新型コロナウイルスの感染拡大により、人の流れが滞った影響をまともに受けている産業の一つが観光です。しかし、近い将来に新型コロナウイルスが収束し、人々が観光客への意欲を取り戻した時に懸念されるのことの一つとして、「オーバーツーリズム」の問題が挙げられます。
観光客の増加により地元に住む人が生活に不便を感じるケースが、新型コロナウイルス発生前には頻繁に見られるようになっていました。現在はそうした問題に加えて、観光客の流入が新型コロナの感染拡大を招く懸念があり、地元に住む人々と観光客との間に新たな対立を生み出す可能性があります。
今回の記事では、オーバーツーリズムを防止し、地元に住む人々による観光客への悪印象を払拭するために、海外で採用されているケースをいくつかご紹介します。
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「オーバーツーリズム」とは何か
まず「オーバーツーリズム」とは、「特定の観光地において訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況 」を意味します。
具体的には、観光客の人数が観光地の受け入れ可能人数を大きく上回った結果、 交通渋滞や騒音、ゴミのポイ捨てやトイレ不足などのさまざまな「観光公害」が引き起こされた状態を表します。
こうしたオーバーツーリズムは、その地を訪れた観光客自身も気がつくものです。例えば京都市産業労働局が発表した「京都観光総合調査京都市産業観光局 平成30年(2018年) 1月~12月」によると、訪日外国人に「京都観光で残念に思った」ことを質問したところ、「混雑」を挙げた回答が6%(平成29年)から約13%(平成30年)に急増しました。
もちろん、こうした混雑や騒音等の「観光公害」は観光地の近隣住民の生活にも不便や悪影響をもたらすことになり、その結果観光客と地元住民の間のトラブルも発生しています。
オーバーツーリズムとは?|問題点・対策・取り組み事例を紹介
昨年まで日本の観光業界では
「オーバーツーリズム」に対する住民の不満の高まり
前述の通り、「オーバーツーリズム」に対する住民の反感は、特に外国人観光客が多く訪れるところで頻繁に見られます。ここでは日本で見られる「オーバーツーリズム」の例を2つ紹介します。
京都、観光に対する住民の不満度が年々上昇
京都は国際的に知られた日本有数の観光地で、新型コロナウイルス発生前には多くの訪日外国人客が滞在していました。しかし、観光業が重要な収入源と一つであるこのまちでも、「オーバーツーリズム」により地元住民の生活に悪影響が出ています。例えば、京都市市民生活実感調査によると、「京都は市民にとって暮らしやすい観光地である」という設問に対して「そう思わない」と答えた人が、2014年の5.5%から2019年には13.2%へ増加しています。
この5年間で京都を訪れる訪日観光客の数が急増しましたが、前述の回答の変化は「オーバーツーリズム」の悪影響を地元の人々が受けていることを示しているといえます。
対馬の神社「韓国人お断り」に踏み切る
2020年1月、長崎県対馬市の和多都美神社では、韓国人観光客を指すと思われる文脈で「外国人」の立ち入りを無期限で停止する旨を、和多都美神社禰宜(ねぎ)と名乗るアカウントがツイッターで表明しました 。(現在このツイートは削除されています。)
この立入禁止の直接のきっかけとなったのは、和多都美神社の拝殿の入り口を塞いだ状態で10〜20分にわたり説明をするような迷惑行為の多くが韓国人ガイドによってなされていると、神社側が判断したことにあります。
これらの例のように、京都や対馬に代表される日本の観光地を訪れる訪日外国人観光客が2019年まで急激に増加し、それに対する対策が不十分であったことが「オーバーツーリズム」を生み出す原因といえます。
しかし、特に人間を通して感染が拡大する新型コロナウイルスが出現した現在では、観光客を対象としたアプローチだけでなく、観光客の受け入れ事業者や地域住民に対するアプローチも、観光産業の推進のために必要となっています。
韓国人観光の全盛期、対馬の神社が「韓国人お断り」を表明するに至ったワケ/観光公害の解決策はどこにあるのか
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海外DMOのアプローチ方法:住民へのアプローチ
こうした「オーバーツーリズム」は海外でも見られます。しかし、同時に海外では「オーバーツーリズム」が生み出す問題を解決しようという動きも見られます。
ここでは「オーバーツーリズム」解消の例として、ベルリンとハワイのケースを取り上げます。
ドイツ・ベルリン:DMOによる地元住民への街頭インタビュー
ヨーロッパの中でも「オーバーツーリズム」に悩む街の一つが、ドイツのベルリンです。他のドイツの街と比べると物価等が安いため多くの外国人観光客が訪れるようになり、その結果地元住民と観光客との間に多くの摩擦が生まれることになりました。
こうした問題に対する一つの方法として、ベルリンのDMOの一つであるvisitBerlinは地元に住む人に直接会ってインタビューをする「キーツツアー」を実施することで、観光客の多寡や観光客に対する意識などについての意見を集めています。
キーツ(Kiez)とは、区域よりも小さい単位の居住区のことを指します。visitBerlin のスタッフが各キーツを訪れ、住民へ該当インタビューを行います。訪問先は市場や図書館などの人が集まる場所が多く、住民の意識調査だけでなく、観光がベルリンにもたらしているメリットを市民へ啓発する狙いもあります。
このvisitBerlinによる住民インタビューにより、観光客に反感を持つ住民の存在を早い段階で把握することができ、どのような問題がどこで発生するか等を予測できるようになりました。
アメリカ・ハワイ州:住民意識調査を取り組みに反映
ハワイも「オーバーツーリズム」に悩んでいる場所の一つです。そのため、ハワイ州観光局は2年毎に住民意識調査を実施して、観光が地域にもたらす価値・観光関連産業の雇用環境・生活の質への影響等を検証しています。そして、この住民意識調査の結果は、ハワイの観光地経営における施策等の基盤になっています。
「2017年住民観光意識調査」によると「観光は問題よりも利益をもたらしているか」という質問に対し、「強くそう思う」及び「いくらかそう思う」と答えた住民の割合が減少していました。その原因として、交通渋滞、人の混雑、物価高や生活費の向上、環境へのダメージといった観光への問題が提起されました。
こうした調査の結果を受けて、ハワイ州観光局では住民意識の改善のために、マーケティングよりも管理面により重点を置くとしています。
地域住民との対話が重要に
今回の新型コロナウイルス感染拡大により、「オーバーツーリズム」がもたらすリスクは地元住民の健康や安全にまで影響を及ぼすこととなりました。そのため、国際往来が再開したのちに訪日外国人観光客を笑顔で受け入れるためには、徹底した感染対策はもちろん、観光がもたらす地域へのメリットを地元住民に理解してもらうことが一層重要となります。
「オーバーツーリズム」の問題は、地元に住む人々が自分の街の観光開発に意見する機会が今までほとんど無かったことも原因のひとつでした。
これからの観光事業者は、地元住民と積極的に対話の場を持ち、彼らの意見を事業に反映することが、観光振興策をすすめるために必要となってくるでしょう。
<参考>
・京都市:市民生活実感調査
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