データやデジタル技術の活用によって、観光そして地域づくりの変革を目指す観光DXの取り組み。観光庁では2021年から全国の観光地域づくり法人(DMO)を対象に実証事業を推進するなど、国をあげてDXが進められています。
そこで公益財団法人大阪観光局は、来年に迫る大阪・関西万博に向けて地域全体の"観光力"の底上げを図るため、Vpon JAPAN株式会社・株式会社デイアライブの2社と共催で、2024年11月28日に「海外DMOのデータ利活用の最前線」と題したセミナーを実施。公益社団法人日本観光振興協会の大須賀信氏を招き、同氏が知る海外DMOのデータ活用の実情を紹介しました。本記事では、セミナーの内容を抜粋してご紹介します。
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北米DMOのDXの実情と、日本との違い
まず大須賀氏から、海外DMOのDXの実情、日本との違いについて解説がありました。
イベントやキャンペーンの効果計測が普及
北米のDMOの大きな特徴のひとつが、エリア内で実施したイベントやキャンペーンの「ROI(投資利益率)」を重視し、それらの効果を一つひとつ計測している点です。観光関連の行事やイベントだけでなく、プロスポーツの試合や、地域のスポーツ大会、各種展示会や会合など「地域に人が集まる催事」はすべてデータを集計しています。
細かいデータ集計が可能な理由は、北米DMOではEIC(イベントインパクトカリキュレーター)が普及しているためと大須賀氏は説明します。EICは客室数や平均単価、日帰り客の割合などを入力すると、税収の効果を含めて計測してくれるシステムです。
イベントの特性によって集まる人の属性や経済効果は変わってきます。各種イベントの効果(インパクト)をその属性や特徴に合わせて正確に測ることを重視しているのです。
「ウェブサイトインパクトカリキュレーター」の導入も
また近年は、イベントだけでなく、ウェブサイトやSNSの効果を測るWIC(ウェブサイトインパクトカリキュレーター)の導入も進む予定だといいます。
WICは、ウェブサイトを訪れた人やSNSの閲覧者が、どれくらいその地域を訪れているか、その経済効果を含めてデータ収集できるシステムです。ロケーションデータをウェブサイト閲覧と紐づけて、訪問数への影響と訪問者の支出、そこから派生する税収・雇用を可視化することができます。
データ収集の規模感がケタ違い
データ収集の規模感も、日本とは大きな違いがあります。特にCRM(顧客関係管理システム)のデータ収集にかなり力を入れていると大須賀氏は説明。例えば人口50万人の都市であれば通常、4,000〜5,000の事業者からデータを収集していて、対象となる事業者は宿泊業や飲食業など多岐にわたります。
データは年齢や購入品、数や金額など、いわゆる店舗のPOSシステムで集計するような詳細なデータを各事業者からリアルタイムで収集。集められたデータは自動的に所定のフォーマットに変換されます。
北米DMOではROI(投じた費用に対して、どれくらい利益を得たのか示す指標)がとても重要視される傾向があり、DMOに対して効果測定と透明性が求められます。そのためより詳細なデータを集計し、より詳細な取り組みの効果を実証する必要があるようです。
レジデント(地域住民)との連携が最重要
こうした取り組みを実現させた背景として、北米DMOが「地域連携」に非常に大きなエネルギーを割いていると大須賀氏はいいます。
日本では観光事業者や訪問者を第一に考えたマーケティングが主流ですが、北米DMOではもっとも重要な顧客はレジデント(住民)です。大須賀氏は、DMOの地域社会へのコミットメント・地域連携の強化にかけるエネルギーが北米では桁違いであり、住民本位・地域社会本位の観光地域づくりが徹底されていると強調しました。
北米DMOの好事例
次に大須賀氏は、北米DMOの好事例として、アメリカ ノース・カロライナ州ローリーのDMOの取り組みを紹介しました。
ポイント1:オープンデータ
DMOが運営するウェブサイト「VISIT RALEIGH」では観光産業の経済リポートから、客室単価や観光産業の雇用数、税収などの多種多様なデータを整備。観光事業者だけでなく誰でもアクセスができます。
データは常にアップロードされ、ダッシュボードからダウンロードも可能。事業者や個人など各自が事業戦略の策定にデータを活用できる仕組みが確立しています。
ポイント2:マンスリーレポート
常時閲覧できるデータのほか、DMOが毎月作成する詳細なレポートもウェブサイト上で閲覧が可能です。税収や観光産業に関するデータのほか、域内で開かれた会議やイベントの数を細かく集計。例えば農業祭や専門会議など必ずしも観光分野ではない催事についても一つひとつその経済効果を計測しています。
加えて、配布したガイドブックの数や観光案内所への問い合わせ数、メディアの受け入れ数や外部訪問数などCRMなどでは集計できないデータも含まれています。パソコン上で集計するようなデータ以外にも細かいデータを地道に集計していることが大きな特徴で、大須賀氏は日本も学ぶべき点があると説明しました。
北米DMOが目指すこと
地域から信頼されることが大切
北米では、地域の宿泊業や飲食店ほか多くの事業者が膨大なデータをDMOに提供している一方で、DMOの方も地域にデータを提供する姿勢を徹底しています。
これは集計したデータのオープン化だけでなく、事業者が収集しづらいデータをDMOが購入して地域に提供しています。例えば地域内の移動データやクレジットカードの消費額などです。
与える側と受け取る側のバランスがしっかり取れていることで信頼関係が生まれ、地域との連携も一層強固になると大須賀氏は説明。事業者から収集したデータについても「オープンにしているから勝手に見てね」という姿勢ではなく、レポートを作成して利用を促す姿勢が、今後日本のDMOにも必要だとしています。
雇用や投資の増加も重要
さらに北米DMOでは「DMOがやるべきこと」についても日本と大きな違いがあると大須賀氏はいいます。
日本では「訪れてよし」「住んでよし」と言われるように、訪問者に対する対応だけに注力する傾向があります。一方、北米ではそれに加えて、雇用や投資の増加(働いてよし・投資してよし)も同じくらい重要な項目として考えられています。
これは北米DMOが地域連携と地域への貢献を重要視しているためです。「訪れてよし」「住んでよし」「働いてよし」「投資してよし」この4つのサイクルを地域の実情に合わせて適切にコントロールしていくことが北米DMOの“やるべきこと”という考えがベースにあると大須賀氏は解説。単なるデータ収集や域内の事業者向けの活動だけに止まらず、「地域社会全体を動かすダイナミズム」が北米DMOには求められており、その促進にDXが活用されているのです。
AI活用について
北米や欧州のDMOでは生成AIの活用も広がっています。契約書の確認や作成をAIに任せることで弁護士に支払う費用などを大幅に削減したり、プロモーション用の動画コンテンツの作成に生成AIをコストを削減したり、さまざまな分野で活用されています。
例えばマドリッドのDMO「Madrid Destino」では、「Visit Madrid GPT」というAIツールの稼働を開始。24時間95言語に対応し、訪問者の嗜好に合わせパーソナライズされた旅行を提案しています。今後各地で同様の動きが進めば、「将来的にはDMO独自のウェブサイトは不要になるとの意見もでている」と大須賀氏は解説しました。
日本のDMOが今後できること
現在、日本国内でも観光地診断ツールDestinationNEXT(D-NEXT)を使った観光地診断が進んでいます。このツールでは特に地域のステークホルダーが地域をどのように考えているかを図るものです。「観光地の強み」と「地域の連携」を同じように重要なものとして計測し、地域の観光基本計画をたてる際の指針のひとつに活用することができます。
大須賀氏はDXの目的について、地域連携の強化と事業者以外の例えば住民など地域内のさまざまな立場の人たちとの意思疎通のツールとして活用するといいと説明。欧米DMOのように活動のベクトルを外へ向け、地域全体の活性化に向けた取り組みが重要であると語りました。
また、日本のDMOの取り組みは「観光地の強み」の掘り起こしや発信に集中しているのではないかと指摘し、「地域との連携」にもっとエネルギーを注ぎ、DXも単なるデジタル化ではなく地域連携のために行うべきであると述べました。
観光業のデータ戦略に活かせる「デジプラ」の紹介
セミナーの最後には、公益社団法人日本観光振興協会が提供を開始したデータプラットフォーム「デジプラ(日本観光振興デジタルプラットフォーム)」の紹介も。日本の地域・自治体・DMOの観光地経営をさらに高度化させるべく、同協会が保有する全国約12万件の観光情報と、統計データ・ビッグデータ・調査データを搭載し、時間・コストをかけずに観光戦略に活用できるものとなっています。
以上、「海外DMOのデータ利活用の最前線」セミナーの内容をお届けしました。
日本では、少しずつ各地域のDXが進んできてはいるものの、海外のDMOと比較するとやはりまだまだ改善すべき課題は多く残されているようです。今はインバウンドの施策もプロモーション・情報発信に偏りがちですが、今後はデータの収集・活用や地域連携といったマーケティング施策も重要になってくるでしょう。
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