「競争ではなく、協力を」日本のインバウンド観光の今後と、アドベンチャートラベル:ATWS北海道実行委員会幹事 水口氏に聞く

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2023年9月、北海道で開催された旅行業界の一大イベント「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)」は、大盛況のうちに幕を閉じました。このサミットをきっかけに北海道は、アドベンチャートラベルを展開する代表的な地域の一つとして、世界に認知されたと言っていいでしょう。

一方で、日本政府観光局JNTO)は、2025年までに、日本をアドベンチャートラベルにおける「アジアNo.1」とする目標を掲げています。北海道だけでなく、日本全体をアドベンチャートラベル先進国とするためには、何が必要なのでしょうか。そしてそれが実現した場合、日本のインバウンド観光にはどんな好影響がもたらされるのでしょうか。

今回は、アドベンチャートラベル・ワールドサミット開催の立役者の一人である、国土交通省北海道運輸局観光部長 / ATWS実行委員会幹事 水口 猛氏に、ATWSの成果や、今後の日本におけるアドベンチャートラベル、インバウンド観光のあり方について伺います。

プロフィール:水口猛 (みずぐち たけし)国土交通省北海道運輸局観光部長

ATWS 2023 北海道
▲水口猛 (みずぐち たけし)国土交通省北海道運輸局観光部長

1982年 運輸省北海海運局に入局
1989年 小樽商科大学短期大学部修了
2004年 北海道観光局へ出向
2006年 北海道運輸局観光部国際観光課に復帰
以降、現職まで継続して観光行政に携わっている。

ATWSアラスカ大会(2016)、同スウェーデン大会(2019)、同北海道・日本大会に参加(2023)。共著に 「アドベンチャートラベル大全」(2021年)。

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ATWSは「大成功」多くのビジネスチャンスが生まれ、海外からは「期待以上」との声も

ーー(訪日ラボ編集部)先日のATWSに参加させていただきました。各種イベントや商談会も大変盛り上がっていたと感じましたが、サミットを終えてのご感想はいかがでしょうか。

(水口氏)ATWSは大成功でしたね。アンケートでも、参加者の方々から大変好評をいただきました。DOA* や講演などを楽しんでいただくのはもちろん、商談会でも多くのビジネスチャンスが生まれ、国内外から高評価を得ています。

(*Day of Adventure …ATWS参加者が現地のアドベンチャーを体験する日)

ATWS 北海道 2023
▲オンライン取材の様子。下側に写るのが水口氏:訪日ラボ撮影

ATWSの満足度は、Japan Loungeの総合的な満足度、PSA・DOAへの満足度いずれも90%超えとなった
▲ATWSの満足度は、Japan Loungeの総合的な満足度、PSA・DOAへの満足度いずれも90%超えとなった:JNTOメディアブリーフィング資料より訪日ラボ作成 ※速報値

(水口氏)私からも聞きたいのですが、参加した感想はどうでしたか?

ーー基調講演がラジオ体操から始まったのが印象的でした。あのテンションで始まると思っていなくて(笑)普通固い感じで始まるものだと思うのですが、司会者の方が盛り上げてくださったんですよね。

上手いですよね(笑)あれで聞いている方々の表情もほぐれて、その後の講演も楽しんでいただけたんじゃないかと思います。

ATWS 基調講演の様子。講演はなんとラジオ体操から始まり、北海道観光PRキャラクター「キュンちゃん」と、進行の高田氏が会場を盛り上げた
▲ATWS 基調講演の様子。講演はなんとラジオ体操から始まり、北海道観光PRキャラクター「キュンちゃん」と、進行の高田氏が会場を盛り上げた:訪日ラボ撮影

ーーまさにアドベンチャートラベルが大事にする「ワクワク感」が詰まったイベントでした。私がインタビューした海外からの参加者の方も「エキサイティングだった」と言っていましたし、満足度も高かったのではと思います。他にも海外とのリレーション、ネットワーキングにも成果があったそうですね。

はい、商談会や交流会など、ネットワーキングは各々上手くいったと思っています。アメリカのツアー会社も「期待以上だった」と言ってくれたり、「日本の旅行商品を売る自信がついた」と言ってくれた方もいたりしましたね。

あと、今回のサミットは海外から注目してもらえるよう日本の各地域が競う場だったのではと思われるかもしれませんが、実は日本国内同士のネットワーキングも進んだのが大きかったんです。

ーー水口さんは、「競争関係になるのではなく、協力しあうことが重要だ」とおっしゃっていましたね。

そうなんです、通常の旅行博だと、他のデスティネーションは、次の旅行シーズンに向けての競合相手じゃないですか。でもこのサミットは全然競争という気はなく、すごく和気あいあいとしていて、「私のお客さんもあなたに紹介するから」「その話だったらあの人が向いてるから紹介するよ」みたいな感じなんですよ。

ATWS参加者の雰囲気について語る水口氏。自分の顧客も積極的に紹介するような、良い協力関係ができているという
▲ATWS参加者の雰囲気について語る水口氏。自分の顧客も積極的に紹介するような、良い協力関係ができているという:訪日ラボ撮影

やっぱりアドベンチャートラベルの理念を理解した人が集まってきて、みんな旅行がすごく好きな人たちだから、そうなるんですよね。我々も日本の中で、そういうネットワークを作らなきゃいけないなと思っていて、今回はその最初のチャレンジでもあったんです。

ーー日本のインバウンドや観光全体を考える上でも、まずは日本の中でうまく協力していかないと、盛り上がっていかないんじゃないかということですね。

そうですね。今後は、これまで競争関係だったインバウンド観光の自治体や地域が、協力する方向に向かっていったらいいな、一緒にやっていけたらいいなと思っています。私もそうですし、今回参加してくれた人はみんなそういう意識を持ってくれてるんじゃないかと思います。ATWSがそんな協力関係のきっかけになってくれていたら嬉しいですね。

アドベンチャートラベルは、オーバーツーリズム問題の解決策にもなる

ーー今、旅行観光業界においては、「オーバーツーリズム」への対策が喫緊の課題となっています。その中で、ATTA(アドベンチャートラベルの世界的団体)のCEO シャノン・ストウェル氏は、アドベンチャートラベルがオーバーツーリズム対策の解決策になると述べていました。

観光には良い面もあれば悪い面もあり、正しい旅行のあり方を見直す時期に来ていると思いますが、まさにシャノンが言った通り、アドベンチャートラベルの普及はオーバーツーリズム問題の解決策になると我々は考えています。

都市に観光客が殺到したり、地方へ団体で押しかけたりする旅行がオーバーツーリズムを起こすわけで、観光客が少ない地方へ少人数で行くような旅行形態は、オーバーツーリズムを起こさないですよね。アドベンチャートラベルはその形態の一つとして位置付けられます。

観光客と観光業が嬉しいだけではなく、「ローカルコミュニティに受け入れられる旅行なのか」「本当に来てくれてよかったな、と地域が思えるのか」が重要ですよね。アドベンチャートラベルは地域に迷惑をかけませんし、地域に落とすお金も圧倒的に多いですから、地方経済の活性化や雇用創出にも貢献するはずです。また、個人旅行だとマナーの啓発が難しいですが、アドベンチャートラベルならガイドからの説明もスムーズなはずです。

なので極端な話をすると、アドベンチャートラベルの理念を貫けば、オーバーツーリズムは発生しないはずなんです。とはいえ、たくさんのお客様を受け入れて商売が成り立っている観光地もあるのでそれは極論ですが、少しずつでいいので「地方に無理をかけない、地方のためになる旅行」という考えが広まっていけば、と思います。

アドベンチャートラベルを日本全体で推進していく上で、課題は

ーーオーバーツーリズム問題の解決という視点からも、地域活性化の視点からも、日本全体がアドベンチャートラベルを提供できるようになることが期待されます。今後推進する上で、課題はどこにあるのでしょうか。

コンテンツの開発もそうですが、それ以上に、ガイド人材の不足が課題ですね。通訳ガイドの説明にも改善の余地があることが多いと感じます。どうしても、自分で伝えたいことがほとばしるんでしょうね。一方的に自分の知識を話してしまう。インタラクティブになっていなくて、例えば「この人、この話に関心ないんだな」と思ったら、さっと切り上げて次に行くとか、あるいはもっと事前にお客さんのことを調べて、案内する中でも好きなことを感じ取って、関連する話を集中的にしていくとか、そういうコミュニケーションが求められるんですけどね。

ーーなかなか難しそうですね…。

そうですね、難しい問題です。ただ、意識で解決できる部分もあると思っていて、例えば30分ずっと話し続けてしまうガイドさんも、悪意があってやってるわけではなくて、そういうものだと思ってるだけなんですよね。ただ、そこを変えるっていうのも結構大変ではありますが。

案内できるガイドの人が圧倒的に不足しているという課題は、どこの自治体でもそうだと思いますが、ガイドになり得る人は十分いると思います。最終的に一番大変なのは個々の教育なんだろうなと感じますね。

ーーやはり、英語などの言語力が足りないという面もあるのでしょうか。

でも、海外の方と話すと、日本人の英語は立派なもんですよって言うんですよ。なにせもっと英語が通じない国もありますからね。それに、英語をペラペラ話せるガイドなら楽しいかっていうと、全然話せないけど一生懸命なガイドの方が楽しいかもしれないじゃないですか。結局やっぱりホスピタリティとか、コミュニケーションのうちの言語じゃない部分の能力とか、そういうものの方が大切なんだろうなと思うんですよね。

アドベンチャートラベル「アジアNo.1」に向け、今後の取り組みは

ーー北海道でのATWSの開催はアジア初ですし、日本がアドベンチャートラベルの「アジアNo.1*」となる日は近いとも感じています。今後の取り組みは、日本全体としてどのように進めていくべきでしょうか。

(* ATTAが毎年発表するアドベンチャートラベルオペレーターを対象とした調査で、アジア各国中の1位になること)

今回のサミットでも、アジアの参加者は一番少ないくらいの割合なんです(* 開催国である日本を除く)。その中で我々はATWSに向けて準備してきましたし、これまでやってきたことを今後も地域の人たちと一緒にやっていけたら、のちにアジアの人たちがアドベンチャートラベルに目を向けたときに、我々はかなりのアドバンテージを持っている状態になると思うんですよね。

そうなれば「いつでも来てください」「北海道に来れば、楽しんでいただけますから。準備もできてます」「我々がアジアNo.1です」って言えるようになってるんじゃないかと思って、今も続けているんです。日本の他の地域の皆さんも同じで、きちんと努力を続けていけばそうなれるんじゃないかなと。

自分たちから「アジアNo.1です」と言えるよう、今後も地域と一緒にアドベンチャートラベルを盛り上げたいと語る水口氏
▲自分たちから「アジアNo.1です」と言えるよう、今後も地域と一緒にアドベンチャートラベルを盛り上げたいと語る水口氏:訪日ラボ撮影

課題は、やっぱり理念や考え方の理解。メディアに取り上げられる際も、「体験型観光*」って書かれたりするんですよ。『体験型観光サミット始まる』とかね。体験型観光と、今日お話ししてきたようなことは異なるものなので、そうじゃないんだよってことをわかってもらえれば。

(* 体験型観光は観光地の自然や文化を楽しみ、体験することをメインコンテンツとした旅行のこと。アドベンチャートラベルは、自然・文化体験・アクティビティの要素のうち2つ以上を有し、かつ「深い学びや体験を通して、自身の内面まで変わっていく」「ローカルコミュニティの生活や文化を守る」ことを重視しているなど、似た概念ではあるが目指すところは大きく異なっている)

あとは先ほども言ったガイドの不足とか、交通などの受け入れ環境といったところは官民が協力していかないといけないと思いますし、海外とのネットワークも必要ですよね。

ーーやはり「協力」がキーワードになるんですね。

そうですね、あとは世界の皆さんとも協力していくというか、世界ではどうやって進めているのか、ワールドスタンダードを学んで見習いながらやっていかなきゃいけないと思っています。

ATWSが一つの契機となって、「ここが違うな」「できていないな」っていう気付きみたいなものはきっとそれぞれあったと思うんですけど、それを間違わずに、協力しながらちゃんと続けていけば、アジアNo.1と言えるんじゃないかなと思いますね。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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