インバウンド"再開前夜"京都市の次の一手は

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2020年3月に世界的なパンデミックが始まって以来、日本のインバウンドは文字通り「消滅」した状況にありました。

特にその影響を強く受けた都市の一つが、日本を代表する歴史的・文化的観光資源を持つ京都です。

コロナ前は国内旅行はもちろん、インバウンド観光や国際会議の目的地として活況を呈していた京都にとって、コロナ禍は観光関連事業者だけでなく市民生活にも大きな変化をもたらしました。

そのような状況においても、京都市のDMOである京都市観光協会はこの二年半の間で、着実にコロナ後の観光への備えを進めていました。

かつてのオーバーツーリズムを繰り返さないための対策、誘致するターゲットの再定義、マナー啓発の取り組みなど、様々な「打ち手」を同団体は講じています。

今回は京都市観光協会の西村様に直接お話を伺い、京都市がコロナ禍の2年半をどう過ごしたかについて、またポストコロナの観光に向け、今後京都市が目指すべき方向性について取材しました。

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京都市観光協会とは

京都府のほぼ中央に位置する京都市は、多数の歴史的建造物や古い街並みを今も残す、言わずと知れた日本有数の観光都市です。

そんな京都は、米国の旅行誌が選ぶ世界人気都市ランキングでは2020年に世界1位を獲得するなど、インバウンドにも当然、非常に高い人気を誇っています。

▲京都市観光協会 公式サイト
▲京都市観光協会 公式サイト

公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO)は京都市域において唯一、観光の振興を目的に活動する団体として行政はじめ関係諸団体との連携のもと、京都ならではの観光資源を活用した事業の実施や観光情報の発信など、戦略的な事業展開により京都の観光振興を積極的に推進しています。

コロナ禍の2年半、「インバウンドが消滅した」京都の様子は

_過去2年半ほど、観光が厳しい状況におかれていました。貴団体および京都市民の方はコロナ禍をどう受け止め、そしてどのように乗り越えてきたのでしょうか。

コロナが蔓延し始めて最初のころは、「コロナはすぐ終わるだろう」「こんな静かな京都もいいね」という雰囲気もあったのですが、だんだん市民生活にも影響が出てきました。

例えば市民の方々の通勤・通学にも使われている市営バスの黒字系統が減少してしまったので、本数を減らさざるを得なかったり、宿泊税の税収が以前より激減したため、景観をよくするために構想が進んでいた無電柱化事業の一部が中止になったりしました。

インバウンド観光客の減少が、日々の生活にも影響し始めていると感じられている市民の方もいらっしゃると思います。

当協会としても、いつコロナ禍から脱出し、観光が本格的に再開するのかわからない不安な状況が続いていましが、こういった時だからこそ、観光関連事業者の方々を支援する補助的な事業を続けてきました。

▲インバウンド消失による影響はなお深く:京都市観光協会データ月報(2022年7月)
▲インバウンド消失による影響はなお深く:京都市観光協会データ月報(2022年7月)

"コロナ前に逆戻り"は望まれない

_しかし、観光客でごった返すかつての京都に戻ってしまうことを懸念する声もあるのでしょうか。

現在は行動制限が無くなっていることもあり、京都にも多くの国内観光客の姿が戻り始めています。

今はインバウンドより先に修学旅行のような団体旅行客が戻って来ている状況なのですが、そうした風景が戻ることへの感謝や懐かしさと共に「観光客には戻ってきてもらいたいけど、自分たちの生活がまた影響がでるのではないか」と感じている市民の方々は一定いらっしゃることは承知しております。

地域教育とシビック・プライド

そうした不安を抱える方々に、観光が京都の市民生活にとって重要であり、どれだけのメリットを享受できていたかを知ってもらうために、京都市が作成した「私たちの暮らしと京都観光」というリーフレットを用い、情報発信を行っています。

▲私たちの暮らしと京都観光:京都市
▲私たちの暮らしと京都観光:京都市

_観光に直接関係のない方々は、「観光の収入があることが実生活にプラスになっている」という状況に気づきにくいと思います。

例えばハワイやグアムといったリゾート島は、観光関連の職に従事される方も多く、観光客が来るかどうかが生活にも直結するため、観光の受益を可視化、体感しやすいというバックグラウンドがあるかと思います。

いっぽう、京都の産業の中心は製造業です。ものづくり産業の中で働いている人たちの方が多いため、直接的に観光振興によって裨益しない方々からすると、観光のもたらすプラスの側面がわかりにくいのではないかと思います。

だからこそ、市民・多岐にわたる業界の方々には観光産業によってどれだけ地域が潤い、まちづくりが進展しているのかを知ってもらう必要があると考えています。

「理解度」という軸でターゲットを設定

_インバウンド観光の本格再開が迫っている中で機運が高まっているテーマの一つに、富裕層の観光誘致があります。「量より質」を実現するために、富裕層に向けたプロモーション、提供するコンテンツはどのように考えていますでしょうか。

コロナ禍の前から、京都では、本物の価値を追求し、京都の上質な文化を求める観光客「目利き層」をターゲットの一つの軸として、施策を展開してきました。

コロナ後を見据え、さらにターゲットを具体化していこうという中で、インタビュー調査や、国内外の主要市場を対象として実施したWEBアンケート調査の結果をもとに、「旅先で魅力を発掘して創作活動に活かす人」など、5つの顧客像を「持続可能な観光のための新たなターゲット」とし、設定しました。

▲新しい京都観光のアイデア募集を踏まえた事業展開(ロードマップ)の改訂について:京都市観光協会
▲新しい京都観光のアイデア募集を踏まえた事業展開(ロードマップ)の改訂について:京都市観光協会

いわゆる富裕層的なニューリッチ層がグレーで示した従来の主要ターゲットなのですが、それに加えて青色で示しているような、単にお金を持っているだけではなく京都の文化などに対して深く理解を示してくださる方々というのを一つ別の層として考えています。

そうした理解の高い方を違う軸のターゲットとして設定をして、そこに向けたPRをしていこうと、方針を新たにするところです。

_京都の文化に理解を示し、価値を感じてくださる方。その良さを広めてくださる方に向けて、実際にどのようにPR・プロモーションに取り組む予定ですか?

今まではILTMをはじめ、海外で行われるハイエンド・ラグジュアリー層向けの商談会に出展し、バイヤーを通じターゲットへアプローチしていました。

その甲斐あって、ターゲットとしている層の観光客も増えてきていました。

新しいターゲット、つまりラグジュアリー層に限らず文化や歴史への理解度が高い方に向けては、例えば、これまでに実施したシャネルやフェラーリ等の海外企業主催のイベントやACK(Art Collaboration Kyoto)といった文化・アートイベントが重要になってくると考えています。

_新たなターゲットの設定には、京都を「リブランディング」する意図もあるのでしょうか。

京都はかねてから文化を中心に様々な施策を進めています。文化といっても様々な切り口があると思うのですが、アートもその一つで、クリエイティブな方々に京都に来ていただくことで、化学反応が起こり新しいものが生まれていくという流れがあるのは実感しています。

今年度末に文化庁も本格的に京都に移転してくるので、そういった文化やアートというのを基軸に街を発展させていく方向性は今後もぶれないと思います。

京都市は海もリゾートもないですが、文化やクリエイティブなものへの価値に関しては、1,000年以上前から培ってきた伝統産業の歴史があります。

こうした文化的な材料には事欠かないので、それをさらに新しいアーティストの方や、新しい技術と組み合わせたりして、さらに高付加価値型のコンテンツに昇華させ、観光のスポットや誘客のポイントにして、人を呼んでいくという流れは今後も加速していくと思います。

「3つの分散化」でオーバーツーリズム対策

_インバウンド本格再開後のオーバーツーリズムを回避するために、すでに様々なお取組みをされていますね。

そうですね。「場所」・「季節」・「時間」、これら3つの分散を進めています。

場所の分散に関しては、2018年に始めた「とっておきの京都プロジェクト」が代表的です。観光客の方はどうしても世界遺産を中心としたメジャーなスポットに集中してしまうので、そこからちょっと離れた伏見や大原、高雄、山科、西京、京北の魅力を伝え、足を運んでもらうようにしています。

▲とっておきの京都プロジェクト 公式サイト
▲とっておきの京都プロジェクト 公式サイト

とはいえ初めて京都に来る方々はメジャーなスポットに行きたいでしょうし、清水や嵐山といったエリアは混雑してしまいます。

そこで混雑を少しでも和らげるために、混雑の可視化というところで、京都市観光協会のオフィシャルサイトに「京都観光快適度マップ」というのを載せています。

▲京都観光快適度マップ:京都観光Navi
▲京都観光快適度マップ:京都観光Navi

青色が人が少ない状態、赤色が多い状態と示しているため、どれくらい混雑しているのかぱっと見でわかります。

このマップ画面の中でスポットをクリックすると、ライブカメラで現在のそのエリアの様子を見ることができます。

▲京都観光快適度マップ ライブカメラ映像:京都観光Navi
▲京都観光快適度マップ ライブカメラ映像:京都観光Navi

この映像や混雑状況の予想を見て、「あまりにも人が多いのであれば今はやめとこうかな」という使い方ができますし、こういった形で混雑の可視化を進めて、分散を促しているところです。

_「季節の分散」「時間の分散」についてはどのような取り組みをされているのでしょうか。

京都は桜の春と紅葉の秋に人が集中する傾向にあります。そこで夏と冬にも訪れてもらおうと、夏であれば京の七夕、夏の旅、冬であれば嵐山花灯路、東山花灯路とか冬の旅という季節ごとの魅力を訴求しました。

このおかげで、平成15年度には観光客が最も多かった11月が666万人に対して最も少なかった2月は186万人と3.6倍の差があったのですが、こうした取り組みを進めた結果、令和元年度にはその差は1.3倍まで狭まりました。

もう一つは、時間の分散です。京都の朝と夜の観光をPRするサイトを作っています。例えば清水寺は朝6時から開いているのですが、早朝に訪れるととても静かで特別な時間を味わえると思います。

朝と夜にコンテンツを増やせば増やすほど混雑も緩和できることはもちろん宿泊日数の増加にもつながります。これは宿泊税のような税収の増加に直結しますので、力をいれていきたい分野です。

今後は、分散を意識した時間別の料金格差設定等のイールドマネジメントも必要だと考えています。

▲智積院早朝特別拝観:京都観光Navi
▲智積院早朝特別拝観:京都観光Navi

「マインド」含めたマナー啓発、持続可能性の向上図る

_多くの観光客が訪れることで、マナー違反やゴミの問題も発生します。再びそういう状況に戻らないよう、マナー啓発のチラシを作成されているのですね。

昨年度には、「MIND YOUR MANNERS」というクリエイティブを制作し、フライヤーやデジタルサイネージ、オウンドメディアで発信しています。

▲MIND YOUR MANNERS
▲MIND YOUR MANNERS

「MIND YOUR MANNERS」では「道をふさがないで」、「道路では禁煙」といった禁止事項を説明するだけでなく、「エコバッグを持参しましょう」とか、「文化遺産を守りましょう」というポジティブな啓発も包含しています。これには持続可能な観光への意識が込められています。

伴走型で「高付加価値化」支援、事業者間の交流も提供

_富裕層の誘致にあたって、富裕層の方にターゲットを絞った特別な体験コンテンツの造成は進められていますか。

会員様の中で伝統産業の分野に携わる方から、「自分たちがもっている商品を、高付加価値なものであるということ伝え、販売していくためのアドバイスをもらえないか」という相談は受け始めています。

そういった相談もあった流れで、「インバウンドイノベーション京都」という事業を始めています。

▲「インバウンドイノベーション京都」全体スケジュール:京都市観光協会
▲「インバウンドイノベーション京都」全体スケジュール:京都市観光協会

これは高付加価値を付けた商品を京都市観光協会と一緒に作っていく、伴走型の支援です。

それともう一つは、「京都インバウンドカフェ」という、インバウンド向けのコンテンツの在り方を考える交流イベントをスタートしています。

情報共有をしながら、異なるコンテンツどうしを掛け合わせたらもっと高付加価値なものができるんじゃないかという期待をしつつ、事業者間の交流の場をつくってみようという試みです。

これからのDMOは数値化・具体化が求められる

取材を通して京都市観光協会様のお取組みの数々を伺う中で終始感じ取れたこととして、「全ての取り組みが数値的な目標や、客観的なロジックに裏付けられている」ということがあります。

取材の最後に、西村様に「今後観光産業に求められる人材像はどのようなものか」を伺ってみたところ、「DXやマーケティングといった専門性の高い能力を持つ人材と、行政や業界団体など多岐にわたるステークホルダーとの調整ができるジェネラリスト」とのお答えをいただきました。

あらゆる分野でのIT化、ひいてはDX化を推進していかなければならない今日において、「数値で効果を測定できない」「データはあるけれども、それを活用できない」という状況では、観光産業の成長も頭打ちになってしまいます。

日本のインバウンド産業をこれから更に成長させていくためにも、DMOはデータや数値に客観的に裏付けされた施策を取り続けていく必要があります。そのトップランナーであり、日本のインバウンドの顔ともいえる京都市観光協会様のお取組みに注目が集まります。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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