宿泊施設や航空券、パッケージツアーなどの旅行関連商品を、インターネット上だけで販売するシステムであるOTA。その中でも地域に特化したものとして「地域OTA」があります。観光庁は、2027年度までにすべての事業者が地域OTAに情報掲載を完了することを目標としています。
この記事では、地域OTAがどのようなものなのか、導入するメリットなどを紹介するとともに、地域OTAを導入している自治体の事例も紹介します。
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地域OTAとは
地域OTAとは、地域単位で情報を集約するOTAを指します。特定の観光地へ旅行に行きたいと考えるユーザーが、地域に関する情報収集から予約まで、オンラインで一気通貫に行えるシステムです。目当ての地域内の見どころや観光スポットのリサーチから、渡航や宿泊・パッケージツアーなどの旅行関連商品を購入するまで、一つの地域OTA内で完結するのが理想です。
現状、地域や旅行関連事業者が運営するサイトなどではOTAの機能を導入していないことも多く、観光客が旅マエ、旅ナカの予約・決済を一度で完結できず利便性が低くなっており、大きな機会損失になっています。
今後は地域においてシームレスな予約・決済を行えるシステムの構築を進めていくことが求められており、観光庁は登録DMOに対して、2027年度までに地域OTAの設置を実質的に義務付け、地域の観光経済拡大につなげようと動いています。
地域OTAを導入するメリット
DMOが地域OTAを導入することによって、どのようなメリットがあるのでしょうか。具体的なメリットを5つ紹介します。
地域全体でオンライン予約に対応できる
地域OTAを導入することで、サイトの訪問者は、情報の閲覧から、宿泊やアクティビティの予約・決済までを一括で行うことができます。一度別のサイトに離脱することがないため、購買・予約率の向上が期待できます。<
DMOが運営する地域OTAの掲載料金は、無料もしくは民間事業者が運営するOTAと比較して安価に設定されていることが多いようです。地域事業者の費用負担が少ないことから、導入のハードルも低くなります。そのため、地域全体のオンライン予約対応を後押しすることにつながるでしょう。
DMOがデータを分析して戦略策定につなげられる
DMO側は、楽天トラベルやじゃらんnetなど大手OTAを経由した宿泊・アクティビティの予約から、予約者の情報を取得できないことが多くなっています。
観光庁・観光地域振興部観光地域振興課の調査では、「戦略の策定において抱えている課題」において、回答のあったDMOの57%が「データを分析して戦略策定につなげるノウハウが不足している」と回答しており、データを蓄積できていないことが課題として浮き彫りになっています。
しかし、地域OTAを導入すれば、予約者の情報を得ることができるので、そのデータを観光戦略の策定に活かすことができます。 年齢や性別など、その地域にどんな人が興味をもっているのか、何を求めているのかなどのニーズがわかるため、ターゲットに合わせたアプローチを行えるようになるでしょう。
DMOとしてオンライン上で信頼性の高い情報を届けられる
地域の観光事業において、旅行者へ情報が適切に届いていないことが多くあります。DMOや地域の事業者がチラシや貼り紙などオフライン上の情報発信しか行っていなかったり、オンラインでの情報発信に不得手で検索性に乏しかったりすることが、原因として挙げられます。
旅行者はオンラインでの検索にヒットしない情報へはほとんどアクセスできないため、オンラインでの情報へのアクセシビリティは非常に重要です。
地域OTAを導入することで、その地域の歴史や文化に基づいた観光スポットや、地元のグルメ・特産品を扱う店の紹介など、地域の魅力をより深く伝える情報を提供できます。テキストや画像だけでなく、動画などの視覚的に有効なコンテンツも提供できるため、オンライン上でより魅力的な情報発信ができるでしょう。
地域OTAは、民間ではなく自治体やDMOが運営するため、掲載情報に信頼性や安心感を与えられます。
実際に、豊岡市の観光公式サイト「Visit Kinosaki」は、ポイントなどの特典がつかないにも関わらず予約する人が増えているといます。外資系のホテル予約サイト・OTAのような、予約によるポイント付与などのメリットがなくとも、情報や媒体の信頼性だけで利用してもらえるという好事例です。
情報がわかりやすく網羅されており、サイトへの信頼性が担保されることで、購買意欲の向上が見込めます。
関連記事:まち全体で取り組む!豊岡エリアのインバウンド×観光DX戦略【セミナーレポート】
予約手数料による収益化が見込める
観光庁・観光地域振興部観光地域振興課の調査で、登録DOMの80%が課題として挙げている「予算・財源」。DMOの財源は主に国や地方自治体からの補助金や交付金、民間企業からの会費や業務委託などによるものですが、中長期の安定した財源を確保していかなければなりません。
DMOが地域OTAを導入すれば、予約手数料などが収益となり、安定した財源を確保できる体制を構築することができます。また、大手OTAや旅行代理店を介さず直接での予約となるため、販売手数料を抑えることも可能です。「稼ぐ観光」につながり、より誘客に取り組みやすくなります。
地域OTAの導入事例4選
地域OTAを導入している地域では、地域OTAをどのように観光へ活かしているのでしょうか。自治体の事例を4つ紹介します。
1. 兵庫県豊岡市:温泉街全体の宿泊データ分析で予約が4.5倍に成長
「まち全体が1軒の温泉旅館」をコンセプトに掲げる兵庫県豊岡市のDMO・豊岡観光イノベーションは、いち早く地域OTAを導入し成功をおさめています。
1300年の歴史を誇る城崎温泉は、旧跡などが残る観光名所で、約70軒ある旅館はほとんどが20室未満の小規模な宿で構成されています。長期滞在化やリピーター率向上、観光消費額単価の向上が課題となっていましたが、地域の状況をリアルタイムに把握する仕組みがなく、データが蓄積しないことで戦略策定も十分にできていませんでした。
しかし、訪日外国人向け宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」の運営や、事業者への共通のPMS(顧客予約管理システム)導入を促すことで、地域全体の宿泊データを収集・分析し、「Visit Kinosaki」経由の宿泊金額は2019年度の5.2倍に成長しています。
2. 南三陸町観光協会:防災・震災学習プログラムを観光に活用、教育旅行を誘致
宮城県の南三陸町観光協会は2009年に設立され、街の観光発展に取り組んできましたが、2011年の東日本大震災後の取り組みが大きく評価されています。
そのひとつが地域のイベント情報や地域のおすすめスポットなどの情報を掲載する「南三陸観光ポータルサイト」の運営です。宿泊やアクティビティの予約ができる観光協会公式予約サイト「みなたび」にも直接アクセスでき、旅の計画をワンストップで提供しています。
さらに、アクティビティのひとつとして、震災の風化防止のため防災・震災学習プログラムを企画し、個人・団体向けの語り部ツアーや、東日本大震災伝承施設「南三陸311メモリアル」の運営など、震災に関連するコンテンツも発信。防災、震災学習プログラムを観光コンテンツとして提供するとともに、それらの手配もワンストップで行うことで教育旅行の誘致につなげています。
3. 奈良県:商品在庫管理システム導入で販路を拡大
奈良県は、もともと日帰り観光客の比率が高く、1人あたりの観光消費額が低い傾向にありました。また、神社仏閣が集中し、観光客が多い県北部と、豊かな観光資源はあるものの誘客につながらない南部地域との格差が課題となっていました。
奈良県観光公式サイト「なら旅ネット」で商品在庫管理システム(TXJ)を導入することで、サイト内で宿泊・飲食・物販・体験コンテンツなどを予約・決済できるよう再構築しました。在庫管理システムはGoogleや複数のOTAサイトなどと連動しているため、地域としてマーケティング情報を集約・分析し、マーケティングに活かせているといいます。
宿泊事業者はTXJを通じ、Googleマップや海外OTAへの販路拡大や、DMOは観光商品を消費者への直接販売に限らず、BtoBルートでの販売が可能となっています。
4. 茨城県大洗観光協会:地域OTAの利益循環で観光振興に還元
茨城県の大洗観光協会は、2024年10月にNECソリューションイノベータと共同で茨城県大洗町の観光やアクティビティの検索から予約、決済まで可能な地域OTAを開発しました。
大洗町では公式サイトで観光情報の紹介を行っているものの、予約・決済ができる機能は持っておらず利便性が低い状態でした。新たに開発された地域OTAにより、観光客がスマートフォンひとつで旅マエ・旅ナカの観光情報の検索から予約・決済まで行えるようになり、旅の計画が立てやすく、町内を周遊しやすくなっています。また、多言語翻訳ページの切り替えによって、インバウンドの集客も期待されています。
提携事業者が負担するシステムの利用手数料の一部が大洗観光協会の収益となり、地域内で利益を循環させるビジネスモデルも構築されており、地域の観光振興に還元していく方針です。
地域OTA導入で地域の観光経済を拡大
地域OTAは、オンラインで観光情報を発信できるだけでなく、その場で予約・決済につながるため、観光の機会損失を防ぐことができます。また、集客データを収集し、その後のマーケティングに活かすこともできるので、持続的な観光振興を目指すことができるでしょう。
観光庁は、登録DMOに対して2027年度を目標に地域OTAの設置を推進しています。地域OTAの導入により、観光客が便利になるだけでなく、導入する地域側も収益の増加につながるメリットを享受できます。地域OTAの導入により成功した地域の事例を参照しながら、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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<参照>
- 観光庁:観光DX推進のあり方に関する検討会
- 観光庁:観光DX推進のあり方に関する検討会 令和5年1月20日 観光DX推進のあり方に関する検討会
- 観光庁:観光 DX 推進による観光地の再生と高度化に向けて(最終取りまとめ)
- 観光庁:参考資料
- 観光庁:観光地域づくり法人の現状及び課題~観光を巡る動向を踏まえて~
- 一般社団法人豊岡観光イノベーション:Visit Kinosaki
- 経済産業省 近畿経済産業局:事例2 兵庫県 DXでアップデート、『街全体が1軒の温泉旅館』
- 城崎温泉観光協会:城崎温泉 城崎温泉観光協会公式サイト
- 一般社団法人豊岡観光イノベーション:決算書類(第8期)
- 南三陸観光協会:南三陸観光ポータルサイト
- 南三陸観光協会:南三陸観光協会公式予約サイト「みなたび」
- 南三陸観光協会:南三陸311メモリアル
- 経済産業省 近畿経済産業局:事例1 DMOを中心とした地域マ-ケテイングDX
- 一般財団法人奈良県ビジターズビューロー:奈良県観光公式サイト「なら旅ネット」
- PR TIMES:大洗観光協会、スマホひとつで観光情報収集・予約・決済をサイト内で完結する観光DXシステムを開発。デジタル化で茨城・大洗町の観光を促進
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
- 変わりゆく市場の状況と、今後注目のトレンドを把握できる
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- 旅ナカの接客品質を高め、顧客満足度向上に繋がる実践的な対応を学べる
- 各分野の専門家から、ビジネスを加速させる具体的な戦略や成功事例が聞ける
詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
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詳しくはこちらをご覧ください。
→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
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