「インバウンド 高付加価値への挑戦」地方誘客の課題と切り札とは?TRAIN SUITE 四季島の事例も

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今年で10回目を迎える「ツーリズムEXPOジャパン2024」が9月26日から29日まで東京ビッグサイトで開催され、世界80の国・地域および国内から1,384の企業・団体が出展しました。

会期中には「新たな旅の創造」をテーマにしたパネルディスカッションやシンポジウムも多数開催。その中で訪日インバウンド観光をテーマとしたものの一つとして「インバウンド最前線!インバウンド高付加価値への挑戦!!~地方誘客高付加価値化の促進に向けて~」と題したセミナーが開催されました。本記事では、高付加価値層の誘客および地方誘客へのヒントがふんだんに詰まったトークセッションの内容をご紹介します。

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高付加価値旅行とは?

今回、トークセッションに参加したのは、日本政府観光局JNTO)市場横断プロモーション部 森崎 鉄郎氏、東日本旅客鉄道株式会社マーケティング本部 佐々木 隆博氏、ガイドツアー事業を手掛ける株式会社M&Company 代表取締役 白石 達史氏、そしてモデレーターの松本大学名誉教授 佐藤 博康氏の4名です。

議論は、まず「高付加価値旅行」の定義から始まりました。

佐藤氏高付加価値というのは、少しわかりにくい言葉であると思います。JNTOでは、高付加価値旅行をどのように定義づけていらっしゃるのでしょうか」

森崎氏高付加価値旅行者とは、訪日旅行1回あたりの総消費額(国際航空券代を除く)が100万円以上の旅行者のことを指します。さらに知的好奇心や探究心も強い点も特徴です。2019年の時点で、高付加価値旅行市場の世界全体の消費額は18兆円でした。しかし、日本を訪れた高付加価値層の消費額は約7,000億円にとどまっていて、今後の誘客に非常に期待が高まっています」

高付加価値層の2つのタイプ

高付加価値層のタイプについて、JNTO 森崎氏の解説が続きます。

森崎氏「『お金をかけることを厭わない=高付加価値層』というイメージがありますが、近年は、その中でも嗜好の違いが出てきています。ひとつは、快適性やステータス、サービスの質を重視するClassic Luxury(クラシックラグジュアリー)。もうひとつは、本物の体験エコツーリズム、持続可能性などを重視するModern Luxury(モダンラグジュアリー)です。

Modern Luxuryは特に、自分のこだわりポイントに絞って高価格・高品質なサービスを求める層のことを指します。中国東南アジア、欧米諸国など、ほぼすべての高付加価値層の市場では、Modern LuxuryがClassic Luxuryの需要を超えているというアンケート結果もあります」

地方誘客のポイント

価値創造とプライシングが重要

佐藤氏「ありがとうございます。次に都市部から地方への誘客を進めるにあたり、ポイントとなる点について話を進めていけたらと思います」

佐々木氏「地方にこそ高付加価値層にマッチしたものがあると感じています。たとえば富山県南砺市では、世界遺産の五箇山合掌造り集落に多くの外国人観光客が泊まります。また、同じ地域に彫刻を文化としている町があり、彫刻師の方が自ら翻訳機を使いながら英語で海外のゲストに案内をしています。そうして価値を高める動きをして、その部分をしっかりとプライシングしていくことが、地域の魅力を高め、高付加価値化につながると感じています」

佐藤氏「確かに高付加価値層の方たちは、やっぱり“コスパ”には非常に関心が高いですよね。ゲストは『地域の価値』を見る目を持っているからこそ、お客様の目線に立って地域の商品作りをすることが求められています。その上でプライシングをしていけば、お客様は喜んでお金を出してくれるということですね」

アドベンチャートラベルは地方誘客の切り札

佐藤氏「地方の観光商品作りについて、森崎さんはどのように感じられていますか」

森崎氏高付加価値旅行者は自分のこだわりのポイントにお金を使う傾向にあるので、日本の自然や文化、伝統工芸は彼らの需要にマッチしていますし、ニーズは高まっています。まずは高付加価値層に日本に来てもらい、長く滞在してもらうことが重要です。地方に訪れてもらい、気に入ってもらい、リピーターになってもらう。そうした流れを作っていくことが非常に大事だと思っています」

佐藤氏「日本の場合はどうしても国際空港がある大都市に旅行者が集中してしまって、なかなか地方の方に浸透していかないことも多い。何か切り札になるものはありますか」

森崎氏「アドベンチャートラベルは地方誘客の大きな強みになると思います。アドベンチャーという単語から、激しいアクティビティをイメージする方もいますが、実際は、『アクティビティ』『自然』『文化体験』の3要素のうち2つ以上で構成される旅行と定義されてます。そのため多くの地域でアドベンチャートラベルの提供は可能であり、JNTOとしてもそこに力を入れていきたいと思っています」

地方誘客の課題

コンテンツを盛り込みすぎるのはNG

佐藤氏「ここからは具体的に、どうすれば地方への誘客を促進できるのかというところを話し合っていければと思います。普段から高付加価値旅行者を受け入れている白石さんのご意見をお伺いできますか」

白石氏「先ほどもお話に出ましたが、高付加価値層は価値を感じるものに対してはお金を払う一方、価値がないと感じたものに対してのお金の判断は非常にシビアです。高付加価値層を呼び込みたい時にやりがちなのが、コンテンツを盛り込みすぎること。あれもこれもと盛り込むのは、結局、提供者目線での価値の積み上げ方でしかなく、本当にゲストが何を望んでいるかを考える必要があると思います。

たとえば、コース料理を提供する際に、ゲストの中には『これとこれは食べたくない』『メインとデザートをおかわりしたい』といった要望もよくあるんです。提供する側からすれば全部の料理を提供したい思いはもちろんあるんですが、あくまでもゲスト目線に立つことが非常に重要だと思います」

ツアーガイドに求められるもの

佐藤氏「ありがとうございます。ツアーガイドについてはいかがでしょう。何かお気づきの点はありますか」

白石氏「ツアーガイドは東京や京都の大都市に集中していて、地方で質の高いガイドを見つけるのは非常に難しい。全国通訳案内士などライセンスの有無ではなく、自分でしっかりとガイドのスキルを磨き上げて、お客様に楽しく届けることができる人が必要だと思っています。人材の確保と合わせて、高付加価値層に対応できるような質の高いガイドに育てていくということが非常に重要です」

佐藤氏「様々な人材を地方で掘り起こすことは私も大事なことだなと感じます。JNTOでもガイドの教育や支援を行っていると聞いたのですが、いかがですか」

森崎氏「はい、JNTOでも高付加価値旅行者に対応できるガイドの育成を目指した『ガイド研修』を行っています。旅行者のニーズを感じ取ること、それによって何が提供できるのかを自ら考えていく力を育成するためのプログラムを中心に研修を行う予定です」

二次交通の課題と広域連携の必要性

佐藤氏「今ガイドの話が出ましたが、それ以外に、何か誘客のキーとなりそうなものはありますか」

森崎氏「私は二次交通にも大きな課題があると思っています。新幹線や特急を使って主要駅までは行けるけれど、そこから先の目的地にいく手段がない。本当に行きたいところに行き着くための足となる交通事業が必要ですが、それを支える人たちもいないことが大きな課題だと感じています」

佐藤氏「人口が減って地域が疲弊していくなかで、どのようなサポートが必要なのか。JRの考えや取り組みについて佐々木さんからお話いただけますか」

佐々木氏「すごく難しいですが、やはり需要を作ることはとても大事だと思います。たとえば、北陸新幹線ができた時に、松本から高山を抜けて白川郷、五箇山、金沢に向かう『三つ星ルート』ということで売り出そう、と地域の方々からお話をいただきました。宿泊施設は多いけれど世界遺産がない金沢と、世界遺産ではあるけれど宿泊施設の少ない白川郷や五箇山をつなぎ、それぞれのデメリットを補いながら、各地域のストーリー性をつないで、需要を作り出しました。ひとつの地域だけで何かをやるのは難しく、それぞれの長所を生かして作り上げていくことが、2次交通と言われるものも含めて、観光地の持続可能性につながると思います」

佐藤氏「確かに地域連携は非常に重要ですね。旅行者は必ず次のポイントに移るわけですから、関連する広域の皆さんが協働することは大変重要になってくると感じます。白石さんは日々、その点を感じていると思うのですがいかがでしょうか」

白石氏「そうですね。ゲストはそこの地域だけに来ているわけでないことをまずは認識する必要がありますね。行政の方と予算のお話をすると、どうしても特定の行政区域内で考えてしまうことが多い。立場上、仕方ないことですが、ゲストにとって自治体の境目なんて一切関係ありません。ゲストと同じ目線に立って、境界線を意識しないほうがいいと思います。また、二次交通の面でいうと、地方では質の高いドライバーさんの確保も難しいのが現状です。さらに日本にはポーターサービスが一切ないという点も高付加価値層の誘客においては大きな課題ですね」

流通にも大きな課題

佐藤氏「ありがとうございます。それでは次のテーマに行きますが、二次交通以外の課題について、森崎さんからご指摘いただけますか」

森崎氏「個人的にはやはり流通の問題が非常に大きいと思っています。地域コンテンツの発掘とコンテンツを海外バイヤーにつなぐ存在が、残念ながら不足しています。DMCであろうとツアーオペレーターであろうと、必ずしも全国を取り扱う必要はありません。九州東北といった地域単位で、観光商品の流通をしっかり担う存在が必要です」

佐藤氏「ここで少し(JATAの取り組みを)ご紹介させていただくと、ツアーオペレーターという点では、JATAでは『ツアーオペレーター品質認証制度』を行っています。訪日旅行の品質向上を目的とした品質認証制度です。全国各地で高品質や安心安全、社会貢献にこだわったオペレーターさんたちですので、ぜひこういった点も活用してほしいなと思います。ツアーオペレーターに関して、白石さんは何かご意見ありますか」

白石氏「私たちは『JAPONISME(ジャポニズム)』というガイドツアー事業を行っているのですが、日本の旅行会社さんの中には、ゲストのニーズを把握せずに、いわゆるコピペで依頼をしてくる企業さんもいます。確かに数をさばくことはすごく便利です。同じホテルで同じ体験をしてもらって、同じような移動であればリスクも減ります。でもゲストのためにはなっていないんですよね。私たちは日本のツアーオペレーターの方々にも、ゲストのニーズに合わせて二人三脚でゲストの受け入れをしていきたいということを伝えています」

地方への高付加価値層誘致の成功事例

佐藤氏「ありがとうございます。次に、JR東日本の『TRAIN SUITE 四季島(トランスイート しきしま)』を事例として、みなさんと議論したいと思います。佐々木さん、まずは取り組みの説明をよろしくお願いします」

佐々木氏「はい、『TRAIN SUITE 四季島』は、『深遊 探訪』をコンセプトにした寝台列車です。『地域が主役』という考えに立ち、豪華さではなく地域にスポットを当てて、地域の本物を味わっていただくことを目指して運行しています。ありがたいことに大変好評で、国内外から来年春以降の予約もかなり入っていて高倍率が続いています。もちろん、課題もあります。先ほど、ゲストのニーズに合わせることが必要という話もありましたが、すべての要望に応じるにはやはり限界があります。アレルギーのほか、ヴィーガンなど食の多様性への対応も必要です。地域とのさまざまな関わりもありますので、柔軟な対応が難しい面もありますが、対応できる範囲で臨機応変に対応しています」

森崎氏「実は私もJNTOに入職する前、前職のJR東日本で5年間ほど『TRAIN SUITE 四季島』に携わっていました。お客様の満足度で一番高いのがクルー(乗務員)のおもてなしなんです。先ほどの白石さんのお話にも通じますが、高付加価値旅行の質はやはりガイドに通ずるのかなと思いますね」

白石氏「先ほど『地域が主役』という言葉がありましたが、最近はサステナブルツーリズムの注目度も高く、地域について気にしていらっしゃる方が非常に多いんです。サステナブルツーリズムは環境保全だけでなくて、地域社会の持続性なども含まれます。ローカルに光をあてるということが今後ますます重要になっていきますし、その点を私のお客様にも伝えていきたいと思いますね」

バランスの取れた観光地域づくりを

佐藤氏「それでは最後に、みなさまからコメントをいただけたらと思います」

白石氏高付加価値層は自分が価値を感じたことにしっかりとお金を使っていく人たちです。その価値の提供をゲスト目線で行う意識を持つことが大切だと、改めて思います」

佐々木氏「やっぱり大事なのは、お客様目線で、それぞれが持っている価値をもう一度見つめ直し、プライシングしていくことです。それはどの地域でもできることだと私は思っていて、そうした意識を持てば、すべての地域で高付加価値層の誘客ができると信じています。ぜひ一緒に頑張っていきたいですね」

森崎氏「バランスの取れた観光地域づくりが非常に大事だと思います。地域の環境や社会文化を維持していくことによって、お客様がホスピタリティを得られて、その対価としてお金が落ちて、経済が回っていく。このバランスの取れた観光戦略を実現していただきたいなと思います。そのためにはやはり近隣地域との連携が必要です。少し辛口な表現ですが、地域が目指す目的に合わない戦略は立てるべきではないと思います。世間的に注目されているからといった理由で高付加価値層の誘客は成功しません。目的と地域をしっかり照らし合わせることが大切です」

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

訪日外国人観光客インバウンド需要情報を配信するインバウンド総合ニュースサイト「訪日ラボ」。インバウンド担当者・訪日マーケティング担当者向けに政府や観光庁が発表する統計のわかりやすいまとめやインバウンド事業に取り組む企業の事例、外国人旅行客がよく行く観光地などを配信しています!

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