日本政府観光局(JNTO)では重点22市場において、海外旅行に関する意向や旅行形態等に関するアンケート調査を実施し、市場規模や地方誘客の可能性等に関する分析が行われました。
訪日ラボでは、同調査の前編として訪日旅行の認知度、リピート率、潜在的な市場規模について取り上げました。
今回は後編として、訪日旅行をするうえで競合となりうる国・地域の調査や、訪日旅行で体験した観光コンテンツの体験率と満足度の調査などについて紹介します。
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訪日旅行の競合国は?旅行泊数・消費単価・リピーター競合の観点から紹介
JNTOは、2021年3月~6月にかけて、オンラインによるアンケート調査を中心に、ビジット・ジャパン重点22市場においてアンケートを実施しました。
調査対象者は、20歳以上のレジャー目的での海外旅行経験者です。
今回の後編では、まず主に訪日旅行の競合となりうる国・地域の調査について紹介します。
日本の旅行泊数・消費単価でみたポジショニング
まず、日本の訪問率、旅行消費単価、泊数で振り返ります。
ショート・ミドルホール(東アジア・東南アジア)市場では、特に東アジアを中心に日本への訪問率が高くなっています。
旅行消費単価は20万~30万円の水準で推移しているものの、各国が欧米豪市場で消費するほどの消費単価は獲得できていません。泊数も4~7日ほどですが、欧米豪の方が泊数が長くなっています。
ここから、日本は「手軽に行ける、安い旅行先」となりつつあることが見て取れます。
一方、ロングホール市場(欧米豪・インド・中東市場)では、欧米間での訪問需要が高まっており、日本の訪問率はさほど高くありません。
旅行消費単価は約40~60万円ほどで、他の旅行先と比べて上位であるものの、一部では英米の消費単価を下回っている市場もあります。
泊数は約7~10日で、これは東アジア・東南アジアより長いものの、欧米豪の方がより長くなっています。
全体的に見ても、日本は泊数が短く、これが旅行消費を獲得する上での一種のボトルネックとなりうるでしょう。
また、いずれの市場でも、欧米豪で消費単価が高くなる傾向があり、日本においては欧米豪に勝るような富裕層も呼び込めるコンテンツ作り、呼び込みが必要になると考えられます。
ここからは、各国市場での日本のおかれている市場環境、訪日旅行のリピート回数別による競合国についてみていきます。
まずは東アジア、東南アジアです。
中国では、日本はショートホールとロングホールの旅行先の中間的なポジションとなります。イギリス、モルディブ、韓国、シンガポール、カナダ、ニュージーランドが特に競合になりえます。
またが訪日回数が多くなれば、アジア以外の欧米豪も競合となり、意識する必要があります。
タイも中国と同様、日本はショートホールとロングホールの旅行先の中間的な位置づけとなっています。競合国には東アジア各国の他、スイスも含まれている点が特徴的です。
訪日回数を重ねると、特に韓国がライバルとなりうるため、差別化戦略が求められます。
アジアでは、安定的にリピーターを獲得できているものの、ライバルは他アジア諸国だけではなく、欧米豪もなりうることをより意識する必要があります。
続いて欧米です。
アメリカでは、日本での泊数は短めですが、単価では平均もしくは高めの立ち位置です。そして、日本の競合となりうるのがフランス、イギリス、ニュージーランドなどヨーロッパの旅行先があげられます。
訪日回数を重ねた層でみると、訪れているリピート先はメキシコ、ヨーロッパが高いですが、アジアでも日本よりシンガポール、香港の方が高くなります。
イギリスでは、日本は泊数が短く、単価では平均程度にあります。ただし、アジアの旅行先の中では高めになります。
また、イギリスならではの特徴として、関係性が深いオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、インドでは泊数が長くなりやすい傾向にあります。
競合となりうる存在として、シンガポール、カナダ、香港があげられます。また、訪日回数を重ねる層は、他のアジア諸国にも興味があり、そこでの差別化も必要です。
グローバル化が進展した現在、地理的なハードルがどんどん低くなり、ロングホール市場でも日本に何度も訪れることが容易になりました。より「世界の中での日本」を意識し、独自の文化を見つめなおすことが必要だと考えられます。
旅行タイプ別から見た日本市場の特徴
続いて、「周遊旅行」「都市滞在」「ビーチリゾート滞在」から見た日本市場の特徴を紹介します。
東アジア、東南アジアでは、海外旅行の目的として一般的に「周遊旅行」や「テーマパークなどの訪問」が多くなっています。
日本への旅行でも、「周遊旅行」、「都市滞在」、「テーマパークなどの訪問」が高くなっています。
ただし、「ビーチリゾート滞在」や「ネイチャーアクティビティ」、「アウトドアアクティビティ」では低くなっています。自然を満喫する旅行先という認識には至っていないことがわかります。
欧米豪では、海外旅行の目的として「ビーチリゾート滞在」が多くなっています。
ただし、日本での旅行は「都市滞在」の割合が圧倒的に高くなっています。また、「周遊旅行(各都市に連泊)」する割合も低くなっており、より都市部以外の魅力を発信すること、またビーチリゾートなども意識していく必要があると考えられます。
訪日旅行での観光コンテンツ、体験率と満足度調査
続いて、東アジア、東南アジア、欧米豪・インド・中東市場で観光コンテンツの体験率と満足度の調査が実施されました。
全体的に見て、伝統行事・祭体験は体験率・満足度共に高くなっていました。日本人でも多くの人が参加する祭や、その独特の雰囲気には地域の特徴を超えて伝わるものがあると考えられます。
また、ローカルフードは特に東アジア、欧米豪・インド・中東市場で体験した人の満足度が高いのにもかかわらず、体験率が低くなっていました。周遊旅行を体験する割合が比較的高いのにもかかわらず、これらの食への体験度が低いことから、より一層のアピールが必要だと考えられます。
一方、伝統芸能は体験した人も多いのにもかかわらず、満足度が低くなっていました。より外国の方でも楽しめる工夫が凝らされる必要があります。
お茶、お花などの室内体験は、体験した人がいずれも少なく、かつ満足度も低くなっていました。観光コンテンツとしての磨き上げ、そして発掘し広めていくことが重要になると考えられます。
また、海外旅行の目的に多くあげられている「ビーチリゾート」の満足度が低く、早急に体制を整える必要があると考えられます。
ここからは、各市場の様子と共に特筆すべき点を記載します。
まずは東アジア市場です。
マーケット、日用品の満足度が高いのは東アジアに見られた特徴でした。「爆買い」という言葉が話題となりましたが、体験率が低くなっていることから、より現地ならではの体験も含めた販売促進が必要だと考えられます。
高速列車・ローカル線の満足度が低いのは、東アジア市場のみに見られた点でした。体験率が高いため、より東アジアの顧客を意識し、それをも凌駕するようなコンテンツの発掘に取り組む必要があると考えられます。
続いて、東南アジア市場です。
雪が少ない影響からか、ウィンターリゾートを体験した人は多いものの、満足度が低くなっています。雪があるという期待を上回るリゾートの作り方、提案が求められます。
最後に欧米豪、インド、中東市場です。
武道体験に関しては、体験率も高く満足度も高くなっています。日本ならではの体験だとして、評価を集めていると考えられます。
一方、他の地域に対して酒蔵訪問や農山漁村体験率は高いにも関わらず、満足度が低くなっていました。認知度はあるものの、それに伴うコンテンツ、宿泊施設、体験が用意できているのか、今一度見つめなおす必要があると考えられます。
海外旅行の目的、「ガストロノミー・美食」が1位に
最後に、海外旅行の目的から見て、日本の旅行業界について振り返ります。
全体として、日本に限らず海外旅行の主な目的となるものは「ガストロノミー・美食」で、そのために旅行に行きたい人は約1億4,800万人となりました。
続いて、「テーマパーク」、「庭園、花鑑賞」、「建築」が旅行の主目的となる人は1億人を超えています。
上記の観光コンテンツの体験率と満足度のとも重ね合わせると、「ガストロノミー・美食」分野ではローカルフードの体験率の向上があげられます。
また庭園・花鑑賞なども満足度は高いのにもかかわらず、アジアではさほど体験されていないことから、発信方法を検討したうえでの周知が必要となるでしょう。
市場別では、東アジア、東南アジアで「テーマパーク」、「ラグジュアリーホテル」を旅行の主目的にする人が他の市場に比較して多くなっています。
ただし、日本ではリゾートに関する評価が低いことから、ラグジュアリーホテルに泊まりたいという欲求を十分に満たせていないと考えられます。
欧米豪・インド・中東市場では、「建築」、「ラグジュアリーホテル」を旅行の主目的にする人が他の市場と比較して多くなっています。
ただし、宿坊体験や農山漁村にあまり満足している様子が見られず、日本の伝統的な建築美の見せ方、あり方についても議論する必要があると考えられます。
日本への訪問意向はアジアを中心に比較的に高いのにもかかわらず、必ずしもニーズを拾いきれいていない、魅力を伝えきれていない様子も浮かびあがる結果となりました。
まもなく入国制限が緩和され、外国人の訪日旅行も解禁される予定です。残り時間は少ないものの、準備を進めていく必要があると考えられます。
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<参照>
JNTO:往来再開を見据え、世界22市場で訪日旅行意向に関する独自調査を実施
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