観光庁が行っている訪日外国人消費動向調査は、毎年、年間で四半期に分けて訪日外国人の消費動向の調査を行っています。
2018年はこの調査がより細かくなり、今までは不明であったクルーズ客の消費動向の把握が可能になりました。クルーズ客はクルーズ船を受け入れる地域にとっては、直接的な経済効果だけでも乗客1人あたり1万円ほどの効果があるとされ、多い場合はその消費額が10万円を超える事例もあるとされています。
また、クルーズ船の寄港によって食事、ショッピング、コト消費など、観光関連産業への経済効果、生産の増加、雇用の増加などの効果も期待出来るとされてきました。実際にクルーズ船の訪日外国人の消費動向が明らかになったことで、何が言えるのでしょうか?
インバウンド市場や各国の訪日外国人に関する調査やもっと詳しいインバウンドデータ知るには?
インバウンドの最新情報をお届け!訪日ラボのメールマガジンに登録する(無料)
現在のクルーズ客は増加の一途をたどっている
実際に日本を訪れる訪日クルーズ旅客数の推移はどうなっているのでしょうか?国土交通省が発表している情報によると、2016年(1月~12月)の訪日クルーズ旅客数は、前年比で78.5%増となる199.2万人、クルーズ船の寄港回数は前年比38.8%増の2,018回となり、いずれも過去最高を記録しています。
また、2017年(1月~12月)のクルーズ旅客数は前年比で27.2%増となる253.3万人、クルーズ船の寄港回数は前年比37.1%増の2,765回となり、いずれも過去最高を記録しています。
また世界的にみてもクルーズ観光は増加しており、2005年には1,374万人だったクルーズ人口は2015年に2,320万人となり、アジア地域に目を移すと経済成長の影響でクルーズ人口が増加。2005年には76万人だったアジア地域のクルーズ人口は、2015年には208万人と10年間で174%も増加しています。
訪日クルーズ旅客を2020年に500万人達成のために、各地で受け入れ体制整備が進む
なお訪日クルーズ旅客数に関しては、そもそも「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」において、2020年にクルーズ100万人を達成するという計画がありましたが、2015年には約111.6万人の訪日クルーズ旅客数を実現しており、この計画を5年前倒して実現しています。
こうした背景を受けて2016年3月にまとめられた「明日の日本を支える観光ビジョン」において、「訪日クルーズ旅客を2020年に500万人」とする目標が設定されています。
明日の日本を支える観光ビジョンとは?わかりにくい政府や観光庁の取り組みの構造をまとめました
政府は観光先進国への新たな国づくりに向け、明日の日本を支える観光ビジョン構想会議を行い「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定しました。しかしその取り組みについてわかりづらくなっています。そこでこの記事では、政府の取り組みの全体像についてわかりやすく解説します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!訪日ラボに相談してみる目次観光立国に向けた政府の取り組み、団体などの相関図インバウンドに関わ...
この目標を達成するために、
- 大型クルーズ船に対応した係船柱・防舷材の整備など、寄港可能な港湾の多様化、
- 待合所や出入国手続き(CIQ)施設を含む旅客施設の整備促進のため民間事業者が行う施設の建設、改良に対する無利子貸付、
- 新たなクルーズビジネスを確立するための港湾法の改正、
- 全国クルーズ活性化会議と連携した寄港地の全国展開に向けたプロモーション
など、ハード、ソフトの両面からクルーズ船受け入れの体制の整備が進められています。
CIQとは
日本政府観光局(JNTO)によると、2019年の訪日外客数は3,188万人を記録し、その数は年々増加しています。訪日外国人観光客が急増する中で、国際空港や港での入国審査手続きのの整備が急務とされています。その出入国手続きの総称を「CIQ」といい、訪日外国人観光客が日本に来た時にはじめて受ける「おもてなし」とされています。この記事では、CIQの略称を詳しく説明するとともに、多省庁が関与するCIQ体制の強化について解説します。インバウンド受け入れ環境整備の資料を無料でダウンロードする「翻訳・多...
クルーズ客は旺盛は買物意欲があるが、その他の消費行動は皆無
観光庁の訪日外国人消費動向調査によると2018年1-3月期の訪日外国人全体の旅行消費額は1兆1,121億円となり、クルーズ客の旅行消費額は239億円となりました。2018年4-6月期には訪日外国人全体の旅行消費額は1兆1,233億円となり、クルーズ客の旅行消費額は273億円となりました。
また、2018年1-3月期の国籍・地域別にみる訪日外国人1人当たりの費目別旅行支出の比較では、全国籍、地域では152,258円だったものが、クルーズ客の場合の1人当たり費目別旅行支出は50,662円となりました。同様に2018年4-6月期では全国籍、地域では144,082円だったものが、クルーズ客の1人当たり費目別旅行支出は40,501円となりました。
通常の訪日客とクルーズ客の行動パターンの違いを理解するには、それぞれの宿泊費、飲食費、交通費、買物代、平均泊数などを見て行く必要があります。クルーズ客の場合最も顕著なのは、宿泊をするにしても船内となるため宿泊費が0円となっていることです。また同様に食事は船内で行い、ほとんど船外で飲食費を使いません。
一方買物代に関しては見方が変わります。2018年1-3月期に全国籍、地域では52,274円だったのに対し、クルーズ客は47,945円を出費、2018年4-6月期に全国籍、地域では47,805円だったのに対し、クルーズ客は38,058円となっています。これだけを見ると「普通の訪日外国人よりもちょっとだけ劣る消費意欲なのかな」と見えるでしょう。
しかし、クルーズ客の特徴は、あたりまえのことながら平均泊数の短さにあります。例えば、、2018年1-3月期に全国籍、地域では平均9.7泊だったのに対しクルーズ客は0.6泊、2018年4-6月期に全国籍、地域では平均8.1泊だったのに対し、クルーズ客は0.6泊となります。
何がいいたいのかというと、消費額を平均泊数で割ってみると、1泊あたりの消費額≒本当の消費意欲が見えてくる、ということです。
全国籍、地域の訪日外国人の場合
集計期間 | 消費額 | 平均泊数 | 1泊あたりの消費額 |
---|---|---|---|
2018年1-3月期 | 52,274円 | 9.7泊 | 5,389円 |
2018年4-6月期 | 47,805円 | 8.1泊 | 5,902円 |
クルーズ客の場合
集計期間 | 消費額 | 平均泊数 | 1泊あたりの消費額 |
---|---|---|---|
2018年1-3月期 | 47,945円 | 0.6泊 | 79,908円 |
2018年4-6月期 | 38,058円 | 0.6泊 | 63,430円 |
このように見てみると、いかにクルーズ客が旺盛な購買意欲を持ち、その他の消費、観光行動に興味が無いのかが浮き彫りになります。
まとめ
地域活性化の切り札にしようと全国で誘致、受け入れ環境整備が進むクルーズ船とそのクルーズ客ですが、旺盛な購買欲はあるものの、平均泊数は1泊未満であるため買物以外の行動にはほとんどお金を使用していないことが明らかになりました。
そもそもは地域の商店街や商業施設での買物、また地元との「コト消費」を含めた触れ合いによる地域活性化が予想されていました。しかしながら、その実態は、クルーズ船到着から中国人資本のバスツアー会社で中国資本の免税店へと直行、そのままクルーズ船で帰国、もしくはクルーズ船到着からそのまま郊外のショッピングモールへと直行するバスツアーなどが人気です。
そのため、本来期待されていたような地元の商店街、商業施設を潤すといった目的が達成されているとは言いがたく、ややいびつな観光形態になっているとの指摘もあります。
また、クルーズ船は乗客などから出る排泄物、ゴミ、洗濯や食器洗い機からの排水、エンジンから発生する排気ガスなど、環境に対する問題も数多く指摘されており、観光公害として語られる側面も目立ってきました。
「訪日クルーズ旅客を2020年に500万人」の達成を目指すのは素晴らしいことですが、クルーズ船誘致が果たして本当に地域活性化に役立っているのか?環境負荷はどの程度あるのか?といった多方面からの検証が必要な時期に差し掛かっていると言えるでしょう。
訪日客の地方誘致に重要なのは、まず「知ってもらうこと」。効果的なインバウンドプロモーションを資料で詳しくみてみる
<参考>
中国SNS「RED(小紅書)」最新情報セミナー:訪日ラボ社内勉強会の内容を特別に公開します【訪日ラボ トレンドLIVE! Vol.6】
短時間でインバウンドが学べる「訪日ラボ トレンドLIVE!」シリーズの第6弾を今月も開催します!訪日ラボとして取材や情報収集を行う中で、「これだけは把握しておきたい」という情報をまとめてお伝えするセミナーとなっています。
今年も残りわずかとなりましたが、インバウンド需要はまだまだ好調をキープしている状況です。来年の春節や桜シーズンなど、訪日客が集まる時期に向けて対策を練っていきたいという方も多いでしょう。
今回もインバウンド業界最大級メディア「訪日ラボ」副編集長が、10〜11月のインバウンドトレンド情報についてお話ししていきますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
詳しくはこちらをご覧ください。
→中国SNS「RED(小紅書)」最新情報セミナー:訪日ラボ社内勉強会の内容を特別に公開します【訪日ラボ トレンドLIVE! Vol.6】
【インバウンド情報まとめ 2024年11月前編】UberEats ロボット配達開始、万博需要見すえ大阪で ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月発行しています。
この記事では、主に11月前半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→UberEats ロボット配達開始、万博需要見すえ大阪で:インバウンド情報まとめ【2024年11月前編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」
スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!