アクセシブルツーリズム(Accessible Tourism)とは、障害者や高齢者の移動やコミュニケーションにおける困難などに応えながら誰もが楽しめる旅行を目指す取り組みを指します。
「バリアフリーツーリズム」や「ユニバーサルツーリズム」とも呼ばれています。
日本において、少子高齢化が進んでいることやインバウンド対策の必要性が高まっていることから、アクセシブルツーリズムは注目されています。しかし一方で、具体的にどのような取り組みをすればよいのか、どのような整備を行えばよいのかが分かりづらいという側面もあります。
この記事ではアクセシブルツーリズムの考え方とその必要性、事例を交えた取り組み・実践の方法について整理します。
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アクセシブルツーリズムとは
アクセシブルツーリズムは、社会福祉において、障害や性別に左右されず、全ての人が生活の生活や権利を補償されるという「ノーマライゼーション」の実践として、障害者や高齢者も誰も旅行を楽しめるものにしようとする考え方に基づく概念です。
ここではまずアクセシブルツーリズムの意味と、それに取り組む必要性について紹介します。
身体的条件に関わらず誰もが楽しめる旅行
アクセシブルツーリズムとは、障害者や高齢者など身体にハンディキャップを抱える人が、移動やコミュニケーションに困難を伴わなず楽しめる旅行のことです。
アクセシブルとは英語の「accessible」のことであり、これは利用しやすい、アクセスやリーチが容易であるということを指す単語です。
国連世界観光機関(UNWTO)は1990年代からこの取り組みの必要性を提唱しており、日本でも2021年開催予定の東京オリンピックを前にして様々な地域で取り組みが行われています。
アクセシブルツーリズム以外にも、「バリアフリーツーリズム」や「ユニバーサルツーリズム」という呼称が用いられることもあります。
欧米では、アクセシブルツーリズムという呼称が一般的です。
ユニバーサルツーリズムとは?事例や取り組み方法を3ステップで紹介
ユニバーサルツーリズムとは、年齢や国籍、障がいの有無を問わず全ての人々が安心して楽しめる旅行をめざすツーリズムの考えかたです。「アクセシブルツーリズム」は同義語です。現在、バリアフリーや多言語対応などの側面において多くの観光地でユニバーサルツーリズムに向けた取り組みが行われていますが、ユニバーサルツーリズムという言葉の認知度が低いことや、ユニバーサルツーリズムの対象となる人のニーズが不明瞭なままであるといった課題も存在しています。今回の記事では、ユニバーサルツーリズムの考え方や、ユニバーサ...
アクセシブルツーリズムに取り組む理由とは
日本は少子高齢社会に突入しており、消費人口が減少しています。
東京都産業労働局が2020年に開催したセミナーでは、日本における100歳以上の人口は2050年には100万人になると予測されており、このような社会の高齢化が進むことで、今後のアクセシブルツーリズムの市場規模は、3兆円にのぼるとも推計されています。
またOpen Doors Organizationによれば、アメリカでは障害をもつ成人が旅行に費やす費用が年間170億ドル(約1兆7,798億日本円)と推定されています。
2015年にJournalof Tourism Futuresで発表された論文は、ヨーロッパのアクセシブルツーリズム市場は2025年までに最大880億ユーロ(約11兆1,824億円)の潜在的な収益を生み出せると示しています。
このような需要に応え、年齢や障がいの有無にかかわらず旅行を楽しめる環境を整備することで、消費の維持や拡大に効果が期待されています。
また、アクセシブルツーリズムの推進は、社会的にも大きな意義を持ちます。
アクセシブルツーリズムでは、高齢者や障がいのある人を含め、全ての人が安心して楽しめるような旅行が目指されています。
このような旅行が広がることで、誰もが旅行の楽しみを諦めることなく、前向きな気持ちで生活できる社会づくりにもつながります。
さらに、観光庁は少子高齢化や東京オリンピックを見据え、2012年からユニバーサルツーリズムの普及に向け取り組みを行っています。
今後、コロナ収束後の観光振興の手段としても、ユニバーサルデザインの街づくりやバリアフリー化を進め、アクセシブルツーリズムを促進していく考えです。
アクセシブルツーリズム実現に向けて観光地が取り組めること
アクセシブルツーリズムの実現のためには、観光地や施設に対策を施すハード面での整備と、利用者への情報発信や従業員の教育などのソフト面での整備が必要となります。
ここでは、アクセシブルツーリズムの実践のために必要な施策や意識などについて説明します。
施設のアクセシブル化を図る
アクセシブルツーリズムの対応としては、まずハード面の整備が挙げられます。
段差がある部分にスロープを設置したり、階段とエレベーターを併設するなどの取り組みは、アクセシブルツーリズムに向けたものと言えます。
これらの取り組みは移動に大きな不自由を抱えている人以外にも、安全な移動手段を確保することに繋がります。
そのほか目が不自由な人への点字や音声案内の設置や、介護タクシー会社との連携などもアクセシブル化への取り組みといえます。
利用者への適切な対応を考える
ハード面だけでなく、従業員の適切な対応やサービスも重要になります。
たとえば聴覚に障害がある旅行者に対して、理想は手話ができるスタッフが対応することなどですが、それが難しい場合は筆談での対応をするなども考えられます。
アクセシブル化への手段を多く持ち、それらを柔軟に実行できることが重要です。
また、定期的な教育や研修による、障害者対応への意識付けも必要となります。
ハンディキャップを持つ人への無理解による行動が、悪気なく相手を不愉快にさせてしまうリスクを低減するためにも、まずは正しい知識を周知することが必要です。
アクセシブル化に関する情報を配信する
施設やサービスのアクセシブル化の対応をしても、ハンディキャップの当事者にその情報が届かなければ旅行に来てもらうための動機には結びつきません。
対応は、情報発信とセットで行うことが効果的です。
ガイドブックやパンフレット、Webサイトなどへの対応内容の記載などを通して、積極的に情報を配信して行くことが必要です。
また、自治体によりアクセシブル・ツーリズムに関する情報をポータルサイトとしてまとめている場合などがあり、そういった当事者がアクセスする可能性が高いところへの情報発信も効果的といえます。
アクセシブルツーリズムに関するシンポジウムや研修への参加
アクセシブルツーリズムの推進は近年強い関心を集めており、アクセシブルツーリズムに関する国や自治体が主催するシンポジウムや研修が行われることがあります。
そういったイベントに参加することで意識づけやアクセシブル化への正しい知識が得られるだけでなく、新たな取り組みへのヒントが得られることも考えられます。
国内の取り組み事例
すでにアクセシブルツーリズムの考え方に基づき、さまざまな取り組みを行っている自治体や旅行業者がいます。
ここでは日本国内のアクセシブルツーリズムへの取り組み事例を紹介します。
1. 東京都アクセシブル・ツーリズム ポータルサイト「Accessible Tourism Tokyo」
東京都産業労働局は、近畿日本ツーリスト首都圏と協働し、アクセシブルツーリズムのポータルサイト「Accessible Tourism Tokyo」を運営しています。
同サイトでは、東京の各観光地のバリアフリーに関する情報が旅行者向け、事業者向けの二つの視点からまとめられています。
旅行者向けには東京都内のアクセシブルツーリズムに対応した観光施設、交通機関の情報などが掲載されています。
一方、事業者向けには東京都内の各施設でのアクセシブルツーリズムへの対応事例や、補助金などの活用事例が掲載されています。
またサイトは英語と日本語の2言語対応となっており、また音声読み上げ機能や文字サイズの調整機能など、サイト自体がバリアフリーを強く意識したデザインとなっています。
2. 山梨県「飯丘観光」
山梨県で観光バス業務を運営する飯岡観光では、アクセシブルツーリズムを強く推進する方針を打ち出しています。
リフト付きの貸切バスの導入による車椅子や足が不自由な旅行者のための対応や、障害者・高齢者に向けたツアーの提案などの取り組みを積極的に行っています。
また地元の八ヶ岳観光福祉デザイン室との連携による観光福祉への取り組みや、車椅子補助装置の導入による介助者の負担軽減など、ハンディキャップの当事者以外にもそれを支える地域やサポートをする人に向けた活動を行っているのも特徴です。
3. 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会「シルバースター登録制度」
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)では、1993年から高齢社会に対応した宿泊施設を認定する「シルバースター登録制度」を行っています。
浴室や階段に手すりが設置されている、高齢者に配慮した食事の提供が可能であるなどのいくつかの登録基準を満たした宿泊施設を認定し、登録するものです。
登録された施設は全旅連のサイトで紹介され、アクセシブルな施設を求める当事者により届きやすくなります。
観光のアクセシブル化で、高齢者や障害者にとって快適な旅を
アクセシブルツーリズムとは、障がいを持つ人や高齢の人など、旅行をするのに何らかの困難を抱える人たちの二ーズに応え、全ての人が楽しめることを目指した旅行です。
アクセシブルツーリズムの取り組みは、少子高齢化が進む日本において、より多くの人に旅行を楽しんでもらうことで観光業を盛り上げることにもつながります。
また、ハンディをもつ当事者以外にとっても、利便性が向上することも取り組みの利点の一つです。
実践にあたってはハンディを抱える人への正しい理解と、何が求められているかということへの正しい知識に基づいた工夫が必要になるでしょう。
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<参考>
Travelvision:「心のバリアフリー」を、東京都がアクセシブル・ツーリズムのセミナー開催
eHotelier:Accessible tourism has huge potential for more growth
Journal of Tourism Futures:Assessing the value and market attractiveness of the accessible tourism industry in Europe: a focus on major travel and leisure companies
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