外国人観光客にとって、日本食を楽しむことは訪日旅行の大きな目的のひとつです。インバウンドの食関連市場は今後も拡大が予想されることから、大都市だけでなく、地方の飲食店にとっても好機といえます。
一方で、独自の食文化や宗教的な制限がある国・地域も存在し、個別の対応が必要になることもあります。ムスリムの「ハラール」やベジタリアン・ヴィーガンなどがありますが、ヴィーガンの中でも台湾に多い「五葷(ごくん)」を避ける食文化は、日本ではあまり知られていません。
本記事では五葷について、そして五葷を避ける「オリエンタルヴィーガン」について解説します。また、「食の多様性」に対応したいと考えている飲食店事業者の方の参考になるよう、五葷を避ける理由や対応するべき重要な3ステップについても紹介します。
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五葷(ごくん)とは
五葷(ごくん)とは、においが強い野菜類のことで、日本人がよく食べる食材でいうと長ネギ、玉ネギ、ニンニク、らっきょう、ニラなどの野菜が該当します。他にもノビルやアサツキなどネギ属に属する野菜全般を指すことがあり、農林水産省が発行する「飲食事業者のためのインバウンド対応ガイドブック」には、「何を五葷とするかは時代や地域によって異なる」と記されています。
五葷は一部の仏教徒やベジタリアン、ヴィーガンの人々が避ける食材といわれていて、なかでも「オリエンタルヴィーガン」と呼ばれる人たちが避けることで知られています。
五葷を避ける「オリエンタルヴィーガン」とは
「オリエンタルヴィーガン」について説明する前に、まずはベジタリアンとヴィーガンの違いについて簡単に説明します。
ベジタリアンは、主に肉や魚介類などの動物性の食品を避け、野菜や豆類を中心とした植物性の食品を中心に食べる人のことをいいます。ただし、卵や乳製品といった食品は許容するベジタリアンが多いようです。他にも、魚介類は食べる「ペスカタリアン」、赤身肉を避ける「ポロタリアン」などその種類はさまざまです。
一方でヴィーガンは、肉や魚に加えて卵や乳製品、ハチミツのような動物性の食品も一切摂らない人のことをいいます。
※どの食材を許容とするかは、ベジタリアン・ヴィーガンの中でも個々で定義が分かれます。
そしてヴィーガンのなかでも、五葷を避けるのが「オリエンタルヴィーガン」と呼ばれる人たちです。彼らは、動物性の食品に加え、においが強い五葷を排除した食生活を送っています。
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オリエンタルヴィーガンが五葷を避ける理由
オリエンタルヴィーガンが五葷を避ける理由は、仏教の教えがもととなっています。仏教では心を乱すものを避け、精神を清めることが重要視されており、五葷がその妨げになると考えられてきました。
まず、五葷に含まれるネギやニンニクなどは、強い香りや刺激によって体内のエネルギーバランスを崩すと考えられ、修行への集中を妨げるとされているようです。
また、五葷の強い香りと味は、欲望や怒りを呼び起こし、心の平静を乱す原因となりうると考えられました。特にニンニクには精力を高める作用があり、精神的な安定を目指す修行者にとって不適切とされているようです。
オリエンタルヴィーガンは、台湾をはじめアジア地域に多い
五葷は元々仏教で禁じられていたことから、この食文化は東洋を中心に広がりました。現代でもオリエンタルヴィーガンは主にアジア地域で多く見られ、特に台湾に多いといわれています。
観光庁が2024年4月に発行した「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」によると、ベジタリアン人口は毎年増加傾向にあり、2023年時点では世界で約5.3億人に達しました。そして、驚く人も多いかもしれませんが、実はベジタリアン・ヴィーガンのうち約75%がアジアの人々で占められています。
また、国別のベジタリアン比率について、台湾では全人口の12.3%がベジタリアンであると推計されており、実に51.7万人(2023年訪日台湾人数420.2万人×12.3%=51.7万人)ものベジタリアンが台湾から訪日しているとしています。
さらに台湾以外も含めると、訪日ベジタリアンの総数は約128万人に達すると推計。2023年の訪日旅行者全体の5.1%と考えると少ないようにもみえますが、「団体のうちの一人がベジタリアンで、その人に合わせてお店を選んでいる」といったケースも合わせれば、それなりに大きい市場だと考えられます。
インバウンド客を取り込みたい日本の飲食店にとって、こうした食文化への対応は急務でありながら、対応できている飲食店がまだ少ないのが現状です。
他店との差別化要因になることから、ある意味「ビジネスチャンス」であるともいえます。
関連記事:五葷フリーに対応するための3ステップ
オリエンタルヴィーガンの食文化である「五葷フリー」に対応するには、以下の3つのステップが有効です。
1. まずは理解を深めるところからスタート
ヴィーガンやベジタリアンの対応と聞くと「料理から肉や魚、乳製品などを抜けば良い」と思いがちです。しかし、本記事で紹介してきたオリエンタルヴィーガンのように五葷を避ける人もいますので、「肉や魚、乳製品などを抜けば解決」というわけではないことがわかるかと思います。
反対に、ベジタリアンの中でも魚介類を食べる人(ペスカタリアン)、白身肉なら食べる人(ポロタリアン)がいるなど、食べられる食材の範囲がもっと広い人もいます。
このように、まずは「人によって食事上の制限(何を食べるのか・食べないのか)に違いがあること」を理解することが重要です。
ただし、食事上の制限は人によってさまざまですから、それらの特徴を完璧に覚えるのは難しいですし、必ずしも覚える必要はありません。次に紹介する方法で工夫しながら対応してみましょう。
2. メニュー表に使っている食材を明記
次のステップは、使っている食材をわかりやすく示すことです。どのメニューにどんな食材が入っているのかがわかるようになれば、オリエンタルヴィーガンに限らず、あらゆるベジタリアン・ヴィーガンが自ら「食べられるかどうか」を判断できるようになります。メニュー表に表記したり、口頭で対応できることを説明したりと、シンプルな対応からはじめるとよいでしょう。
メニュー表の表記では、テキストだけでなく、視覚的なマークを導入するのも効果的です。たとえばヴィーガンメニューを提供するラーメン店「T'sたんたん」では、五葷を抜いたメニューに「Oriental Veg OK!(五葷不使用)」という黄緑色のマークを表示しています(参照)。アレルギー対応で小麦などのアイコンを表示しているお店もあると思いますが、これをヴィーガン・ベジタリアン向けにも拡張していくようなイメージといえば、わかりやすいかもしれません。
一方、ヴィーガン・ベジタリアン対応するにあたり、新メニュー開発まで踏み込まないといけないのではと考える方も多いと思いますが、必ずしもメニューを新たに考えないといけないわけではありません。すでに提供しているメニューの中から、そうした対応が可能なものを探し、発信していくことが第一歩になります。
また、仮に新たなメニューを開発できたとしても、「オリエンタルヴィーガン向け」などと表記してしまうと、他の国内客・インバウンド客に選んでもらえなくなる可能性があります。「他のお客様への見え方」も意識しながら対応していくとよいでしょう。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。
関連記事:「食の多様性」対応と実践方法
3. デジタルでの情報発信
五葷フリー対応ができるようになったら、オリエンタルヴィーガン向けに情報を発信していきましょう。
たとえば自社HPに五葷フリー対応を行なっていることを英語で明記することや、InstagramやFacebookなどのSNSでの投稿、「HappyCow」などのベジタリアン向け口コミサイト、Googleビジネスプロフィールなどを使って発信することが効果的です。これらにより、五葷フリー対応していることを広く伝えられます。
関連記事:HappyCowとは?登録方法・インバウンド対策としての可能性
オリエンタルヴィーガン向けに発信する際、最初は当然デジタルの施策がメインになります。しかし日本国内の対応店が少ないことから、きちんと対応できていればコミュニティ内の口コミでお店の名前が広まり、中長期的に集客ができるようになると考えられます。
以上のように少しずつ取り組みを進めていくことで、新たなビジネスチャンスを掴むことができるでしょう。
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<参照>
農林水産省:飲食事業者のための インバウンド対応ガイドブック
観光庁:ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド
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