韓国最南端の島・済州島では、「オルレ」と呼ばれるトレッキングコースを歩くことが人気のアクティビティの一つとなっています。オルレはその土地ならではの自然を楽しみたいと考えている人たちの間で特に注目されています。
オルレの選定条件には「手つかずの土地であること」が含まれており、地方の整備されていない土地を新たな観光資源として活用できる可能性があることから、インバウンドにも効果的です。
今回の記事では、オルレの詳細、日本での事例について紹介します。
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オルレとは
オルレとはトレッキングコースを指す言葉で、韓国の済州(チェジュ)島が発祥です。島の方言で「通りから家に通じる狭い路地」という意味を持ちます。豊かな自然を持つ済州島にはトレッキング目的で訪れる人が多く、次第にオルレという言葉がトレッキングコースの総称として用いられるようになりました。
オルレでは、スポーツとしてトレッキングを行うというよりは、自然を五感で感じ、自分のペースで進んでいくことが特徴です。
本場である韓国・済州島のオルレには26のコースがあり、難易度によって分かれています。近年では韓国以外でもオルレが楽しめる場所が増えています。
自然を五感で体験できるのが魅力
オルレを歩くことの魅力は、その土地を訪れなければ経験できない、広大な自然と一体になる体験です。トレッキングというと山を想像する人も多いかもしれませんが、オルレの中には、山だけでなく海の自然景観を楽しめるコースもあります。
オルレの条件は、舗装されていない「自然の道」であることです。舗装されていない道を進むため、道がわかりづらい場合には目印としてリボンや矢印のほか、「カンセ」と呼ばれるオブジェが設置されています。カンセは、有名な済州島の馬がモチーフとなっています。
韓国での認知度は高く、経済効果は約62億円
日本ではまだあまり認知度の高くないオルレですが、九州観光推進機構の調査によると、本場韓国での2007年からの累計経済効果は700億ウォン(約62億円 ※2020年6月時点のレートで算出)ともいわれています。韓国国内ではオルレという言葉の認知度が高いだけでなく、一度オルレを体験した人のリピート率が高いという特徴があります。
発祥の地である済州島のオルレでは、400人以上のボランティアがガイドやコース整備などで運営を支えています。韓国内の済州島への年間の観光客数は700万人ですが、そのうちの4人に1人が「済州オルレ」を目的に訪れているといいます。
オルレがインバウンドに効果的な理由
済州島のオルレはもともとその地にある自然を活用した観光集客のモデルケースであり、同様にうまく運営できれば、手つかずの土地が集客を見込める観光資源にもなり得ます。
日本を訪れる観光客のうち韓国は大きな割合を占める国の一つですが、すでにオルレを歩くことがアクティビティの一つとして認知されている韓国に対しては、オルレをインバウンド誘客の足掛かりにできるでしょう。
無名の地を観光地化できる
オルレがインバウンドに効果的である理由の一つとして、既存の道をオルレとして設定するハードルが比較的低い点が挙げられます。
オルレは、なるべく舗装されていない自然の道で、車の通らない安全な道であることが条件です。そのほか、道にストーリー性があり、歩く人がその物語に関するうんちくを楽しめることも求められます。道中に地元の人々との触れ合いがあり、現地の生活を肌で感じられる点も条件となっています。
日本の地方部にはこの条件に合致する土地が多くあり、このような場所を比較的少ない初期費用で観光資源としてアピールできます。つまり、「なんでもない道や土地」を観光地化するチャンスがあるということです。
訪日外国人の消費トレンドの変化
オルレがインバウンドに効果的であるもう一つの理由は、昨今の訪日外国人観光客の消費動向の変化です。以前は買い物など「モノ消費」を中心とした訪日外国人観光客が多かったのに対し、現在では「コト消費」、つまり体験やアクティビティにお金をかけたいと考える人が増えています。
観光庁の2019年版訪日外国人消費動向調査によると、「訪日前に期待していたこと」として半数近くの訪日外国人観光客が「自然・景勝地観光」を挙げています。さらに、「今回の日本滞在中にしたこと」として「自然・景勝地観光」を選択した人は65.9%に上りました。
オルレを歩くといった地元の自然を体験する形のアクティビティは、これらの「コト消費」ひいては自然観光を中心に旅程を決める訪日外国人観光客の意向にマッチしています。
一昔前までは東京、京都、大阪を中心とした大都市周遊の観光が特に人気であったのに対し、現在では地方都市にまで足を運ぶ外国人観光客が増加しています。そのため都市部に比べて観光地化に不利な地方部であっても、オルレをキーワードに差別化とPRをうまく行うことで訪日外国人観光客を呼び込めます。
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日本のオルレ
オルレは韓国発祥でありながら、現在では世界に向けて広がりつつあります。日本には、オルレをいち早く整備し、国内外の観光客に地元の自慢の自然を満喫してもらうべく取り組んでいる地域があります。
特に、韓国からの観光客の多い九州は日本で初めてオルレが生まれた場所でもあり、幅広い種類のオルレが存在しています。九州のほかにも、宮城では東日本大震災の経験を生かしたオルレが整備されています。
九州オルレ
日本でいち早くオルレを導入した九州にはすでに全21のコースが存在しており、日本国内や本場韓国からだけでなく、世界中から旅行客が来ています。オルレの利用費は1,000~2,000円と手ごろで、ゆっくりと自然を堪能しながら歩けるため、子どもからお年寄りまで楽しめます。
コースには、民家の敷地内に勝手に入らない、目印のリボンを持ち帰らない、作物を勝手に取らないなど、基本的なルールが定められています。
大分県にある日本で最初のコース「奥豊後コース」は、四季折々の自然景観を楽しめる全長12キロメートルのコースです。このコースでは、自然を楽しみながら奥豊後の歴史を学べるのがポイントです。
ほかにも、佐賀県にある「武雄コース」は九州の中でも人気の高いコースの一つです。武雄コースは、歴史の深い温泉、文化などを楽しみながら、新旧の交わりを感じられる全長12キロメートルのコースです。コースには見どころが多く、樹齢3,000年ともいわれる「武雄の大楠」や、「武雄温泉楼門」などが含まれています。
宮城オルレ
九州オルレに続き、2018年にオープンしたのが「宮城オルレ」です。
宮城オルレでは、「気仙沼・唐桑コース」「奥松島コース」「大崎・鳴子温泉コース」「登米コース」の4つのコースが用意されています。2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県では、震災時の経験を活かしたコース作りが行われました。東北ならではの自然景観・歴史を体験できる構成が特徴です。
気仙沼・唐桑コースは、リアス海岸を含む三陸ジオパークの景色などが見られる全長10キロメートルのコースです。この地域は長い歴史の中で何度も津波による被害を受けており、地元の人が培ってきた「自然に逆らうことはできない」という考え方に触れられます。コースの途中では、東日本大震災の際に打ち上げられた大きな津波石が見られます。
奥松島コースは、日本三景に数えられる松島の風景が見られる全長10キロメートルのコースです。巨大な湖に小島が点在する様子のほかにも、多くの景勝地を備えています。
大崎・鳴子温泉コースは、雄大な峡谷と温泉が楽しめる全長10キロメートルのコースです。歩いている間、ほのかに硫黄のにおいを感じられます。
登米コースは、田園風景や旧北上川の流れ、地域の歴史や文化に触れながら進む全長11キロメートルのコースです。季節によって異なる自然の様子が見られます。
オルレで自然の魅力を活かしたインバウンド誘客を
オルレの大きな特徴は、舗装された道ではなく、自然の道である点です。
特に、インバウンドの傾向として「コト消費」や「地方への進出」が挙げられる今、オルレを観光資源として打ち出すことは、訪日外国人観光客を地方へ呼び込む有効な手段になり得ます。もとからある自然を活用できる上、その土地ならではの価値をアピールすることで、ほかの地域との差別化にもなります。
四季折々の美しい自然を体験できるオルレは、リピート率も高いため、適切なインバウンド対策を行えば訪日外国人観光客の継続的な訪問につなげられると考えられます。また、「ソーシャルディスタンス」を取りやすい観光体験でもあります。
オルレのような訪日外国人観光客を集客できるポテンシャルを持った新しい観光資源を発掘すべく取り組むことも、アフターコロナのインバウンドを見据えた効果的な施策といえるでしょう。
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<参照>
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