地域経済活性化の柱として、期待が高まる観光業。インバウンド需要の拡大に合わせて、自治体・DMOでもさまざまな取り組みが進んでいます。その中でも難易度が高く試行錯誤されている施策の一つが、地域全体を巻き込んだデジタルマーケティングや、観光DXの取り組みです。
そんな中、2024年5月8日〜10日、観光課題に対するソリューションを展示する「観光DX・マーケティングEXPO」が開催され、地域の観光DXなどに関わるセミナーも行われました。
訪日ラボからも、「まち全体で取り組む!豊岡エリアのインバウンド×観光DX戦略」セミナーにて、インバウンド事業部長の川西哲平が登壇。パネリストとして一般社団法人 豊岡観光イノベーション 事業本部次長 川角洋祐氏をお招きし、デジタルマーケティングを活用した観光業の振興および地域課題解決について、豊岡市の事例を踏まえてディスカッションしました。
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2023年の訪日客数は2,500万人。2024年は過去最高更新の可能性も!
はじめに株式会社movの川西より、インバウンドの最新動向について最新データを踏まえてご説明しました。
2023年の訪日外国人客数は2,507万人で、2016〜2017年と同程度の水準にまで回復。円安の影響もあり、旅行消費額(年間)は5.3兆円と過去最高を更新しています。
JTBが発表した年間旅行動向見通しによると、2024年の訪日外国人客数は過去最高の3,310万人になると予想。実際、2024年1Q(1月〜3月)は2019年比で106%となっており、過去最高を記録した同年(3,188万人)を超える勢いで推移しています。
また、2024年夏の国際線旅客便数については2019年の93%まで回復。空港別で見ると羽田空港や中部国際空港はすでに2019年の水準を超えている状況です。一方、他市場と比べて回復が遅れていた中国への航空便は2019年比63%に止まっています。中国市場は2024年に入り順調な回復を見せていて、2024年夏から後半の需要拡大が期待されています。
※2024年5月8日時点のデータです
地域全体でデジタルマーケティングに取り組んだ豊岡市
続いて、一般社団法人 豊岡観光イノベーション 事業本部次長 川角洋祐氏 から、豊岡市の観光業の現状についてご紹介いただきました。
豊岡市は兵庫県北部に位置し、日本を代表する温泉地として知られる城崎温泉を擁する自治体です。現在約7万6,000人の人口は2060年までに半減するとの予想があり、こうした地域課題の解決策として、市は観光業に注力。地域外からの消費流入を促進し、地域経済・地域社会の活性化を目指しています。
豊岡市の観光業の課題は
豊岡市では近年、国内の宿泊者は減少していたものの、外国人宿泊数は右肩上がりで増加。安定した雇用の創出を目指し、特に閑散期に海外から観光客を呼び込むことが喫緊の課題となっていました。
そこで豊岡市では、2016年に一般社団法人豊岡観光イノベーションを設立。地域を挙げて観光振興に取り組んだ結果、2023年の豊岡市の外国人延べ宿泊者数は2019年比で−4.9%まで回復。日本全体(2019年比−21.4%)よりも早く需要回復が進んだといいます。
観光振興において、豊岡市が特に力を入れてきたのがWebサイトを活用したマーケティングです。観光サイト「Visit Kinosaki」の2023年の閲覧数はコロナ禍前2019年の2.1倍、昨年比1.8倍まで増えています。サイトから直接、宿泊予約をすることもでき、予約実績額も2019年比で5.2倍、昨年比4.6倍に。閑散期の海外からの誘客も一定の効果が見られました。
また、サイト内ではさまざまな体験プログラムを構築し、城崎エリア以外の地域への周遊を促進。体験プログラムの予約数はコロナ禍前の6.3倍に増加しました。市内を訪れた外国人観光客へ訪問地アンケートを実施したところ、2019年は「城崎のみ」と回答した人が72%でしたが、2023年には63%に減少。一方で、他エリアへ周遊した人の割合は2019年の22%から27%にアップしています。
豊岡市のデジタルマーケティングの具体的な取り組みとは?
デジタルマーケティングを強化して、海外からの誘客に成功した豊岡市。川角氏からは次に、具体的な施策内容についても解説いただきました。
豊岡市では、マーケティングのフェーズを「認知・興味」「比較・検討」「滞在・消費」に分け、それぞれ取り組みを実施。海外での認知度を高め、検索から予約までをスムーズに行うシステムを構築し、世界中の旅行者に向けてエリア全体でプロモーションを強化してきました。
TTI(Toyooka Tourism Innovation)のマーケティング戦略
- 日本の滞在地としての認知を高める
- 検索した時に情報がある状態にする(コンテンツを充実させる)
- 予約できるようにする
- 滞在を楽しんでもらい消費を増やす
- インナープロモーション
- マーケティングデータの収集分析
各項目について、豊岡市が実際に行った取り組み内容についてまとめます。
認知を高める
認知度向上に向けては、まずはメディアでの露出を増やすべく、20か国161社の海外メディアと23か国636社の旅行会社に、月に一回リリースを配信。その結果、海外メディアでの露出件数は年々増加し、2023年度には世界各国2,100媒体に掲載があり、広告換算額は2億円を超えました。
また、SNSでの情報発信も積極的に実施。Instagramでは週に2〜3回、英語と繁体字で継続的な投稿を行いました。情報発信の内容や頻度にはマーケティングカレンダーを作成して管理。どの週にどんな情報発信をするか計画を立て、毎週振り返りと改善を行いながら進めていきました。
コンテンツの拡充
旅行者に対して適切な情報を届けられるように、観光公式サイトVisit Kinosakiを毎年少しずつリニューアル。ほったらかしにせず、改善点をきちんと把握し、コンテンツの充実に努めています。
スムーズな予約体制
Visit Kinosakiのサイト内で、宿泊施設や体験プログラムの予約ができるシステムを構築。売上の98%が宿泊施設などに支払われる仕組みをとり、インバウンドの経済効果を地域内に還元できるようにしました。
消費の促進
付加価値の高い体験プログラムを造成し、Visit Kinosakiで販売。現在63のプログラムを販売中で、市内の周遊観光促進にも繋がっています。
観光DX(データの利活用)
城崎温泉にある約400の旅館・宿泊施設の宿泊予約データを自動で収集。地域全体の予約状況がリアルタイムで把握でき、自社の予約状況と比較できるようにしました。その結果、需要を予測して値付けや休館日の設定などに活かすことが可能に。豊岡市は観光DXの先進地と呼ばれるようになり、2023年度は26都道府県39団体が視察に訪れています。
【質疑応答】観光DX成功の秘訣や今後の取り組みは?
セミナー最後は、登壇者2名による質疑応答の時間。観光DXを成功させた秘訣や今後の取り組みについて、参加者からはさまざまな質問が寄せられました。
質問1:現在収集しているデータ基盤以外に、今後仕入れていきたいデータはありますか?
川角氏:今年度から本格的に取り組みたいと考えているのが、海外に対してのCRMです。海外からのゲストはリピーターになりにくいため、顧客との関係性構築は積極的にやってきませんでした。しかし、近年は台湾などからリピーターが増えていて、そうした層に向けて、メールマーケティングなどの強化を検討しています。
川西:国内向けのCRMをやっている企業や自治体は増えてきましたが、海外向けはまだ成功事例がほぼありません。先進的な事例になりうると思うし、期待値も大いにあると思います。
質問2:予約サイトはイチから作ったのですか、それとも既存のサイトのシステムを利用したのですか?
川角氏:地元のWeb制作会社が作っている予約システムをサイトに組み込みました。今も地元企業と連携しながら運用しています。
川西:2016年に立ち上げたサイトだと思うんですが、かなり画期的でしたよね。地域OTAを運営される自治体は、私の知る限り豊岡市さんが一番最初だったと思うのですが、立ち上げ時に苦労した点があればお聞きしたいです。
川角氏:そうですね、我々は小さな自治体で、そんなに予算規模が大きくない。企業に外注できるほどのお金がなかったんです。なので、なんとか自分たちでできるようにしようと思って。最初はなにもわからない状態だったので、設立当初はアドバイザーに入っていただいて、学びながら、改善も自分たちでやっていきました。
川西:自治体でWebサイト運用を自走できているところはあまり多くないですよね。2016年からそれをやっているのは本当にすごい。改めて先進的な動きだなと感じます。
質問3:地域OTA導入に際し、旅館の大半が参加しているとのことですが、内部機密情報を手渡すことにクレームなどはなかったか。あったとしたらどのように説得したのですか?
川角氏:確かに、各旅館のデータを自動収集するシステムではあるのですが、こうした仕組みを「やりたい」と言ってくれたのは、実は旅館の方々なんです。元々「まち全体が一つの温泉旅館」という考えで、地域全体でお客さまをもてなそうという思いが根付いていました。自分たちの温泉街にお客さんが来れば、自分たち(全員)が潤うという考えを地域の方々が持っておられたんです。データを積極的に出して活用すれば、地域の将来につながると思ってくれているから、この事業が成り立っていると感じます。
川西:なるほど。では地域からの反発や交渉が必要な場面は特になかったのでしょうか?
川角氏:「もっとシステムのここをこうしたい」などの要望はありました。例えば、元々の機能は、地域全体と自社の予約状況を比較するだけでしたが、「自社と似た宿と比較したい」という要望をいただいて。現在は宿泊施設を5社選んで、その平均と自社を比較する機能がついています。
川西:地域の皆さんが前向きに、いろいろ声を上げて、必要な機能を実装していったんですね。
質問4:外資系のホテル予約サイト・OTAでは利用者にポイントがつきます。(地域のOTAではそういった特典はないにもかかわらず)旅行者が地域OTAで予約するモチベーションはなんでしょうか?
川角氏:Visit Kinosakiで予約するお客様は全体の5%程度で、だんだんと比率は大きくなってきています。Visit Kinosakiは豊岡市の観光公式サイトなので、まち全体を楽しむためのさまざまな情報が網羅してあり、かつサイトへの信頼性や安心感もある、というのが理由かもしれません。
質問5:体験プログラムを造成していく中で、受け入れ側からの反対、交渉がうまくいかないなどの問題はあったか。その際にどのように対応されていたのか教えてください。
川角氏:我々の方から「海外の方向けにこういうプログラムをやりませんか?」と声かけするパターンでは、スマホの翻訳アプリの活用をお勧めしたり、英語の説明資料の作成を支援して背中を押しています。逆に地域の方々から「海外の方に来てほしいので、こういうプログラムをやりたい」と言われることも結構ありまして。地域内での相互理解を図りながら、取り組みを進めています。
質問6:マーケティング費用、運用費用はどのように捻出しているのですか?
川角氏:OTAの手数料と行政(豊岡市)からの予算、このふたつが費用の柱です。あとは、ツアーの収入や会員制度からの収入も活用しています。
質問7:オーバーツーリズムに対して、豊岡市としてはどのように考えていますか?
川角氏:私たちはまだまだ認知を上げていくべき段階だとは思いますが、城崎温泉や地域の魅力を理解してくれる人に来てもらいたいとは思っています。「誰でもいいから来てほしい」ではなく、地域の人との交流や、地域特有の体験に魅力を感じる人に来てもらいたいですね。その方が観光客の方々の満足度も高くなると思っています。
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