「インダストリアルツーリズム」は、国交省では「歴史的・文化的価値のある工場等やその遺構、機械器具、最先端の技術を備えた工場等を対象とした観光で、学びや体験を伴うもの」と定義されています。
「産業訪問」や「Industrial Study Tourism」と呼ばれることもあり、2020年に観光庁の「テーマ別観光による地方誘客事業」にも選定されています。
インダストリアルツーリズム に取り組むことは、見学や体験の対象となる企業や工場だけでなく、それらが位置する地域にとっても大きなメリットがあります。
本記事ではこのインダストリアルツーリズムの定義やインダストリアルツーリズムがもたらすメリット、各地で進む取り組みについて整理します。
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インダストリアルツーリズムとは?
インダストリアルツーリズムは、しばしば「産業観光」や「産業訪問」、「Industrial Study Tourism」とよばれることもあります。
国交省はインダストリアルツーリズムを下記のように定義しています。
歴史的・文化的価値のある工場等やその遺構、機械器具、最先端の技術を備えた工場等を対象とした観光で、学びや体験を伴うもの。
この定義から、インダストリアルツーリズムの対象となる素材は大きく2種類に分けられます。
- 歴史的・文化的な価値を持つ産業遺産(産業文化財)
- 高度な技術を持つ現代産業
また、インダストリアルツーリズムの観光資源は産業設備や機械などの有形資源のみならず、生産技術や産業製品の意匠・デザイン、技術者の物語といった無形資源も含まれています。
観光庁の「テーマ別観光による地方誘客事業」にも選定
インダストリアルツーリズムは、2018年度より観光庁の「テーマ別観光による地方誘客事業」に選定され、2020年度も継続して選定されています。
この「テーマ別観光による地方誘客事業」では、「国内外の観光客が全国各地を訪れる動機を与えるため、特定の観光資源に魅せられて日本各地を訪れる『テーマ別観光』のモデルケースの形成を促進し、地方誘客を図る」ことが目的とされています。
具体的には、共通の観光資源(テーマ)をもつ地域や、その観光資源を活用して観光振興を図る自治体や企業などで地域連携協議会を設置し、ネットワーク化を促進し、情報発信を強化します。
それとともに、観光客のニーズや満足度を把握するためのアンケートやモニターツアーを実施し、調査結果により観光客の受入体制の強化や旅行商品の造成などに活かします。
さらに、シンポジウムやセミナーを開催し、ネットワークの拡大を目指します。
2020年度に選定されたテーマは以下となります。
- Industrial Study Tourism
- ONSEN・ガストロノミーツーリズム
- 郷土食探訪~フードツーリズム~
- 宙ツーリズム
過去には、エコツーリズム、酒蔵ツーリズム、ロケツーリズム、アニメツーリズムなどが選定されたことがあります。
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インダストリアルツーリズムに取り組むメリット
インダストリアルツーリズムは、企業や工場だけでなく、地域の経済促進や産業の存続にも多くのメリットをにもたらします。
ここでは、インダストリアルツーリズムに取り組むメリットについて紹介します。
国内外の観光客を呼び込み、地域全体の活性化につながる
前述したように、インダストリアルツーリズムは観光庁の「テーマ別観光による地方誘客事業」に選定され、地方誘客を図る観光資源として期待されています。
日本の各地に、地域ならではの特徴や歴史、技術力をあらわせる産業や工場が点在します。
これらを活用しながら地域全体で観光地づくりに取り組むことで、観光客にテーマ性の高い旅行を提供でき、集客に効果が期待できます。
また、地域全体でインダストリアルツーリズムに取り組むことで、工場などの産業観光スポットだけでなく、ほかの観光地や商業施設、宿泊施設、飲食店など地域内の複数の場所や施設への来訪も望むことができます。
このように、インダストリアルツーリズムでは、地域の産業や工場を起点として、地域全体での旅行需要を創出し、地域の活性化につながります。
産業の継続・認知度や理解の向上につながる
インダストリアルツーリズムで産業の歴史、製品の制作過程、技術者の話などの見学を通じて、その産業や製品に対して興味関心を向ける人が増えることが考えられます。
その結果、産業の認知度が向上し、産業やモノづくり技術に関する情報発信や製品の売上の向上の一助となり、産業の継続という観点からも貢献が期待されます。
また、インダストリアルツーリズムは、国内外の旅行者の集客に限らず、工場の周辺住民にも工場の内部を知ってもらうことができ、騒音などの問題に対する理解にもつながります。
インダストリアルツーリズム推進に向けた取り組み
インダストリアルツーリズムの促進に向けて各地で取り組みが進んでいます。
ここでは埼玉県が行なっている独自の補助金と、三重県桑名市で進んでいる取り組みについて紹介します。
埼玉県:インダストリアルツーリズム促進事業補助金
埼玉県は県内のインダストリアルツーリズムを促進するため、独自の補助金の給付を始めました。
補助対象となるのは、県内に工場や体験施設などを有する事業者や団体です。
対象事業は、パンフレットや音声ガイドの多言語化、通訳の設置、無料公衆無線LANの導入など、訪日外国人観光客の受け入れ環境整備に関するものとなっています。
- 多言語化パンフレット、ホームページ等の広報物(有料配布のものを除く。)作成
- 多言語音声ガイドの機器の導入・更新
- 敷地内の案内板・展示解説等の多言語化
- 多言語対応可能な職員及び案内ボランティアの育成
- 多言語表示のデジタルサイネージの導入・改善
- 通訳アプリの導入・改善
- 見学や体験の際の通訳の配置
- 無料公衆無線LANの導入・改善(ただし、通信費等の当該無料公衆無線LAN環境の維持に関する経費は補助対象としない。)
- その他、知事が特に必要と認める経費
(埼玉県公式サイトより)
補助額は補助対象経費の2分の1以内で上限は事業者の場合は50万円、県内複数の事業者からなる団体等は200万円です。
募集期間は2020年11月30日までとなっています。
三重県・桑名市:海外の製造業関係者の視察を受け入れ
三重県の桑名市で自動車関連部品を製造するメーカーであるエイベックスは、地元自治体や企業と協力して地域ぐるみでのインダストリアルツーリズム受け入れを行っています。
エイベックスでは2008年から、世界各国からの視察受け入れを行ってきました。
しかし多くの視察団はエイベックスの工場で視察終了と同時に桑名市を離れてしまうため、視察団の桑名市への滞在時間は短くなり、経済波及効果は限定的でした。
この滞在時間を延長し桑名市への波及効果を増やすために、自治体や桑名市に拠点を置く企業が連携し、2016年から産業観光ツアーを開始しました。
エイベックスの多度工場をはじめ、イオンモールや銀行、介護施設、小中学校、市役所などとも提携し、桑名市で日本の技術、教育、高齢化社会への対応などを視察できる環境とコンテンツを構築しました。
この取り組みによって視察時間と滞在時間の延長が図られ、2016年度の実績は海外から365人の視察を迎え、1,100万円の消費金額を生み出しました。
地域の産業資源を活かしたインダストリアルツーリズム
インダストリアルツーリズムは、歴史的・文化的価値のある産業文化財の訪問や、工場の見学や体験を行うツーリズムです。
そして、訪日外国人観光客を地方へ誘客する有効なテーマとして観光庁にも指定されています。
インダストリアルツーリズムを推進することによって、訪日外国人観光客の誘客のみならず、伝統工芸産業の継続や既存産業の製品の売上向上、国内観光客の誘致や地元住民への情報公開といった効果も担うとされており、地域全体の活性化も期待されます。
事例として、埼玉県と三重県の桑名市の取り組みを紹介しました。
埼玉県は独自の補助金を用意し、インバウンド向けのインダストリアルツーリズムの発展を支援しています。
三重県の桑名市では地元の企業と自治体などが協力し、海外からの視察団の受け入れを行なっており、桑名市での滞在時間の延長と経済波及効果の上昇を図っています。
インダストリアルツーリズムは地域での新しい観光資源として注目されており、地域経済の発展や新たな観光需要の創出につながると期待されています。
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<参考>
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