新型コロナウイルスの流行に伴い、いわゆる「三密」状態を避けた行動や、手洗いの徹底やマスク着用などの衛生管理が欠かせなくなっています。
流行の沈静化後も、元の世界に戻るのではなく、コロナ以前の常識が「ニュー・ノーマル(新たな日常)」に取って代わられるとみられています。
そのような中、ニュー・ノーマル時代の新たなライフスタイルにマッチするサービスとして、農山漁村の豊かな地域資源を活用する「農泊」のポテンシャルが改めて見直されています。
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日本における農村回帰の動き
「農山漁村滞在型旅行」の略である「農泊」は、農山漁村にある豊かな地域資源を活用して宿泊や食事、体験などを提供することです。
農泊を推進しようとする機運は、新型コロナウイルス流行以前から高まっていました。
農林水産省主導のもと、観光による地方創生として国が支援に乗り出しており、2017年に単独予算で新設されて以降、4年目となる2020年度においても約50億円の予算が確保されています。
これは農家民泊や農業体験といった従来の定義に留まらず、地域のさまざまな関係者が連携して持続可能なビジネスたることを目指すものです。
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が、2020年1月に東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県在住者を対象に実施したアンケートでは、東京圏在住者の49.8%、約半数が地方暮らしに関心があると回答しており、都市における田園回帰志向がうかがえる結果となっていました。
従来より見受けられていた地方回帰への一定のニーズや、近年の国としての推進事業という素地があったことに加え、直近の新型コロナウイルスの流行によって、改めて農泊のポテンシャルが注目されています。
民泊プラットフォームや民泊運営などの事業を手掛ける企業、百戦錬磨が2020年6月に20代から70代、東京23区、大阪市、名古屋市在住の男女1,000人を対象に実施した「Withコロナ時代に向ける農泊ニーズ調査」によれば、60%が農村漁村地域への旅行意欲があり、特に20代から30代にかけてが7割以上を占めるなど、若年齢層において意欲が高いことが分かりました。
農山漁村地域で泊まりたい宿泊施設としては、旅館・ホテルのほか「一棟貸、貸別荘、コテージ、古民家」のニーズが高くなっています。
旅行の主な目的としては、若年齢層においてテレワーク・ワーケーション、高年齢層においては近隣の旅行先で地域の魅力を再発見できるマイクロツーリズムが挙げられます。
全国に先駆けて2009年に「農村回帰宣言」を打ち出した大分県竹田市では、今年度になって竹田市への移住定住希望は60件で、1年間で69件だった昨年度の3倍のスピードで増えているということです。
また、竹田市では、最近移住定住者を受け入れる空き家の登録件数が不足する傾向があるほどで、民間の世話人を農村回帰推進員として新設するなど、新たな基盤づくりに乗り出しています。
海外でも
農村回帰の動きは、海外でも顕著になっています。
ベトナムでは、新型コロナウイルスの影響により不動産市場が停滞しているにも関わらず、農地価格は2〜3倍に高騰する地域もあるなど大幅に上昇しています。
都市部から農村部に移住する田園回帰のトレンドがこの1年で高まっており、さらにベトナム政府が新型コロナウイルス対策として社会的隔離措置を取っていることなどから、農地の需要が高まり地価上昇につながっています。
南中部高原地方ラムドン省ダラット市の農地価格は、1,000平米の1区画当たりで、これまでの7億VND(約320万円)から30億~60億VND(約1,380万~2,760万円)まで高騰しており、不動産ブローカーは新型コロナウイルス収束後も農地価格の上昇傾向が続くと予想しています。
なぜ農泊に注目?ニューノーマル時代が後押しすることになった優れたビジネスモデル
密集を避けられる農泊は、テレワークやマイクロツーリズムといったニューノーマル時代の新たなトレンドにもマッチします。
テレワーク推進により東京都内に住む必要がなくなった人が移住先を探す際、農泊で実際にその地域の暮らしを体験し参考にすることができます。
また新型コロナウイルスの感染拡大が続く都会に遊びに行くよりも、感染リスクが低い田舎でリフレッシュしたいという需要もあり、旅行先として人気観光地から農村部へのシフトも考えられます。
また、画面越しに農泊を体験する「オンライン農泊」を通じてその地域に興味を持った人が、新型コロナウイルス収束後に実際に訪れて農泊することも考えられ、その訪問客は国内外問わず訴求することができるはずです。
時機を捉え、農泊をチャンスとして活かすためには、このような人たちに向けて、受け入れ態勢を整えることが重要です。
移住したい人、旅行したい人、長期滞在したい人など、それぞれのニーズの読み解きと、それに合わせたプランを立案し訴求することも重要になります。
農泊を支援する「一般社団法人日本ファームステイ協会」の代表理事を務める上山康博氏は、新型コロナウイルス収束後の農泊への需要の高まりを見据え、
コロナ収束後、農泊は一気に盛り上がります。その時のために今は投資をするべき時と考え、農泊の受け入れ態勢やオンラインでのコンテンツ紹介や予約のシステムを充実させ、その時に備えたいと思っていますと述べています。
取り組み事例(1)台湾から高まる農泊ニーズ
台湾では新型コロナウイルスの影響を受け、旅行での過ごし方として、密を避け、リラックス・クリーン・プライベートを求める傾向が高まっています。
台湾国内の旅行産業においては、すでに現地大手旅行会社がコロナ後の旅行商品として、台湾国内の農泊のPRを強化しています。
訪日旅行に対しても、農泊観光のニーズがいっそう高まることが期待されます。
訪日台湾人観光客の8割以上は訪日旅行のリピーターで、日本でのローカル体験への興味関心はより大きくなっています。
2020年1月から台湾向け農泊情報発信SNS「JAPAN FARM STAY」を運営するツナガルは、現在約5,000名の農泊高関心層のフォロワー母体を有しており、2020年4月から5月のコロナ禍期間に訪日農泊観光に対するニーズ調査を実施しました。
回答者のうち98.3%(「とても興味ある」と「興味ある」の合計)が農泊体験をしてみたいと回答しており、48.6%が3〜5泊程度の農泊滞在を希望しているこなど、農泊への興味関心の高さがうかがえます。
一方で、これまで農泊の経験がない理由として「知るきっかけがない」が約4割を占めており、情報発信の必要性も浮き彫りとなりました。
これを受けてツナガルでは、岩手県の古民家での農泊体験コンテンツを提供する「日台オンライン農泊イベント」を企画・実施するなど、新たな訪日インバウンド観光収益獲得に向けて動き出しています。
取り組み事例(2)大分県臼杵市でのオンライン農泊
大分県臼杵市では、2019年9月に発足した農家民泊家庭や観光関係者らの団体「くらたび臼杵」が、「オンライン農泊」の商品開発に取り組んでいます。
新型コロナウイルスの影響により訪日外国人を中心とした観光客が激減する中、国内外の人に臼杵での生活をオンライン上で体験してもらい、コロナ収束後の誘客につなげようとするものです。
プレ体験会では、他県の大学生など4人が自宅からオンライン会議システム「Zoom」を通じて参加し、画面越しに臼杵の雄大な自然や農作物の紹介や、チェックインの様子や夕食メニューなどの説明を受けました。
オンライン農泊商品は今秋めどに売り出す予定で、くらたび臼杵は、月1回を目標にオンラインイベントを開催したいと意欲を見せています。
ニュー・ノーマルに即した農泊で国内外に訴求を
新型コロナウイルスの影響で、ライフスタイルが大きく変化する中、いわゆる「三密」状態を避けられる農泊の注目度は高まる可能性があります。
一般社団法人日本ファームステイ協会は、「感染症学の専門家」や「内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室」の監修のもと「農泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン」を策定し、農泊の支援を推進しています。
このようなガイドラインを活用するなどして、ニュー・ノーマル時代に即した農泊を推進することで、国内外の観光客に訴求できる可能性があるでしょう。
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<参照>
知的財産戦略本部:知的財産推進計画2020(案)
トラベルボイス:農泊とは? その動きを取材した、地域と多分野事業者のマッチングで新たな化学反応は起きるのか?
PR TIMES:「Withコロナ時代に向ける農泊ニーズ調査」結果公表
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局:東京圏在住者の約半数が、地方圏での暮らしに関心あり~「地方圏での暮らし」の意識・行動に関する調査結果~
竹田市役所:市長のブログ「コロナで農村回帰が飛躍的に増えつつある」
竹田市新生ビジョン:農村回帰宣言市と移住定住の推進
VIETJO:農地価格が高騰、新型コロナ対策や田園回帰トレンドで
マイナビ農業:新型コロナウイルスで打撃 “農泊”の需要減少の影響は5億円
ZDNet Japan:台湾向け農家民泊情報発信SNSアカウント「JAPAN FARM STAY」主催、「日台オンライン農泊」体験イベント実施!
トラベルボイス:ベルトラ、農泊を体験ツアーで販売開始、収穫体験や交流など組み込み、移住需要獲得も図る
大分合同新聞:臼杵市の団体「オンライン農泊」販売へ 画面越しに生活や自然を体験
一般社団法人 日本ファームステイ協会 :農泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(第2版)
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