6月29日、観光庁は「日本版持続可能な観光ガイドライン」を発表しました。これは、近年問題となっているオーバーツーリズムや新型コロナウイルス感染症の流行への対策を取るべく、自治体やDMOなどの地域が持続可能な観光地マネジメントを行えるよう、国際基準に準拠した観光指標を提示したものです。
本記事では、「日本版持続可能な観光ガイドライン」の概要や効果、ガイドライン内のカテゴリについてまとめます。
《注目ポイント》
- ガイドラインには3つの役割
- 導入ステップは7段階
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「日本版持続可能な観光ガイドライン」とは
「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」とは、観光地が抱える混雑やマナー違反などのさまざまな課題に対し、地方自治体やDMOなどが観光客と地域住民の両者が満足できる、持続可能な観光を実現するために作成されたガイドラインです。地域の現状を把握し、モニタリングや証拠資料に基づいて観光政策や計画を策定させ、持続可能な観光地マネジメントを促進することを目的とした支援ツールと位置付けられます。このガイドラインは、観光地向けの持続可能な観光の国際基準「GSTC-D(Global Sustainable Tourism Criteria for Destinations)」に準拠しつつ、日本の特性を反映した指標となっています。
国際指標GSTC−Dとは、国連において、観光地が「最低限順守すべき項目」として、加盟国での順守が求められている指標です。
国際指標GSTC−Dは、「持続可能なマネジメント」「社会経済のサステナビリティ」「文化的サステナビリティ」「環境のサステナビリティ」の4つの分野で構成されています。
この基準は、先進国から後進国まで多くの国に活用できるよう開発されたものであるため、国や地域によっては各項目がその国の制度や実情に合わないものがあります。そのため、基準となる38の大項目の全てが盛り込まれていれば、個別の小項目やその文言を国や地域に応じて変更することも奨励されています。
「日本版持続可能な観光ガイドライン」3つの役割
ガイドラインの役割は3つに分けられています。まず、観光政策の決定・観光計画の策定の際のガイドラインとして活用するための、自己分析ツールとしての役割が挙げられます。
自治体やDMOが持続可能な観光に向けて取り組むべきことが不明確である場合に、自分の地域の状況を理解し、地域の特性を活かした観光政策を立てる必要があります。そのような状況において、このガイドラインは地域の得意・不得意分野、未達成の課題などを客観的・定量的に把握するための自己分析ツールとなります。
次に挙げられるのが、地域が一体となって持続可能な観光地域づくりに取り組むためのコミュニケーションツールとしての役割です。
自己分析の結果を公表することで、地域住民や事業者に向けて情報共有できます。情報共有を行うことによって地域観光の意見交換や、合意形成に向けてのコミュニケーションツールとして効果を発揮します。
さらに、観光地域としてのブランド化、国際競争力の向上を行うためのプロモーションツールとしての役割も果たします。
先述の通り「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」は国際基準のGSTC−Dを基にして作成されています。
「日本版持続可能な観光ガイドライン」に沿って持続可能な観光地マネジメントに取り組んでいる地域は、ロゴマークの使用が可能です。ロゴマークを使用することで持続可能な観光への取り組みを行っていることを世界の旅行者などに示せます。
「日本版持続可能な観光ガイドライン」導入のステップ
「日本版持続可能な観光ガイドライン」の取り組みを実施するにあたっての導入ステップを説明します。
ステップは画像の通り7段階に分かれています。
![▲[「日本版持続可能な観光ガイドライン」指標導入のステップ]:観光庁 「日本版持続可能な観光ガイドライン」指標導入のステップ](https://static.honichi.com/uploads/editor_upload_image/image/7061/main_2020-07-03.png?auto=format)
次に、観光地のプロフィールを作成し、関係者間で共有します。これにより共通認識をもって行動に移せます。
続いて、ワーキンググループの作成が必要となります。地域住民や旅館など、観光と直接かかわる関係者だけでなく、警察や医療部門、都市開発事業者など幅広い部門の関係者を取り込むことが推奨されます。
その後、ワーキンググループの各メンバーで、ガイドラインのどの項目を担当するか決めます。担当者を決めることによってそれぞれが責任感を持って効率的に取り組むことにつながります。
ガイドラインの各項目のうち、地域で取り組む項目を決定します。無理をして多くの項目に取り組もうとして頓挫するより、できる範囲から継続に取り組むことが大切です。取り組む項目のデータ収集はICTを活用した情報収集や統計調査を利用することが望ましいとされます。
情報が収集でき次第、ワーキンググループで情報の分析を行い目標を決定します。
設定した目標は自治体やDMOの観光計画に反映し、達成を目指す必要があります。項目とデータは定期的に見直し状況に応じて取り組む項目を増やしていきます。
一覧:「日本版持続可能な観光ガイドライン」のカテゴリー
「日本版持続可能な観光ガイドライン」は、A 〜Dの4つのカテゴリーに分類されています。ここでは、それぞれのカテゴリーでどんなテーマが設定されているのか、一覧にまとめます。
A:持続可能なマネジメント
このカテゴリには、観光のマネジメントが持続可能であるかどうかをチェックする項目が挙げられています。
- デスティネーション・マネジメント(観光地経営)戦略と実行計画
- デスティネーション・マネジメント(観光地経営)の責任
- モニタリングと結果の公表
- 観光による負荷軽減のための財源
- 事業者における持続可能な観光への理解促進
- 住民参加と意見聴取
- 住民意見の調査
- 観光教育
- 旅行者意見の調査
- プロモーションと情報
- 旅行者の数と活動の管理
- 計画に関する規制と開発管理
- 適切な民泊運営
- 気候変動への適応
- 危機管理
- 感染症対策
B:社会経済のサステナビリティ
このカテゴリには、観光が社会や経済を活性化するものであるかどうかをチェックする項目が挙げられています。
- 観光による経済効果の測定
- ディーセント・ワークと雇用機会
- 地域事業者の支援と公正な取引
- コミュニティへの支援
- 搾取や差別の防止
- 地権と使用権利
- 安全と治安
- 多様な受入環境整備
C:文化的サステナビリティ
このカテゴリには、観光が文化的資産を保護する取り組みを行っているかどうかをチェックする項目が挙げられています。
- 文化遺産の保護
- 有形文化遺産
- 無形文化遺産
- 地域住民のアクセス権
- 知的財産
- 文化遺産における旅行者の管理
- 文化遺産における旅行者のふるまい
- 観光資源の解説
D:環境のサステナビリティ
このカテゴリには、観光が環境を保護する取り組みを行っているかどうかをチェックする項目が挙げられています。
- 自然遺産
- 自然遺産における旅行者の管理
- 自然遺産における旅行者のふるまい
- 生態系の維持
- 野生生物の保護
- 動物福祉
- 省エネルギー
- 水資源の管理
- 水質
- 排水
- 廃棄物
- 温室効果ガスの排出と気候変動の緩和
- 環境負荷の小さい交通
- 光害
- 騒音
<参照>
・観光庁:日本版持続可能な観光ガイドライン(Japan Sustainable Tourism Standard for Destinations,JSTS-D)
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「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
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