2020年から突如大流行した新型コロナウイルスで、多くの業界や企業が大きな損害を被っています。
その中でも特に甚大な影響を被っているのが対面接触を余儀なくする接客業であり、そうした店舗を集約する百貨店は、休業要請や外出自粛に伴う消費落ち込みなどによって売上が激減し、現在危うい経営状況に立たされています。
しかしながら、直近のオフラインでのインバウンド消費は見込めずとも、ECサイトの活用や情報発信に注力することにより、売上回復を図っている企業も存在します。
事実、近鉄百貨店は大手中国ECと提携を果たし増収に成功した実績がある他、この状況を契機と捉え、インバウンド施策の見直しやリブランディングを図る百貨店も出てきています。
本記事では百貨店を取り巻く現状、およびアフターコロナで再起を図るために有効な、今後増加が見込まれる訪日需要を捉えたインバウンド施策について解説します。
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百貨店の現状
百貨店業界では、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言で店舗が休業を余儀なくされたり、外出自粛によってモノの消費が落ち込こんだことで、売り上げが激減してします。
しかし、現在では感染拡大第2波への懸念はあるものの、経済活動の制限は段階的に緩和され、客足は戻りつつあります。
ここでは、百貨店業界の直近の動向について紹介します。
コロナで大打撃、免税売り上げはマイナス98.5%
入国制限などにより、2020年4月の訪日外国人観客数は前年同月比 99.9%減の僅か2,900人となっており、大手百貨店の免税売上にも直結しています。
日本百貨店協会が5月22日に発表した「2020年4月 免税売上高・来店動向【速報】」によると、免税総売上高は約5億円と前年比98.5%減となっており、購買客数もマイナスに転じています。
大手百貨店を個別に見ていくと、「大丸松坂屋百貨店」は、3月1日から14日までの売上高が前年同期比で43%減、免税売上高は96%減となっており、同機関において「高島屋」も売上高が約33%減、免税売上高が91%減と大幅に落ち込んでいます。
「三越伊勢丹」も、3月15日までの売上高は約38%減、免税売上高は三越日本橋本店など主要3店舗で85%減となり、特にインバウンド比率の高かった三越銀座店では、落ち込み幅は9割以上とされています。
新型コロナウイルス感染拡大を受けての免税売上高激減により、免税カウンターで多数を占めていた爆買いに代表される中国人、そして韓国人を筆頭にインバウンド消費頼りであったという課題が浮き彫りになりました。
一方、休業前の駆け込み需要により一人当たりの購買単価は増加しており、約210,000円と前年比184.3%増となっています。
中国経済が与える日本への影響|減速続く中国経済、日本は「中国依存」から脱却すべきか
中国はリーマン・ショック後、欧米諸国が経済活動で苦戦する中でも「世界の工場」として拡大の一途を辿っていましたが、アメリカによる対中制裁関税や生産年齢人口の減少により、その成長スピードは減速しつつあります。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴い生産、消費活動が制限されたことにより、経済損失を余儀なくされています。中国への経済依存度が高い日本は中国経済の影響を大きく受けており、今回のような不測の事態による経済低迷を避けるためにも、依存脱却およびサプライチェーンの国内回帰が議論されていますが、他...
地方の百貨店は閉店が続く
地方都市では近年、地域の過疎化による客足の大幅減少や若年層の百貨店離れ、ネットショッピングの普及を背景に、中心市街地で営業してきた百貨店の閉店が相次いでいます。
日本百貨店協会によると、2008年の280店舗から2020年には207店舗と、12年で80店舗近く閉店しており、地方からの撤退に伴う実店舗の減少に、懸念の声が上がっています。
2020年の閉店店舗を列挙すると、3月23日に113年の歴史を持つ新潟三越が閉店し、8月31日には「そごう・西武」の西武岡崎店・西武大津店・そごう徳島店 ・そごう西神店の4店が閉店を予定しており、徳島県は日本国内で唯一の“百貨店ゼロ”県になる見込みです。
また、昨年2019年は9月30日に「三越伊勢丹」の伊勢丹相模原店・伊勢丹府中店も長年の歴史に幕を下ろしました。
加えて、百貨店向けのアパレルブランドの人気が落ち込んでいることも衰退要因の一つとして挙げられます。
東京商工リサーチの調査によると、「百貨店向けアパレルブランド」主要上場12社の2014年度の売上は1兆1,376億円に及んでいたものの、2018年度は9,756億円に留まっており、減収の一途を辿っています。
2018年12月から2019年3月までに迎えた本決算でも同様の傾向が表れており、同1212社のうち8社の売上が前期を割り込ん、4社が減益、5社が最終赤字と苦戦が続いています。
百貨店にできるインバウンド対策
新型コロナウイルスによって、インバウンド消費が激減し大打撃を受けた百貨店ですが、7月22日の政府対策本部では在留資格を持つ外国人の「再入国」制限緩和の方針が表明され、インバウンド受け入れ態勢整備に向けたの第一歩として期待が高まっています。
本記事では、未来の受け入れに向け、現在百貨店が検討可能なインバウンド対策について解説します。
越境ECの導入
世界規模での新型コロナウイルス感染拡大により、多くの国で「巣ごもり消費」が盛んになりました。
「巣ごもり消費」とは、外出自粛に伴い、自宅にいながらネット通販やECサイトにアクセスしてショッピングを行ったり、ネットを活用したコンテンツやエンターテイメントを楽しんだりすることです。
百貨店来訪による免税売上が見込めない現在、海外の潜在インバウンド層をターゲットとした越境ECの導入により、インバウンド消費を図ることは可能です。
世界で「巣ごもり消費」拡大中!ECで日本商品が人気に・ネット上でできるインバウンド対策は?
新型コロナウイルスの感染拡大により、自宅の外へ買い物に出かける機会が減少しています。一方で、世界規模で増加しているのが自宅で商品やサービスを購入する「巣ごもり消費」です。また、自宅で過ごす時間が増えたことで、今までとは違う消費の形態が数多く見られるようになりました。人の動きが大きく制限されている今、インターネットを活用することで、国内のみならず国外の消費者をもターゲットに、訴求力を向上していこうとする動きが広がっています。目次新型コロナウイルスにより注目される巣ごもり消費巣ごもり消費による...
世界の「巣ごもり消費」ニーズを越境ECで応えるには?導入のメリットと注意事項を解説
新型コロナウイルスによる外出自粛要請によって、さまざまな業界で大きな影響を受けています。その中でも外国人が日本にほとんど訪れなくなったことにより、訪日外国人を相手にビジネスをしていた事業者にとっては、これまでのような収入が見込めない状況になっています。その一方で、自宅で商品を購入したり、動画配信サービスを利用する「巣ごもり消費」のニーズが世界中で増加傾向にあります。このような状況下で注目されるのが越境ECです。越境ECの導入により、これまで訪日外国人が日本で購入していたものを、ECサイトを...
実際に、近鉄百貨店は中国の大手ECサイト「京東商城」を運営する「京東集団」と戦略的業務提携を締結し、同社の越境ECサイトである「京東全球購」に海外旗艦店として初出店を果たしました。
越境ECにおいて日本製品は堅調な人気を誇っており、今回の出店でマイナスに落ち込んでいたインバウンド売上回復を見込めるとして、可能性が期待されています。
また、国境を超える移動が制限される今、Webサイトでの情報発信は日本への興味関心を高め、将来訪日外国人となり得る層の消費を促す手段の一つです。
インバウンド消費回復、および現状打破への可能性が期待されているオンラインの強みを生かした施策は、導入検討の余地は十分にあると言えるでしょう。
百貨店・デパートの通販・越境ECに関するインバウンド対策事例集
百貨店・デパートはどうやって通販・越境ECをインバウンドに活用すべきなのでしょうか?「近鉄百貨店/京東の越境ECサイトへ旗艦店を初出店」など、各社・各団体の先行事例を集めてみました。
中国人ママがほしい日本製品/コロナで消費意欲アップ、越境ECの商機拡大【Onedot株式会社:中国人ママ100名「越境EC意識・行動調査」】
新型コロナウイルスの影響で外出制限が続いたことで、中国国内では越境ECでの消費が拡大しています。Onedot株式会社が中国・上海のママ100名を対象に行った越境ECに関するアンケート調査によると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う入国制限で中国からのインバウンド消費が大きく影響を受ける中、中国本土では国内で消費する傾向が顕著にみられました。日本へ旅行ができず、「代理購入」による並行輸入品の販路も断たれたことで、越境ECの公式チャネルを通じて日本製品を購買する動きとなっています。新型コロナウ...
ターゲットを分析したブランディング
モノ・サービスの販売に、効果的なブランディング施策の実施は必要不可欠です。インバウンドでも同様であり、一口にインバウンドと言っても様々な国籍・年代・職業や趣味嗜好が存在し、需要も異なります。そのため、適切なターゲティングが求められます。
本項では、特に中国人消費者に焦点を絞り、集客に当たっているあべのハルカスと、さまざまな施策で訪日外国人観光客のニーズに対処しているそごうの事例を解説します。
実例1 あべのハルカス近鉄本店
あべのハルカス近鉄本店ではインバウンド客の90%が中国人であることから、中国人消費者に売上が好調な化粧品やブランド品を中心に話題性のある店舗を導入するなどの施策により、インバウンド誘致を図っています。
また集客においても、中国で多くのフォロワーを率いているオピニオンリーダーを起用し、店舗や商品を紹介する動画を制作するなどの策によりインターネットを介した口コミマーケティングに注力した結果、2018年の2月期連結決算にて営業利益は前期比59.6%増の48億8,700万円を達成しました。
実例2 株式会社そごう・西部
そごう・西武では、訪日外国人が日本の伝統・文化の体験や、食事・買い物などを楽しみに訪れているのに対し、各観光施設では多言語化やネット環境が整っておらず、このような不満が訪日外国人から多く挙がっていることに着目しました。
そうしたニーズに応えるため、そごう・西武は多言語対応が可能なスタッフを大幅増員に着手しました。
さらに、インバウンド対策の中でも特に需要の多い免税手続きカウンターへの誘導に際し、業界初となる「多言語対応発券機」導入を実施しています。加えて、西武渋谷店では「自動免税機」を4台導入しており、1件当たりの手続き時間半減を実現し、業務効率化につながっています。
また、訪日外国人から要望の声が多かったフリーWi-Fiに関しては、事前登録などの面倒な手続きが不要な「SEIBU-FREE-WiFi」を提供するなど、訪日外国人のニーズを汲み取った施策により、訪日時の満足度向上に努めています。
百貨店・デパートの地方誘致・地方創生に関するインバウンド対策事例集
百貨店・デパートはどうやってインバウンドにおいて地方誘致・地方創生に取り組むべきなのでしょうか?「様々なインバウンド対策を進める「株式会社そごう・西武」」など、各社・各団体の先行事例を集めてみました。
従来の百貨店にはないサービスの提供
新型コロナウイルスが蔓延している現在、準備期間として百貨店の在り方を見直し、従来とは異なったユニークなサービス提供の可能性を模索することが重要です。
高島屋大阪店と、大丸心斎橋店の事例を解説します。
実例1. 高島屋大阪店
高島屋大阪店は2020年1月18日、東別館をリノベーションし、滞在型ホテル「シタディーンなんば大阪」をオープンしました。
国の有形文化財としても登録されている髙島屋東別館を活用しており、髙島屋東別館の昭和初期の歴史ある雰囲気と、ラグジュリアスなアパートメントホテルを手がける「シタディーン(citadines)」ブランドの魅力を生かした宿泊施設を運営しています。
出張や海外からの長期滞在者をターゲットとしており、313室の客室の他、ジム、ミーティングルーム、レジデンスラウンジ、キッズルームなどビジネス利用以外にも、レジャーや観光目的の顧客にとっても魅力的なサービスを展開しています。
実例2. 大丸心斎橋店
2019年秋にリニューアルオープンした大丸心斎橋店は、ファッションよりもライフスタイル重視の売り場に様変わりし、アニメショップ、フードホール、百貨店では異例のコンビニなどが軒を連ねています。
今までの百貨店にないテナントの導入で新たな需要を発掘しており、「コト消費」への対応でインバウンド消費を維持し、回復させていく有効な施策といえるでしょう。
訪日外国人のニーズの変化をとらえたインバウンド対策を
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国境をまたぐ移動は依然としてハードルが高い状況が続いています。
百貨店においてオフラインでの直近のインバウンド消費は見込めませんが、越境ECサイト活用による消費促進や、店舗や商品のPR期間として情報発信に注力することにより、巣ごもり消費の需要も後押しとなり、オンライン経由での国外消費が期待できます。
またこれらの施策がきっかけとなり日本への興味関心が増え、入国制限緩和後、将来の訪日外国人として来訪につながる可能性もあります。
加えて、「モノ消費」から「コト消費」への変化といったインバウンドのニーズを見極め、顧客の消費傾向に合わせた施策で企業価値を一新することにより、新たなビジネスチャンス到来の可能性が高まります。
現状を逆手に取り、契機として捉えインバウンド施策を見直すことにより、百貨店の持続可能な経営につながるでしょう。
<参照>
東京商工リサーチ:「百貨店離れ」止まらず 影響はアパレルブランドにも
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