落ち着いてきたものの「コト消費」のブームが訪れており今後もインバウンド市場の経済効果には期待できそうです。
2. 地域活性化
訪日外国人客の増加は経済効果や金銭的消費だけでなく地域活性化にもつながります。
現在の日本では都心に若者が集中し地方の少子高齢化や過疎化が加速、若者の就職先がなくなり経済が回らなくなるという悪循環に陥っています。
そんな中で訪日外国人観光客誘致によるインバウンド消費は、地方創生のための切り札としての可能性を秘めており、地方の観光地化やプロモーションには国家レベルでも力を入れています。
訪日外国人客の消費によって地方財政が潤い、その地域に住む人々への手厚い社会福祉やインフラ整備、公共のサポートが可能になるという利点が考えられます。
3. 国際交流
訪日外国人観光客の増加は国際交流の機会にもなります。
島国である日本は技術や経済においては先進国といえますが、島国であるという地理的条件からも、他国との結びつきについては乏しいといわざるを得ません。
また、海外では母語が異なる他国の人とコミュニケーションを取る手段として英語を話せる人がほとんどですが、これまで国際交流の機会が少ない日本では日本語のみしか話せない人が大多数です。
実際に、世界最大級の語学学校、イー・エフ・エデュケーション・ファーストが2021年11月に発表した「世界最大の英語能力指数ランキング」によれば、日本の英語能力は112か国中78位で、下位3分の1のグループに分けられています。
訪日客増加による国際交流の機会は日本人にとって貴重な経験となるでしょう。
外国人観光客が増加することによるデメリットとは?
訪日外国人観光客の増加には多くのメリットがある一方で観光公害に代表されるデメリットも存在します。
また、訪日外国人観光客を受け入れる体制についても改善の余地があるといえるでしょう。
オーバーツーリズム
オーバーツーリズムは許容量を超えた観光客来訪により適切な対応が取れなくなってしまうことです。
例としては駅や交通機関、商業施設のキャパシティや従業員、翻訳人員の不足などが挙げられます。
「観光公害」の実例:京都
訪日外国人観光客に人気の京都では訪日外国人の急増により現地に住む府民が市バスを利用できないという観光公害が発生しています。
年々増加する訪日外国人観光客数に加え、人気観光地を結ぶ市バスの1日乗車券が500円に値下げされたことが事態に拍車をかけています。
また、外国人観光客が、バスの乗り方や降車バス停がわからず運転手に訊ね、バスの定時運行に支障をきたすといった問題もあります。
バスの運行本数増加や外国語でのアナウンスや、案内に特化した訪日外国人向けのバスを追加運行するなどの対策が求められています。
訪日外国人増加で対応すべき課題、その進捗は?
訪日外国人の中には、日本での旅行中にさまざまな不便を感じている人が少なくありません。これまで、従来は多言語対応、Wi-Fi設備、キャッシュレス決済対応などが課題とされてきました。これらについては改善が見られ、不満を抱く訪日外国人も少なくなっている模様です。
一方で、「ゴミ箱の少なさ」という新たな課題も浮き彫りになってきました。
引用元:観光庁プレスリリース
多言語対応
観光庁が行った「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」では、訪日旅行中に外国人が困った点として、日本人スタッフとのコミュニケーション、案内やメニューにおける多言語表示の少なさが指摘されています。
実際に、2017年から2019年までの調査において、2項目を合計したパーセンテージは年々減少しているものの、「困ったこと」の中で最も大きい割合を占めています。
少なくとも日本語と英語の2言語、可能であれば中国語や韓国語、その他欧州言語を含む多言語への対応が必要とされています。
Wi-Fi設備
訪日外国人は旅行中の情報検索や翻訳のツールとしてスマホや音声翻訳機を所持していることが多いですが、日本国内での通信回線に対応した機器やSIMを用意していない場合は通信をするためにWi-Fiが必要です。
2017年には「無料公衆無線LAN環境」、「モバイルWi-Fiルーターのレンタル」を合わせると約3割の訪日外国人がインターネット環境に困ったと答えていました。
日本の対応によってか、2019年時点ではインターネット環境に関する懸念の声は合計でも12.4%に留まっており、訪日外国人が過ごしやすい環境が整えられたといえます。
引き続きの対応が求められるでしょう。
キャッシュレス決済対応
海外ではキャッシュレス化が進んでおり中国ではQRコード決済が、欧米ではクレジットカード決済がほとんどの店舗で可能になっています。
また、慣れない通貨を使用しての買い物にストレスを感じる訪日外国人も多く、早急なキャッシュレス決済への対応が求められています。
日本でもバーコード決済やカード決済などさまざまな形態の支払い方法が見られるようになりましたが、さらに外国人対応を進めていく必要があります。
ゴミ箱の少なさ
2019年に「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」に新たに追加された項目に、「ゴミ箱の少なさ」があります。
従来の問題が改善傾向を見せている一方で、同項目は「訪日旅行中に全体を通して困ったこと」として最多の23.4%に上りました。
安全面や衛生面への配慮からゴミ箱を撤去したり減らしたりする動きも見られますが、インバウンド視点ではむしろ設置数の増加が求められると考えられます。
日本各地でのインバウンド向け取り組み
各課題への対応策を講じ、効果的に外国人観光客増加を図る地域もあります。
以下では、京都府、静岡県、栃木県、東京都における具体的なインバウンド対策の事例について解説します。
1. 京都・町家/多言語対応
京都の街並みを形作る町家はホテルに宿泊するよりも日本的な雰囲気を楽しむことができると訪日外国人の宿泊先としても人気です。
近年、特に増加している外国人宿泊者への対応として町家では「TRIP CONCIERGE」を導入し、外国人宿泊者の質問や要望にチャットを介して回答するサービスや、周辺の観光施設や飲食店の情報を提供しています。
伝統的な施設においてもニーズに応じて先端技術を取り入れることでより快適な旅の提供を目指しています。
2. 静岡県/Wi-Fi設置
静岡県では通信事業を手がける株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレスと連携協定を締結することにより富士山、清水港周辺に40ヶ所以上のWi-Fiアクセスポイントを設置しました。同地域は訪日外国人も観光を目的として多く訪れている地域でWi-Fiを求める声は以前からあり、通信設備の整備は長らく課題とされていました。
静岡県では富士山登山者向けの情報共有アプリも開発し、通信環境の整備と併せてより安心安全な登山環境を整えています。
3. 日光市/キャッシュレス対応
栃木県の日光市では訪日外国人の受け入れ対策の一環としてキャッシュレス化を推進しています。日光東照宮の隣に位置する日光二荒山神社ではQRコード決済によるお賽銭を納められるようになっており、Alipay、WeChat、PayPayなど複数の決済システムに対応しています。
また、案内看板にもQRコードを設置しており、そのQRコードを読み取ることで案内内容が多言語翻訳されて表示されるようになっているため、外国人でもスマホ1つで各所の案内を読むことが可能です。
4. 東京・表参道/IoTゴミ箱の運用開始
国内外からの多数の来訪客がある東京の表参道では、2020年10月よりIoTを活用したゴミ箱の運用を開始しました。
同地域はこれまで、ポイ捨てなどをはじめとするゴミ問題が深刻化しており、景観保全のための対応が求められていました。
10月に導入したIoT活用のゴミ箱は、自動圧縮が可能で、大容量のゴミを収容できます。また足元のペダルで開閉できる仕様になっており、コロナ禍で高まった「非接触」のニーズにも対応しています。
ゴミ箱の外観はキャラクターのイラストでラッピングすることで親しみを持ってもらうとともに、言語の壁を越えて「ごみを分別して」というメッセージを発信できるようにしているということです。
IT技術を活用したゴミ箱の設置は、まさに観光庁が掲げている「ICT等を活用した観光地のインバウンド受入環境整備の高度化」の中で明記されており、今後各地でも対応が求められると考えられます。
コロナ禍で大打撃のインバウンド、段階的再開へ
コロナ禍で大きな打撃を受けたインバウンド業界ですが、政府は引き続き「2030年6,000万人」を目標にインバウンドの段階的再開を検討しています。
観光庁は2020年12月に「感染拡大防止と観光需要回復のための政策プラン」を決定しており、「国内外の感染状況等を見極めつつ、段階的回復に向けた取組を進める必要がある。」と言及しました。
再興に向けては、日本が兼ね備えている観光に必要な4要素(気候、自然、食、文化)をフル活用していくこと、人材の語学力や接遇能力といったインバウンド対応能力の向上に取り組むことなどを示しています。
また、小規模分散型パッケージツアーの実施も公言しており、密を避けたポストコロナに相応しい観光メニューを発掘することに注力する姿勢を見せています。
これらによって、感染状況が落ち着いている国・地域からインバウンドを再開させたい考えです。
経済・地域活性化の一翼を担う外国人観光客
外国人観光客の増加によって、日本は経済促進、地域活性化など多様な側面で恩恵を享受できます。
再び訪日客数が増加する時に備え、受け入れ体制を整えることが重要です。
国内外の観光客を惹きつけるコンテンツの造成、IT活用や人材育成による「快適な訪日旅行」の準備など、今から徹底した対策を講じていくことが求められます。
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