シンガポール大手旅行会社が語る訪日旅行の現実「後篇」:シンガポールの訪日旅行市場の今と課題

シンガポール大手旅行会社が語る訪日旅行の現実「後篇」:シンガポールの訪日旅行市場の今と課題

このシリーズでは日本旅行ビジネスに精通している現地のスペシャリストにインタビューを行い、今のシンガポール市場の現状や訪日観光に関するリアルボイスをお伝えします。

シンガポール4大旅行代理店の1つであるDynasty Travel(ダイナスティ・トラベル) の広報責任者であるアリシアさんに話を伺ってきました。アジアの中でも特に競争の激しいシンガポール旅行業界をけん引する現場のリアルボイスに迫りたいと思います。

前回はシンガポールの旅行市場についてお伝えをしましたが、後篇の今回は、訪日旅行についてのインタビューをお届けいたします。

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シンガポール大手旅行会社が語る訪日旅行の現実「前篇」:果たして成熟市場であるシンガポールの今とは…

昨今インバウンドへの関心が高まり、世界各国における旅行博やファムトリップ、ローカルメディアとのタイアップなど、日本の各自治体や企業が訪日客誘致に向けた様々な施策を行っております。そんな中、皆様は自信をもって正しいアプローチを企画、実行できていますでしょうか。 プロモーションしている内容は本当にターゲットの訪日観光客が求めているものでしょうか。このシリーズでは訪日旅行ビジネスに精通しているシンガポール現地のスペシャリストにインタビューを行い、今のシンガポール市場の現状や訪日観光に関するリ...

2012年から2016年にかけて急速な成長を遂げた訪日シンガポール人市場

<Points(以下:P)>
2016年、約38万人がシンガポールから訪日しました。これは2012年に比べると、270%の増加 です。急増の原因はどこにあると思われますか。

<Dynasty Travel アリシアさん(以下:ア)>
2011年の東日本大震災後、訪日外国人観光客数は急降下しました。しかし、世界中が日本に対する不安を抱く中、日本政府は観光客を引き戻すために多くの観光に関する取り組みを世界中で実施しました。加えて各県の観光機構や企業による、 スピード感のある回復プロセスと積極的なプロモーション活動 のおかげで2013年には訪日観光客数が以前の水準まで回復し、その後の継続的な取り組みのおかげで2014年から2016年の観光客急激な増加に影響を与えていると考えています。

また、東京や大阪以外の都市へのアクセスが非常に便利になったため、最近ではゴールデンルート以外の都市も人気 になってきています。シンガポールのジェットスターは年内に沖縄に直行便を就航します。また、シンガポール航空の子会社スクートは札幌に直行便を運航しています。一番大きな要因かもしれませんが、羽田空港の開業以来、東京への選択肢が多くなりました。 その他の要因としては円安やビザの緩和(他の東南アジア国)が強く影響しています。

<P>
ダイナスティ・トラベルのお客様には何度も日本に旅行する方々がいらっしゃると思いますが、この ”リピーター層” の特徴はなんでしょうか?

<ア>
ご存知のように、シンガポール人の訪日マーケットはとても成熟しています。最初の数回は東京、大阪と札幌のような人気都市に行き、3〜4回目の旅行は他の都市(九州、名古屋、沖縄)を周りたいと考えています。リピーターもよくJapan Hour(※)のような テレビ番組やSNSから新しい情報を手に入れています。

シンガポールには 口コミ文化が非常に強く存在 し、友達や親戚などに自分自身の旅行体験を共有します。ある意味テレビやSNSより信頼できる情報源と考えられているかもしれません。

※Japan HourはシンガポールのChannel News Asiaで15年以上ずっと放送されている日本紹介番組です。

シンガポール市場急成長の背景にある「4S」とは:シンガポール人にとって日本はNo.1の”ドリームディスティネーション”

<P>
では、なぜ日本はシンガポール人にこんなに受け入れられているのでしょうか。

<ア>
4S です! Seasonality (豊かな四季)、Scrumptious food(絶品グルメ)、Superb hot springs(温泉体験)とShopping (買い物)。やはりこの4つがシンガポール人の心をわしづかみにしています。季節によって行われるアクティビティや文化行事、自然の見せる顔が変わり、さらには47都道府県もあるので行くたびに新しい体験があり、リピートへとつながるのではないでしょうか。

<P>
人気の高い県か都市は各東南アジアの国によって異なります。シンガポール人にとっては人気の高い県か都市 はどこでしょうか?

<ア>
現在の人気は 沖縄と北海道 です。なぜ沖縄なのか、それはシンガポールから沖縄までの直行便が出ていることと、やはり この2、3年の間、沖縄県が旅行博や食イベント、日本関係イベントで継続的にPRしているから でしょう。飛躍的に認知度が伸びました。北海道の場合は、綺麗なお花と雪 ですね。あと最近では、お客様から 九州についてのお問い合わせも多い です。

<P>
シンガポール人は「日本旅行」に対してどんなイメージを持っていますか?

<ア>
Pacific Asia Travel Association (PATA)の2014年ミレニアル世代を対象に行われた調査によりますと、シンガポール人(タイ人も)にとって 日本はNo.1の”ドリームディスティネーション” です。先ほど申し上げたようにシンガポール人は日本が好きな理由は 「4S」 です。

しかしながら、韓国や台湾と比べるとかかる費用がやや高いと感じているようです。加えて、早めに宿泊を予約しないといけませんので、宿泊施設が限られている日本は短い計画期間しかない場合の旅行としては相応しくないのかもしれません。

今後 地方自治体が行うべきは「Unique Selling Point」(独自のセールスポイント)の発掘と集中したプロモーション

<P>
より多くのシンガポール人に旅行先としての魅力を感じてもらうために、認知度が低い県や都市などは、今後どのようなプロモーションをすべきだと思いますか?

<ア>
観光機構だけではなく、航空会社、ホテル、企業などの利害関係者による総合的な努力と積極的なプロモーション活動は、認知度の低い都道府県にとって不可欠です。

新聞や雑誌などをはじめとするマスメディアだけでなく、デジタルコンテンツを含めた双方面からのエンゲージが重要 です。魅力的な写真や動画をしっかりと露出し、まずは興味を抱いてもらわなければなりません。 ただし、それはどこもやっていることなので、それに加えて、それぞれの自治体・地域は観光客誘致につながる独自のイベント(コンテンツ)を作っていく必要があるかもしれません。

例えば、シンガポールは「Standard Chartered Marathon」と「F1」があり、台湾にはサイクリングがあります。オーストラリアもケーンズとゴールド・コーストでマラソンを開催しています。それぞれの地域が特性を生かし、スポーツや文化を通じた特別な体験コンテンツが今後の“訪日観光客誘致”のキーワードになるかもしれませんね。 

プロモーションを成功させるため、「Unique Selling Point」(独自のセールスポイント)を持つことは一番重要 なことであると思います。そのセールスポイントを中心にしっかりプッシュすることです。近年のシンガポールでの成功例でいうと北海道が広大なラベンダー畑をプロモーションし、一躍認知度が上がりました。また、ユネスコの世界遺産の白川郷は合掌造りの集落でよく知られます。

私自身、つい先日行われたNATAS旅行博で、四国県のブースを訪ねた際に、直島で有名アーティスト草間彌生の彫刻があることを知りました。それをプロモーションポイントとして押せば、アート通やユニークなところを探している旅行者の間で非常に話題になるのではと感じました。

※実際に今年9月上旬までシンガポールで行われていた草間彌生展がシンガポール国立美術館の歴代最高来場者数を更新しました。

セールスポイントが多すぎると旅行者は過剰な情報量に困惑します。 ですから、各地域がある程度の期間でテーマを決め、1つか2つのセールスポイントに集中すべきではないかと個人的には考えています。

<P>
訪日したお客様からどんなネガティブなフィードバックを受けたことがありますか?

<ア>
先ほど述べたように、航空券と宿泊の料金が「高い」と思うシンガポール人はまだたくさんいますし、もう一つの課題は 言語の壁 ですね。コミュニケーションの問題で旅行がうまくいかない恐れがあるので、ツアーを選択するお客様もいます。

出国前に事前予約できるパスがもっとあればより良いと思います。なぜかというと、事前購入できるとパスの使い方や留意点などを理解する時間が十分にあるので、現地でチケット販売カウンターに並び、使い方などを問い合わせる必要がありません。

2020年までに日本政府は訪日外国人観光客数の目標人数を4000万人に倍増させました。その4000万人の観光客を受け入れるため、宿泊施設不足の解題に対して対策が必要です。今年、日本政府は民泊新法成立しまして、旅行会社や関係事業者にとってはすごく良いことだと思います。

アクセス も旅行者たちの重要な関心事項ですね。シンガポールからその地域までの直行便がないと旅行者がその場所を訪れるのが難しいと感じる可能性がありますね。

効果的なインバウンド誘致をするために、現地代理店と日本のパートナーはどのように活用し、活用されるべきか

<P>
さて、ここからがインバウンド業務に携わる方々が頭を悩ませている部分ですが、今後、シンガポールから日本への送客をさらに増やしていくには、ダイナスティ・トラベルのような代理店はパートナー(県や企業など)からどのような取り組みやサポートが必要でしょうか?

<ア>
マーケティングサポートとコラボレーションですね。また、弊社が日本の最新の状態にしておくため、頻繁のアップデートが重要です。その情報は弊社だけではなく、お客様にも有義だと思います。

やはり一番は現地メディアかプロダクトマネージャーをファムトリップに招待していただく事です。その場所をちゃんと理解して、お客様にとって最適なパッケージを作ることができます。同時にメディアを通してその場所の魅力が継続的に発信されていることも重要です。

<P>
シンガポール人にリーチするため、県や企業はダイナスティ・トラベルに通じてどのようなプロモーションツールが利用できますか?

<ア>
既にご存知かもしれませんが、今年の7月に弊社が旅行専用雑誌 「aspire」 を創刊しました。本誌は、シンガポール人の旅行者向けで、観光情報を中心に、最新のホテル、流行の旅行先、市場のトレンド、旅行に役立つポイントなどのコンテンツを発信しています。記事は旅行専門ライターが書き起こしているので高いクオリティのコンテンツを提供しています。このような雑誌を出版するのはシンガポールの旅行代理店の中で初めてです。新たな分野に足を踏み入れるのは大胆なチャレンジですが、シンガポール人の旅行者は常に新しく本物の体験を探し続けていますので、aspireを通じて新しいデスティネーションや文化体験などの情報を発信したいと考えています。

第2号は2018年1月発行を予定しており、「日本」を第一特集として取り上げる こととなりました。3月初旬に行われるNATAS旅行博でも配布させていただきます。

※Aspire マガジンはダイナスティ・トラベルが今年7月に創刊した旅行専門雑誌で、ダイナスティ・トラベルを利用されるお客様に加えてHSBC(世界の富裕層が多く利用している銀行といわれている)の富裕層に向けて配布しています。シンガポール旅行博でも配布されているため、旅行者への影響力は非常に強い媒体です。

もう一つサポートできるのが、提携販売ですね。弊社の多数のセールスチャネルを利用して商品やサービスを販売させていただければと思います。これからお客様により良い体験をさせるため、日本の観光機構と企業関係者様と引き続き良いものを提供できるのを楽しみにしています。

<P>
なるほど、ツアー造成には 単体でのプロモーション活動ではなく、地域として自治体・企業が手を組み、継続的に魅力を発信していくことが重要 だということがわかりました。 ぜひ今後とも日本の魅力を発信し、訪日観光のサポートをよろしくお願いいたします。この度はお時間をいただきありがとうございました。

まとめ 

この10年で訪日旅行では成熟市場へと成長したシンガポールですが、全体の旅行者数から見ると日本行きはまだまだ伸びる可能性があります。また人口的には始業規模が小さく思われがちですが、リピーター率や滞在日数、消費金額という側面から考えるとアジア有数のマーケットである と言えます。今後リピーターがさらに増えていく事を考えると、いわゆる観光名所ではなく地方の新しいコンテンツを持っている方々には非常に重要なターゲット層になりえるのではないでしょうか。

シンガポール市場におけるリサーチ・マーケティングやプロモーションにご興味がある方はぜひ、ポインツまでご連絡ください。様々な事例をご紹介しながら、最適な施策をアドバイスいたします。

取材協力:ダイナスティ・トラベル

ダイナスティ・トラベルは1978年に創業。長年シンガポールの旅行業界を牽引する4大旅行代理店の一つ。2014年よりJTBの子会社となる。この数年間に名誉ある賞を数多く受賞している。

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この記事の筆者

POINTS JAPAN/SINGAPORE

POINTS JAPAN/SINGAPORE

POINTSはシンガポールと日本を拠点としてASEAN各国での広告制作/宣伝PR/マーケティング/メディアバイイング/リサーチ/コンサルティング等々の業務を行なっています。シンガポールを中心に現地目線でのインバウンド/アウトバウンド情報を発信します。