マスツーリズムとは、いわゆる「観光の大衆(マス)化」のことで、かつて富裕階級に限られていた観光旅行が、一般大衆にも広く行われるようになる現象を指します。
本記事では、マスツーリズムの変遷や今後の展望について解説します。
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マスツーリズムとは?大衆に広く浸透した観光
世界のマスツーリズムの広がりと、日本のマスツーリズムの発生について説明します。
第二次世界大戦後 米国や西欧から拡大
マスツーリズムはもともと先進国から広まったもので、主にアメリカや西ヨーロッパなどで先駆けて発生しました。
余暇の時間と経済力を有する富裕階級の特権だった観光が、第二次世界大戦後の著しい復興による大衆の経済力向上と観光の商品化が相まって、大衆に普及しました。
マスツーリズムの発生は1960年代といわれており、その背景には国際観光の発展に対する国際機関の活動がありました。
例えば国連は1967年を「国際観光年」に定め、観光が教育や経済に果たす役割を各方面に認識させて、観光振興のための諸施策の推進を要請しました。
日本におけるマスツーリズム 世界とほぼ同時に浸透
日本におけるマスツーリズムも第二次世界大戦後に浸透しました。
そのきっかけとして1964年の新幹線開業や、1970年のジャンボジェット機が航空路線になったことが挙げられます。
交通機関が整備され、地方での大型ホテルや旅館の開業が盛んとなり、メディアによる観光地情報の紹介などもあり観光が拡大していきました。
政府も戦後すぐに観光に注力し、先述の国連による「国際観光年宣言」が行われた直後には内閣総理大臣のメッセージを発表して、国際観光年の受入れに協力する姿勢を明らかにしました。
1967年2月の観光対策連絡会議においては、8項目からなる「国際観光年に関する基本方針」を制定しました。
入出国手続の簡素化・合理化のほか、国際観光地および国際観光ルート整備5か年計画の推進や、観光資源の保護、観光族行の安全の確保、観光旅行の円滑化、国土の美化、観光に関する普及啓蒙、国際観光年に関する広報が挙げられており、特にこれらの施策に重点に置いて実施すると決定しました。
マスツーリズムの課題。環境への配慮も今後の焦点に
ここまでマスツーリズムの変遷について説明していきましたが、大衆による観光には様々な問題点があります。
次世代の観光は、それらの問題解決を優先していくことが重要です。
マスツーリズムをめぐる諸問題
マスツーリズムで生じる問題は多岐にわたります。
まず環境保全の問題です。地域で対応できない過度な数の観光客が訪れるなど、観光ニーズの多様化に伴う観光活動の増大が挙げられます。
また、経済的な視点からの開発先行、移動手段としての車の渋滞による大気汚染などがその土地の貴重な資源にダメージを与えたり、定住環境を悪化させるなどの事象が生じています。
国民の環境意識が高まってきているなか、自然環境や文化財・文化遺産を良い状態で保存しておくことは、住民と観光客のいずれにとっても極めて重要です。
このほかにも観光地域の人々の積極的な交流意識の低さも問題となっており、観光交流においては接する人同士のマナーが極めて大きな意味・役割を持ちます。
しかし急な観光地開発やこれまでの経済優先の中、挨拶も含めた基本的マナーが後回しにされてきた可能性があり、そうしたマナーの回復にも視点を向けることが重要となっています。
次世代のマスツーリズムのあり方は?UNWTO「持続可能な観光」掲げる
国連世界観光機関(UNWTO)は、大衆の観光で生じる諸問題に対して「持続可能な観光」を目標に対応しています。
持続可能な観光においては、具体的には以下のことが求められます。
- 主要な生態学的過程を維持し、自然遺産や生物多様性の保全を図りつつ、観光開発において鍵となる環境資源を最適な形で活用する。
- 訪問客を受け入れるコミュニティーの社会文化面での真正性を尊重し、コミュニティーの建築文化遺産や生きた文化遺産、さらには伝統的な価値観を守り、異文化理解や異文化に対する寛容性に資する。
- 訪問客を受け入れるコミュニティーが安定した雇用、収入獲得の機会、社会サービスを享受できるようにする等、全てのステークホルダーに公平な形で社会経済的な利益を分配し、貧困緩和に貢献しつつ、実行可能かつ長期的な経済運用を実施する。
これらの項目を、観光業界をはじめとした関連するステークホルダーに周知させ、観光を持続可能にしていく活動をしています。
さらに観光客に対しても、観光地の持続可能性を意識づけることを推進しています。
エコツーリズム
実際に、次世代の持続可能な観光として注目されているのがエコツーリズムです。
エコツーリズムとは、自然の営みや人と自然との関わりを対象とし、それらを楽しむとともに、その対象となる地域の自然環境や文化の保全に責任をもつ観光のことです。
実際にはガイダンスやルールを定着させる取り組みを実施しています。
多くの観光客が訪れる富士山でのエコツーリズムの事例では、キャンプや火山洞窟講座、週末自然体験など自然について多く学べるプログラムが実施されています。
主に修学旅行生を対象とした自然体験プログラムですが、これにより地域の観光産業に対して8億~9億円の経済効果をもたらしました。
関連記事:エコツーリズムとは|歴史や日本における事例・課題を解説
アフターコロナの旅行業界は「持続可能な観光」へ対応することが重要
第二次世界大戦後に発生したマスマーケティングは成熟し、現在はエコツーリズムなど次世代の観光がスタンダードになりつつあります。
新型コロナウイルスが収束し、近い将来大量にインバウンドが訪れる地域は、今から次世代のツーリズムを整備する必要があるでしょう。
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<参照>
運輸白書:第1節 国際観光年
国土交通省:I.観光をめぐる諸事情
UNWTO:持続可能な観光の定義
環境省:エコツーリズムに関する国内外の取組みについて
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