観光庁は先日10月19日、訪日外国人消費動向調査の平成28年7-9月期の結果において、訪日外国人旅行消費額が前年同期比2.9%減少で9,717億円だったことを発表しました。前年同期比での減少は平成23年10-12月期以来4年9ヶ月ぶりです。
観光庁によれば、訪日外国人観光客の1人あたり旅行支出は155,133円で前年同期比17.1%減少。しかしながら、訪日外国人観光客数は前年同期17.1%増加で626万人になっており、総額の減少幅は2.9%にとどまりました。
訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出の減少の要因は、為替の影響(円高の進行)、それによる訪日中国人観光客の爆買いの衰退≒「コト消費」へのシフトが考えられています。
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訪日外国人観光客消費額の推移
平成25年からの訪日外国人消費額総額と訪日外国人観光客数の推移を確認すると、訪日外国人観光客数の増加にともない、消費額も順調に増加していることがわかります。特に、7-9月期は夏休み・バカンス需要の増加により訪日外国人観光客数も増加。また、観光として訪日する場合が多いため、この時期は消費額の伸びも強い傾向にあります。
注目に値するのは昨年の7-9月期前後の消費額です。平成27年7-9月期は、他の期と比較して訪日大国人観光客数に対する消費額の伸びが顕著に出ています。その背景には、1人あたりの消費額の増加と為替の影響があります。
訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額の減少
訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額の推移を見てみると、平成27年までは7-9月期のピークに向かい、年々支出額が増加していました。しかしながら、ピークを迎えた後、訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額は減少の一途を辿ります。
前述の「訪日外国人観光客数と消費額の推移」のグラフと「訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額の推移」を重ね合わせてみると、今年に入ってからの訪日外国人観光客消費額の伸率の鈍化の原因が、訪日外国人観光客1人あたり旅行支出の減少にあることがよくわかります。
訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額と為替の関係
それでは、なぜ訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額が減少したのでしょうか。最近になって言われているとおり、主に訪日中国人観光客の消費項目が「買い物」から「体験」に移行してきていることもありますが、減少の根本的な原因は為替にあると思われます。
インバウンド消費の主役として人民元と円の動きを、そして世界的な基準としてドルと円の動きをピックアップしました。為替相場の動きを見てみると、ドル円、人民元円共に2015年7月が最も円安傾向にあり、その後急激に円高方向に振れていきます。
「ドル円と人民元円の為替相場」のグラフに「訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額の推移」のグラフを重ね合わせてみると、ドル円と人民元円の為替相場の動きは、訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出の増減に直結していることがよくわかります。
現地通貨ベースでは訪日外国人観光客1人あたりの旅行支出額は増加している
しかしながら、為替相場の影響をうけて、訪日外国人観光客の「消費意欲」が減少しているか?というとそうではありません。「日本円ベース」では確かに為替の影響を受け、訪日外国人1人当たり旅行支出は減少していますが、「現地通貨ベース」で見てみると、むしろ増加傾向にあります。
旅行消費額の高い上位5市場(中国、台湾、韓国、香港、米国)香港を除き前年同期に比べ増加しています。とくに米国の伸びは17.2%と高く、次いで中国も3.8%上昇しています。そのため、「日本円ベース」での訪日外国人1人当たり旅行支出は為替レートが円高方向に振れていることが最も強く影響を及ぼしているものと考えられます。
「コト消費」へのシフトは実際に進行している
さて、それでは訪日中国人観光客の旅行消費額の減少、「爆買い」の衰退の一因とも言われる「モノ消費」から「コト消費」へのシフトは起こっているのでしょうか。
訪日旅行中の消費の割り振りをどうしているのか、を確認するために平成27年7月-9月期と平成28年7月-9月期の訪日外国人観光客旅行支出の費目別割合推移を見てみましょう。すると、米国を除き、東アジアの国々が、軒並み「買い物代」の比率を下げており、また、「宿泊料金」「飲食費」の比率が上がっています。
買い物代の訪日外国人観光客1人あたり消費額を、現地通貨ベースで見てみると、中国は平成27年7月-9月に7,283人民元だったのが6,616人民元と-9.2%減、台湾では14,801台湾ドルから12,299台湾ドルで-16.9%減、最も減少率が高いのが香港で5,413香港ドルから3,562香港ドルで-34.2%減となっています。
宿泊料金や飲食費に関しては、中国が最も顕著に増加しており、宿泊料金は2,752人民元から3,311人民元で20.3%増加、飲食費は2,302人民元から2,905人民元で26.2%増加しており、訪日中国人観光客を筆頭とした東アジア勢において、「コト消費」へのシフトが進んでいることがわかります。
まとめ:旅行支出は減少したものの、「消費意欲」は上昇中、「コト消費」は旅行支出総額には影響なし
平成28年7-9月期は、訪日外国人旅行消費額が前年同期比2.9%減少で9,717億円で、前年同期比での減少は4年9ヶ月ぶりのことでした。 円ベースでは確かに消費額は減少 したものの、 現地通貨ベースにおいてはむしろ消費意欲は上昇 の見通しです。
「モノ消費」から「コト消費」へのシフトは東アジアにおいて実際に起こっており、費目別にみると、買い物代への支出が減少、宿泊料金や飲食費への支出は増加傾向に有ります。しかしながら、配分の差はあれど、総額においては、前述の通り現地通貨ベースにおいては上昇傾向にあり、 「コト消費」へのシフト=消費額の減少とはなりません 。ただ、小売業にとっては、この動向は要注目のトレンドでしょう。
今回の為替の円高シフトにより、よりはっきりと為替相場が訪日外国人観光客旅行消費額に影響を及ぼすことが判明しました。今後の動向のチェックの際は、 為替相場との比較も必要 になっていきそうです。
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