【ポストコロナのインバウンド戦略】一足先に冬を迎えたオーストラリアに学ぶ、スキーリゾートがコロナを乗り切る3つの戦略とは:GAO Agency マネージングディレクター リンジー・ゴーディング氏

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緊急企画『ポストコロナインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。

今回は、グローバルな戦略プラニング・マーケティングを行うオーストラリア企業、GAO Agency マネージングディレクター リンジー・ゴーディング氏に寄稿いただきました。


南半球に位置するオーストラリアは、コロナ後はじめての冬を迎えました。スキーリゾートも感染対策をしながら営業をしています。

私はGAO Agencyというマーケティング戦略やクリエイティブを担う会社の代表を務めています。その一方、スキー好きが高じてGAO Snowという富裕層向けのスキー旅行代理店も経営しています。

今回は、一足先にシーズンを迎えたオーストラリアのスキーリゾートの様子をお伝えします。豪州の経験や学びが、これから冬を迎える日本にとって有益となればうれしく思います。

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オーストラリアの冬に学ぶ、コロナ禍のスキーリゾート運営3つのポイント

オーストラリアには、州都のシドニーやメルボルンから3〜6時間ドライブした場所に、5つの大型スキーリゾート、3〜4つの小型リゾートがあります。オーストラリアの冬は6月から9月末なので、まさに今がスキーシーズンです。

今年はコロナの影響で、リゾートのオープンは例年より2〜3週間ほど遅れ、7月初旬となりました。コロナ禍での営業は、刻々と変わる状況を見ながら。一部のリゾートではお客様の多くが感染拡大地域からきていたため、リフトを運休していました。

これを書いている8月7日現在、ビクトリア州は感染者の増加に伴い、ロックダウン中。よってビクトリア州のリゾートは閉鎖、それ以外の州にあるリゾートは営業をしている状態です。

オープンに向け、スキーリゾートの関係者が動きはじめたのは3月のこと。国や州が設けた既存の感染対策ではカバーしきれないスキーリゾート特有の事項を洗い出し、指針や対策を話し合いました。

オーストラリアが模索しながら実践していった「スキーリゾート×コロナ」の3つの戦略についてご紹介しましょう。

1. コロナ後の初シーズンはリゾート同士の連携でのりきる

まず1つ目のポイントは、リゾート同士が連携したことにあります。現場を一番知る当事者たちが知恵を出し合い、withコロナのスキーリゾートのあり方を模索。話し合いで固まった指針を代表者が政府に提案し、承認を得たのです。

各リゾートがバラバラに行動するのではなく、業界一丸となって取り組んだことで、影響力のある動きとなりました。

また、業界全体で共通認識された指針は、リゾート間で感染対策のムラが出ることを防ぎました。これは、スキーリゾート全体に対する信頼と安心につながりました。

オーストラリアのスキーリゾート、Falls Creekの写真
▲オーストラリアのスキーリゾート、Falls Creek


日本はスキー場の数が多いので、一丸となって進めることはなかなかむずかしいかもしれませんが、たとえば同じエリアにあるスキー場、属性の似たスキー場と相談しながら指針や戦略を固めるなど、横のつながりを大切にして冬に備えるとよいのではないでしょうか。

2. 事前準備のポイントは、受け入れ人数の算出とチケットの割り振り

オープンにあたり議論となったのは「コロナ対策を万全にして営業する場合、どれくらいのお客様をお迎えできるのか」という点でした。

そこで、1度に受け入れが可能な人数を割りだすため、独自の計算式がつくられました。スキーリゾートごとに特性や要件が違うので、全リゾートがまったく同じ式を使ったわけではないようですが、いずれも考慮された要素は「人と人との距離は1.5メートルあける」「閉じた空間では1人につき4平方メートルを確保」などの国が定めたガイドライン。それからスキーコースやゲレンデのサイズ感、1度にリフトに乗れる人数等です。

リフト待ちの行列やゲレンデの密を回避した運営をするなら、現実的に何名のお客様を受け入れることができるのか。リゾートはこの式を用いて算出し、販売するチケット数を調整をしました。

オーストラリアでは数年前から主流となっていたスキーチケットのオンライン購入。コロナの影響を受け、今年はオンラインの事前購入が必須化されました。

スキーリゾートは今冬、シーズン分のチケットを一気に売らず、まずは小さな枠から販売を開始。実際のオペレーションやコロナの状況を見ながら、少しずつ間口を広げていました。

そこで課題となったのは、この限られたシーズン初旬のチケットをだれに割り振るかということです。シーズンパスの購入者、宿泊とセットのツアー商品購入者、日帰りで訪れる方、地元のスキーヤーなど、さまざまな客層がいる中、どのお客様をどれくらい優先して受け入れるのか。これは各リゾートが悩みながら判断することとなりました。限られたチケットを求め、Webサイトや問い合わせ窓口にアクセスが殺到した事例もありました。

これから冬にむけて準備をする日本のみなさまにおかれましては、感染予防対策のみならず、受け入れ可能人数の算出、限られたチケットの割り振りのシミュレーションをされるとよいと思います。

3. 現場ではQRコードでお客様の管理&徹底した感染対策

オーストラリアのスキーリゾート現場では、除菌や掃除の徹底をはじめ、万全な対策のもと営業しています。

リゾート内のホテル、レストラン、スキー場などでは、入り口でお客様にQRコードのスキャンを義務付け。だれがどの場所で遊んでいるのかデータで管理し、万が一、感染者が出た際には迅速に対応できるようにしています。

ゲレンデでも人と人との接触は最小限となるようにしています。たとえば、あるリゾートではリフトに乗れる人数を制限し、かつ同席できるのは同じ部屋に泊まっている人のみとしています。

肌に触れるレンタル品の貸し出しも廃止。また、雪合戦やそりも禁止です。これはリフトチケットがなくても遊べるスペースに人が溢れること、人数コントロールがしづらくなることを避けるためだと考えられます。

オーストラリアのFalls Creek Alpine Villageの写真
▲オーストラリアのFalls Creek Alpine Village

宿泊においては、バスルームやキッチンを複数で共有するタイプの施設では、原則、1家族のみの受け入れとなっています。

また、レストランではお客様同士の接触を避けるため、食事は各テーブルでの提供です。日本のホテルではバイキングが人気ですし、スキー場では学食のように自分で取りに行くスタイルが多いので、提供方法は再考する必要がありそうですね。

コロナ禍のリゾート運営に必要なのは、変化するニーズに寄りそう柔軟性

とある豪州のスキーリゾートでは、今年は訪問者が9割減だと聞いています。雪のコンディションが思わしくなかったこと、感染拡大防止策の一環で州をまたいだ移動に制限があり、他州からの集客ができなかったためです。

厳しい現実ですが、戦う相手は未知のウイルス。豪州のスキーリゾート業界にあるのは「人々の健康を第一に考えた上で、その局面ごとにベストを尽くし、今を生き抜ぬいていこう」という空気です。よって、減った分の売上をカバーするための意図的な価格の引き上げは見られません。

残念ながら今、決して旅行気運が高いとはいえない状況です。コロナで経済的にダメージを受けた人も少なくありませんし、「なにもあえて今、旅行に行かなくても」と躊躇する人もいます。

このような状況下でもお客様に支持されるための秘訣は、変わりゆくお客様のニーズにしなやかに寄り添っていく柔軟性だと感じています。

たとえば最近のトレンドに、旅行予約から出発までのリードタイムが短くなっていることが挙げられます。

お客様はコロナの状況を見ながら「このところ感染者が少し減ったから、今週末に旅行しよう」などと、急遽、旅行を計画されるのです。

こういった変化する旅行者のニーズを敏感にとらえ、従来のやり方にとらわれず、提供する体験や予約システムなどを柔軟に調整・変更していくことが大切になるのではないでしょうか。

コロナ禍の豪州スキーヤー向けマーケティング

現在、オーストラリアでは海外旅行が禁止されています。年内の解禁はむずかしいとの声もあがっていますが、日本のスキーシーズンは3月までありますので、状況次第ではオーストラリア人が日本のスキー場で滑れる可能性もゼロではないでしょう。

コロナ対策に伴うお知らせは、クリアなメッセージで

訪日オーストラリア人は、手洗いやソーシャルディスタンスなどのコロナ対策に基本的には理解を示し、協力的だと思います。ただ、感染対策のために留意してほしいことがあれば、事前にクリアなメッセージを発信いただけるとよいでしょう。

たとえば「コロナ対策のため、スキー場までのシャトル送迎はありません。各自でタクシーを手配ください」「食事はバイキングではなくお弁当になります」など。事前にわかっていれば、期待とズレが生じて旅行者の満足度が下がることを避けられます。旅行者側としても「コロナ対策に協力しながら楽しもう」と心づもりができますよね。

また、安全な環境をつくるために力を尽くしている点もアピールいただけたらと思います。もし海外渡航が解禁されれば、オーストラリア人にとって今年の日本のスキー場はますます魅力度がアップ。欧米に比べてフライト時間が短く、以前から清潔なイメージが定着している日本は、優位なポジションにいるのです。

オンライン施策&パートナーとの協業で「次に行きたいスキーリゾート」であり続けて

海外渡航ができない現在、旅好きのオーストラリア人たちは「次、海外に行くならどこに行こう?」と想像をめぐらせる“dreaming”のフェーズにいます。旅行者の心に「次に行きたいスキーリゾート」として留まり続けるためにも、情報発信は不可欠です。

実際にオーストラリアに行ってプロモーションをすることがむずかしい今こそ、現地のパートナーと協業されるとよいと思います。JNTOのシドニー事務所、豪州の旅行エージェント、私たちのようなマーケティング会社の力を借りながら、SNSやインフルエンサーの活用、B2Bイベントを通じて、豪州マーケットに情報を届け続けてください。

B2Bイベントといえば、オーストラリアでは10月にSnow Travel Expoという展示会が予定されています。毎年、70以上のスキーリゾートが出展し、日本からも多くのスキー関係者が参加していますね。今年は海外出張がむずかしいという場合、私たちの会社が代理でブースを出すことも可能です。その他、マーケティングやクリエイティブの面でもお力になれそうなことがあれば、ご相談いただけたらうれしく思います。

富良野美瑛広域観光推進協議会のみなさまと、以前メルボルンで行ったプロモーションイベントの写真
▲富良野美瑛広域観光推進協議会のみなさまと、以前メルボルンで行ったプロモーションイベントにて

私は日本に留学経験があり、個人的にも日本への強い想いがあります。旅行業界にとっては厳しいときが続きますが、“Let's work through this together.” 互いの学びや教訓を共有しながら、みんなで手を取り合って、この困難を乗り越えていけたらと願っています。

語り手:GAO Agency, Managing Director, Lindsay Goding

GAO Agency, Managing Director, Lindsay Godingの写真

GAO Agencyはグローバルな戦略プラニング・マーケティングを行うオーストラリア企業。訴求力のあるマーケティングや心を掴む体験を通じ、あらゆる国の人をつなげてきた。

豪州の本社の他、中国にアジア太平洋地域統括オフィスを構える。日本にも日本人スタッフを配置。

戦略プラニング、ブランディング、総合的なマーケティングのサービスを提供し、クライアントのビジネスをサポート。クライアントは国内外の政府機関、DMO、空港、観光事業者、ホテルやレセプション会場、ショッピングセンター、食品・ワインの生産者など。

創業者のLindsayは最初の来日以来、日本のファンとなり1990年半ばに日本語の勉強を始める。5年前から仕事でも日本と関わるようになり、最近では富良野美瑛広域観光推進協議会のブランドプロモーションを担当。デジタルマーケティングと2日間にわたるオーストラリア現地でのイベントを実施した。

また、スキーに特化したラクジュアリ―スキートラベルサイト、GAO Snowを運営。特に成長の著しいアジア市場を中心に、英語、中国語、日本語でスキー旅行の情報を発信。現在はニュージーランド、オーストラリア、日本、北米のスキーリゾートを扱う。

編集協力:オーストラリア大使館商務部

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

訪日外国人観光客インバウンド需要情報を配信するインバウンド総合ニュースサイト「訪日ラボ」。インバウンド担当者・訪日マーケティング担当者向けに政府や観光庁が発表する統計のわかりやすいまとめやインバウンド事業に取り組む企業の事例、外国人旅行客がよく行く観光地などを配信しています!

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