富裕層が求める「本物の体験」とは?観光庁「世界レベル」のホテル誘致・整備に動く

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観光庁は地方部を中心に、富裕層旅行者の求めるニーズやサービス水準に対応した宿泊施設の誘致や整備に向けて動き出しています。

有識者委員会には、政府の「成長戦略会議」の議員になったことで話題となったデービッド・アトキンソン氏も参加しています。

観光庁が目標とするインバウンド市場の拡大を実現するためには、「富裕層旅行者」が重要なキーワードとなっています。

本記事では、なぜ日本のインバウンド市場において富裕層が重要なのかを改めて整理すると共に、先行する成功事例を交えて解説します。

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観光庁、「世界レベル」のホテルを地方へ 誘致・整備の促進

観光庁は、地方を中心とした「世界レベルの宿泊施設」の誘致・整備促進に向けて動き出しています。

「世界レベルの宿泊施設」とは、いわゆる「5つ星」ホテルのほか、和のおもてなしやグローバルスタンダードに準じたサービスを提供できる、小規模でも高付加価値な施設とされています。

インバウンドの消費拡大に寄与する、高品質な観光サービスを創出する戦略を検討する有識者委員会を立ち上げ、10月5日にその実行チームも含めた初会合を開きました。

有識者委員会「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」と、実行チーム「上質な観光地整備実行チーム」には、政府の観光戦略実行推進会議にも有識者として参加しているデービッド・アトキンソンも委員に名を連ねています。

菅首相、成長戦略会議にデービッド・アトキンソン氏を起用:今後の動きを過去の発言から予想

菅首相は、成長戦略の推進に向けて新たに設置した「成長戦略会議」にて、民間有識者として元金融アナリストで「新・観光立国論」の著者である、デービッド・アトキンソン氏を起用しました。インバウンド政策に意欲的な菅首相は、2013年からアトキンソン氏との交流があったとされており、今後のインバウンド戦略に注目が集まります。そこで今回は、成長戦略会議の概要をふまえ、菅首相とアトキンソン氏の過去の発言から、今後のインバウンド戦略の方向性について予想します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」のイン...


観光庁は、施設の誘致と並行して、5つ星の格付けシステムを世界で初導入したフォーブズトラベルガイドを講師に据えた研修事業も推進します。

11月9日には、研修に参加する以下8施設が選定されました。

  • メムアースホテル(北海道・大樹町)
  • しこつ湖鶴雅別荘 碧の座(北海道・支笏湖温泉)
  • 別邸仙寿庵(群馬県・みなかみ町)
  • ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜(神奈川県横浜市)
  • 扉温泉明神館(長野県松本市)
  • 能登九十九湾 百楽荘(石川県・能都町)
  • 西村屋本館(兵庫県豊岡市)
  • ザ・ひらまつホテルズ&リゾーツ宜野座(沖縄県・宜野座村)

選定された施設を成功事例とし、世界レベルのサービスができる人材の育成につなげたい考えです。

そもそも富裕層旅行者はなぜ重要?

JNTOは富裕層を「費用制限がなく、満足度の高さを求めた高消費額旅行を行う市場」であり「一回あたりの旅行先の消費額が100万円以上/人」と定義しています。

富裕層旅行者の誘致が重要な理由は、旅行で消費する金額が高いから、のみではありません。富裕層に支持されるコンテンツは一般旅行者にとっても「憧れ」となり、そのブランドは富裕層だけではない広い層に影響する可能性を秘めているという大きな理由もあります。

そして富裕層に支持されるコンテンツが一般層にもたらす影響は、国が掲げている「2030年に15兆円」の訪日外国人旅行消費額の目標を達成する上でも重要となりえます。

「2030年に15兆円」のためには1人あたりの消費額を10万円上げる必要

観光庁は、2030年に訪日外国人旅行者6,000万人・消費額15兆円という目標を掲げていますが、これを達成するためには、現状よりも一人あたりの消費額を上げる必要があります。

2019年の訪日外国人の一人あたり消費額が158,531円/人だったのに対し、2030年には250,000円/人と、一人あたり10万円近くの消費金額の底上げが必要です。

そしてそのためには、ただ訪日外国人旅行者数を増やすだけではなく、上述の富裕層の訪日外国人の誘致が不可欠といえます。

富裕層旅行者の市場規模:上位1%が総消費額の13.1%を占める

JNTOが欧米豪5市場(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア) を対象に行った調査によれば、全海外旅行者の約1%にあたる340万人の富裕層旅行者が、海外現地での旅行消費額全体のうち13.1%にのぼる4.7兆円を占めています。

富裕層旅行者の市場規模] 日本政府観光局(JNTO)発表資料より
▲[富裕層旅行者の市場規模]:日本政府観光局(JNTO)発表資料より

一人あたりの平均単価は136万円で、訪日外国人旅行者全体の平均単価15.3万円に対し約9倍となっており、富裕層旅行者の高い経済効果を示しています。

富裕層に刺さるコンテンツは「本物の体験」

富裕層旅行者の消費性向や志向はいくつかのタイプに分けられますが、共通していえることは高価な商品やサービスであったとしても、その価値にあった金額を支払うことに抵抗はないということです。

また、「本物の体験」がもたらす価値を重んじる人が多く、インバウンド市場のトレンドとして挙げられる「モノ消費よりコト消費」の傾向が、富裕層旅行者では特に顕著にみられます。

例えば、伝統工芸品の制作体験であれば一般的なレクチャーを受けるのではなく「人間国宝に教えてもらえる」など、価格は高くても一流のプロからの直接指導を受けたいといったことなどです。

富裕層旅行者の海外旅行先としては、近年、キューバやアイスランド、クロアチアといった、これまで比較的あまり注目される機会がなく、新しい体験を期待できそうな国が人気を集めています。

日本旅行では食や文化・ホスピタリティを求める人が多く、日本でしかできない体験や、日本ならではの魅力を打ち出していくことが重要です。

国内事例:各地に広まりつつある「城泊」体験:「1泊100万円」プランも

日本国内では、富裕層旅行者に訴求する新たなコト消費コンテンツとして、城泊(キャッスルステイ)」体験が注目されています。

城泊」は国の「城泊(日本版キャッスルステイ)体験コンテンツ造成事業」の一環として位置づけられており、長崎県平戸市の平戸城、宮城県白石市の白石城、愛媛県大洲市の大洲城などで取り組みが行われています。

平戸城の城泊イベントを手掛けた百戦錬磨社によると、平戸城の宿泊者モニターを募集したところ海外のメディアに取り上げられ、一組の枠に7,500名の応募が殺到したとのことです。

また、大洲城では2020年から、日本初となる木造天守の城泊「大洲城キャッスルステイ」を開始しました。貸切宿泊のほか、国の重要文化財「臥龍山荘」での殿様御膳を堪能し「城主気分」を味わったり、1617年の城主、加藤貞泰の入城シーンの再現により、情趣をサポートする影武者の役割も体験できるなどユニークな宿泊プランとなっています。

初年度は30泊30組限定で、1泊100万円(2名利用時)と高額な価格設定ですが、話題を集めています。

「日本初キャッスルステイ」である大洲城では、まち全体をホテルとした構想で展開する
▲[「日本初キャッスルステイ」である大洲城では、まち全体をホテルとした構想で展開する]

「城泊」富裕層が夢中にならないわけがない?!長崎県平戸城、宮城県白石城の取り組み:サンマリノ駐日大使も日本の伝統文化を体験

インバウンド向けのユニークな宿泊コンテンツとして「城泊」が注目されています。2020年夏までに、長崎県平戸市にある平戸城の「城泊」開業と、宮城県白石市にある白石城の「城泊」旅行商品化が予定され、地域の歴史的資源や重要文化財を活用した地域活性化が期待されています。今回は、新たなインバウンド誘客コンテンツとしての「城泊」について、狙いやこれまでの取り組みを解説します。目次「城泊」で欧米豪観光客の富裕層を取り込み平戸城が日本初の常設「城泊」へ白石城でサンマリノ駐日大使が「城泊」体験まとめ:インバ...


海外事例:ボツワナのサファリを巡る「264万円」のプライベートツアー

南部アフリカのボツワナでは、サファリを巡る10日間のプライベートツアーが人気を集めています。

ガイド付きで豪華な宿泊施設でキャンプをしながら、野生のカバやライオン、象を観察し、夜には美しい夜空を楽しむことができます。

現地の空港に到着すると小型飛行機で出迎えられて移動し、車両のほか、ヘリコプターや熱気球からもパノラマでのサファリ体験を堪能したり、宿泊施設ではジムトレーニングやスパトリートメントも楽しめるなど、豪華なプランとなっています。

サファリ関連の旅行商品を多く手掛けるイギリスの旅行会社Natural World Safarisが5〜11月に開催しており、価格は飛行機代を含まず一人あたり18,935ポンド(約264万円)となっています。

サファリツアーに希少価値とさまざまな付加価値を与えてパッケージした例といえるでしょう。

日本では、地方や島の自然を活かしたツアーなどが考えられ、日本政府が推し進めようとしている国立公園などの観光資源化ともつなげられそうです。

アフリカ・ボツワナ旅行プランの紹介ページ Natural World Safaris公式サイトより
▲[アフリカ・ボツワナ旅行プランの紹介ページ]:Natural World Safaris公式サイトより

番外編:「100ドル以上」のバーチャル旅行も Amazonがオンライン観光を提供

Amazonは2020年9月から、世界各地の地元のエキスパートによるバーチャルツアーを予約できるオンラインツアーサービス「Amazon Explore」を開始しました。

現在はまだアメリカのAmazonアカウントでしか利用できませんが、世界中の観光スポットや遺跡、ローカルなショッピングなど、多様なツアーが用意されています。

ホストと一対一で直接コミュニケーションがとれることが特徴で、オンラインツアーとしては比較的高めの価格設定となっています。

例えばニューヨークのセントラルパークのバーチャルツアーは150ドル(約15,750円)となっており、日本のツアーとしては浅草での人力車のバーチャルツアー(40分7,000円)がラインアップされています。

Amazon Exploreは、一般的に無料もしくは低価格で提供される場合が多いオンラインコンテンツでも、「プライベートな体験」という付加価値を提供しています。

新型コロナウイルスの流行はまだしばらく続くことが予想され、良質なオンラインコンテンツを求めるニーズに合わせて高価格帯の商品も続々と登場してくる可能性があります。

富裕層にも訴求できる商品が増えていくことで、マーケット全体が盛り上がっていくことが期待されます。

バーチャル世界旅行体験を提供するAmazon Exploreのラインナップの一部 Amazon Explore公式サイトより
▲[バーチャル世界旅行体験を提供するAmazon Exploreのラインナップの一部]:Amazon Explore公式サイトより

琴平バス、初の「インバウンド向け」オンラインバスツアー開催:画面越しでも外国人惹きつけるその工夫とは?

テレビにも取り上げられ話題となっている「オンラインバスツアー」を企画する香川県の観光バス・タクシー会社である琴平バスは10月2日、アメリカに本社を置く日系旅行会社IACEトラベルと提携し、アメリカの参加者を四国のバーチャル旅行に案内するオンラインバスツアーを開催しました。これまで開催していた国内向けのオンラインバスツアーでは、そのユニークな演出が話題を呼び、開始後4ヶ月で延べ800人を超える参加者が集まるなど、メディアにも大きく取り上げられていました。今回はそうしたノウハウも生かした、初の...


今後のインバウンドのカギを握る富裕層/今後の誘致促進に期待

観光庁が掲げる、2030年に訪日外国人旅行者6,000万人・消費額15兆円という目標を達成できるかどうかは、いかに富裕層旅行者のニーズにアジャストし、需要を取り込めるかが重要な課題の一つといえるでしょう。

今回の観光庁の動きはあくまでもスタートダッシュであり、今後は高級ホテル誘致だけでなく、富裕層向け観光コンテンツの造成などにも着手していくと見られます。

また、コロナ後の旅行者の心理としては富裕層に限らず「量より質」を求める方向に向くと考えられます。よりプライベートで特別な体験、そして「本物の体験」ができるコンテンツの磨き上げと、そのコンテンツに対して適切な価格設定を行うことが、渡航制限解除後のインバウンド需要を取り込むカギとなるでしょう。

【ポストコロナのインバウンド戦略】 台湾訪日旅行のキーマンが語る、今できること。意識したいこととは。

『ポストコロナのインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。今回の寄稿者は、 国内外の企業、政府関係機関、公的団体などに総合的な広報サービスを提供するオズマピーアールの馮 惠芸(ヒョウ ケイウン)​氏です。初めまして。インバウンドプロモーションを手掛ける株式会社オズマピーアールの馮と申します。株式会社オズマピーアールのグローバルチームでは、先日台湾現地の最大手旅行会社-雄獅旅遊(Lion Travel)の訪日旅行...


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<参照>

JNTO:富裕旅行市場の分析とコンテンツづくりのポイント(JNTOマーケティング研修会テーマ1 ※講演資料の一部掲載)

観光庁:訪日外国人の消費動向

NATURAL WORLD SAFARIS:THE BEAUTY OF BOTSWANA SAFARI

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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